「【テレポート】。……これでも駄目か」
アミッドと腕輪で繋がってしまうなんて事態に陥り、どうにかしようと魔法を使ってみたんだが失敗だ。
繋がっている判定なのか俺が転移するとアミッドまで一緒に転移する始末。
店の前に転移したらアミッドまで直ぐ横に。
「アミッドさん、お出掛けですか?」
「お揃いの腕輪とは仲良しですね」
まさか拘束用の腕輪を事故で嵌めてしまったとかなんて言えないし、店員達の冷やかし混じりの言葉を浴びるしかない状況だ。
俺は別に良いんだが、団長のアミッドまで間抜け扱いされるのは不味いだろうし……。
このままホームに戻るって訳には行かない。借金の返済が終わった以上、団長がどんな態度で笑い物にする事やら。
「困りました。ええ、明後日までは一緒に過ごすしかありませんね」
「アミッド、喜んでねえか? まあ、明日は治療院の手伝いの予定だし……」
そんな事態なのに随分と余裕なのか今の状況を楽しんでさえいる様子で鼻歌まで歌っていた。
俺と繋がる腕輪は見えず触れずの鎖で繋がっている感じで、離れられないが動きを邪魔しない。
腕輪の内部も柔らかいし、確かに拘束が必要な患者用だって感じだな。
「幸い本日はこの腕輪の受け取りにサインが要りましたので出ましたが休日は……緊急事態です」
最初は厄介な事態に陥ったかと思いきや案外気楽なのか、そんな風に考えていた俺はアミッドが焦った顔になるのを見て気を引き締めた。
好機と見た敵対ファミリアか、それとも大勢の患者を察知したのか。荒事ばかり得意な俺と違って大勢を率いる医療従事者としての……。
「この様な状況だからと意識しない様にしていたのですが……」
「一体何が……あっ」
違うわ。これ、口に出したら駄目な奴だ。
急に顔を赤らめてモジモジし始めた姿に俺は緊急事態が何かを察してしまう。
俺が気が付いたら事を察したアミッドは羞恥で更に顔を真っ赤にして、声は蚊が鳴く様なか細い物だ。
伝えたくないが伝えざるをえない緊急事態、それは……。
「ト、トイレに行きたくなりました……」
絞り出す様な声で告げたアミッドは今にも恥ずかしさで泣き出しそうで、俺には何も言えやしない。
確かに緊急事態だ。尊厳的に不味い奴だよな、これ。……トイレまで転移するか。
「良いですか? 絶対に、絶対に耳を塞いでいて下さいね!」
「おう……」
腕輪と腕輪を繋ぐ鎖は幸いな事に扉を挟んでも大丈夫、磁石がくっつくみたいな物なんだろう。
それでも距離は開けられないから扉の前で耳を塞ぐしかないんだけれどな。
「どうせ治せるし鼓膜破こうか?」
「なりません! 治るからと自分で傷付けるなど見過ごせません!」
じゃあ、仕方が無いから耳を塞いで扉の前で待つしかないのか。自分の所のホームじゃない上に他の団員には情けない団長の姿を知らせる訳には行かないし……。
「【インビジブル】」
五感鋭いモンスターでさえも誤魔化せる透明化魔法、誰も見ていない内にこれを使えば大丈夫。
スキルやらで察知出来る場合は……まあ、仕方無い。
間抜けの代償を背負うのは俺だけで良いと、アミッドに都合の良い脚本を考えている内にアミッドが扉から出る気配を感じたので魔法を解除すれば恐る恐るといった様子で顔を覗かせた。
「鼓膜は破いてありません……よね?」
「音を聞いていないと心配せずに良いのか? 聞いてねえけれど」
さてと、これからどうするべきだ? 幸い今日は休み、何処かに引きこもっていればやり過ごせる。
そんな場所は……あったな。
「アミッド、悪いが緊急事態だから休みの日課は諦めてくれ。ダンジョンに行くぞ」
「ダンジョンへ? それは一体……」
「なぁに、ちょっと伝手を使うだけだ。俺を信用してくれ」
俺が差し出した手をアミッドは戸惑いながらも取り、誰かが来る前に転移する。
向かった先はダンジョン十八階リヴィラ。
そこに幾つも存在する宿屋、更に今回のやらかしを誤魔化すに都合の良い場所の一つだ。獣人が洞窟の中に作った奥行きの広い宿。
部屋の扉は布だけだが
「よーう、ギル。聖女様を宿屋に連れ込んでお楽しみかい? お揃いの腕輪までしちまってよ」
「腕輪が揃いなのはそうだがお楽しみじゃねえよ、ヴィリー。臨時治療院を作る計画があって下見に付き合ってるだけだ」
