英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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誤解

「へぇ、速攻魔法か。俺のと同じだな」

 

「うん! それで早速試してみたくなってさ!」

 

 娼館通いとか知り合いの名前を騙っての好き放題、バレたら恥ずかしい事を忘れたくって不貞寝した後、夜風に当たろうと外に出たらダンジョンに向かうベルと遭遇した。

 

 魔法を試したいか、分かるわ〜。俺も初めて魔法が使えた時は嬉しくって連発した挙句、精神力を使い切って気絶したからな。

 

「使い過ぎには注意しろよ? 精神力を全部使ったら気を失うからな。そのままモンスターに無抵抗で……」

 

「ひぇっ!?」

 

 魔法に憧れてはいるけれど、その辺は知らないって事か。アドバイザーもその辺は未だ教えてないのな。

 そう簡単に発現する物でもねぇし、俺も全然アビリティも上がらないし魔法も出ないし……。

 

 自分がモンスターに嬲り殺しされるのを想像したのかベルは顔を真っ青にしていたので背中に平手打ちを叩き付けた。

 

「がはっ!?」

 

「なーに、安心しろ。俺が見ているから好きに撃ちまくれ。ちゃんと撃てる限度数も把握しなくちゃならねえしな」

 

「あ、有り難う。じゃあ、行こうか!」

 

 やる気があるのは結構。まあ、ミノタウロスへのリベンジは英雄を目指すんなら避けては通れない道だ。

 

 どうやって挑むかを考えるのは経験値に関係しそうだからベルに任せるのが一番だろう。考える事って重要だしな。

 

 実際、俺もジュサプブロスの眼鏡を氷の魔法と炎の魔法の組み合わせで曇らせて隙を作ったんだし、何事も経験だ経験。

 

 

「ミノタウロスへのリベンジに使えそうな魔法だと良いよな」

 

 一瞬【テレポート】を使おうかとも思ったが、どんな魔法か見るだけなら浅い階層の方が良いだろう。さてと、どんな魔法が出て来るのやら。

 

 

 

 

「【ファイアボルト】!」

 

 魔法名を叫ぶと共にベルの手から放たれたのは高速で飛ぶ炎弾。一直線にゴブリンへと向かい、胸に当たって魔石も一緒に肉を弾け飛ばして灰にした。

 そんな初めての、それも自分だけの魔法に目をキラキラさせたベルは俺の方に視線を向ける。何処か誇らしげであり、誉めてもらいたいって感じだな。

 

「取り敢えず最大数を知っておいた方が良いから気絶するまで撃とうか」

 

「う、うん。それでミノタウロスにも通じるかな?」

 

「炎自体は軽いからな。問題は炎の熱でどれだけ痛手を与えられるかなんだけれど……」

 

 此処でミノタウロスの皮膚は炎に強いから普通に撃っても目眩まし程度が関の山だって言うべきか? いや、そもそも今のベルじゃオークとかを相手するのは楽だろうが、流石に後衛なら一度ランクアップした程度では厳しいミノタウロスの相手をするのはかなり先。

 

 いや、成長速度を考えればそうでも?

 

 これが兄貴に対してなら直球で言ってしまえるんだが、わざわざアイズに訓練を頼んだのに本人のやる気を削ぐ事を言うのもな……。

 

 どうすべきか俺が悩む中、答えたのは第三者の冷徹な声だった。

 

 

 

 

「無詠唱の扱いやすさは認めてやるが、それだけに威力は低い。そもそも炎では牛とは相性が最悪だと知らないのか、愚兎。表面の何処に当てたところで効きはせん」

 

「あっ、ベルが前に好み(性別以外)だと言ってたのが来たな」

 

「ええっ!?」

 

 偉そうに現れたのは確かヘディン、情報からしてオッタルの側近的なポジションとしてファミリアを支える頭脳労働役だった筈だ。

 何故かホームが大損害食らった一件で忙しく動き回っていたらしいし、漸く動ける様になったからダンジョンに来ているんだろう。

 

 姿を見せた時の態度が偉そうだったから少しからかってやれ、レムオンみたいで腹立つし。

 

 

「貴様、一体何を言っている? そこの小僧の好みが私だと?」

 

「そ、そうだよ、ギル!? 確かに前に好みのタイプは教えたけれどさ!?」

 

 長髪、金髪、エルフ、確かこんな所か? エルフは知的みたいなイメージが強いらしいし、彼奴性格悪そうだが全部当てはまるぜ? 偉そうだけれどな。

 

「教えてくれた条件三つとも当てはまるだろ?」

 

「確かにそうだけれども!?」

 

 この瞬間、ヘディンの表情が固まった。ベル、天然で良い発言だ、此なら疑わないだろうよ。

 その言い方じゃ全部認めているみたいに聞こえるぜ? 此処で男なのを指摘されたら全部台無しだったが、ちょっとした意趣返しも込めて弄くるの延長だ。

 

 レムオンに似た自分を恨むんだな!

