英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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街娘

「またしてもか……」

 

 ギルド最深部『祈祷の間』にてダンジョンを鎮める為の祈祷を続ける神ウラノスはここ最近起きる異変を感じ取り、疲れを声に滲ませるの

 

 具体的に言うと何処ぞの馬鹿(ギル)が三度目となるダンジョンの大規模破壊を行なってジャガーノートの大群を出現させるという愚行の被害で心労を募らせていたのだが、そんな彼に話し掛ける者が二人。

 

『矢張リ、精霊ノ宝玉ガ関係シテイルノデハ?』

 

 一人は以前ギルに三十階層の異変の調査を依頼したロープの人物。彼が持ち帰った物を解析する事で特性と正体を見抜き、

それに関わる者達の仕業だと意見する。

 

 オラリオが誕生する前、大穴を塞ぐバベルが存在するより前に神々に命じられ人に力を貸した精霊の成れの果て。モンスターに食われ、その在り方を大きく変質させた存在の一部。

 

「モンスターに寄生し、やがて精霊の分身となるんだっけ? 確かに厄介な相手で疑わしいが、俺は滝の大規模氷結も含めて三度全てがベルゼーヴァって奴の仕業じゃないかと思っているよ。どうもギル君と繋がりがあるみたいだし、探ってみてはどうかな?」

 

「十八階層の時点で一度現れたのだ。流石に警戒して三度も繰り返さぬだろう。そもそも一度目と三度目の様に過剰な破壊を行う理由が無い。フェルズ、少なくとも穢れた精霊の痕跡は無かったのであろう?」

 

「アア、ソウダ」

 

 二人目はヘルメス。帽子を押さえ表情を隠しながら提案するもウラノス達は有り得ないと否定する。

 

 そもそもダンジョンの破壊など容易な事では無く、この世界の人間にはそれこそ大量の爆発物を使う等の長期準備期間を必要とする方法でないと無理だと認識している。

 

 それは黒竜討伐によって失われたゼウス・ヘラファミリアの幹部や古代の英雄にすら当て嵌まるのだとの認識から来た意見だ。

 

「……だが、放置も出来ぬ相手ではある。ベルゼーヴァの捜索もそうだが、ギルの調査も並行して行おう」

 

『先ズ、二十四階層デノ大量発生ノ解決カ。関係者ノ捕縛ガ望マシイガ……』

 

 

 

 

 

 

 本日はイシュタルが拗ねているので歓楽街はお休みで、俺は特別に内密で入れてもらったが客じゃねえ。

 今は娼婦をお休み中の春姫と店の外でのお散歩デートの真っ最中、だから普段の店には入れない……んだが。

 

 

 

 何故か今、アマゾネス達の住処に案内されて囲まれてるんだ。床にクッションを放り出してる所に座り、春姫を隣に座らせて茶を頂く。

 床に大皿が直に置かれて取り皿もなしに各々が手やフォークを伸ばして食べ、俺は断ったが酒が酌み交わされていた。

 

 部屋の隅に随分とデカい上にペチャンコになったクッション(色々と溢していて汚ねえ)が雑に寄せられてる上に物を乗せていたが、持ち主が嫌われてるのか?

 

 ……ヤバい奴が団長だって聞いたが、話題に出さない方が良いか。

 

 此処で集まって飯を食うそうだが、別ファミリアの奴を入れても良いのか?

 

「ねぇ、アンタって童貞?」

 

「ぶっ!?」

 

 茶を啜っている時にアマゾネスの一人から投げ掛けられた問いかけに俺は咽せ、春姫なんか真っ赤になっている。

 

「あれだけ春姫の所に通っておきながら膝枕が限度な奴だよ? 童貞に決まってるじゃないのさ」

 

「下級冒険者だけれど活きは良さそうだし食ってあげようか?」

 

「止めなって。せめて初めては何処のンコツに譲ってあげなよ」

 

「じゃあ、春姫が終わったら突撃する?」

 

 本人を前に凄い会話を続ける辺り、種族としての価値観の違いが凄いもんだ。視線が獲物を狙う肉食獣のそれなんだが、俺ってマジで狙われてる?

