英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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憧憬

 親愛、友愛、恋愛。誰かに場所に物、愛ってのは種類も対象も様々で、時に力を与える原動力になれば、反対に縛り付ける鎖にもなる。

 

 冒険者に妹を殺されたダークエルフは冒険者を射殺し続けたし、友人に重傷を負わせた冒険者を追い続けあわや殺す寸前まで行ったコーンスも居るし、姉が攫われた上で殺されたからって暗殺組織のトップになって神になろうとした救世主も居れば、自分の存在を消し去ってまで妹を守ろうとした詐欺師も居た。

 

 愛ってのが面倒なのか、俺が遭遇した連中が重いのか、それとも激動の時代だから大切な相手への想いが強くなったのかは分からないが……あっ、ティラもウルグも愛故の行動だった。

 

 

 兄弟愛で姉貴の帰る場所を守り続けると決めた俺が言うのもアレだが、愛って面倒だな……。

 

 

「……私には英雄が現れなかった。だから決めた。私が黒竜を討つって。だから力が欲しい。どんな怪物にも負けない強さが」

 

「……」

 

 俺がベルゼーヴァの正体と知り、脅すでもなしに力の出所を訊ねて来たアイズに対し、俺はその理由をダンジョンの隅で聞き出した。

 ダンジョン十八階層で俺やアーニャ達が演奏会会場にしている場所にて聞いてみたが、随分と拗らせてるこって。

 

 ……そのお前だけの英雄ってのは、将来素敵な相手と巡り会える、って意味じゃねえのか? そんな事を思いつつも人様の家庭の問題だし、話自体は両親の仇って重い話を茶化す感じにするのはな……。

 

 俺は復讐自体を咎めない。それに至る動機は人それぞれ、それを他人が重い軽いと判断しちゃ駄目な事だ。

 逆恨みで襲われるとかは勘弁だが、それが動き続ける動機になるなら別に良いだろ?

 

「それで俺がどうやって強くなったのかって聞かれても……才能があったから?」

 

 迷宮の奥地の単身で向かって救助要請出される強いのか弱いのか分からん奴もソウルは最弱の物なのが大概、反対に旅はしているがそこまで強くない奴が初級とはいえ力を持つソウルを宿す様に、どんなソウルを宿せるかは才能次第、俺がシャイニングレオを宿せないみたいにな。

 

 ……良いもーん。俺には魔法の才能があるんだもーん。

 

「才能……」

 

 俺の言葉に強く剣を握って俯くが、その歳で上級冒険者って凄いんだろ?

 剣の姫とか呼ばれる位には剣術が優れてるんだし。ちょっと魔法による威力カサ増しに頼ってる感じはしたが……うん、あの頃の俺と同じか。

 

「いや、近接戦の才能ならそっちが上だぜ? 俺のは魔法のオマケ程度のを身体能力でゴリ押ししただけ。そっちの副団長も杖術は使えるだろ? 俺、あの婆さ……人と同じくバリバリの後衛」

 

 今では才能の高さを自負するに相応しい実力の俺だが、一時期伸び悩んで困っていたのを口実に、危険から遠ざける為だと魔導アカデミーに入学させられた。

 

 あの頃の一刻も早く姉貴達の隣に立てる様にって焦る俺が目の前の闇を抱える奴と重なって見える。

 

 うん、本来なら相手をしてやる理由なんかないが、今回ばかりは違うからな。

 

「仮面の下の事を黙っているなら稽古相手程度にはなってやるよ。本来ならむっつりエ、じゃなくてレフィーヤって奴の指導の方が向いてそうだが、そっちは義理がねえしな。最強最高の英雄を知ってるんだ、稽古相手なら務まるだろ」

 

「えっと、ありがとうございます」

 

 ちょっと弱みを知られたし、だから協力するのは仕方が無い事だ。うんうん、俺も弱い頃は酔狂な奴に世話になったし、その恩をこういった形で返すのも悪くは無いしな。

 

 

 

 

「あっ、でも最強の英雄は私のお父さん。貴方が知る英雄は多分二番目」

 

「はっ? こっちは世界最強だって神の代行者のお墨付きだが? 心変わりしたら世界を滅ぼせるって認定されたんだから、そっちは世界二位か三位だろ」

 

 ネネアさんとアイズの父親のどっちが上か知らねえが、姉貴が負けるはずねえんだ。

 

「むぅ……」

 

 俺の反論にアイズは頬を膨らませて拗ねるんだが、子供かよ。いや、なんか情緒が幼い感じがするんだよな、此奴って。

 親の仇を討つべく黒い炎を抱えて歩き続ける剣の鬼の皮を被っただけで、実際は親を探して泣く子供みたいな印象だ。

 

 

「何か黙っていろってだけなのが癪だな。……ああ、そうだ。おい、テメェ達が逃したミノタウロスから助けた奴を覚えてるか?」

 

「……うん。私が怖がらせちゃった上に酒の席で侮辱させちゃった子……」

 

「そうだ。お前と酒場のエルフの姿に憧れて恥ずかしさのあまりに逃げ出した……うん? 怖がらせた?」

 

「え? 恥ずかしくなった?」

 

 互いに首を傾げ、沈黙がその場を流れる。ベルの奴、怖がって逃げたと思われてるのか? 憧れの相手に?

