英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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冒険

 私はレフィーヤ・ウィリデス、第二級冒険者です。

 

 同じファミリアの憧れの先輩であるアイズ・ヴァレンシュタインさんを尾行して向かった先で、怪しい仮面の魔導士ベルゼーヴァさんとの密会現場を目撃した私は様子を伺うのに集中するあまり尾行がバレているのに気が付かず、アイズさんから思わぬ口撃を受け、気が付いたら……ダンジョン深層に居た!

 

 私が弱いままじゃ憧憬の相手に追い付けやしない。だから強くなる為に彼の訓練を受けます。

 

 見た目は清純、頭脳はポンコツ。その名は駄迷(だめい)探偵レフィーヤ!

 

「はっ!?」

 

 【エルフ・リング】からの【レア・ラーヴァテイン】(三種類あるなら順番に使えと言われました)で放った広範囲魔法が三十五発目にまでなり、タップダンスで制御を崩しての自爆をする事数度、回復と共に意識が戻された私は謎の夢から覚める。

 

「な、何だったんでしょう、今の……」

 

「無駄口叩く暇があったら詠唱開始。足の動きも疎かになってるぞ!」

 

「わ、分かってますよ!」

 

 この地獄の訓練が始まって何時間かが過ぎたのでしょうか? 相手は恩人な上にリヴェリア様が認める程の魔導士、アイズさんと一緒の訓練だなんて張り切らない訳は無いのですが……あの人、リヴェリア様以上のスパルタですよね!?

 

 理論を絡めての訓練がリヴェリア様なら、彼の場合は兎に角体で覚えろって感じな実践重視。

 それも回復魔法まで使えるからって大怪我しても気にせず、精神力を渡す魔法で精神力の枯渇も起きずに兎に角乱発し続ける。

 

「四十発を超えたら一旦瞑想を挟め。自分の体内を巡る魔力の流れを掴み、発動の寸前で堪えるんだ」

 

 並行詠唱、高速詠唱、魔法を発動寸前で保持、どれも高等技術であり、私にはまだまだ無理……なのですが、私への支援をアイズさんと戦いながらするってどうなってるんですか!?

 

 本来は私と同じ後衛が主体って絶対に嘘ですよね!?

 

「……良し!」

 

 ですが無茶を押し通せる特訓だからこそ掴める物もあるのか、足を激しく動かしながらの並行詠唱にも少しずつ慣れては来ています。

 

 慣れたと見るや時々下級冒険者相当の力加減で石を飛ばして来るので杖で防ぐか避けるって課題が追加されましたが……。

 

「間もな……あっ」

 

「【キュア】」

 

 そして何度目かになる魔力暴発が身体を焼くと同時に癒しの力が注がれて、視線で続ける様に促される。

 

 ……やってやりますよ! だってだって……全然アイズさんと一緒に訓練出来てないんですから!

 

 不思議な事に心へのダメージは少ないです。ついでに服もバリアを張る魔法とやらで保護されていて無事で、肌を男性に晒す事も無いのが安心ですね。

 

 【アラカホル】でしたっけ? アイズさんは団長の名前を呟いていましたが、あの人みたいに勇敢になれる魔法なのでしょうか?

 

 あまり頭が働かないのは疲れからでしょうし、さっさと終わらせて休憩中にアイズさんとお喋りしないと!

 

 

 

 

 ……処で何処ぞのダークエルフみたいな口調が崩れてますが、演技でしたか?

 

 

 

 

「一旦休憩。水分と軽食はちゃんと胃に入れておくように。食わない寝ないじゃ強くなれないからな」

 

 最初は五十発って言っていたのに、まだまだ大丈夫! とか もっと頑張ろう! と追加に継ぐ追加で百発目を越えた辺りから何発魔法を放ったかさえ忘れました。

 そんな中で漸く挟まれた休憩の場所はリヴィラの街、何でわざわざって思いましたが……まあ、そういう事ですよね。

 

 女の子には人前では口に出せない事があるって事なのです。

 

 

「ふぅ。甘い物が身に染みますね」

 

「うん。体は疲れていないけれど、栄養を欲している感じがする」

 

 安全領域に入り込んで来たモンスターの魔石やドロップアイテムを売って手に入れたお金で買い求めた甘いお菓子やお肉が凄く美味しく感じる中、アイズさんと並んでお喋りだなんて至福の時間を過ごせるだなんて……。

 

 ベルゼーヴァさんも流石に精神力が結構消耗したって言いながら何処かに行っちゃいましたが、回復する薬なら持ち込んでいるのをお渡ししますのにどうしたんでしょう?