 

 アマゾネスの思考って俺達とかなり違うよな。ポルタン族も優れた力を隠すのが女の美徳って感じだったし、これだけ種族だけで違いがあるんなら……。

 

 

「こりゃ戦争が無くならない筈だわ」

 

 モンスター滅んでも戦火が広がるのが見える見える。だから呟いたら脳天に踵を落とされた。

 

「酒の席で茶しか飲まない上に盛り下がる話すんじゃないよ! アンタ、戦争にでも参加したのかい?」

 

「十一の時に祖国が攻められて、俺は救護所で働いていたぞ。姉貴が貴族にされたせいでな」

 

「貴族にされたって一体何が……あー、終わりだ終わり。もうちっと盛り上がる話とか無いのかい?」 

 

 これでケジメは終わりって事で良いんだよな? 流石に酒の席でする話でもなかったが、正直肉食獣の視線が一斉に注がれてたのが消えたので良いだろ、二度とこの話題は出さねえけれど。

 

 

 

 

「まあ、これで春姫も漸く娼婦としてのスタート切れそうってもんだ。イシュタル様の出した無茶な要求も達成しそうだしねぇ」

 

「一億だっけ? ヒュー! さっさと貯めて春姫の貫通式終えちゃいなよ」

 

 アマゾネスの感覚のせいか酒が回れば話題は下ネタへと舵を切る。うん? ちょっと妙な事を言っちゃってるよな?

 

「えっと、アイシャ様? 春姫は既に、その……」

 

 自分は経験済みだと言いたいが、俺の前だからか言いにくいって様子の春姫だが、その尻尾は無造作に引っ張られた。

 

「ひゃっ!?」

 

「男の鎖骨見ただけで興奮して気絶する奴が娼婦の仕事なんて出来るもんか。頭の中がピンク色だからエロい夢見るんだよ、バカ狐」

 

 嘘だと思うなら今此処で抱かれてみろとか言い出したアイシャは笑いながら春姫の腰帯に手を掛けて緩めながら自分の方へと引き寄せる。

 

 まあ、あれだけ純情な奴が経験豊富ってのも妙だと思ってたが、良かった良かった。いや、処女なのが嬉しいとかを変な意味で言ってるんじゃなくって、望まずに此処に来ちまったから、気絶している間に襲う客と出会わないようにしてたのかもな。

 

 思考がアマゾネス寄りなせいで娼婦に抵抗があるってのが理解出来ないだけで確かに愛があるわ。

 

 一応タケミカヅチさんにも教えておこうかと考えつつも、会話がそっち方向に向かってるのは俺にはキツいので現実逃避の一環だ。

 何か脱げ脱げコールが始まったんだが、食事中に何をやらせる気だよ……。

 

 

「ほら、こんなの持ってるんだから使いなさいって……」

 

 そして春姫の背後から伸びた腕が着物と襦袢の胸元を一気に開いたせいで押し込められていた胸が解放される。白い肌に形の良い大きめの双丘と先端は綺麗な色の……。

 

 

 

 

「アイシャ、二人共座ったまま気絶しちゃってるけれど、どうしよう……」

 

「服直して部屋の隅にでも転がしときな。引きこもってるヒキガエルに浚われたら面倒だから見張っとくんだよ。……あー、馬鹿馬鹿しい。ほら、気になるだろうけれど体だけでも見ようとしない。服の上からでも触ってやるなよ。ったく、これは二人揃って目隠しでもさせろってか?」

 

 

 

 

 

 

 大陸全土を又に掛けて冒険し、世界の滅亡を阻止しても拭いきれない後悔は存在する。そして、その後悔は何度も夢で繰り返されていた。

 

 ロストール城、王女ティアナ様のお部屋にて冒険の話をするのは主に俺の役目。正面からでも行けるんだけれど、盲目で外に出ない事になっているアストレア様との接点をどう説明するか困るからって隠し通路から訪ねる姉貴に付き添い、俺が話し相手になっていた。

 

「まあ、呪いの品を持ち歩こうと?」

 

「魔法のアイテムの材料に使ったりで高い報酬が支払われるけれど、その時は期限が切れていたんだ、ですよ」

 

 初恋の相手はアストレア様だけれど、ティアナ様とのお喋りは楽しかったし、向こうだって喜んで出迎えてくれて、一人の時間が欲しいと侍女に言って、来ても大丈夫な時間帯を教えてくれていた。

 

「ギル君、お姉様であるジル様も名を上げていますし、将来私の騎士になりませんか? 勿論、今は答えを出さなくて結構ですので」

 

 そんな事を言われたのが最後の訪問日。次に城を訪れたのはレムオンによる革命騒ぎの日で、俺はシャリの妨害のせいで姉貴だけを先に行かせる事になった。

 

