英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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女神アストレアとアトレイア王女って似てるよね ややこしい

オマケ 全部って選択肢は必要だった気も


成長

「……確かに。約束の一億ヴァリスは確認した。タンムズ、書類を持って来な」

 

 歓楽街の主神であるイシュタルの部屋にて机の上に積まれた金貨の袋の中身を大勢のアマゾネスが数え終わり、副団長の男が支払いを証明する書類を持って来る。

 

 後は判を押せば契約は完了、春姫の娼婦としての仕事はこれで生涯分終わりだ。

 

 俺も情に流されやすいもんだ。一億なんてとんでもない額だぜ?

 

「……にしても分からない奴だ。春姫に惚れたって訳でもないのに大金をこんな短期間に稼いで来るなんてね」

 

「自分でも妙だとは思うんだけれどなー。ま、話すのが楽しいし、本人の価値観的に娼婦には向いてないみたいだったから? か弱い相手に庇護欲を刺激されるから好みとかアマゾネスに理解出来ないのと同じだな」

 

「弱い雄とか有り得ないでしょ」

 

「趣味悪ーい」

 

「後は誇りと命のどっちが大切なのかも違うし?」

 

 同じ大陸内でも国や都市の違いで住民の考えも変わるもんだし、それが種族にまでなったらな。

 イシュタルからすれば女としての悦びとか与えてる気なんだろうけれど、春姫には理解出来ない考えだ。

 

 善意なだけにこの手のは困る。

 

 

「成る程ねぇ。まあ、元から務めを果たせない落ちこぼれだったんだ。アンタの専属になった以上は互いの合意で何とかすれば良いとして……フレイヤの奴の方が私よりも褒め称えられるのも価値観の違いかい?」

 

 突如放たれる神威に眷属達は気圧されて息苦しそうにしているが、この程度の威圧感は散々受けて来た。

 闇の円卓の騎士にも元神がいたみたいだしな。

 

「まあ、各地でやってる広報活動の違いと、一般的な女神の慈愛に満ちたイメージに合致するから? 本神は結構疲れて見えたけれど……まあ、これ以上は無粋って物だから黙秘で」

 

 あっちがお姉さんって感じならこっちは姐御って感じだ。

 

「成る程ねぇ。少なくともそれがお前の感想か。良いよ、さっさと春姫の所に行ってやりな」

 

 俺の考えを聞いたイシュタルから書類をやや乱暴に投げ渡して来たのを受け取り、お言葉に甘えてその場から消える。

 

 何か疲れ切った顔をしていたが、神も色々あるんだな。

 

 

 

 

 

 

「……散々対抗してた相手への評価があれかい。何か疲れたから今日はもう寝るよ。アンタ達は仕事に戻りな」

 

「あの、ヒキガ……団長の解呪ですが一向に進まずに……」

 

「主神への敬意も無い奴だ。解けたら解く方向で良いよ。手間と金を掛けて解いて最終的に勝ったとして、ちょいと虚しくなりそうだ。評価する連中だって今まで思ってた通りに見る目が無い可能性が出たと考えれば……」

 

 

 

 

 

 娼婦としての仕事は終わり。いや、一応俺専属って事になっただけで終わりではないのか?

 まあ、俺は支払いを盾にして抱く気はないんだが。

 

 凄く綺麗だと思っているし、欲を向けない訳じゃないんだが、どうもなぁ。

 

「えっと、それでは実質的な身請けをこれで行えたと思って宜しいのですね?」

 

 ちょっと今週は会いに行くのが遅れたが、イシュタルとの約束の支払いが済んだ事を伝えたら目を潤ませ手を合わせて喜んでいた。

 今にも俺に抱き付きそうな勢いで寄って来て、流れた涙を拭おうとした手を取って頬を擦り寄せる姿を見れば頑張った甲斐があるってものか。

 

 

「あの、それで一体幾らをお支払いに……」

 

「聞くな聞くな。ちょっと魔法で報酬の良いクエストをこなしただけだからな。金額を聞くのは野暮ってもんだぜ。じゃないと俺に対して気負うだろ? それは面白くない」

 

