思い出した、思い出してしまった。本当の自分を、私を変えた相手を。愛する眷属達、私の愛する家族。
ずっと一緒に居て、子供達の子供達の更にその次の……そんな風に願っていたのに。
悔いはある。迷いもある。どうやって私が私に戻れたのかは分からないけれど、それを悟られる前に動かないといけない。
正気に戻してくれた誰かが居るのは分かっている。これが千載一遇の好機であるのも。
神威を解放してまで一刻も早く辿り着きたいのを堪え、あくまでも今まで通りの何も覚えていない私としてオラリオの中を歩けば目当ての相手に遭遇した。
遠目に見えたその背中、今日は何時もの子は近くに居ないらしい。街中で他所の子を口説く姿を見ていたら私が知っている地上での彼と変わらなく見えたけれど。
「ディオニソス、ちょっと良いかしら?」
「おや? 今日はどうしたんだい、デメテル?」
「ちょっと貴方に用事があるのよ……
笑顔のまま、最後の言葉の前に解放した力でディオニュソスの肉体に致命的な一撃を与える。
これで私も彼も地上には居られない。でも、これで良いの。
お別れの言葉は手紙に残して来たもの。また私が操られても、ディオニソスも更に誰かに操られていたのだとしても、手駒を一度に失うのなら黒幕の企みを大きく挫けるでしょう?
ああ、でもファミリア結成の記念日のお祝いが近かったのは惜しかったわね……。
「私を正気に戻してくれた何処かの誰かさん、そしてロキ・ファミリア皆、多分未だ敵は残っているでしょうけれど後は任せたわ」
こうして私は天界へと戻って行った。もう地上には干渉出来ないし、神がするのも妙な話だけれど、オラリオの勝利を祈っているわね……。
「まさかデメテルがな……」
デメテル様とディオニソスの同時送還、街中で起きた大きな事件はそれだけでは終わらなかった。
本来、主神が送還されればステイタスは封印状態に陥る。だが、ディオニソスの眷属達のステイタスは封印なんてされておらず、ダイダロス通りの老婆神が何時の間にか主神になっていた。
……此処迄が表から入って来る情報。事態はもう少し深刻で、フィルヴィスが失踪を遂げた他、デメテル様の残した手紙にはディオニソスに操られていた旨が記されており、オラリオ崩壊の為に動いていたというのだ。
フレイヤ・ファミリアから貰った情報だが、本当にややこしい。
「なあ、俺はもう少し慎重に動くべきだったか?」
「さてな。私が相談されていたとしても直ぐに解けと助言したであろうし、本当にディオニソスが黒幕であったならばデメテルが迅速に行動に移せたのは幸いだったのだろう」
ミアハにだけはデメテル様の呪いを解いた事を話したが、こんな結末を知ってからだと、最適だったのか他にもっと良い結末へ導く選択肢はなかったのか、そんな疑問が浮かび続ける。
「そもそもだ。人の子が神の選択を気にしていても疲れるだけだ。お主は良くやったのだと誇って良いと私が断言しよう」
「そっか。……フィルヴィスは気になるんだがな」
彼奴の肉体を蝕む精霊の呪い、それがステイタスを失った事でどう影響を変えるのか。
それが気になって仕方が無かった。
「そういえば聞いたか? この様な事態に陥ったからこそロキの子供達は遠征を行うそうだ。自らの活躍によって暗くなった空気を吹き飛ばそうとしているらしい」
「そうか……」
生憎、遠征に出発する日はシルとフェルムさん、それにお付きとして
情報料だそうだ、ちゃんと報酬は出るけれどな。
「さてと、たられば言っていても事態は変わらないし、張り切って役目を果たすとするか」
ディオニソスの帰還が敵にどんな影響を与えるのかは分からないが、俺は自分のやるべき事をやるだけだ。
ずっとそうして来たからな。