 

 心無しか眼鏡にヒビが入って見えるが、多分そろそろ動き出すだろう。じゃあ、逃げよう。

 

「はっはっはっ! 好みど真ん中と出会えて嬉しいか、ベル。でも、今は魔法を調べる時間だし一旦離れようか。【テレポート】」

 

「ちょっ!?」

 

 ベルの好みっつーか性癖に対する凄い誤解をフレイヤ・ファミリア幹部に与え、俺はベルを連れて別の階層へと消えていった。

 

 

 

 

 

「愚かな発言をしていたので口を出してしまったが、恐るべき事を知らされるとは。あの愚か者の情報は逐一報告しろと命じられているが、はたしてどうすべきだろうか。……おのれ、ベル・クラネル。女神の寵愛を受けるだけでなく歪んだ欲望を私に向けるなど万死に値する!」

 

 

 ああ、でもあの眼鏡、何気にヒントはくれてるんだよな。見た目通りに頭が回るし、頼り過ぎるからオッタルが脳筋気味なんじゃないのかな。

 

 

 

 

 

 

「何か凄い誤解を受けたんだけれど!?」

 

「別に憧れの二人に金髪長髪が好みって所とエルフってのがバラバラに伝わった訳でもねえんだし別に良いんじゃねえの? 神フレイヤには伝わるだけで」

 

 それなら良いけれど、と安心した後で強いショックを受けたみたいだが、あの酒場が多分フレイヤ・ファミリアの傘下的な立ち位置なのは教えてやらない方が良いよな?

 

 教えたらどんな反応を見せてくれるのかは気になる……教えると云えば特訓についてだが。

 

 

「そういや早朝に金髪の誰かさんと訓練してたが、どんな流れでそうなったんだ?」

 

「みみみ、見てたの!?」

 

「落ち着け。俺は金髪の誰かさんとしか言ってねえだろ」

 

 見るからに動揺を見せる辺り、神でなくとも嘘を見破れるタイプなんだよな、この兎。スキルもレアなのを発現させて魔法だって珍しいタイプ。注目されるのは避けられないだろうに大丈夫か心配になって来た。

 

 

 そして隠し事が出来ないのは訓練相手のアイズも同じだ。あの天然、絶対に顔と態度に出るから俺との繋がりを漏らさないか疑っている。

 

「えっと、”誰にも頼まれていないよ、お詫び”って目を逸らしながら……」

 

 誰に頼まれたかは喋ってないのか。問題はむっつりエロフの方だが、あっちもあっちでポンコツだから顔に出そうなんだよな。

 

 

 

「……姉貴の親友で俺が生意気な餓鬼の頃からの知り合いもオラリオに来ていてな。もう少し早く会ってれば口止め出来る事も多かったんだが、うん」

 

「ああ……」

 

 俺の表情を見て全てを察したらしいベルに同情の視線を送られる。昔の話を知られたくないのは同じって訳だな。少しだけ優しくしてやるか、ちょっとだけ。

 

 

 じゃあ、あの酒場の夜にもやった強化訓練再びだな。精神力の回復は俺の状態じゃ薬頼りになるから最後に魔法を使用しながらの戦闘の訓練で締めだな。

 

 

「ヘルハウンドは流石に早いか? 装備品次第なら耐久を上げるチャンスになるだろうし……」

 

「ねぇっ!? 何か怖い事を計画していない!?」

 

「大丈夫。死に掛けたら回復して戦うってのを前にやっただろう? あれの難易度を上げたのをやろうってだけだから。中層で頑張ろうな。ヘルハウンドの炎は熱いだろうがそれだけだ」

 

「だけってレベルじゃないよね!?」

 

 ……まあ、本人が嫌なら止めておくか。団長に頼んでモンスター寄せのアイテムを大量に作ってもらう程度にして。インファントドラゴンとか出ねえかな? 三匹位一度に。

 

 

「絶対何か怖い事を考えてる!?」

 

 おいおい、そんな酷い事にはならねえよ?