「は、はい。春姫は何もお聞きしません」

 

 涙を浮かべて喜んでいた春姫は満面の笑みを浮かべ、俺は釣られて笑みを浮かべる。

 これで気軽に会いに来れるのは幸いだ。

 

「じゃあ、久々に英雄譚でも語ってくれるか? 一回聞いた奴でも良いから、膝枕でもしながらだと尚良い」

 

「ええ、勿論で御座いま…ひゃんっ!?」

 

 足をもつれさせたのか転びそうになった春姫を受け止めたが、咄嗟の事だったので胸に抱く形になってしまった。

 着物越しに押し当てられる胸の感触でこの前目にした胸を思い出せば恥ずかしいにも程がある。

 

 でも飛び退いたら可哀そうだしな。

 

 春姫は春姫でうっとりした顔で俺の胸に頬を擦り寄せて身を預けていて、変な色気を感じさせた。

 

 もうちょっとだけ見ていて良いよな? 

 

 

「ささっ。どうぞ春姫の膝をご堪能下さいませ。この身も心も既に旦那さ……ギルさまの物ですので」

 

「はっ!?」

 

 思わず見惚れて固まっている間に春姫はいそいそと準備をし始める。その場に座り、ちょっとだけ普段よりも生足を出して俺を誘う。

 ちょっとだけ大胆になったか?

 

 娼婦になった事とか金で体を売る事への苦悩も消え去ったみたいだし、今じゃ只の構成員の一人……所で身請けって何? 

 

「俺の物って、お前の全てはお前の物だろ? 俺の全ても俺の物だしな。……あー、そういやタケミカヅチ・ファミリアは顔馴染みなんだろ? どうするよ?」

 

「そうで御座いますね。それこそ祝言にお呼びして驚かせるのも素敵かも知れません」

 

 両頬に手を当ててキャアキャアと嬉しそうに照れて顔を左右に振る。祝言って確か結婚式だろ?

 膝枕や手を握るのが精一杯の俺達が結婚って進み過ぎじゃないだろうか。

 

 膝枕をされつつに指摘するのはそれこそ野暮って物なんだろうがな。何か春姫に女としての魅力が無いって言っているんじゃないかって思う。

 

 

「祝言とかは今はその時じゃねえし、主神だけは知ってたから無事を知らせるって方向で良いか?」

 

「はい。ギル様のお望みのままに。お慕いする殿方に救われ、実質的に愛妾の地位は確約されたもの。……贅沢が許されるのであれば今から純潔をお捧げしたいのですが、問題が有りますからね」

 

 鎖骨見たり胸見られたりしただけで気絶する奴と胸見た興奮で気絶する俺。

 そりゃ事に及ぶのは無理な話だ。

 

「で、ですがアイシャ様方先輩にお話を聞かされ、本で勉強もしておりますので……」

 

 体をモジモジさせて、既に羞恥心が臨界点に達しそうな春姫の姿に俺は何て言うのが正解なんだ?

 

 楽しみにしてる? いや、違うな。

 

 そんな気は無い? これも違う。

 

 

 

「じゃあ、俺がお前を抱きたくなる迄に頑張ってくれ」

 

 今は正直に保留して、未来の俺に丸投げするか。ヘタレ? 好きに言え。

 

 瞳を閉じて春姫が語る英雄譚に耳を傾ける。今日は趣向を変えて歌で語って貰うんだが矢張り歌は良い。今は準備が出来てないが実家で楽器の稽古は受けていたので極東の演奏を聞かしてくれるそうだ。

 

「ギル様は演奏の方は何か出来ますか?」

 

「ハープなら習っているぞ。実は趣味仲間とこっそり演奏している。……何故か家族にも楽器教えてくれた奴にも演奏は禁止されていたんだけれどな」

 

 今でも不満に思っている。演奏が好みじゃないからって禁止するかよ、普通。

 

「まあ、では今度ぜひ聞かせて下さいませ。私も先輩から琴か三味線をお借りしますので」

 