姉貴と一緒の時は所々で待ったを掛けつつも行動の指針は任せていたけれど、自分で考えて行動するのは難しいもんだ。
「なんだ。考える事は何処も同じって訳だな。【イクスキュアス】」
フレイヤ・ファミリアのホーム『戦いの野』。広大な敷地内では毎日の様に眷属間での殺し合いに近い訓練が行われているとの事だ。
「その程度でフレイヤ様のご寵愛を求めるか、愚か者共め!」
幹部未満の連中に降り注ぐ雷の矢、直ぐに地面は血に塗れた団員で覆われて、即座に全回復する事で戦闘を秒で再開させる。
現在、L v.6のヘディンvs幹部未満の構成員。それでも圧倒しているのはヘディンで、近付く事すら許されない。
そんな光景を全体が見渡せる少し高い場所から眺め、死にそうな奴に回復魔法を使用する。
【アブソーブ】が使えたら適当な奴から精神力吸い取るってのに。そのせいでアミッドに頼んで大量に仕入れた薬を飲むが、甘い飲み物ばかり飲み続けて塩気のある物が食いたくなって来た。
「ど、何処も同じって他で見た…の……?」
「恩恵貰って数日のベルを十一階層に連れて行って、少し弱らせたオークやインプの相手をさせた。一晩中な」
「フ、フフ、陽の光が大地を満たさぬ限り続く地獄の饗宴か。……うわぁ」
見張りなのか俺の横でヘグニが立っているんだが、こんな訓練を毎日やっている所の幹部がドン引きしてるんじゃねえよ。オークより強いのは幾らでもいるだろうが。
「……未だ迷ってるんだな」
回復役のトップをお付きにして出掛けた穴埋めだと聞かされちゃいるが、恐らくは俺の足止めが目的だろう。
よくある話だ。冒険者として名を上げようってんなら厄介事は幾らでもやって来るもんだ。
まあ、協力出来る事はやったし、後は本人の頑張り次第って事だ。
にしても人間に試練を与えようとか、思いっきり神としての視線からくる所業じゃねえか。
そう簡単に今までを捨てられる訳が無いって事だろうがな。
「なあ、もし忠義を誓う相手の望みが自分の理想の中のその人と違ったらどうする? 失望か? 理想を押し付けるか? それとも相手の願いを尊重するか?」
ヘグニは押し黙って答えず、ヘディンも聞こえたのか一発だけ雷の矢が飛んで来たので指先で振り払う。前からなのか、それとも出会いがあった最近なのかは分からねえが、何となく気が付いてるんだな、この二人は。
他のがどうかは分からねえけれど……。
「リリ、止まって……」
「ベル様……?」
先日の大量発生から少し警戒を強めて進むダンジョンの十一階層。普段とは違う何かを感じた僕はリリの動きを手で制し、人差し指を唇に当てて静かにさせる。
普段も広く見通しが悪い上に静かな場所だけれど、猛烈に嫌な予感がする。
この前みたいに襲撃者が待ち伏せしているのとは何かが違う。これは寧ろ……。
体に一瞬走る震えが思い出させるのは出会いがあった日の恐怖。ミノタウロスが中層から上がって来た時の妙な静寂さだ。
一旦撤退も視野に入れようか? 冒険者は冒険するべからず、矛盾する様で大切なその事を教えてくれたエイナさんの事を思い出し、逡巡する事数秒、一旦の避難を行おうとした僕の視界の端に白い物が入り込んだ。
細い木の陰から覗くのは白く長い二本の耳、此方を見るのはつぶらな瞳。
「兎? いや、違う。あれはアルミラージ!?」
思わず大きな声が出たのと次々に大きな二足歩行の兎が姿を見せたのはほぼ同時。
1、2、3、4……八羽っ!?
アルミラージもウサギと同じ数え方で良いのかって余計な思考は切り捨てて武器を構える。見た目は可愛いけれど中層から出現するモンスター、それも群れで相手を襲う厄介な相手だって習っている。
まさかこんな数で上がって来るだなんて、誰かに追われて逃げ出した?