何も嘘じゃねえ。階層主復活のタイミングで冒険者が集まるし、アミッドも計画だけは俺に話してくれていた。部屋だけは多いし、一応便所も用意されている。
「今度の出現時に肉や酒の運搬を格安にしてやるし、今は他に客がいないだろ? ほら、貸しきりに足りる分の金は払うから」
「ヒュー! 気前が良いじゃねぇか」
こうゆう時、荒くれ者との繋がりがあるってのは便利だ。金と実利、それを見せれば大抵の事は罷り通る。オラリオで宿を借りれば尾ひれが付いて、噂が戻って来る頃にはどうなっていたか。
金の包みと契約内容に店長のヴィリーは上機嫌、鼻歌交じりにカウンターから出て町に繰り出す始末だ。
「じゃあ、俺は酒場で楽しんで来るからお前も楽しめよー!」
リヴィラでの噂の広まりは気にしなくて良い。どうせ下世話な噂話なんて普段から幾らでも流れているんだからよ。
「では、私はこの機会に臨時治療院の下見をさせていただきます。洞窟ですので匂いが籠りそうなのは問題ですが、長期の療養を目的としないならば構わないのでしょうか? いざという時は……チラッ」
アミッドもこんな物かと思っているのか澄まし顔で仕事を始めながら俺の方に横目を向けて来る。はいはい、俺に手伝えって事か。
じゃあ、スケジュールを確認しておかないと。
「休みの日だったのに仕事をさせて悪かったな。連れて来たのは失敗だったかもな」
「いえ、私もその内に此処に来る予定でしたし、貴方が勝手に借りだと認識して下さるなら大助かりです」
「おう……」
これは一枚も二枚も上手だと改めてアミッドが上だと認識させられる。俺より三歳も上だし、これが経験の差か。
俺が特に手伝える事も無く、腕輪の力で離れる事も出来ないから直ぐ横で立っているしか出来ない。
ベッドに触れて寝心地を確認しているアミッドの姿は真剣そのもの、宿屋でベッドが足りない時に誰がベッドで寝るのか決める時の姉貴も似た感じの表情になっていたのを思い出していると、アミッドは実際に寝てみて確かめる気なのか仰向けに寝転がって目を閉じる。
此処のベッドは粗末だからそこまで寝心地が良いもんではないだろうにな。仕方が無いのでベッド近くの床に腰を下ろして目を閉じている顔を眺める。
「本当に美人だよな、アミッドって」
「そうですか」
表情を一切変えずに目を開いたアミッドは顔だけ俺の方に向け、視線を部屋の中で泳がせる。
「二人っきりですね」
「貸しきりだからな」
何を今さら、その二人きりになるのが目的で貸しきりにしたんだし、腕輪で繋がっているせいで。腕輪を見せてその事を伝えても表情を変えず、ベッドから起き上がって俺の顔を見ながら腕を伸ばして来た。
腕は向き合う俺の首に絡み付くように触れ、この時になって目が泳ぎ始める。
「二人っきりの宿屋の一室、貴方は凶暴化したヴィーヴルを一撃で倒せる程の実力で私は非力」
「非力?」
仮にもランクアップしている以上は下級冒険者を素手で叩きのめすのだって訳無いだろうに何言ってるんだ?
思わず首を捻ったら腕に力を込められる。俺が普通の下級冒険者なら捻り潰される所だった。
「何か問題でも? さて、何が言いたいのか申しますと……成すがままですよ? 腕輪の力で逃げられず、多少声が外に漏れても勘違いからして気にされない。どうなさいますか?」
「どうなさいますかって……喜ぶ?」
途端に耳まで顔を赤らめて目も合わせてくれないが腕の力は緩まない。若い男女が部屋で二人っきり、男が襲い掛かろうとも邪魔は入らず、か。
まるでゼネテスが兄貴にコッソリ貸していた本みたいだよな。
本は好きだし、どんなのか読もうとしたら、姉貴に取り上げられた上に管理不足って事で兄貴に拳骨を叩き込んでいたが、どんな内容だったのか理解したのは最近になってだ。
その手の本って行商人も大量に持って来てくれないからな。
そんな状況に美女と一緒に陥って、俺がどんな風に反応するかなんて答えは一つだ。
「あ、あの、言い出しておいてどうかとは思うのですが、喜ぶとはつまり……」
「信用されているって事だろ? 安心しな。アミッドの信頼を裏切って襲う真似なんかしないからよ」
「……はぁ。歓楽街に通っていながらドヘタレですね、相変わらず。その様な体たらくだから膝枕が精一杯なのですよ、ギルさんは」
何か急に馬鹿にされたんだけれど!? 友達を襲わなかっただけで何でっ!?