 

 まさか精神力を渡す魔法の逆の魔法も使えるとか?

 

「何と言うか無茶苦茶な人ですね。色々な意味で。……悪い人ではないのでしょうが」

 

「うん。私の話を聞いて我が儘を引き受けてくれた親切な人だよ。口はちょっと悪いけれど」

 

 ちょっとじゃない気がするんですが……。私なんてむっつりエロフですよ?

 

「さっさと技術を学ぶだけ学んで見返してやりましょう!」

 

「うん、そうだね。一矢報いずに終わるのは悔しいかな。……ねぇ、彼処の人達って」

 

 アイズさんの視線の先には遠目ながら特徴的な人の姿がありました。フレイヤ・ファミリアの幹部達が全員ではありませんが団体行動で物資を買い求めているなんて信じられない光景です。

 

 ガリバー兄弟にヘグニさんにオッタルさん、あとはヒーラーの方でしたっけ?

 

 あっ、まだ気が付いていないみたいですが私達の方に来ますね。

 

「トラブルは避けたいですし移動しましょうか」

 

「うん、そうだね。……でも、オッタルさんが他の幹部と一緒に行動するなんて珍しいね」

 

 確かに私でさえ凄く仲が悪いと聞いたのですけれど……。

 

 こうして私達はファミリア間のトラブルを避ける為にも休憩場所を移動して、それから直ぐに迎えに来たベルゼーヴァさんと共に深層まで戻って行きます。

 

「並行詠唱も徐々に様になって来たし、次はアルミラージの群れからバックステップで逃げつつ詠唱だ」

 

 あの喋り方が面倒になったんですね、ベルゼーヴァさん。縛った状態のアルミラージを十体程足元に転がし、私が構えるのを待ってくれていましたが……。

 

「あの喋り方を辞め……」

 

「しっ! アイズさん、そこまでです」

 

 あの喋り方、面倒になったんですね、ベルゼーヴァさん。それか私達に速攻で心を許しました?

 

 アイズさんの口を塞いで指摘を止めさせて、杖を構えた瞬間に私に向かって投げられたのはモンスターを寄せる為のアイテム。

 

「相手を視界に納めながら戦うならバックステップは数をこなした方が良い。あっ、一発でも攻撃を喰らったら今日は水浴び抜きで」

 

 はっ!? 今、何て……。

 

 抗議の声を上げる暇もなく解かれる拘束、向かってくるアルミラージの群れ。や、やってやりますよ! 散々汚れたのに体も洗わずにアイズさんとお泊まりとか……お泊まり?

 

 宿泊はリヴィラで粗末ながらベッドを使う事になっている。魔法で疲れが取れても睡眠は必要だから少しでも環境を考えてと。

 

 お泊まり、一緒の部屋で? もしかして二人で同じベッドとか……。

 

『レフィーヤ、狭くない?』

 

「へ、平気です。寧ろ、へぶっ!?」

 

 私の顔面にアルミラージの蹴りが叩き込まれて妄想から我に返される。あれ? 一撃喰らって……。

 

 

「集中しろ、ぽんこつむっつりエロフ」

 

「そ、その呼び方は止めてぇえええええ!?」

 

 この日、私は水浴び禁止決定。……まあ、お湯とタオルは渡されたのですが。

 

 

 

 

 私の思わぬ特訓が始まってから四日目の朝、今日もアイズさんは出て行きます。

 その理由は私達が逃したミノタウロスに追われ、酒場に居たのに気が付かず笑い物にしてしまった少年を鍛える為。

 

 今の私達が他ファミリアの団員を鍛える事に言及出来ませんけれど……けれど、凄く羨ましい!

 

 ええ、肉体と精神力の二つを全快出来る事を前提にしたスパルタ特訓で高速詠唱も並行詠唱も成功率が上がって来ていますよ?

 

「ほらほら、手が止まっている!」

 

 

 

「あの時に迷惑掛けた子だから……」

 

 今は連れて来たシルバーバック相手に杖での防御をしつつの並行詠唱の練習中、私は接近されたら直ぐに集中が乱れるからって、兎に角回避と防御を覚える事で冷静さを保てと課題を出されたのですが……。

 

「あっ……」

 

 拳を受け流して安心した所で地面のへこみに足を取られ、本日五回目の魔力暴発……。

 

 

 

「今回は派手にやったな……」

 

 地面に発生したクレーターの中心で大の字に倒れる私に呆れた様な声が投げ掛けられ、引き起こす為に手が差し伸べられる。

 

 どうも私も他種族との接触を厳禁にしているという誤解を受けていた様ですが、今では解けて普通に起こしてくれるのですが、これがアイズさんだったらなあ……。

 