 

 ベルは余計な心配しているが、欠損じゃなくて潰れた程度なら俺が治せる。エルファスなら欠損すら治せるんだけれどな。

 

 さっさと合流しないとな、シャリの手出しも心配だし。

 

 

 そんな訳で治療院の手伝いの昼休憩、あくまで手伝いだから融通が効くのは幸いだ。

 

「お姉さんの親友で旅の仲間……ですか。ええ、積もる話もあるでしょう。思い返せば旅の話は殆ど聞いていませんでした。成る程、秘密の関係ですね」

 

「別に聞かれれば話すぞ?」

 

 出掛ける時に仕事中のアミッドに声を掛けたら笑顔だったが少し怖い。何か怒らせる事でも言ったのか訊ねるのも憚られる圧力だ。

 

 うん、一応フェルムさんに聞いてみるか。あの人なら聞き易いし、脳筋の姉貴と違って相談相手に向いてるしな。

 

 団長はローンの関係でアミッドが苦手らしいから無理で、アーニャは論外、春姫にはちょっと話せない、ヘスティアはヘスティア、そんな訳で今まで困っていた相談相手が見つかったのは良い事だ。

 

 

 そして情報交換と相談を兼ねて豊穣の女主人にまで向かったんだが、俺を出迎えたのはリオンだった。

 

「ギルさん、少々宜しいですか? クラネルさんの好みについてお聞きしたいのですが」

 

「甘い物が苦手だってさ」

 

 多分毎日渡されている弁当の味付けについて相談を受けたんだろうな。本人に聞いても厚意からの物に注文は付けられないからって。

 

 味付けに関しては独創的としか聞いてないからそもそもの話からなんだが……。

 

 え? 味の好みじゃなくて恋愛的な?

 

 ベルとは週末に稽古相手になっている間柄で、シルとは凄く仲が良いとか。それが本人の代わりに、それもベルじゃなくて俺から聞き出そうって事は……まさか。

 

 

「三角関係? 親友の想い人だからと鍛える内に心が触れ合ってって奴か」

 

「なっ!? それは断じて違う! 私は別にクラネル氏を好いて…など……」

 

 後半になると言葉尻が下がってくるし、無自覚ながらって奴か。………良し! 固まってるから誤魔化せるな。

 

 俺はブツブツ呟いてシルに言い訳をしているリオンの横を通り過ぎ、レンズ無しの眼鏡をしているシルを見なかった事にしてフェルムさんが居ないのでカウンターの向こうに居る店長に声を掛けた。

 

 

「金髪ロングのエルフが理想の相手だってよ。そして助けられたってシチュエーションから二人に憧れている状態だ。……どう伝えるべき?」

 

「知ったことじゃないね。あの小僧が誰を選ぼうがさ。……裏に居るよ。手早く済ませな」

 

 厳しい一言だ、要は首を突っ込むなって事だろうな。俺も好んで他人の恋愛に関わる気も無いし、雇い主の許可が出たんだから知らんぷりだ。

 

 店を出て裏口に回ればフェルムさんが手を振りながら駆け寄って来る。さてと……ベルゼーヴァの件は傷が浅い内に話しておくか。

 

 

「あぁ、確かに魔法大好きだったものね。私なんて魔法の使い方を忘れちゃったんだ」

 

「それはそれで危ねぇな。うっかり使ったら大惨事だぜ、フェルム姉ちゃん。……あっ」

 

 思わず口を塞ぐもニコニコ顔を向けられて恥ずかしい。いいや、もう伝える事は伝えたし。

 

「じゃあ、恩恵無しなら魔法は使えないって事で。必要有るかは分かんないけれど」

 

「エルファスさんとも合流出来たら良いんだけれどね。私が前衛で二人が後衛してくれたらギリギリ竜王にも勝てそうだし」

 

「互いに勘が鈍ってるだろうし、どうだろうな。俺は装備が手元に無いし」

 

 この大陸と俺達の常識の違いやら違いの行動内容の交換は終わり、俺も飯を食いそびれると困るからって別れる事にしたんだがちょっと聞きたい事があった。

 

「シルとは仲良くやれてるらしいけれど大丈夫か?」

 

「うん。もう仲良しだし。今みたいにずっと自然に笑っていて欲しいな」

 

「……立場があるって大変だよな」

 

 俺達はシルがフレイヤだと気が付いている。なんか時々同時に存在しているらしいが、魔法かなんかだろうさ。

 

 さて、ホームに帰って

 

 

 

「あっ、そうそう。ギル君だってお年頃だから仕方がないんだろうけれど、歓楽街通いは程々にね?」

 

「……はい」

 

 誰だ、バラしたの!?