「落ち着け。此処にはアルミラージの武器になる物は無い。アルミラージ自体はそこまで強くはないし一羽……一匹ずつ確実に仕留め…れば……」
言葉が途切れそうになる程に唖然となる光景。アルミラージは岩を武器に変えて来るとは習ったけれど、目の前の八匹が持っているのは金属製、それも小人用なのか小振りでアルミラージでも容易に扱えそうな物ばかりだ。
「何がどうなって……いや、別に変わらない。倒すだけだ!」
剣に斧に槍に鎚、武器の種類はバラバラだけれども、元々僕は軽装で足の速さを鈍らせない戦い方だ。
だから武器が石製だろうと金属製だろうと関係無い。
「先ずは……」
タケミカヅチ様曰く大勢で一人を囲んでも一度に攻撃に移れる数には限りがあるらしい。
だから他の仲間の後ろからも攻撃を仕掛けられる槍を持っている奴を倒して、拾われない様に槍は即座に遠くに蹴り飛ばせば……。
「リリ、矢での牽制をお願い出来るかな? それと極力守るけれど、抜かれた時には魔剣を……」
「りょ、了解しました!」
大丈夫、成長期もあってかステイタスはオールSSを超えている。リリに運んでもらえるからって帰りには入り口付近で精神力が枯渇するまで魔法の訓練を続けたんだ。
「来い!」
僕に目掛けて僅かにタイミングをずらして向かって来るアルミラージに桜花達が見せてくれた連携を思い出して違和感を覚えるけれど、今は気にしない、警戒を強めるだけだ。
身動きが出来ない宙に跳んだアルミラージの真下を転がり込む様に通り過ぎ、同じく地面を滑る様に向かって来る槍を持った相手にナイフを構える。
突き出された槍をナイフの刃の上を滑らせて受け流し、真横から向かって来た斧持ちは一瞬だけ視線を向けて片手を向けて足音に耳を澄ませた。
タッ、タッ、タッ、トン!
地面を掛け、攻撃に転じる瞬間に飛び跳ねる音が耳に届いた。
「【ファイアボルト】!」
真っ直ぐ飛ぶんだから相手を見ずに当てられる様にしろ、訓練をしてくれる三人が共通して口にした助言だ。
そして炎の閃光に間近に居た槍使いが一瞬だけ目を眩ませ、転がった時に口に含ませていた小石を目に向かって吹き掛ける。
当たらなくて良い、眩んだ目が回復した瞬間に向かって来た石に反応してくれれば……。
「たぁ!」
どれだけ神様がくれたナイフが強くたってモンスターの革と肉は断ち難い。
突き刺したとしても僅かな引っ掛かりから生じた隙が致命的な一秒を生み出してしまうんだ。
だから狙うのは肉の薄い場所、モンスターは普通の生き物と違うんだろうけれど、生き物の姿をしている以上は構造に大きな違いは無いってギルが言っていて、生物が動く上で邪魔にならない様に他よりも柔くなりやすい場所はミアハ様から聞いているんだ。
「核である魔石を狙う必要は無い。倒せば良いんだ」
槍使いに突き刺したナイフを引き抜きながら自分に意識させる様に呟き、同時に振り向きながらナイフを振るう。
狙うのは背後から僕を狙った鎚の側面。武器じゃなく、その場所を力点にして僕自身を横に弾き出す。
「【ファイアボルト】!」
僕の正面を通り過ぎる寸前に至近距離から放った魔法は無防備な真横から直撃して斧使いを吹き飛ばす。
「わわわっ!?」
背後からは矢が地面に刺さる音とリリの慌てる音が聞こえ、着地すると同時にそっちに向かって石を投げ付ければ矢を躱しながらリリに向かっていたアルミラージ達の視線が僕に向かい、その内の一匹の足にリリの矢が刺さった。
「貫通しない!? それに……ベル様、こっちの四匹は強化種です!」
「強化種!? ごめん、見誤った」
大勢を相手にする時には弱い奴、弱った奴を先に倒すのが基本だと教わったから無意識に後回しにしていたけれど、残った五匹の内、四匹は少し体が大きい。
他のモンスターの魔石の味を覚えた強化種が徒党を組んでるなんて……。
「はぁ…はぁ……」
落ち着け、息を乱すな。慌てても怯えても目の前の現実は変わってなんてくれない。泣き叫んだら親が来てくれる赤ん坊とは違うんだ。
何で冒険者が冒険したら駄目かって、こんなイレギュラーがあるからじゃないか!