 その提案は素晴らしい。生み出された文化こそ違うものの楽器も歌も良いものだからな。

 俺は極東もこっちの大陸も今まで知らなかったから当然歌に対する知識はないが、基礎は学んでるんだ。

 音楽ってのは皆で楽しむ物だし、ハープで春姫が知っている歌を奏でての合奏とかやっても面白いかもな。

 

「取り敢えず神タケミカヅチに極東の歌を教えてもらうな。ハープで奏でられるかは俺の努力次第だが」

 

 予定は沢山あるが趣味の時間は何とか捻出出来るだろうさ。寧ろ難しい曲の方がやる気が出るもんだ。

 

「俺も頑張るからそっちも何かに挑戦してみたらどうだ?」

 

 ただの客と娼婦の関係でも無いし、この程度の提案は別に良いだろうとの言葉だったが、春姫は真剣に悩み始める。

 

「胸で……いえ、口は流石にまだ……。手、手で目を閉じながら……?」

 

 目標を切り替えながら口に出して行くんだが、その度にのぼせた顔に真っ赤な上に目を回したのかフラフラする始末。

 

 

「折角の祝いの日なんだ。気絶して終わりってのは勘弁してくれよ?」

 

「でで、では、次は共に湯浴みが出来るようにしたいです」

 

 駄目でしょうか、と不安そうな表情を向けてくるが俺に不満は無い。

 不満じゃなくって不安はあるが。

 

「鎖骨見ただけで気絶するんだぞ? 溺れたら危ねえだろ」

 

「湯浴み着もありますので、何とか……」

 

 本当に何とかなるのか、想像だけで限界を迎えそうな姿を見ていたら無理じゃないかって思えて来るんだよな。

 でも頑張るって言ってるのに無理だって否定するのも……。

 

 風呂は予約が必要だとかは分かるが、どうして風呂で着る服を置いてるんだろうか?

 普通に裸が見たいもんじゃねえの?

 

 

 

「その……。服を着たままが良い殿方も一定数いらっしゃいまして。特に神様方は衣装などにも拘って……」

 

「言いにくい事聞いて悪かったな、うん」

 

 特にアマゾネスにスク水を着せるのが好評? スク水って何? 

 

「別に演奏とかの練習でも良いんだぞ?」

 

「いえ、頑張ります! ですが、あの、可能でしたら頑張る為に応援が欲しゅう御座います。その、あの……頬に口付けを!」

 

 勇気を搾り出して勢い任せに言い切ったのが丸分かりだったが、それで頬へのキスか。

 

 キスとかした事ねえけれど。頬になら一時的に姉になった二人とかがふざけてして来た事あるけれど俺はした事無いんだけれどな。

 

 俺の返事待ちなのに既にキス待ちの姿勢で春姫は目を閉じて僅かに唇を突き出す。

 頬だよな? 頬にって言ったよな?

 

 これは言葉のあやで唇にするべき状況なのか、それとも違うのかマジで分からない。

 

「……分かった」

 

 場の空気か王女二人を何処か連想させる少女の放ついろけの影響なのか、俺は照れから保留にする事もなく頬へと唇を近付ける。

 胸の高鳴りが五月蠅い程に頭に響き渡り、頬が間近に迫った時点で目を強く閉じてしまった。

 

 これなら戦っていた方が遥かにマシだと思いながら唇が触れる瞬間、髪から漂う匂いに意識を奪われてやや前のめりに勢い付いて、咄嗟に腕を伸ばして布団に触れて体を支えるが目を開けてみれば至近距離に春姫の顔。

 

 真横から押し倒す形で彼女へと覆い被さり、突き出した両腕は顔の両脇に触れて逃げ出せない様にしていた。

 

「はわ、はわわわわわわっ!? こ、このまま夜の夢を……きゅう」

 

 これが例の気絶なのかと、前回は俺も気絶したから見れなかった春姫の姿に何とも言えない気分になって直ぐ横に転がるように仰向けになる。

 普段だったらさっさと帰るんだろうが、今日はちょっと精神的な疲労が溜まった上に春姫とあと少しだけ一緒に居たいと思えてならない。

 