 

 ハハッ、ウケる!

 

 笑いが込み上げて来た俺とは違い、なんか野生の子ウサギに手を伸ばしたら逃げられてショックみたいな顔をしていたアイズは今度は理解出来ずに首を傾げてる。

 

「私を怖がって逃げて、酒場で馬鹿にされてショックだったんじゃないんですか?」

 

「いや、素敵な先輩の活躍を見たって興奮してたぞ。酒場では憧れてるだけで近付く努力もしてないって奮起したから十一階層に椿と一緒に行って、弱らせたオークとか相手に朝まで瀕死と回復の繰り返しで戦わせた」

 

「新米に何をやらせてるんですか!?」

 

 いや、心折れてないんだし、別に良くないか? 悪ノリだったのは認めるけれどよ。

 

 それにしても怖がって逃げたって印象と罪悪感のアンハッピーセットで覚えられていたって、助けた相手を覚えていないって場合と比べてどっちがマシなんだろうな、ベルにとっちゃ。

 

 怖がられたんじゃなくって憧れのせいで恥ずかしくなった、そんな事を言われても理解しきれない様子のアイズだったが、怖がらせたんじゃないと知って安心した様子で、直ぐに何か覚悟を決めた顔になった。

 

「でも、私達が逃したミノタウロスに追われたのは変わらないし、謝りたいです」

 

 感謝しかしていな相手に謝られても困るとは思うんだがな。逆に俺が教えた事で余計に恥ずかしくなるんじゃねえの?

 

 しかし、これは都合が良い。

 

「彼奴、夜は主神の繋がりで武神から、週末は酒場のエルフに稽古つけてもらってんだと。テメェも基礎を見返すついでに朝に訓練付けてやったらどうだ? てか、それが俺が鍛えてやる条件な」

 

 ダンジョンの奥に行こうが俺の魔法なら秒で往復出来るんだし、不可能では無い筈だ。基本はダンジョンで過ごし、俺と特訓しつつ朝はベルの訓練に付き合う。

 ハードだが魔法を駆使すればどうとでもなるんだし、別に良いよな?

 

「分かりました。それが償いになるのなら……」

 

 

 

 

 

 

「稽古中に飲ませるポーション類はうちの店で買ってくれるよな? そりゃ当然だが」

 

「分かりました……」

 

 新薬が今朝ついに完成したし、これで宣伝にもなる。アイズもベルも鍛えられて損する奴は居ないって事で……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイズ、ダンジョンに行くなら今度も僕が一緒に……」

 

「ごめん、フィン。ちょっと一人で頑張りたいから」

 

 あの十八階層で出会った赤い髪の女の人や新種のモンスター達、何よりもベルゼーヴァさんの力を見た全員が普段よりも強くなろうとしている。

 骨の獣みたいなモンスターの件でフィンとリヴェリアは忙しくなったけれども夜中遅くまで訓練していた。

 

 そんなフィンに秘密にして人目を避けて集合場所の路地裏にまで向かったんだけれど……。

 

 

「ふははははは! 我が身に瞳を奪われていた己と同じく、その身を存在せぬ闇に隠そうともがく妖精に気が付かぬとは、夢に囚われながらやって来たのか? 剣姫」

 

(要約:テメェと同じくバレバレの尾行してるエルフに気が付かないとか寝ぼけてるのかよ?)

 

 仮面とフード姿で待っていたベルゼーヴァさんが指差したのは物陰からチラチラ見えている髪の毛。……レフィーヤ?

 

 

「付いて来てたの?」

 

「アイズさんが怪しい動きをしていたので、つい。で、ですが、どうしてこの男と密会しているんですか!? ま、まさか、ダンジョンに行くと見せかけて逢い引きをっ!?」

 

 どうやって説明しよう? 顔を真っ赤にしながら叫んでいるけれど、合挽き? ハンバーグ?

