英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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「あはははははは! 【穿て……】」

 

「はい、駄目」

 

 ダンジョン上層部、正規ルートからは大きく外れた場所にレフィーヤの笑い声が響き渡り、続いて急激に高まった魔力が詠唱によって魔法へと昇華される寸前、ティオネのデコピンの音が響くと同時に魔力は霧散した。

 

「あぅうう……」

 

「五発撃ったらスキル解除して一分インターバル挟めって団長から言われたでしょ」

 

 ぺチッ、ではなく、バチン! 高ランクの力を持つ第一級冒険者の容赦の無い一撃はデコピンであっても、理性を失い掛けていた少女の華奢な肉体を地面から離れさすには十分な威力。

 スキルと詠唱を中断させられたレフィーヤは真っ赤になった額を擦りながら涙目になっていた。

 

 魔法に関する能力や技術の代償に失われていく理性。狂化を引き起こす魔法ならばフィンも持っているのだが、団長である彼が付きっきりで教鞭を振るう訳にも行かず、更に付け加えるならさせてなるものかとティオネが制御訓練の協力を申し出たのだ。

 

 既に壁や地面には魔法によって開けられた穴が無数に存在し、ランクアップする前なら既に精神力枯渇を起こしている規模であり、高まった魔力からして魔力暴発を防げていなかった筈だ。

 発展系アビリティで『精癒』を発現させた事もあるが、咄嗟に暴発しそうな魔力をコントロールしたのは間違い無く彼女の成長によるものなのだろう。

 

「あの、もう一度……」

 

「ランクアップして強いスキルが出たから遠征に向けて気合いが入るのも分かるけれど落ち着きなさい。昨日だって急に精神力使いきって倒れたんだから。ティオナもアイズに負けてたまるかって気合いが入っちゃってるし、あたしも負けてられないわね」

 

「はいぃ~」

 

「ほら、一旦休憩休憩。終わったら杖術の訓練に付き合ってあげるから」

 

 ロキ・ファミリアの遠征まで既に一週間を切っている。他の団員も気合いを入れてダンジョンに潜り続け、前回の遠征で果たせなかった到達階層の更新を成し遂げてみせようと張り切っているのだ。

 

 

 

 

「それにしてもアイズったら毎朝何処に出掛けてるのやら。レフィーヤ、何か知ってる?」

 

「い、いえっ!? ししし、知りませんっ!? 私、アイズさんが二人っきりで何をしているとか絶対に知りませんから!?」

 

 アイズは幹部だ、その戦闘技術はファミリアに受け継がれて来た物、それを他ファミリアの団員に教授するのは問題行動である。

 レフィーヤも無関係な立場で知ったならば止めようとするのだろうが、朝の特訓をする経緯が自分とアイズの特訓の為であり、軽いトラウマになりつつも二人揃ってランクアップしているのだから何も言えない。

 

 故の知らんぷりだが、ポンコツなので何か知っているのはバレバレだし、誰かと一緒に行動している事まで口走った。

 これにはアイズも心の中でポンコツエルフと呟きかねなかった。

 

 

「誰かと一緒……ははーん、そういう事ね。なんだ、アイズったら大胆なんだから。レフィーヤにも好きになるとか言っておいて自分は毎朝の密会とか。うんうん、あの子がねぇ」

 

「ち、違いますよ! アイズさんとはそんな関係じゃありません!」

 

 この時、二人の間に盛大なすれ違いが起こっていた。剣鬼とさえ囁かれた少女に芽生えた初恋(勘違い)に喜び、その相手の所に足繁く通っているのだと。

 

 実際は恩人から頼まれ、自分に憧れる少年が兎みたいに思ったので楽しんで訓練を授けているのだが。

 

 腕組みをして感慨深そうに頷くティオネの姿にレフィーヤは慌てて否定の言葉を入れるのだが、勘違いの内容が更なる勘違いに結び付いた。

 

「ふぅーん。レフィーヤもギルの事が気になるの?」

 

「えぇっ!? 何であの人の名前が出るんですか!? まさか……」

 

 ベルゼーヴァの正体がギルだと気が付いたのでは、そんな危機感がレフィーヤを焦らせ、まるで肯定しているかの様にしか見えない。

 

「ふんふん。成る程ねぇ。レフィーヤったらアイズの事を心配してるんだ」

 

「うっ!? 何で分かって……い、いえ、違います!」

 

 アイズの意中の相手だから遠慮している、と、アイズが正体を知ったらうっかり漏らしてしまうんじゃ、という互いに頭の中の事は不一致なのに成立する会話。

 

