英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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成長

「うん。確かにヘスティアからの手紙だな。それにフェルムの仲間の頼みなら文句は無いさ。良いだろう。改宗をした後はオラリオへの派遣という形を取ろう」

 

 フェルムさんから聞いた現在の拠点に運良く滞在中だったアルテミス・ファミリア。

 会話を聞けば明後日には移る予定だったから幸運だったと喜びつつ、急に現れた俺と春姫に警戒を示す一向にフェルムさんの仲間だと名乗り、要件を告げる。

 

 少しは渋られると思ったんだがな。

 

「ご無理を申し上げました、アルテミス様」

 

 神に嘘は通じない。だから本当なら言葉だけでも十分なんだが、無理を言っているという自覚があったからな。

 手紙を用意してもらうのは最低限の礼儀だし、相手に神としての礼儀も払う。

 

 同じ神でもヘスティアやヘルメスと同じ扱いは出来ねえよ。

 

「じゃあ、春姫。形式上だろうと君は今日から私の眷属だ。早速改宗をするとして、今日は一緒にご飯を食べよう」

 

「はい。宜しくお願い致します、アルテミス様」

 

 色々問題があるかと思いきや春姫のアレコレはすんなりと終わった。後はタケミカヅチさんと口裏合わせて桜花達と再会させるのもしなくちゃな。

 

 娼館勤めとか話がややこしくなるし、互いに気を遣うだろうからだまっておかないと。

 

 春姫のステイタスを更新する為に一旦テントへと向かう背中を見詰め、俺は少し安堵する。

 何だかんだで問題は多いんだけれど、それでも全部解決しそうで助かった……と。

 

 

 

「フフフ、安心したって顔だね、ギル」

 

 その時、突然声が聞こえた。冒険の旅の最中、何度も聞いて幾度も苦渋を味合わさせられた声。

 それが自分の存在理由だからとして、これ以上の悲劇を生まない為に世界を滅ぼそうとした虚無の子。

 

 

 

「やあ。大体一年振りかな? 元気に……」

 

「はああああああっ!? ちょっと、君!? あの子の魔法どうなっているんだ!?」

 

 俺をこの大陸に飛ばした犯人だろうシャリ、その言葉の最中にアルテミス様が慌てた様子でテントから飛び出して来て遮った。

 

 

 何時もの全ては自分の掌の上って感じの演出をしていた癖に台無しにされたシャリは、宙に浮かんだ状態で所在無さげに俺から目を逸らした。

 

 

 

 

 

 

 

「怖いな。そんなに警戒しなくても良いんじゃないのかい?」

 

「テメェが何したか忘れたのかよ。役目を果たすだけの人形じゃなくなって今までの悪事も無くなりましたってか?」

 

 内容は聞いちゃいないが、イシュタルが言っていた事がアルテミス様の驚いた理由なんだろう、それを頭の片隅に置きつつも地面に降り立ったシャリへの警戒は緩めない。

 バイアシオン大陸中にモンスターを呼び出した召喚術だの闇の魔法だの、叶わなかった願いから生まれたと自称するに相応しい力の持ち主……だったからな。

 

「あの子供は精霊なのか? それにしては其処までの力は感じないが……」

 

 人の姿はしていても神でも人でもない事は伝わったのかアルテミス様はシャリに対する疑問を口にしつつ、俺が警戒する事に何かがあるとは分かっている様だ。

 狩猟の神でもあったんだっけか? 確かに。タケミカヅチさんと同じでステイタスに頼るだけの冒険者よりは強そうに見える。

 

 だから分かったんだろう。シャリの力が本来の半分も残っていないスカスカの状態だって。ガス状の体を持つモンスターが居たが、その構成するガスを半分以下にしたのと同じとでも言えば良いのか、今のシャリは何となく薄いと感じさせられる。

 

 それでもだ。単純な力よりも願いを叶える力の方が厄介だから油断はしないが。

 

 

「そんなに警戒しなくても良いさ。今の僕が叶えたいと思うのは滅びによる介錯じゃなくて英雄による救世。本当ならジルが最適だったけれど相性が悪かったんだ」

 

「……そうかよ」

 

 願いに関する事への誠実さは信じている。その裏にえげつない本当の目的があるだけで、人を救いたいって時には本当に救う奴だ。盲目の姫が光を手に入れる事で今まで見ずに済んだ物を見てしまうのを目論んでいたみたいにな。