 体が冷えないように二人揃って毛布を被り、布団の端に寄って睡魔に身を任せた。

 

 

 

 

「……姉貴? 痛っ!?」

 

 この日の夢には久々に姉貴が出て来たんだが、正座する俺に拳骨を叩き込んで、その衝撃で俺は目を覚ました。

 

 

 

 

「聞いて下さい、アイシャ様! 昨夜はギル様に接吻をお願い致しまして……」

 

「どうせ頬か額だろう?」

 

「え? 何故お分かりに!? ですが、その勢いで押し倒されて……きゃ!」

 

「はいはい、気絶はしたけれど添い寝してたとかだろ? その程度で頬染めるんじゃないよ」

 

 

 

 

 

 それは起きて当然の事であった。ベルとリリルカがダンジョン十一階層の進出を果たし、彼女のやさぐれていた心がベルの純粋さによって癒され始めていた頃、ギルの忠告を身を持って分からされる事になったのだ。

 

「見付けたぜ、糞餓鬼がぁ!」

 

「あの時の礼をさせてもらうぜ!」

 

 霧に紛れて二人を取り囲む冒険者達は怒りや憎悪を彼女に向けながら武器を構えていた。

 

 彼等はリリルカによる盗みの被害者であり、それだけの事をしようと決断させる程にサポーターの扱いが悪い者も居れば通常通りの者も居のだろうが、彼女にとって冒険者とは憎悪の対象。

 区別無く罠に嵌めて装備を奪う。ダンジョン内部で装備を失った者がどれ程に危険か分かっているにも関わらずだ。

 

 危険を冒してまで狙われる装備を持つに相応しい実力者なら助かっただろうが、不相応の物を持っていた者は違う。

 

「俺達を殺そうとしたんだ。その報いは受けてもらうからなぁ!」

 

 此処に集まったのは運悪く狙われ、運良く生き残った者達の中でギルドに訴えるには後ろ暗い物を持つ者達。

 故にベルに対して警告もせず、狙われるに値する何かを奪う気で居た。

 

 一人一人の実力は駆け出しながら急成長を続けるベルには及ばないが、数の利や経験の差が違う。

 剣などの近接武器だけでなく矢を持った者が居ないのは幸いだが、それは奪った物の配分を有利にする為に仲間を狙う者が出たら困るからだ。

 

 その様な発想が出る時点で互いに相手を出し抜く事を考えて動く烏合の衆なのだが、正しく絶対絶命の状況に対し、ベルはリリルカを庇う様にナイフを構えた。

 

「リリ、僕から離れ過ぎないで」

 

 この状況、そして事前に仕入れていた情報からベルはリリルカの狙いを何となく察し、それでも選んだのは囮にして逃げる事ではなく、自分を盾にして守る事だった。

 

「おいおい、其奴はあのソーマ・ファミリアの団員だぜ? 坊主を狙って近付いたって分からねえのか?」

 

「それでも大勢で襲う様な貴方達なんかにリリは渡せない! この子は僕のサポーター、仲間なんだ!」

 

「ベル様……」

 

 装備を捨てて消えれば見逃す、そんな嘘で騙す気でいた襲撃者達だったが、元より口封じは大切だ。

 武器を失っても死に物狂いで生き延びたのが自分達であり、だからベルが生き延びる可能性があるのなら此処で確実に殺す方が安全なのだ。

 

「……上等だ。ぶっ殺してやるよ!」

 

 だからベルの言葉は単なる挑発に過ぎない。だが、短絡的思考の荒くれ者だけが集まった烏合の衆には有効であった。

 

「死ねぇええっ!」

 

 最初に突っ込んだのは片刃の剣を頭上に振り上げた男。真正面から振り落とされた刃を斜め前に飛び出す事で避け、すれ違う瞬間に剣を握る指を切り裂いた。

 

 武器を持つ敵を相手にする時、腕を狙ってもモンスターの皮膚と肉は強靭だ。人間でも腕を装備で守っている場合が多い。

 なら精密な動きの為に装備も肉も薄い場所を狙えば良いと師から教わった。

 