「ベルゼーヴァさんって口は悪いけれど面倒見は良いですよね」

 

 この特訓、アイズさんの分の対価は例の少年を鍛える事だとか聞いているので、彼からすれば実質報酬無しなのでは? との疑問が浮かぶ。

 水分補給の小休憩中、そんなかんがえが口から出て来ましたが、戻って来たのは大きい溜め息でした。

 

「お前さあ、妄想の世界に入る癖以外にも感情で動き過ぎだろ。俺の姉貴もそうだったが、俺みたいにフォローする側の苦労も考えろよ。幹部候補なんだろ?」

 

 うっ……! それはリヴェリア様に何度も言われている事です。

 

「それに俺も餓鬼の頃は弱かったし、助けられてばかりだった。だから強くなった今は誰かを助けるんだよ。誰かさんみたいにエロい妄想で暴走してると難しいだろうがな」

 

「誰がエッチな妄想ばかりですか!? 私はアイズさんともっと仲良くしたいだけです!」

 

 訂正訂正、口は悪いけれど面倒見が良い善人じゃなくて、面倒見が良い善人だけれど口が悪い人に変更!

 

 

「……処でハイエルフのご隠居様に魔法の訓練を受けていたんですよね? もしかして私がやっているのって……」

 

「俺が十三の時に受けた特訓だぞ? その人の先生だったらしい星の精霊は理論派だったから呆れてたけれどな。お陰で強くなれた」

 

 ハイエルフという立場は私達にとって大きい、それこそ主神にさえ匹敵する程に。

 そんな立場の方が授けた訓練法なら……。

 

「じゃあ、今日は発動寸前で保持しながら杖術の訓練って事でアイズと一緒に打ち込んで来い」

 

「私、未だ保持は成功率低いんですけれど!?」

 

「やる気が足りねえなあ。魔法を撃つなら絶対に殺す。出来たいじゃなくて絶対に出来る。撃つと決めたら竜に噛まれて腹に穴が開こうが魔法をぶっ放す。俺は十三の時点で出来たが? 慣れだよ、慣れ」

 

「ですが……」

 

「お前が尊敬する連中だって雑魚なチビだった頃があるんだし、期待してくれる人の目と自分の目のどっちが優れているんだ? それとも周囲は節穴揃いか? もしくは自分の努力が足りないだけか?」

 

 その言葉で気付かされた。今まで期待されているのに自分は駄目だとと思い、それでも信じてくれた人に報いたくて自分を奮い立たせて来ましたが、自分を疑うって事はつまり……。

 

「なんだ、節穴揃いだったか?」

 

「私の努力が足りないだけです! リヴェリア様やアイズさんは節穴なんかじゃありません!」

 

「そりゃ悪かった。じゃあ、L v.4相当で打ち込むから頑張れよ?」

 

 この人、自称後衛タイプなだけで普通に魔法剣士タイプですよね? 普通はオマケ程度で細かい調節なんて無理なんですが?

 

 尚、魔力の大きさを活かして砲台タイプになるか、魔法の多彩さを活かして魔法剣士タイプになるかは自分で考えろ、らしいです。

 

 確かに並行詠唱と高速詠唱に魔法の保持、そして【エルフ・リング】を組み合わせればどの様な状況にも対応可能ですが……。

 

 ロキ・ファミリアでの遠征や強い前衛を前提とするなら前者、それ以外ならば後者が望ましいのでしょうが、私には未だ答えは出ません。

 

 今のまま望まれる砲台タイプとしてリヴェリア様の後継を目指すのならば確かに今のままが一番なのでしょう。

 

 私はあの方に強い憧れを抱いています。ですが、アイズさんだって同じ。

 

 せめて魔法剣士の理想像の様な方に出会えれば良いのですが。

 ベルゼーヴァさんは……無茶苦茶なので論外です。

 

「やる気があるなら結構。引き受けた方には徹底的に鍛えてやるよ。用事がある日以外はな。第二十七から二十五階層の氷結では迷惑掛け……あっ」

 

 彼は咄嗟に口を押さえますが、私は聞き逃さない。下層で起きた広範囲の氷結現象。真っ先に疑われたのは私とリヴェリア様で調査とかも大変だったせいでアイズさんとのお出掛けの約束まで台無しになったのに。

 

「あれ、貴方の仕業ですかっ! 大変だったんですよ、色々と!」

 

「魔法の三倍圧縮と二発同時使用を久し振りに試したら思ったより被害が出た、悪い」

 

 え? 魔法の圧縮? 同じ魔法を三発押し固めて一度に放つ? それを二発同時に?