 

 取り敢えず叫んでいたら他の人にまで気が付かれるし、どうにか静かにしてもらわないといけないけれどどうすれば? そんな風に考えていた私の耳にはベルゼーヴァさんの静かな溜め息と共に良く分からない言葉が届いた。

 

 え? 同じ事を言えば良いの?

 

 

 

「このポンコツむっつりエロフ?」

 

「アイズさぁああああああん!?」

 

 ヘナヘナとその場で膝から崩れ落ちたレフィーヤは凄くショックを受けた顔で固まってしまって、もしかして凄く悪い事を言っちゃった?

 

 

「あの、ポンコツむっつりエロフってどういう意味ですか?」

 

「真面目ですって顔をしながら頭の中がピンク色のエルフが妙な行動している状態だ」

 

 どうしよう。全然分からない。ベルゼーヴァさんが言ってた事は秘密にしてエルフのリヴェリアにでも教えてもらおう。

 ロキが言った事にすれば良いよね? 普段から変な事ばかり言うし……。

 

 それにしてもレフィーヤどうしよう。このままだと後で言い付けられそうだけれど、それは困る。ロキやフィンからは深く関わるなって言われてるから止められそう。

 

 あれ? そういえば確かレフィーヤについて言っていた様な……。

 

「えっと、レフィーヤの方が指導しやすいんですよね? この子も前に会った時から訓練に熱が入り過ぎて杖の魔法石を何個も壊しちゃったりしていて……」

 

「……契約ってのは大事だぞ? 信用を失うからな。まあ、問題になりそうだから黙らせる為にも仕方が無いが、そっちの落ち度なのを理解しろ。【カース】」

 

 呪いを意味する言葉が彼の口から紡がれた瞬間、私の全身が真っ赤に染まり妙な感覚に襲われる。荷物も急に重くなって……。

 

「簡単に説明するとステイタスを半減する呪いだ。今のお前はLv.2の上位程度。【ディスペル】」

 

「戻った……」

 

 これまでの努力を奪われた事へのショックを受けた瞬間にステイタスは元に戻るけれど、冷や汗が流れて息が乱れそうになる。

 

 今の呪いは今まで見たどんな魔法よりも恐ろしい。魂の奥まで汚染される様な……。

 

「今は対価が思い付かないが何時か返してもらう。契約を破ったら……そこのエロフに今の呪いを使うからな」

 

「はい……」

 

 強くなりたい気持ちのままに動いてしまったけれど、レフィーヤまで巻き込んじゃった。……それでも私は強くならないといけない。私には英雄が現れてくれなかったから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ちぃっと脅しが過ぎたか? 顔が一瞬で青ざめたし、意識が飛びそうだったから慌てて呪いを解いたが思った以上に力に執着しているんだな、この女。

 

 フェティはエルフ関連以外の全てを無価値だと口にしてた傲慢ちきな奴だったが、こっちのエルフは心を許した相手じゃないと肌の接触を許さないって風習すらあるくらいに貞淑って面倒な連中らしい。

 変化を嫌うってのは変わらないみたいだが、人混みを歩いたり怪我をした仲間に肩を貸したりするのにさえ抵抗があるんなら冒険者向いてねえんじゃね?

 

 そんな訳で精神的ショックで固まって動けないレフィーヤはアイズに担がせ、やって来たのは三十九階層。安全領域ってどうして存在するんだろうって俺が考えている横でアイズは驚いてる。

 

「本当に深層まで一瞬……」

 

「いや、行けるって噂になってんだろ。それじゃあ其処の奴が正気になるまで適当にやり合うか」

 

 俺には接近戦の指導なんて出来ない。じゃあ、何をするかって普通に戦うだけだな。

 

「【ポップシールド】【リフラックス】【ゲイルウェポン】」

 

 アミッドやローズが五月蝿いだろうし心配させたくないからガンドレットが壊れない様に魔法と物理威力を一定量軽減させるバリアを張り、ついでに腕の周りに風を渦巻かせる。

 

「じゃあ、オッタルのオッさん位に手加減するから掛かって来な。内臓や目が潰れた程度なら秒で治せるから。……実際、ベルは一晩戦い続けたぜ」

 

「分かった!」

 

 オークとオッタルじゃポテトの普通盛りと大盛り二皿位に差があるだろうが、死にそうだが怪我も体力も回復するってのは同じだし……ヨシ!

 

 実際、本人は直ぐに風を纏ったしな。

 

「……あの、気になっていたけれど、あの変な話し方は何ですか?」

 

「偽装の為に少し会話したダークエルフの真似してるんだが、意味を聞いたら泣き顔になる位には誇りを持ってるんだ。人の話し方を悪く言うな」

 

 ホームに行った時にちゃんと謝れて良かったよ、うん。それにしても大勢が所属しているし主神の口調も独特なのに変だって思う辺り、民族独自の言語だったりするのか?