 対人経験を想定したタケミカヅチの教えに従い、狙ったナイフは男の右手の指を深く切り裂き剣を取り落とさせる。

 そのまま痛みで指を押さえた事で無防備になった首筋に叩き込まれる柄頭の一撃で男の意識を刈り取った

 

 続けて左右から来た相手は片方を飛び越し様に背中を蹴り飛ばして正面衝突を引き起こす。

 

 武器が当たらずとも防具によって二人とも重量はそれなりであり、衝突による衝撃も強くなる。

 蹴り飛ばされた方がやや勢いが強く、上に覆い被さる様に倒れる込み、起き上がるより前にベルが背中へと飛び乗り踏み付けた。

 

「は……?」

 

 十も数えぬ内に三人がやられ、ベルを前に呆けた男の顎に強烈なアッパーを叩き込んだ。

 

「あっちだ! 女の方を狙え!」

 

「【ファイアボルト】!」

 

 それならば先にリリルカを狙い人質にすべく動き出せば、その足を炎が撃ち抜く。

 服の布地や防具の金属が熱せられ悲鳴を上げて転げ回る内にベルはリリルカの傍へと戻り、威嚇する様にナイフを持たない方の手を突き出した。

 

 この時点で雌雄は決したと判ずるに足りる状況ではあるが、元より殺して奪うという短絡的思考で行動した愚か者達だ、歳の離れた駆け出し相手に退くには余計な意地が許さない。

 

 一斉に襲い掛かれば、そんな風に考えたのか数人が一歩前に踏み出し、残りも慌ててそれに続く。

 烏合の衆のその場限りの連携など数の利を完全に殺すだけとは理解しない。

 その様な愚か者だからこそ今回の行動に出たのだが……。

 

 

 

 そう、これは愚かな者達による無駄な戦い、余計な消耗だ。人間同士の潰し合い、生きているとさえ言われるダンジョンはそれを見逃さない。

 好機とばかりに舌舐めずりをしながら牙を剥く。

 

 

「おい、様子がおかしくないか?」

 

 最初に気が付いたのは包囲網の一番外側に居た男。ベルの猛攻に怯んで攻めが一手も二手も遅れた彼は自分達の周囲で地面が急激に盛り上がるのを感じ取り、内側へと後退りした所で足が縺れて倒れ込む。

 

 起き上がろうとした彼の腕を地面から飛び出した小さな腕が掴んだ。振り払おうとするも腕が次々に地面から飛び出し彼を掴み、そのまま彼を囲む様にインプが現れる。

 

「ひっ……」

 

 男が悲鳴を漏らす暇も無く喉笛にインプ達が牙を突き立て、顔を赤く染めた後は次の獲物へと興味を移す。

 放置された彼は恩恵の影響か虫の息で生きながらえ、オーク達がその上を気にする事なく踏んで進んだ。

 

「お、おい、これって……」

 

怪物の宴(モンスターパーティー)……」

 

 視界を奪う深い霧も合わさり切れ目が見えない包囲網。たった二人を蹂躙すべく集まった破落戸達が逆に獲物として囲まれる状況へと一変した。

 

 遠くからは上層の階層主とも呼ばれるインファント・ドラゴンの咆哮も聞こえ、絶望がこの場の全員の心を支配する。

 

「ち、畜生! うわぁあああああっ!」

 

 狂騒状態に陥った一人が武器を出鱈目に振り回して包囲網を抜け出そうとすれば他の者も釣られて走り出し、僅かな距離を進んだ所で押し潰されて終わった。

 

 

「リリ! 荷物を捨てて!」

 

 その中で唯一冷静だったのはベルだ。恐怖で固まり、思考も停止していたリリルカを一声で我に返し、群れに突っ込んだ襲撃者達に密集した事で僅かに生まれた空白地帯を見定める。

 自らも余分な荷物を捨て、リリルカを肩に担ぐなり僅かな隙間に目掛けて駆け出した。

 

 

「【ファイアボルト】!」

 

 頭の中で残り回数を意識し、多少の被弾は無視して駆け抜ける。

 