「何だよー。このまま押し倒してキスでもすれば良かったとでも」
「いえ、その様な方ですから信頼しているのですよ。……私を魅力的とは思って下さっているのは間違い無いですし」
「うん、間違い無いな」
俺の首から手を外したアミッドは腕組みをしながら拗ねた顔で拗ねたり照れたりと表情がコロコロ変わって大忙し。
ちょっとだけ欲望に流されたくなるが、そんなの色々と終わるからな。
アミッドもそれを理解して俺を誘惑する演技までするんだから、俺を言葉通りに信頼をしてくれたんだから流されなくって本当に良かった。
何故か兄貴辺りが額に手を当てて呆れている気もするが、きっと妄想だろう。
「それで仕事の方は良いのかよ。何か精神的にドッと疲れたから休みたい」
「大丈夫ですよ。通る時に軽く見て回りましたし、必要な物資を置く場所も確保出来るでしょう。つまり今から休日を堪能する時間なのですが……」
「また便所か? 痛いっ!?」
実際はそこまで痛くないんだが人体の急所を正確に撃ち抜く三連撃、俺の失言が原因なだけに文句が言えねえ。完全に機嫌を損ねちまった。
「もう少し女性の心を学ぶ必要があるのですよ? ……水浴びに行きたいのですよ。腕輪の件で色々あって汗をかきましたから。だから行きましょうか」
水浴びか。俺もアミッドと一緒で汗かいちまったし湖の方に行きたい気分だが……水浴びは流石に不味くねえか?
「良いですか? 絶対に此方を振り向いたら駄目ですよ。私が幾ら美神に匹敵する絶世の美女であっても誘惑に負けない事です」
アミッドを連れて水晶から水が染み出す水辺まで移動したものの、俺は緊張で固まっていた。背後からは衣擦れの音、視界の端に脱ぎ捨てられた服や下着が入るんだが、多分俺を弄くる目的でわざとやってるよな。
腕輪のせいで遠く離れられないから直ぐ後ろでアミッドが水に入る音が聞こえて来る。やがて鼻歌まで交じり始めるんだが、それが不意に止まった。
「困りました。全身浸かりたいのに深さが足りません。ギルさんも入って来て下さい」
「はいっ!?」
「振り向かない! ……仕方が無いでしょう。腕輪のせいで其処に居られたら浅い所までしか入れないんです。モンスターが来ても困りますし、貴方も浴びたいでしょう? ほら、早くして下さい」
思わず振り返りそうになった時に強い言葉が掛けられて動きが止まり、そのまま言われるがままに俺まで服を脱ぐが、背後には全裸のアミッドが居ると思うと……。
そのまま誘導されるがままに水に入ると冷たくて気持ち良い。息を軽く吐き出して堪能していると不意に背中に小さな手が触れた。
「随分と逞しいのですね。そして古傷が随分と……」
驚いて声を出す暇もなく手のひらは俺の背中を調べる様になで回して行く。おーい、俺には見るなって言いつつ自分は見てるんじゃねえか。
「乙女の柔肌と男の人の背中では厚切りステーキと焦げたジャガ丸君くらいに価値に差があるのですよ? それとも見学料として抱き付いて差し上げましょうか?」
「いや、流石にちょっとそれは……」
「おや、残念。抱き付いた時の反応を楽しませてもらいたかったのですが」
慌てる俺を見て楽しんでいるのかアミッドには余裕が感じられる。振り返ってやろうか、畜生!
当然、そんな勇気が俺にある訳がないから水浴びはそのまま終わり、宿屋にまで戻って来る事になった。
「では、明日も早いですので寝ましょう。ですが困った事に腕輪の力で隣の部屋で休むのは不便ですね。さて、どうしましょうか。まさか床で寝かせる訳には行きませんし?」
アミッドはベッドに座ると片手でポンポン軽く叩いてベッドに入れと示して来る。この狭いベッドで添い寝?