「大丈夫、やる事は変わらない」
完全に貫けなくたって矢が刺さるし、それならナイフも通る。足に矢が刺さった以上、もう片方を切り裂いたら放置したって良い。幸いな事に先に狙うはずだった槍を持った奴だ。
「勝てるかどうかじゃない。勝たなきゃいけないでもない。タケミカヅチ様に、リューさんに、アイズさんに、ギルに強くしてもらった僕なら勝てるんだ!」
虚勢でも良い、恐怖に飲まれるな。負けのイメージが過る余地が無い程に自分を奮い立たせろ。
斧を弾き、剣を避けて、鎚を受け流して槍を避ける。呼吸すらない落ち着いてする暇も無く襲い掛かるアルミラージの絶え間ない連携攻撃には群れで動く本能とは違う技があった。
だから……勝てる!
タケミカヅチ様に教わっているからこそ理解したアルミラージ達が確か技を持っているという事実。
誰かが何かの目的で鍛えた? それが逃げ出した? それは分からないけれど、その人が戦士としては一流だけれど調教師としては別なのは分かる。
モンスターとしての本能から来る連携、知性を持つ人が磨き上げた技による連携、それが噛み合わず微妙にズレを生んでいたんだ。
振り下ろした剣を持つ手を掴んでナイフを腹に突き刺し、そのまま突き出された槍を突き出したアルミラージに突き出して盾にする。
魔石が砕かれて灰になった身体は突き出した勢いのまま槍を手にしたアルミラージの顔面に被さり、宙を舞う灰を掴み取りながら腹に拳を叩き込んで殴り飛ばした。
「ベル様、後ろ!」
回転によって空気を切り裂きながら向かって来る斧に咄嗟に反応した僕は身を屈めて避け、鎚使いのアルミラージに掴んだ灰を投げて目を潰した瞬間に魔法を至近距離で放つ。
槍は倒せていないけれどダメージは大きく片脚も潰してある。残ったのは通常種と強化種の二匹、片方は武器を手放している。
連携攻撃を防ぎきれずに身体中傷だらけだけれど一つ一つは浅い。リリの矢は使い切って魔剣を構えているけれど何時壊れるかは……。
「リリ、此処迄来たんだ。……撤退しよう」
このままなら倒せる確信はある。でも、拾い物と思った武器は技と一緒に与えられた物という確信もある。
誰かが悪意を持って動いている以上、今すべきは逃走だ。魔法と魔剣で牽制しつつ逃げ切って、強化種のアルミラージが武器を持って十一階層に出現した事をギルドに一刻も早く伝える。
僕が狙いなら僕の冒険だ。でも、誰彼構わずなら悪意を挫くべく動かないといけないんだ。
リリを庇う様にしながらジリジリと後退りを始めた時、嫌な予感に汗が一気に吹き出した。
「……何かが来る? 四足歩行、まさかインファントドラゴン? いや、違う……」
霧の向こうから四足歩行でやって来る影が見える。インファントドラゴンかと思ったけれど、ギルが久々に協力してくれた回復任せの無茶な特訓で相手をさせられたから違うと分かる。
シルバーバック? ダンジョンリザード? そんな生温い物じゃないと本能が告げていた。
獣の唸り声が低く響き、強烈な獣臭さが鼻を刺す。霧の向こうから現れたのは口に収まらない程に長い牙を持つ猫科の猛獣の様な姿をしたモンスター。
「ライガーファング……」