 

「アハハハ。警戒されているね。でも、今回君達で良いかと思って喚んだのは裏なんてないよ」

 

 会話の途中で急にモンスターを召喚して来たりするのが此奴だ。だから魔法を使う動作を見せたら即座に攻撃を叩き込む為に魔法と【スペルブロック】の構えは崩さない。

 

 ……ただ、少し気になってるんだよな。

 

「シャリ、少しは笑顔が人間らしくなったな」

 

「君のお姉さんと関わって、人形じゃないって言って貰えたからね」 

 

 何処かの女神に気が付いたのは此奴って前提があったから。自分が持つ役割を果たすべく役目に応じた自分を演じての顔。

 なのに今のシャリは願いを叶えるという役割を果たすだけの人形から人間らしさを感じさせる笑顔に見えた。

 今も指摘された事を自覚しているのか何処か誇らし気だ。

 

 一見すればずっと浮かべていたのと変わらずに見えるが、何だかんだで関わって来た相手だからな、分かるんだ。

 

 

「……所で君達で良いってのはどうゆう意味だ? で良い、って」

 

「君とフェルムとエルファスが喚ぶのに相性が良かったんだ。本当ならジルが良かったけれど今の僕じゃ力が足りなくてね」

 

 弱くなっているのは分かるだろう? とシャリは両手を左右に広げて肩を竦める。

 要するに妥協案が俺達だったって訳か。

 

 そして叶えたい願いが救世って事は面倒な事が存在するんだな。……ダンジョンか?

 

「妥協で君達を選んだって暗に言っているのに怒らないんだね」

 

「もうちょっと隠せ。妥協を隠せ。それと俺は兄貴が居るしエルファスは贖罪の旅だが、フェルムさんの仕事はそうはいかないんだし駄目だろ」

 

 そりゃ神とやりあえる魔導士の俺と俺より回復魔法が上のエルファスと邪竜の頭をフライパンで叩き潰すフェルムさんの三人合わせても、姉貴の方が上だろうから妥協って言われても仕方無いさ。

 

 あっ、いや、妥協って堂々と言われるのはムカつくけれどな。

 

 一発くらい拳骨落としても良いよな? フェルムさんに代わってって大義名分振りかざせばよ。

 

 だが、それをしようとしている間にシャリの体は薄れ始める。まるで空気に溶けるみたいに向こう側が見え始めていた。

 

「何処かに行くって感じでもねえか。どうした?」

 

「なに、心変わりの結果だよ。君達との最終決戦の後、虚無の狭間に戻って何がしたいかを考えてね。ジルとの決着も考えてたんだけれど声が聞こえたんだ」

 

「声?」

 

「助けて、救ってって。この世界から聞こえる悲痛な叫びさ。役目だからじゃなく、君達の真似をしたいと思って無茶をしてやって来たんだけど、お陰でこの通り。休まないと姿を保ちさえ出来なくなった」

 

 だから今日は此処まで、そう言ってシャリは姿を消した。

 

 

「この世界から聞こえる叫びねぇ」

 

 彼奴が生まれた虚無の狭間には叶わなかった願いに込められた想いが流れ込むらしいが、前はこれ以上の悲劇を生みたくないって願いだったのに、彼奴も変わったもんだ……。 

 

 もうちっと早くその選択をしてくれていたら、そんなのは無駄な考えなんだけれどな。

 

 何度も殺してやろうとさえ思った相手だが、それがこうも変わった事に驚きを隠し切れない。

 

 人間を滅ぼす為に生み出されたティラの娘の一体がイオンズさんの説得で力を自ら削いで共存の道を選んだ様に、縁次第選択次第で誰でも変われるんだな、良くも悪くもってのはあるが。

 

 

「ああ、そうだ。君にはこれを渡しておくよ」

 

 声だけが聞こえ、頭上が光ったかと思うと中から現れた物が俺に向かって落ちて来る。

 それが何か一瞬で理解した俺が受け止めたのは竜の頭部を模した両腕の籠手。

 

 名をアルトロン。屍竜の洞窟の奥に封印されていた俺の愛用の武器だ。

 

「此奴を装着するのも久々だよな」

 