 

 

 

 

「……アーニャだった場合、下水に落としてやる」

 

 今日は納品する品を店を閉めて調合する日だ。ミアハと団長だけじゃ大変だから飯だけでも買って持って行くんだが、せめて調合の補助要員位は雇えないものかとは思うんだが。

 

 オラリオに夢見て来るのは大抵冒険者志願、薬師や医者になりたいならディアンケヒト・ファミリアで充実した教えを、ってなるわな。

 ミアハ目当ては団長が弾くし、神格者なのは接してみないと分からないのもある。

 

「元は結構な店だったそうなのに返り咲く日は何時になるのやら」

 

 空を仰ぎながら店の前まで転移すれば、店の前には待ってましたとばかりに此方を向くヘルメスが軽く手を挙げていた。

 

「やあ! ギル君」

 

「飯買って来たから一旦休憩しろよ。俺も食ったら治療院に戻るからさ」

 

 その横を通り過ぎ、入ると直ぐに扉を閉める。もちろん鍵も忘れずにだ。ミアハ達も作業が一段落ついたのか次の準備をする直前だったし、休憩にはちょうど良さそうだな。

 

「何時も悪いな。治療院の手伝いはどうだ?」

 

「ギルはうちの団員なのに手伝わせるなんて、アミッドが聖女とかおかしい」

 

「治療院は俺が好きでやっているだけだよ。魔法を使うのは好きだしな」

 

 外からヘルメスが呼び掛ける声が聞こえてくるが、ミアハでさえ放置しているんだ、どれだけ信用が無いのやら。

 

 

 

「おーい! ちょっと俺の話を聞いてくれないかなー! 頼みたい事があってさ!」

 

 

「そういや知り合いが豊穣の女主人で働き出してさ。餓鬼の頃の話とかをされたら恥ずかしいんだよ。姉貴の親友だから強く出れねえし」

 

「うむ、私には分からぬが大変そうだな」

 

「私も故郷の知り合いが来たら色々と話されそう……」

 

 食事をしながら話を進め、話題に上がるのは俺や団長の故郷の話だ。この大陸はオラリオかメレンとかしか行ってないからな。他の地域やら文化の話を聞くのは楽しいもんだ。

 大陸中を旅して見て回った時を思い出すな

 

 

 

 

「すまない。休みの所、失礼しても良いだろうか?」

 

 そんな食事の時間を中断させるだけの相手の声、ヘルメスなら無視を決め込むのが一番だが流石にこの声の主は無視するのは駄目だろうな。

 

勇者(ブレイバー)フィン・ディムナ、ロキ・ファミリアの団長か。大物が来たな。……居留守使うか?」

 

「流石に駄目。ヘルメスの直ぐ後に来た時点で面倒な事には間違い無いが……」

 

「私が出よう。なに、これでも神だからな。第一級冒険者であろうと好きにはさせぬよ」

 

 なんなら全員揃って何処かにパッと行ってしまおうかと思ったが、それでは駄目とばかりにミアハが立ち上がって扉へと向かって行く。

 こんな時は神って感じになるんだな、店主としては駄目なのに。

 

 

 

「さて、ロキの所の団長がこんな小さな店に何の用事かな? そこの信用に値しない男同様にギルに用事なのだろうが、内容次第では私も口を挟ませてもらおうか」

 

「これは神ミアハ。そうですね、主神である貴方が交渉に参加させろと言うなら僕に拒否する権利は無い」

 

 背中を見ていても分かる威圧感、神威って奴か。扉の前にいたのはヘルメスとフィン、話し方は普段通りでも声に圧力が込められていた。

 

 

 

「以前三十階層で起きたのと同じモンスターの大量発生が起きていてね。以前の調査で原因も分かっている。それで幾つかのファミリアから選抜した人員で解決に向かう事になった。そこで君にも参加して欲しい」

 

 ……えぇ。面倒臭ぇ。どうせ原因分かってるんだから俺要らなくないか?

 

 

 

 

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