絵で見たのよりも一回り体が大きく、特に脚なんて広く発達していて、その口にはハード・アーマードが咥えられていて、目の前で噛み砕かれる。
「まさか此奴も強化種……っ!」
咄嗟に動けたのは運が良かったのかも知れない。だって、気が付いた時には飛び掛かって来ていたライガーファングの前脚の裏に咄嗟に腕を差し込みながら横に飛んでいなければ爪で切り裂かれていただろうから。
「かっ……」
飛んで威力を殺したから平気、そんな強がりが一瞬で消えさる程の衝撃が僕の全身を襲って骨を全て砕かれた錯覚さえ覚える。
地面を何度も跳ね、無様に転がって木にぶつかって漸く止まるけれど……。
「左腕が……」
折れてはいないだろうけれど細く痛む。物は……掴める。でも、魔法を撃っても照準がぶれそうだし。ナイフを持つにしても頼りない。
『グルルルルル……』
静かに一歩、また一歩とライガーファングが歩み寄る中、一つだけこの場を切り抜ける策が、タイガーファングを倒す方法が頭に浮かぶ。
でも、それは無茶や無謀を超えて無理な方法。あと一歩、ほんの僅かだけ足りない。
「リリ、先に逃げて。後から絶対に追い付くからさ」
「ベル様!? 何を言って……」
「良いから逃げろ!! このままじゃ二人揃って死ぬぞ!!」
僕の叫びに一瞬怯みながらもリリは荷物を捨てて逃げて行く。最後に魔剣を僕の足下に投げ付けて、誰か助けを呼ぶ為に全力でだ。
「……良いよ。一歩足りないなら命懸けで補えば良い」
魔剣を拾う暇は与えてくれそうにないかな? ちょっとクラクラして来たし、強がりは口にしてみたけれど……。
こんな状況、僕が憧れた人達なら簡単に覆すんだろうな。
そんなことを考えた僕の顔には自然と笑みが浮かぶ中、ライガーファングが地面を砕く勢いで僕へと向かって来る。
避けるのも防ぐのも今の僕じゃ難しい。だから正面から迎え撃とうとした時、アルミラージ達が真横からライガーファングに襲い掛かった。
「助けて……いや、違う。これもエイナさんから教わったイレギュラーだ」
本来モンスターは互いに攻撃はしないけれど、強化種が魔石を求める場所と突発的な出来事の際には話が変わる。
誰かに僕を狙う様にされたアルミラージ強化種が同じく強化種のライガーファングを敵と見なしたんだ。
当然、同じ強化種ならライガーファングにアルミラージが勝てる訳がない。
八匹での連携をしていたなら別として、今の状態なら圧倒的な個体差は覆せないんだ。
最初に斧を持った通常種が叩き潰され、強化種も爪を立てられた状態で踏み付けられている。
体がミシミシと悲鳴を上げるアルミラージにライガーファングは体重を掛けて押し潰そうとして、僕が仕留め損なっていた最後の一匹の接近に気が付かなかった。
槍も手放して体当たりしか出来ないにも関わらず群れの仲間を救うべく無謀な特攻を行うアルミラージ。
その行動は僕に足りなかった一歩の後押しとなった。
「わぁあああああああああっ!!」
ライガーファングが此方を向いた瞬間にアルミラージを左手で掴んで口の中に押し込む様に叩き付ける。
空いた脚の爪が防具を貫通して突き刺さるけれど歯を食いしばって堪えた。
どうせ使い物にならないなら幾らダメーじを受けても同じだ。欠損していないならギルに頼れば良い!