 

「……ちょっと見せて下さい」

 

「じゃあ、前に被害が大きく出たし【デモリッシュ】なら其処迄でもないか?」

 

 少しだけ、いえ、凄く興味が出た私は魔導士として遥か高みの技を目にしたくなった。

 圧縮を感じ取るだけなら回復魔法で良かったのに、訓練で妙に上がったテンションがおかしくしたんでしょう。

 

「【デモリッシュ】【デモリッシュ】」

 

 その魔法が放たれた瞬間、地獄の顕現を悟った。光が地面を走りながら円を描き、完成した円の中で闇が膨れ上がる。

 魂すら飲み込み押し潰す、そんな恐怖を本能で感じ取った私ですが、同時に興奮もしていた。

 

 彼の言葉の通り、魔法を発動前に納める場所で小さく押し潰された魔法に同じ魔法が覆い被さり、それを更に圧縮して包み込む。

 私には絶対に不可能だと嫌でも魂が理解して、無意識の内に真似をして制御を失って暴発を起こした。

 

 この時、私は魔法の深淵に魅入られ心を奪われていました。

 

 

 

「それで地面と天井に大きな穴を開けちゃったんだ……」

 

「……弁解の余地は無い。頼んだ此奴が九割、実行した俺に一割の責任がある」

 

「違いますよね!? 実行役の貴方が九割ですよね!?」

 

 アイズさんが例の少年に稽古を付ける時間は終わり、迎えに行って戻ったら即座に呆れられました。

 上と下に大きく開いた穴、既に倒しましたが前回の骨の獣が巨大なのが三体、小さいのが三十体は出ての大騒ぎ。

 

 荷物みたいに私を抱えての大立ち回りでしたが、流石に振り回され続けた私は乙女の尊厳を失う状況に。

 アイズさんに着替えを買って来てもらうだなんて恥ずかしいです。

 

 なのに責任の大半まで押し付けるだなんて!

 

 

「違うよ? 二人共、同じ位に責任がある。ダンジョンにこんな穴を開けちゃって、その辺分かってる?」

 

 この時のアイズさんは怖かった。表情が消え去って人形みたいになりながら淡々と告げて来て。

 

「うう、アイズさん怖い……」

 

「甘いな。俺の姉貴なら拳骨を落とすぞ。この程度なら……」

 

「お話の途中だよ? 口を開かない」

 

「あっ、はい」

 

「ごめんなさい……」

 

 この時のアイズさんから受ける威圧感は深層の階層主すら上回る物だったと、コッソリ日記に書き残しておきましょう。だって二度と繰り返したくないので。

 

 

 こんなトラブルがあったものの私達の特訓は続き、何か大切な事を忘れている気がしながらも出来る事が増えて行き……私は冒険をする。

 

 

『グルルルル……』

 

 宝石樹を守る宝の番人(トレジャーキーパー)木竜(グリーンドラゴン)

 私では単独で挑むならランクアップ一度に大幅なアビリティの上昇か離れた場所から詠唱をして広範囲魔法を叩き込むべき相手。

 

 それと一人で向かいあっていました。

 

 ベルゼーヴァさんを警戒しているのか格下の私を前にしても飛び出しませんが、あと一歩近付けば流石に襲って来るのでしょう。

 

「レフィーヤ、大丈夫? あのモンスター相手に一撃も受けずに倒すだなんて。幾ら階層主ではないとはいっても……」

 

「いえ、やりま……やれます!」

 

 制止を振り切り一歩前に、挑戦ではなく可能だと自分に言い聞かせて接近すれば竜が動き出す。

 尻尾での薙ぎ払いや前脚の叩き付け、そして硬直を与える咆哮(ハウル)

 どれも当たれば只では済まず、当たらなければ余波が肌を打つだけ。

 

 詠唱に集中しつつも思考を切り分け、相手の動きと地形を視界に入れ続ける。

 薙ぎ払いと咆哮は相手の内側に転がり込んで回避、叩き付けも何処に居れば当たるのかを予測し続ければ數歩の動きで避けられる。

 いや、寧ろ当たりそうで当たらない距離だからこそ相手は己の巨体が邪魔が視界を阻害し、狙いを変えずに当たらない事で苛立ちを覚える。

 

 少し前までなら震えて動けなかった状況なのに、当たれば一撃で終わると分かっているのに足は竦まず、詠唱も喉の奥から流れ続ける。

 

 私はリヴェリア様の後継に選ばれたのだと、それで己を鼓舞し続ければ何も怖くない。

 

「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹。汝、弓の名手なり。狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢】」

 