「ベル様、リリが原因です! 一人で逃げてください!」

 

「嫌だ!」

 

 頬や脇腹を爪が切り裂いても足は決して止めず、ナイフと魔法を切り替えて駆け抜け続けた先に待っていたのはインファントドラゴンだ。

 その巨体で上の階層に向かう為の通路の前を塞ぎ、ここから先は通す気がないとばかりに唸る。

 

「無理に勝つ必要は無い。使える物は全部使って生き残るんだ」

 

 先ずは目眩ましに顔面に向かって放つファイアボルト。ダメージは軽くとも閃光と着弾時の音は竜の五感の一部を一瞬だけ奪い、その頭上を放り投げられたリリルカが通り過ぎて上への通路へと向かって行く。

 

 これで両手が空いたベルだが、背後からもモンスターの群れが迫り、インファントドラゴンも挑発に乗って怒り狂いながら動き出す。

 

 

 

「行くぞぉおおおおおおおっ!」

 

 頬を汗が伝うも恐怖が足の動きを止めたのは一瞬。直ぐにベルは生き残るべく駆け出して、リリルカが居る方角から人影が飛び出した。

 

 

 

 

 

「雑魚が偉そうに吠えるんじゃねぇよ。だが、女だけ先に逃がしたのは誉めてやるぜ、トマト野郎」

 

 現れたのはロキ・ファミリア最速の男ベート・ローガ。第一級冒険者の力を使い、ベルが決死の覚悟で挑もうとした相手でさえも虫を払うように蹂躙した。

 

 

 

 

「凄い……」

 

 本来彼が発現させたスキルは一途に相手を想う事によるスキル。だが、このベルは恋心ではなく純粋な憧憬を二人に向けた事で似たスキルに目覚め、憧れ故にその対象は増え続ける。

 只人同然でありながら技で上級冒険者とも渡り合えるタケミカヅチの技量に憧れ、回復魔法で大勢を助けているギルにも尊敬の念を送り、今度はベートの狂暴なまでの力に憧れを抱く。

 

 一人一人への憧れの力は一途な物には遠く及ばないが、憧憬の対象が増えた事で彼の成長はまた加速するのであった。

 

 

 

 

 




ロキ・ファミリアルート 終わり 殆どリューさんルート

「あの浮気者め!」

リュー・リオンは激怒した。必ず、自分の純潔を奪った男に物申さねばならぬと決意した。リューには普通の恋愛がわからぬ。リューはエルフにもドン引きされる恋愛観の持ち主である。誰も居ない森に出かけ、殆ど無理矢理月明かりの下で愛を誓わせた。けれども純潔に反する事に対しては、人一倍に敏感であった。


「昨日も他の女に密着されながら買い物をしていたそうじゃないですか!」


「いや、普通にファミリアの子達と出掛けただけでしょ? ティオナはアマゾネスなんだし、距離感なんてそんな物でしょうに」

「夜這いエロフは頭が固いよね」

「夜這いエロフと呼ぶなぁああああっ!」

 あの日、酒に酔った勢いで寝込みを襲って既成事実を作った事は純潔と潔癖を一緒にするリューには耐えられない物だった。
 仲間はそれを苦笑いか爆笑かの反応を示し、あだ名は夜這いエロフになった。


 再び膨れ上がる羞恥心に耐えられずホームを飛び出そうとした所でリューの前にギルが現れる。
 メレンでの睡姦の後にホームまで送り届けて以来顔を合わせない様にしていた恋人との再会にリューは一瞬で石化した。

「おっ、久しぶりだな。最近会ってくれなくって寂しかったぜ。デートしようせ、デート。ヴィーヴルの涙が手に入ったからアクセサリーに加工してもらいたいんだが、何が欲しい?」

「指……いえ、少し考えさせて下さい」

 そのまま差し出された手を取り二人で歩き出す。ファミリアの仲間は当然尾行を始めた。


 尚、その尾行は通り雨に慌てた事で二人を見失う事になり、リューが戻ったのは深夜であった。匂いに敏感なネーゼが酒の匂いに混じった別の匂いに何かを察したらしい
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