 もしアイズがギルと接近して隠し事を知ってしまった場合、困る事になる。

 そんな考えは一歳ティオネには伝わらないし、逆も然りだ。

 

「……それで実際の所、どう思っているの?」

 

「ど、どうって……」

 

 このまま話を切り上げるべく誤魔化そうとするも嘘が苦手なせいで余計に誤解は深まるばかり。

 そして恋愛について無頓着そうだった仲間二人、互いに気になる相手が同じというのは気になるが実際は勘違い。

 

 休憩時間のお喋りの内容としては最適だと話を掘り進めれば、生真面目で嘘が苦手なレフィーヤに上手く誤魔化せる筈も無かった。

 

「少し口が悪いですが親切で気遣いの出来る方……でしょうか」

 

「(異性としての)好意は否定しないって訳ね?」

 

「(人間としての好意は)否定しません。それに出来ればまた(アイズさんと)一緒に過ごしたい(修行的な意味で)と思っています」

 

「だ、大胆ね……。それで向こうはどう思っていそう?」

 

 互いにすれ違っている部分を省略しての掛け合いは勘違いを正す材料になる事なく交わされる。

 何故なら互いに会話が成立してしまっているから。

 

 奥手で恋愛とは無関係だった少女の。実際に恋愛とは無関係な敬意や恩義からの言葉に熱烈な恋愛(一方通行)真っ最中のアマゾネスでさえ気圧された。

 

 恋を知ったら此処迄変わるのかと、戦慄さえさせられたのだ。

 

 

「多分アイズさん共々知り合いに毛が生えた程度ではないかと」

 

「……あー、うん。アミッドとの仲は噂になっているしね。レフィーヤはそれで良いの?」

 

「ええ、大丈夫です。あの人と誰が恋仲かなんて私の想いには無関係ですから」

 

 その程度の相手にさえ熱心に付き合ってくれたのだと頭の中で好意的に捉えるレフィーヤだが、側から聞いてみるとどの様に解釈されるだろうか。

 

 これ以上は追及するまいと言葉を飲み込み、元気溌剌に答える少女の恋愛の前途多難さに憐れみさえ覚える。

 勘違いだし、自分も異性としては相手にされているのかと問われれば、なのだが。

 

 

「多分アイズさんも同じでしょうね」

 

「それ、絶対にロキには内緒にしなさいよ? 絶対ややこしい事になるから」

 

 互いに思い合っていても、反対するだろうが、相手にされないならされないで、何が不満だ、と怒り出す主神の姿が鮮明に浮かぶティオネ。

 

 当然、レフィーヤも彼の正体発覚や秘密の特訓に繋がるので異論は無い。何か秘密を知っている風に聞こえるものの、慌てていた彼女が疑問に思う事も無い。

 

「当然です。あっ、そろそろ杖術の訓練お願いします!」

 

 

 もし会話の途中に大きな違和感を覚えられれば勘違いは即座に解消されたのだろうが、奇跡的に噛み合った会話は互いの認識を大きく食い違えさせ、それぞれ別の理由から今後の言及も控えさせられる。

 

 つまり勘違いは複雑化したまま続くのだ。凄く大変である。

 

 

 

「そう。じゃあ掛かって来なさい! 遠征までに力と耐久と器用の評価を一つ上げる位の気合いで来なさいよね!」

 

「はい!」

 

 こうして勘違いは勘違いのまま会話は途切れ、ロキには伝えられないもののアイズの保護者である三首脳にはちゃんと伝達がされる事になる。

 尚、デリケートな問題なので本人二人には詳しく聞けず、十八階層のあれこれに加えてフィン達の胃に追加のダメージを与える事になった。

 

 

 

 

 

「困ったのぅ。儂は女より酒じゃし、フィンは野望の為にその手の話には疎く、リヴェリアは百歳近いリヴェリアじゃし」

 

「おい、ガレス。私の名前を何の代名詞にした? 怒るから言ってみろ。行き遅れか? 行き遅れの代名詞に使ったか?」

 

 

 三首脳が揃った会議室に立ち込める剣呑な空気にフィンが巻き込まれては大変だと数歩下がった時だった。未だ昼間だというのに窓の外から日の光を飲み込む様な強い光が差し込んだ。

 口喧嘩を止めた二人も窓の外に黙って視線を向ける理由、それは暗黒期に何度も目にした物故に。

 

 

 

「神の送還じゃと!? それも……」

 

「ああ、反れも、二柱の神が同時にとは一体何が起きたというのだ……」 

 