 

「君が居たら都合が悪いからね。来るなら少し遅れてだ」

 

 召喚したモンスターの相手をして、漸く訪れた時に見たのはゼネテスがティアナ様とアストレア様の二人の内、アストレア様を庇った事。

 ティアナ様の死角に居た俺を見ていたから、目が見えないと思っているアストレア様を庇うのは当然だったんだろう。

 

 

 でも、結果としてティアナ様は自分が簒奪者の娘、偽物の王女だという心の闇を増幅させられて光の王女から闇の王女へと変えられて世界を滅ぼそうとした。

 

 騎士に誘われた時に握られた手の温もりも向けられた声の優しさも今でもハッキリと覚えている。そして最後に向けられた言葉と泣きそうな顔も。

 

 

「結局、貴方は私の騎士にはなってくれなかったのね」

 

 あの方が俺の夢に出る時、決まって恨み言を吐き続けるか暖かい日々から最後の光景までを続けるかの二つだ。

 俺にとって英雄は姉貴だ、それは間違い無いが……だからこそ分かる。

 

 

 

 

 

 

 俺は英雄にはなれないのだと。これから誰かを救っても、それを名乗る資格はないのだと。

 

 

 

 

 

 

「……はい?」

 

 何か凄い物を見たのは覚えているが記憶が断片的に途切れている中、眼を覚ませば春姫を抱き枕にしていた。

 体に押し当てられる物の感触に頭が真っ白になる中、先に目覚めていたらしい春姫はモジモジしながら告げる。

 

「は、初めてを捧げてしまいました……」

 

「捧げてないって、エロ狐」

 

 速攻で入る否定に声の方を向けば、俺達が自称未来の勇者に向ける様な面倒な物を見る目を向けられていた。

 

 

「胸見られただけで気絶する奴と胸見ただけで気絶する奴とか、本当に面倒な二人だよ。いや、本当に」

 

 え? 俺、そんなんで気絶してた? ……こりゃ初対面で手を出そうとしてたら大恥掻いてたな。

 

 

 今現在大勢の前で醜態を晒している現実は無視をして安堵するも、この状況は非常に辛い。

 何と言うか居た堪れなかった。

 

 

「えっと、俺もう帰るわ。またな、春姫」

 

「は、はい。次こそ……じゃなくって、またおいで下さいませ」

 

 あー、恥ずかしい。楽しかったがマジで大恥だぜ、ホームに戻ったら不貞寝しようっと。

 

 

 

「ニャハハハハ! おミャーから預かった物はミャー達が美味しく頂いたの、ニャッ!?」

 

「ちゃんと残しているでしょう。下らない冗談は止しなさい」

 

 まあ大丈夫だと思いつつアーニャの様子を見に行くついでに預けた菓子やらを受け取りに行ったんだが、顔を見るなり立ち直りをアピールするみたいに大声で出迎え、その頭にリオンの手刀が叩き込まれた。

 

「アーニャの言葉は嘘ですのでご安心を。お言葉に甘えて幾らかは分けていただきましたが、ちゃんと残していますので」

 

「それなら別に良いんだがな。そこの馬鹿は放置してて良いのか?」

 

 レベルは多分同程度なんだろうが技術的なのでリオンの方が多分総合的に格上だ。

 その手刀を不意打で喰らったもんだから頭を押さえて蹲ってるんだが、他の店員は心配もしない。

 

 心配して来てみたが大丈夫で安心だな、と胸を撫で下ろす。

 

「ふと思ったのですが、ギルさんは何時の間にアーニャと仲良くなられたのですか?」

 

 疑問ってよりは仲間をたらし込んでる相手を疑う、そんな表情だな、隠せよ。

 この大陸のエルフってのは自分達が生真面目な分、他種族にはそっち方面の想像をしちまうもんなのか?

 

「ちょっとした趣味の仲間だ。他にも居るから詳細は勘弁してくれ」

 

「趣味……成る程、関わらない方が良さそうですね」

 

 別に演奏を誰かに聞かれても構わないんだが、何を想像したんだか。まあ、多種族に触れないってタイプのエルフらしいし、追求は厳禁か。

 

「もしかして交際するまでは手を繋ぐまでって感じなのか?」

 

「何を馬鹿な。誰も居ない森の月の下で愛を誓い合うまで手を繋ぐのも駄目に決まっているでしょう」

 

「えぇ……」

 

 エルフってそんな感じなのかよ。じゃあ、あのむっつりエロフってエルフ基準じゃ……うわぁ。

 

 しかもベルを同僚の伴侶扱いしてたじゃんか。出会ってから一ヶ月とかそこら辺だろ?