「【ファイアボルト】!!」
アルミラージを突っ込んだ事によって噛み砕くまでの数秒間閉じられない口の中に向かって放つ魔法はライガーファングの体内を貫き、それでも足りないのか爪が更に食い込むけれど、気にせずナイフを喉元に突きさした。
アルミラージ強化種が完全に潰される音が耳に届き、同時に腕に刺さった爪から力が抜け落ちてライガーファングは倒れ込んだ。
「勝っ…たの……?」
実感は未だない。今にも動き出しそうなライガーファングから離れながら腰のポーチに手を伸ばせばポーションは全部割れてしまっていた。
「あ痛たたたたっ!?」
未だダンジョンの中だっていうのに気が抜けたのか一気に襲いかかって来る痛み。
特に左腕なんて骨までは届いていなくたってかなりの重症だ。
リリの捨てて行った荷物の中に残っていた筈だし、一旦使わせてもらおうか。
新手が来ない内に傷を癒すべく荷物に駆け寄ってポーションを取り出す。
あるだけ飲み干せば完全じゃないけれど痛みも消えて来たし、左腕も動かないって程じゃない。
「ああ、良かった。一時はどうなる事かと……」
耳に唸り声が届く。ライガーファングよりも重い威圧感、そして聞こえたのは牛に似た唸り声。
二足歩行で重厚な足音を立てつつやって来るのは身の丈程の大剣を持ち、赤い皮膚と太く長い角を持った獣面人体のモンスター。
「は…はは……。リリを逃して正解だったな」
『ヴモォオオオオオオオオオオッ!!』
あの日の悪夢の再来、ミノタウロスが僕の前に現れた。
カーリーの所から出発編
「ねーねー。ギルもファミリアに入りなよー」
俺がアマゾネスの国に飛ばされてから数年、生活費の為に食堂で働き始めた俺は自分の屋台を持つまでになっていた。
今や第一級冒険者になったティオナとも関係は続いているんだが、頻繁に勧誘に来るのは困りものだよな。
ダンジョンに遠征に行っていない日はほぼ毎日の様に来ては何度断っても勧誘を繰り返す。
それで断ったら膨れ面になって拗ねるんだ。
「あいにく他の派閥にも常連がいるんでね。ほら、新商品の試食でもしてくれ。……そっちの神様連中もな」
姉貴達との旅の途中、そして二人を鍛えながらの道中も飯は俺が担当したが、飯ってのは旅の最中は唯一の楽しみになったりする。
だから新しい料理とかも開発しているんだが、それが気に入ったのか常連になってる神連中も結構いるんだ。
「こっちはチーズを串に刺して角切りにした芋を衣にして揚げた物ね」
「へぇ。ホットケーキの生地でソーセージを包んで揚げたのか」
「此方は……牛のすじ肉を入れたジャガ丸君だな」
ヘルメスにフレイヤ、ついでにお供のオッタルと、威圧感やら見惚れてしまうやらで客の回転率が悪くなるから勘弁して欲しいが客は客だ。
「こっちからも勧誘されて断ってるからな。妹分だろうが勧誘を断るさ」
「えー! じゃあ、今度ダンジョンに一緒に行こうよ。ティオネだって喜ぶよ?」
「お前達とオラリオに来て三日目に潜ったらしこたま怒られらただろうが。二十四階層でヤベー事になってたのに干渉したせいで無視出来なかったしよ」
ティオナの口に新作のナゲットをソース付きで運びつつ愚痴る。恩恵無しにダンジョンに入った事とか、魔法が使える事が広まって暫く警戒されたり勧誘が未だに続いたりとかよ……。
「ギル、私の方も完成した。先ずお前から味見を……」
「あのギルド長、俺を引き入れようってしつこいし、この前なんてイシュタル・ファミリアが……」
「聞いているのか、おい!」
不意に耳が引っ張られて慌てて横を向く。するとフォークに刺した新作のジャガ丸君を差し出す相手の照れ顔があった。
「私も忙しい間を縫って手伝いに来ているんだ。……早く食え」
「人前で食べ出すとか大胆になったよな、フィルヴィス。……大丈夫か? 最近、散々あっただろ」
数年前に知り合って今じゃ仲良くなったこのエルフ、当初は肌に触れるのも抵抗があるって奴だった。それでも主神にも言われて礼がしたいと何度か来る内に仲良くなり、お前なら触れても許してやる、とか言い出したんだ。
….最近、主神がやらかした影響で送還されてからロキ・ファミリアに入団したけれど心配なんだよな。
「あっ! フィルヴィスも一緒にダンジョン行く? 水浴びしようよ、水浴び!」
「ま、まってぅれ! 幾らなんでも肌を晒すのは未だ……」
まあ、友達になれそうな奴も増えたみたいだし大丈夫かもな。
「あの、そろそろ新作の出る頃だと思って来ました。あるなら売ってください」
この剣姫はまーだ心配なんだよなあ。
二人を回復魔法任せで育ててたら本来より早く到着しました。リューさんよりはポンコツじゃなくて、無事だったから原作よりディオニュソスへの依存が低いので仲良くなれました 信頼以上恋愛未満です
なんかどのルートでもエルフがポンコツになるな 残りはフレイヤルートか