「そうか。何かあった時の為に俺が入口側の方が良いか?」
「は、はい。その方が良い…でしょうね……」
野宿の時とかベッドが足りないけれど全員疲れてベッドが欲しい時とか狭いベッドで眠る事も何度かあったもんな。
俺の反応が意外だったのか、からかう気だったらしいアミッドはガチガチに固まりながらベッドに潜り込み、俺も続けて背を向けて入り込んだ。
「俺、床で良いぞ? 野宿は何度もしたからな」
「いえ、大丈夫ですので。えぇ……」
なるべくアミッドが広く使える様にと端の方で背中を向けて寝転がるも背中越しに存在を嫌でも感じ、耳には息遣いだけが聞こえて来る。
寝られるかな? 多分無理そう。昔の旅とは随分と違うよな……。
「ギルさん、もう少しこっちに来て良いですよ。抱き枕にでもなって差し上げましょうか?」
「い、いや、遠慮する……」
寝よ寝よ、無理にでも寝れば明日が来るから。寝ようと思えば何処でも眠れる、モンスターだの襲撃の可能性こそあるものの、それに警戒しながらでも眠れるもんだ。
目を閉じて意識を沈めれば実際に俺の意識は眠りに落ちた。
「それで起きたらこうなったと」
目を覚ませば朝の時間帯、天井の水晶からの光は宿屋の中にまで差し込んで起きる時間だと知らせてくれる。当然俺は起きて、後ろから頭を抱えられていた。
「すぅすぅ……」
「これ、今起こしたら絶対に叫ぶタイプの状況だよな」
俺の後頭部を胸に抱えて静かに寝息を立てるアミッドだが、熟睡出来たなら結構。さっさと起こして治療院の仕事に行かねえとな。
起きない様にゆっくりと抜け出して起き上がる。ちょっと惜しい気もするけれど、恥ずかしさで気絶しそうだし……。
「あら、アミッドさんったらお揃いの腕輪だなんて仲良いですね」
「もしかして恋人からの贈り物!?」
「直ぐ側で働くなんてラブラブだね」
治療院での反応はこんな感じ。最初は服で隠してたんだが、袖の隙間から見られてしまったからな。馬鹿やったのを知られて患者に不安になれても困るから詳しく説明しないけれど、患者に使う時はデザイン変更してもらわないと。
そして鍵が届いたが……。
「……ぷっ! ぶふっ! そ、そうですか。鍵が届くまでの間、ずっと一緒に……くくっ!」
俺達の様子を見て全てを察した製作者は必死に笑いを堪えるも吹き出していた。
「此方は随分と大変でしたのに失敬な……」
水浴びも便所も直ぐ近くでしなくちゃならなかったからな。二日続けて頭を抱えられていたし、起きる度に凄く緊張したんだからな。
「これで二人一緒の暮らし終わりですか。惜しい気もしますね。……私はもう少し一緒でも良かったのに」
アミッドめ。解放されたとみるや本当に……。
今日こそ歓楽街に行こうっと。
前回のオマケの捕捉
「森に行きたい? 別に良いけれど……」
この日、ファミリア全体と交流があるリューに頼まれて誰もいない森までやって来た俺なんだが、不意に紙を渡された。
「えっと……愛を誓う?」
「……え、ええ、そうです。では、手を出してください。森を散策しましょうか」
凄く緊張した様子のリューに言われるがままに手を繋いで散歩をしたが、出会った頃は怪我したのを治療する為に手を伸ばしただけで反応してたのにな。
懐かしく思いながらも一緒に歩く。何か変だが何時ものポンコツを発揮させたんだろうな。
翌日、何故かリューと恋人になっていた。別に良いけれど、何で?
「こ、この様な姿を見たいなどとは……。本当に破廉恥な人ですね」
「嫌われたか?」
「いえ、この程度では……あっ」
そしてメレンでのデートの日、中々許可をくれないギルドには内緒で出掛けた先で水着を
見せてくれたんだが、ちゃんと紐を結んでいなかったせいで上下共に脱げた。
そして魔法を食らった。痛い。
「もう駄目れすぅう。あんな醜態をしゃらす事ににゃるなんてぇ~!」
「大丈夫大丈夫。俺はそんなリューも愛してるから」
その日の夜、俺は飲めないがリューのやけ酒に付き合わされて急遽宿をとる事に。そして……。
「酔った勢いで夜這いを掛けて、起きたら全部覚えていたせいで……」
「申し訳御座いません……」
翌朝、脱ぎ捨てた服も下着も魔法で吹き飛ばしたせいで毛布を体に巻いただけのリューは大爆笑する仲間と困り顔の主神の前で項垂れていたのであった。
まさか目を覚ました瞬間に服を脱ぎ捨てて覆い被さって来るだなんてな……うん。ポンコツエロフ