 街中で空に向かって立ち昇る光の柱。それは神が二度と地上に舞い降りる事が無い天界への帰還の証。それが二つ、市勢の人々が行き交う街の一角にて発生したのだ。

 

 神の力を使ったか、それとも不死ならざる身の者ならば命果てる状況に陥ったか。今この場所では答えを出す為の手掛かりとなる物は手に入らない。

 

 遠征を数日後に控えた大事な時期に立て続けに起きた出来事の数々に、神が地上に降りて来た今の時代であっても神に祈りたくもなるフィンであった。

 

 

「これはちょっと不味いかもね……」

 

 十八階層の未発見領域に関しては一部だけにしか知られていない。遠征前に動揺が広まればダンジョンは好機であるとして牙を剥くだろう。

 だが、流石に今回の事は知らぬ存ぜぬ無関係とは行きはしない。

 

 神が名だけしか知らない者であったならば送還の理由如何は別として良いのだろうが、もし関わりが深い神であったならば準備に手間と金を掛けた遠征その物を延期せざるをえないのだ。

 

 ロキ・ファミリアが栄光を掴む為の道中に厚く大きい暗雲が立ち込めようとしていた……。

 

 

 

 

 

 

「ギルさんは神様と人間の恋愛をどう思いますか?」

 

 フェルムさんとシルがメレンへとオラリオを抜け出して向かう日の前日、日帰り旅行の準備を手伝って欲しいと頼まれた俺は突然そんな質問をされた。

 

 あくまでも普通の街娘が何となく聞いたに過ぎない程度、お茶を飲みながら交わす程度の他愛ない内容だ。神と人間の間に恋心が芽生える事もたまにあるらしいから行き交う間に聞いたとしても変に思われる事は無いだろう。

 

「片方だけが老いる事を受け入れるだけの絆があれば良いんじゃね? こっちの大陸のエルフだって若い時間が長いんだし、子供を作るのが一緒になる目的なんて人以外の生き物か政略結婚程度だからな」

 

「そうですか。貴方はそんな風に感じるんですね」

 

「ちょいと前にベルとも似た感じの話題になった時、人間は神を置き去りにして傷付ける、って神と人の恋に否定的だったんだが……まあ、憎しみも愛情も向けた相手が死んだとしても続くものだろう?」

 

 だから後悔も残り続けるんだがな……。復讐なんて最たるものだろ?

 

 それに寿命云々は余命僅かな奴とは恋しちゃ駄目なのかってにもなるし、それでも一緒になりたい間柄なら永遠に近い命を持つ神の心に残り続けるんだろう、と俺は伝えてカップの紅茶を飲み干す。

 

「ただ、敢えて名称の使用は避けるんだが、“私はあの人だった”と“あの人は私だった”じゃ全く違うからな?」

 

 あー、やだやだ。遠くから感じる視線が鋭くなったよ。求められたから意見を言った迄だってのに。

 これでお茶を濁す感じだったらそれはそれでキレるんだろう?

 

「何の話かは分かりませんが、何方が大切かって事ですね? うふふふ、ギルさんは遠くの生まれのせいか他の人とは考え方が違って面白いです。フェルムも相手が何かと友達かどうかは別だって言っていましたし」

 

「アンタ、本当に楽しそうだな……」

 

「ええ、オラリオでの毎日は楽しい事ばかりですよ」

 

 多分本心なんだろう。塔の上から市内を見回す女神様は如何にも女神様、皆さんの理想の姿で御座いますって感じだし、在るべき姿を求められるってのは大変そうだ。

 

 

「チッ!」

 

 遠くから聞こえた舌打ちの音の元は行き交う……行き交っていた人混みの向こう側。

 アマゾネスを引き連れたイシュタルの姿が其処にあった。

 

 叩き付ける様な強烈な色気は何処ぞの女神の包み込む様な色気とは別ジャンル、どっちが万人受けするかって問われれば……。

 

 一瞬だけこっちを睨み、何処か気落ちか気疲れした様子にアマゾネス達は戸惑うも歓楽街へと戻って行く主神の後を慌てた様子で追って行く。

 

「行ったな。何か言って来ると思ったんだが……」

 

「もしかしてお気に入りの遊女さんに私とのお出掛けを知られたら不味いとかですか?」

 

「……分かって言ってるんだろ。まあ、一般人のアンタには歓楽街の支配者なんて無関係か」

 

「ええ、その通りですよ。変な事を言わないで下さい」

 