 

 うん、さっさと帰る……そーいや新しい店員居ないな。こんな中に入るんだから凄く変な奴な気がするんだが。

 

「ただいま帰りました、皆さん」

 

「ただいま、皆」

 

「おや、お帰りなさい。シル、フェルム」

 

 背後から聞こえた聞き覚えのある声、そして知っている名前に振り返れば向こうも俺に気が付いて驚いた顔をしていた。

 

 

「ギル君!?」

 

「フェルム姉ちゃ……フェルムさん!?」

 

 危ない、つい昔の呼び方をする所だったぜ。それよりだ、シルと一緒に買い物から帰って来たのは間違い無く旅の仲間で姉貴の親友でもあるフェルムさん。

 

 エルファスだけじゃなくてこの人もこっちに来ていたのか……。

 

「アーニャさん達の話からもしかしてって思ってたんだけれど、まさか本当にギル君だったなんてビックリ。何ヶ月ぶりかな?」

 

「最後に会ったのがロストールに用事で行った時だから八ヶ月位か? あっ、そうだ。ちょっと情報の……」

 

「そっか。そんなに経ってるんだ。だから少し大きくなってる訳だね.出会った頃は私より小さかったのにすっかり大きくなっちゃって」

 

 嬉しそうに近寄って来たフェルムさんは手を使って俺との身長差を図る。

 十一の時から四年間一緒に旅をして、主に炊事当番だったからか扱いが親戚の子供みたいだ。

 

 情報の共有と魔法関連の偽装について話し合いたいと言おうとしたが、シルが凄い笑顔で間に割って入る。

 頭を二人の間に差し入れただけなんだが、笑顔の圧が凄い。

 

「フェルムから聞いた話に出てたギル君ってギルさんの事だったんですね。聞いていますよ、色々と」

 

 何か色々って部分に含みを持たせてねえか? フェルムさん、後で何話したか聞かせてくれな?

 

「大丈夫.変な話を広めたりはしませんよ? だから私の変な話も広めないで下さいね?」

 

 圧が消えたが唇に人差し指を当ててウインクする姿は様になってるっつーか、素でこれとか怖い。 

 

「アンタ、悪戯の神かなんかだっけ?」

 

「もぅ、まるで女神様みたいだなんてお上手なんですから。私はただの街娘ですよ?」

 

「そーですね」

 

 本当に何話したんだよ、フェルムさん。

 

「ギル君、随分と頑張ってるって聞いたけれど大丈夫? 無理しちゃ駄目だよ?」

 

「確かに忙しいっちゃ忙しいが何とかなるさ」

 

 治療院の手伝いに薬材の採取、配達は月一だしデメテル様の所での畑は楽しくって、アミッドが休日にしている治療で手が回らない貧民街を手伝って、孤児院で文字の勉強も兼ねて本の読み聞かせとかの世話で……。

 

 ほら、そんなに忙しい事ないだろ? 寧ろ旅の最中の方が忙しいさ。

 

 休日はあるし、魔法を好き放題に放ったり娼館に行ったりと気分転換はしてるんだし。

 

 流石に特訓の合間にこなすのは大変だったけれどな。分身作る魔法とか欲しいくらいだよ。二度目は多分無いけれど。

 

 

「今日もお仕事の帰り?」

 

「そーいえば昨日の夜は歓ら……むぐ!?」

 

「ちょっと友達との付き合いで寝ちまってな」

 

 歓楽街が休みだった、とか言おうとしたらしいアーニャの口を咄嗟に塞ぐ。

 いや、故郷の知り合いに知られるとか気まずいからな!?

 

 バレない様に口止め料の小銭を幾ばくか握らせれば、俺の娼館通いを知らないらしいリオン以外も影から手を伸ばす。

 

 おい、一名大金持ちが混じってるぞ!?

 

 

「あっ! 聞いてる? エルファスさんも来ているみたいだし、ベルゼーヴァさんもオラリオに居るんだって」

 

「うん、どっちも会ってないが知ってる」

 

 歓楽街とは別の気まずい案件『仮面と偽名で好き放題』が来ちまった……。

 

 

 

 




シル(神を脅したり魔法での変身を見破ったり)&フェルム(邪竜をフライパンで撲殺)

 ただの街夢です!

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