 

 ミアハには詳しく聞こうとするなって嗜められたし、重い過去でもあるのかもな。

 冒険者になってるんだ、当然だろう。言葉の意味を聞くなんて相当な侮辱だっただろうに心が広い奴だよ。

 

「じゃあ、早速始めるぞ」

 

「はい!」

 

 アイズが返事をして構え直した瞬間、俺の蹴りはアイズの防具と肋骨を砕いて吹き飛ばした。

 地面を何度も飛び跳ね、最後には激しく転がりながら漸く止まる。剣を支えに立ち上がるも片目は閉じて左手は力無く垂れ下がっている重傷だ。

 

 

「【イクスキュア】。……うん、俺は防御するから攻めて来い」

 

 俺、マジで近接戦教えるのに向いてないし、経験値を稼げるだけ稼がせるか。

 

 

 

 

「ア、アイズさんが、アイズさんが不良になって悪い言葉を……はっ!?」

 

「レフィーヤ、やっと起きた」

 

 風を纏った結構激しい攻撃を両手でいなし、時々掴んで投げたり叩き付けたり殴ったりして回復させているとレフィーヤが漸く我に返った。

 どうしてアイズが顔を覗き込んだだけで真っ赤になってるんだろうな。

 

 

 あれか? アトレイア様が姉貴に憧れていたのと同じで……うっ!?

 

「どうしたの?」

 

「幼き心に受けた神による矢傷が痛んだだけだ」

 

 ズキズキ痛む胸を押さえた俺の返答が理解出来なかったのかアイズは不思議そうにしている。

 え? 俺と同年代だよな? 恋とかの話も分からないのか、此奴って。

 

 情緒が幼児だと思ったのは間違いじゃなかったかもな。

 

「あれ? 此処は深層? どうして此処に……ベルゼーヴァ!? それにアイズさん、その格好はっ!?」

 

 レフィーヤは俺の攻撃でボロボロになったアイズの防具を見て驚き、そもそも自分が居る場所に気が付いて慌てている。

 向こうの防具にもバリアしてやれば良かったな。だが、失敗はそれだけだ。

 

 此処迄瞬時に移動した理由、それを将来バレ無しに押し通す策が俺にはある。

 

「目覚めたか、私とは歪な鏡合わせの妖精よ!」

 

「鏡合わせ? 私と貴方の何処がそっくりだって言うんですか! それよりもアイズさんの格好について……」

 

「貴様は同胞が目覚めさせた魔の力を召喚出来るのであろう? なら、私が知己が目覚めさせた力を扱うスキルを持ち合わせても不思議ではあるまい?」

 

 適当に考えた『お前と似て非なる力だよ作戦』が成功したのかレフィーヤは“それなら複数の魔法を使う理由に……”とか言っているし、誤魔化す時は勢いに乗せるに限るな。

 

「あの、実は私が訓練に付き合って欲しいって頼んでて。レフィーヤも一緒に頑張ろう?」

 

「はい! アイズさんと一緒なら何でも出来ます!」

 

 随分と現金な奴だよな、ベルの同類か。

 

 アイズの誘いに即答でやる気を漲らせているし、俺への警戒は何処に行ったのやら……。

 

 

「じゃあ、最大威力の魔法を取り合えず五十発放つのだ!」

 

「え? そんなに撃つ前に精神力が切れるんですが……」

 

「私の深淵なる叡智より引き出した力ならば精神力を分け与えられる。ああ、並行詠唱の訓練の為に二十一発を超えたらタップダンスを踊りながら、最後の十発は上層のモンスターを連れて囲ませよう。制御を誤って自爆しても即座に癒せるから安心せよ」

 

「えっと、それって安心出来る内容じゃ……」

 

 助けを求める様にアイズに視線を求めるもグッと親指を立てられて流された瞬間、レフィーヤの顔から血の気が引いた。

 

 諦めるか? 別にそれなら良いんだが……。

 

 

「因みに似た無茶を冒険者になって数日の新米がこなしたが……無理なら送り届けよう。何時迄も“憧れみたいになれたら良いな”と“憧れみたいに出来たら良いな”を繰り返すが良い」

 

「や、やってやりますよ! 誰かは知りませんが新人なんかに負けません!」

 

 よし! 昔の俺みたいに負けん気は強いからスパルタコースで行こうか。

 




ギル君は姉に脳を焼かれています  比べて卑屈にはなるけれど、同時に仲間だったと誇っています


ベル君やアイス達、多分イベント幾つか潰れるから別口で経験値稼がないとね
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