 高まる魔力に危機感を覚えた竜が選んだのは巨体その物を武器にした突進。

 身を低くして小さい私を押し潰すべく猛進する。

 

「【アルクス・レイ】」

 

 今までこの魔法は対象を追尾する必中の力を持っていたけれど、少し使い方を間違っていた。

 例えるならパズル。完成したパズルを狙うのではなく、それを構成するピースを対象にする。

 

 放った矢は右前脚の付け根を撃ち抜き、バランスを崩したその巨体は地面を削りながら私の横を通り過ぎる。

 この時、既に次の詠唱は始まっていた。

 

 

 

「【アルクス・レイ】」

 

 次の一矢が穿つのは尻尾の付け根。その巨体を支える第五の脚であり武器。

 それを失った竜は三本の脚で立ち上がろうとするも起き上がれず、その顔には初めて恐怖が滲み出た。

 

 這う様に転がる様に私から距離を取ろうとするけれど絶対に逃さない。

 

 【エルフ・リング】からの詠唱。選んだのは木が生い茂る場所なのを考慮して……。

 

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風を巻け。閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け三度の厳冬--我が名はアールヴ】」

 

 この時になって恐怖が追い付いて来る。既に逃げ出した相手なのに先程までのギリギリの攻防が蝕んだ心の震えが手足と喉の動きを邪魔して来る。

 

 

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

 だから叫んだ。私は恐怖になんか負けないと渾身の力を込めて。極寒の吹雪が三条、それが逃げる竜に届き、飲み込んで追い越す。

 精神力の消費に膝が崩れそうになる中、私の目の前には時と共に凍り付いた竜の姿。

 

 杖を掲げ、跳ぶ。掛け声を上げる力すら腕に注ぎ、そして竜の体へと杖を振り下ろせばヒビが広がって巨体が割れて崩れ落ちた。

 

 

「ふぅ。何とか……あれ?」

 

 着地して額の汗を拭った瞬間、精神力の体力も枯渇する段階じゃないのに遠のく意識。

 最高潮まで張り詰めた緊張の糸が途切れたんだと理解しながら崩れ落ちる私をアイズさんが優しく抱きとめた。

 

 

 

「お疲れ様、凄かったよ。……次は私が冒険する番だね」

 

 アイズさんも何かに挑戦するんだ。きっと格好良いし、楽しみだなぁ……。

 

 

 こうして私の意識は途切れ、そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で起こしてくれなかったんですかぁ!? アイズさんが階層主を単独撃破する姿を私も見たかったのにっ!!」

 

 目を覚ましたらアイズさんがウダイオスの魔石を砕く所でした。つまり戦いを見逃したって事です。

 

 アイズさんの! 冒険を!

 

 

「フレイヤ・ファミリアだって来てるんだ。早い者勝ちなんだから仕方無いだろ?」

 

「えっと、見た映像を再現する魔法とかは……」

 

「エルフが古代に発明してねえのか?」

 

 無いんですね、そんなぁ……。

 

「……レフィーヤ、そろそろ帰ろう」

 

「そうですね。ダンジョンに潜ってかなり経ちます…し……」

 

 あれ? 確か私ってダンジョンに行くってリヴェリア様に伝えていなかった気が。

 誰かに伝える前にアイズさんが抜け出すのを見て追い掛けて……。

 

 

 全身の血の気が引くのを感じ、私は再び気を失う。目覚めた時、アイズさんに背負われて地上への長い階段を登っているところでした。

 

 ア、アイズさんに背負われて……。

 

「レフィーヤ、あの人から伝言。鍛えた事に恩を感じたなら、その力で誰かを助けてくれると助かる、強制はしない、だって」

 

「……口は悪いのに本当に良い人ですね、あの人」

 

 少しどころじゃない厳しい訓練でしたが、今回の経験はステイタスの更新も無しに私達を強くしました。ええ、尋常じゃなく厳しいですが。

 

 そんな風に彼への感謝の念を抱いていると不意にアイズさんの動きが止まり、少し震えていました。

 

 

 

「レフィーヤ、どうしよう。私も長い間潜るって言っていない。そして、上の方からフィンとリヴェリアがこっち見てる」

 

 ……え。

 

 

 

 

 

 

 




アイズは二発目の振り払い時に限界が来て直撃する前にウダイオスの残った手を奪いました

今回被害を受けたダンジョン『もう嫌だ(;ω;)』

ジャガ丸君『数と質を揃えてナレ死とか、我ボスぞ?ヽ(;▽;)ノ』

フレイヤ・ファミリア 『何だろう、この大穴Σ(゚д゚lll)』
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