 怒っちゃいますよ、と拗ねた表情を見せるシルに俺は呆れて何も言わない。

 小悪魔ってのはこんな奴の事なんだろうなって思いつつ、視線の主がエルフのヘディンな事で少し気になっていた事を訊く事にしてみた。

 

 

 

「この前、ちょっと精霊らしい相手に呪われてるエルフと出会ってさ。本人が気が付いてるのか知らないが、失礼にならない探り方って知らないか?」

 

「……その呪い、ギルさんにはどうにか出来ないのですか?」

 

「何処ぞの救世主様なら可能だろうさ。何処に居るのか分からねえのかが問題だがな」

 

 エルフにとって精霊って重要な存在なんだろ? それに呪われてるって、自覚の有無に関わらず指摘するのはちょっとな……。

 

 シルも少し迷った様子で考え、俺の後ろの遥か先に視線を移す。敢えて振り返らないが、シルの様子からしてヘディンの反応も芳しく無いって感じか?

 

「呪いっつったらソーマ・ファミリアの酒狂いもそんな感じだよな。実際にそうと知ってから遭遇したから分かるが、毒と呪いの合わせ技って所だ」

 

 団長が偶然作り出したヤバいポーションも都合の良い願望の夢を見せるって代物だったが、あの酒は不味いだろ、絶対。

 正気を失わせる程に強い酒を飲ませて何がしたかったんだか。

 

「そういやデメテル様の所でも……」

 

 あの酒の毒と呪いに似た感じの力を感じたし、野菜貰う約束のついでに解呪しておいたが、ちょっと動揺していた辺り、多分酔っぱらって我を忘れているって感じだったんだな。

 

 今思えば黙ってコッソリ呪いを解くんじゃなくって事情を説明すれば嘘かどうかは分かるんだから、アミッドに任せても解決しただろうに早計だったか?

 

 酔いが醒めた後の後始末とか、覚悟決めずに急に突き付けられた訳だし……。

 

「ギルさん、デメテル様に対しては様付けなんですね」

 

「家が畑やってるんでね。豊穣神は他にも居るんだろうが今は畑関係無いのとかだし」

 

 フレイヤも豊穣神? 知らないったら知らない。

 

 

 

 

「あの、それでベルさんの好みを知っていると聞いたのですが……」

 

「後ろの方で様子見ているエルフが大抵当てはまるらしいぞ。金髪長髪でエルフが理想のタイプだそうだ。ほら、性別以外は凄く一致しているだろう?」

 

「うーん。性別が違う時点で駄目なのではないでしょうか?」

 

「そーだな。でも、嘘は言ってねえぞ。ベルにそっちの気が無ければ……無いよな? ヘスティアの奴、最近じゃ同じベッドで寝ようって誘っても断られるって言ってたし。……あれ?」

 

「多分大丈夫ですよ、きっと、多分、恐らく、もしかして、辛うじて……。ヘディンさんが恋敵になるなんてそんな事…は……」

 

 シルの言葉は途中で止まる。視線の先から眩しい程に強烈な光源が発生していた。

 

 

 

 

 

 

「あれは神の送還の光ですよ。でも、一体誰が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




カーリーのところに転移ルート

「おうおう、派手にやられたな」

 あの国に送られて暫く、俺は帰る方法を探しつつも国を出た姉妹の世話をしながら旅を続けていた。
 故郷を出た時の俺と重なったって言ったら随分過酷な暮らしだった二人に怒られそうだがな。

 あくまで保護者だってんで二人と違って恩恵は貰わず、飯の支度だの文字を覚えて帳簿付けの手伝いとかを行って、訪れたのはオラリオって巨大な都市だった。

 其処で起きたのは二回のランクアップを果たした二人への勧誘合戦。受ける条件に二人が提示したのは自分達を倒す事。
 俺も二人を鍛えてたが、ロキって神の所の連中には勝てずに骨を数本持って行くも負けちゃった。

「【キュアス】」

 取り敢えず怪我は治したし、二人の居場所も決まったしで……。

「じゃっ、頑張れよ」

「え? ギルは来ないの?」

「一緒に入団しましょうよ」

 数年の付き合いの妹分達に誘われれば心が動きそうだが、グッと堪える。ぶっちゃけ俺に絡んでくるだろうシャリが心配だしな。

「どうせオラリオに居るんだ。会おうと思えば会えるだろ」

 さてと、仕事探すとするか……。





「彼奴、恩恵無しやなかったんか?」

「そうだけれど?」

「ギルは魔法を恩恵無しに使えるんだって」
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