 手入れはしていたが、実際に着けて戦う相手なんていなかったので懐かしさを覚えつつ両腕に嵌める。

 あの頃と変わらず両手に馴染む感覚は長らく会っていなかった友達と再会したみたいだった。

 

 

 

「あっ、そういや驚く程の魔法ってどんなのだったんだ?」

 

「この流れでそれか!? ……いや、教えるのは良いんだが、ちょっと眷属とは離れた所で話そう」

 

 

 

 

 一説によると頭上からの落下物を他者に伝える場合、危ない! ではなく、走れ! や 逃げろ! と叫ぶのが効果的らしい。

 

 人は状況を判断し、どう動くべきか考えてから動く物だ。頭の出来、経験、それらによって差はあれど予め状況を想定してどう動くか決めておく事が出来ていれば状況を見て判断するよりも動き出しは早い。

 

「放てっ!」

 

 この時のレフィーヤもそれが当てはまる。宝玉を手に入れたフェルズが解析の末の情報は遠征に向かう大手ファミリアには既に通達されており、迅速な対応が求められていた。

 宝玉の赤子はモンスターに寄生する事で女性型になり、新種とは女王蜂と働き蜂の関係性。それ即ち、新種は魔石を送り届ける事で女性型を強化種にした末に精霊の分身へと進化させる。

 

 一行が辿り着いた五十九階層、其処で見たのはタイタン・アルムが寄生元であろう女性型と、それに自らの魔石を明け渡し灰の山の一部へと変わる新種達の姿。

 

 もしレフィーヤがランクアップしていなければ到着はもう少し遅れただろう。目の前の光景を情報無しに見たならば動き出しが遅れただろう。

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!」

 

 だが、彼等は既に知っていて、異変を察知した時点で待機状態だった魔法、構えられていた魔剣。それが全てを終える前の女性型へと放たれた。

 新種達が覆い被さり盾になり、焦燥感を見せながら魔石を差し出そうとするも間に合わない。魔法と魔剣の豪雨が止んだ時、盾になったのが辛うじて功を奏したのか肉が焼け落ちて魔石が顕になった状態で生き残った女性型。

 

「悪いね、油断はしない」

 

 煙が晴れ出し、女性型の姿が見え始めた瞬間にフィンは既に槍を振り被っていた。そして放たれる流星のごとき投擲。

 回避も防御も許さない必殺の矛先が魔石に触れた瞬間、地面を貫いて現れた蔦が槍を絡めとる。

 

「リヴェリア!」

 

「既に詠唱は始まっている!」

 

 だが、それも既知だ。赤髪の女を回収する時に見ている。女性型を包み込んで守り、愛しい我が子を害する敵を排除するかの様な敵意を持って雪崩の如く押し寄せる蔦。 

 それは前方だけでなく周囲一体から飛び出して飲み込もうと迫る。

 

 

 

 

 

「【レア・ラーヴァテイン】」

 

 そして、気高きエルフの王族が放つ焔が周囲に展開された魔法陣から放たれ全てを焼き付くした。味方の立つ位置だけを残し広範囲の全てを灰へと変える紅蓮が消え去った時、一行を襲う蔦は一本足りとも残ってはいない。

 

 

 

「……未だ終わってない」

 

 歓喜の声を皆が上げるよりも前にアイズが手に力を込めた事で剣が鳴って戦闘の継続を告げる。一行を襲った蔦は全て焼き付くされた。だが、女性型を包む蔦は表面を僅かに焦がしただけに止まり、球状になりながら周囲の地面に根を張る様にして健在を主張する。

 

 その地面に刺さった蔦から球体に向かい、急激に魔力が注がれていた。

 

 

「まさか……。吸って…いるのか……? モンスターを……いや、魔石を生み出すダンジョンから直接力を……」

 

 

 

 

 人は他の獣に比べて弱い生き物だ。それが繁栄して来られたのは知恵を持っていたからであり、自力だけでは本来乗り越える事など出来ない外敵や災害への対処法を考え、道具を生み出し工夫を続けたからだ。

 

 学び、対策を講じるのは弱き窮鼠が天敵である猫に突き立てる為の歯。……ならば、元から強く知恵を持つ者が工夫を凝らし、外敵への対策を考えればどうなるだろうか?

 

 二度に渡って奪われた宝玉、知られたであろう手の内。未来の英雄達にとって順調な道中は怪物の警戒心を煽り、狂いながらも健在な精霊の知能は次の一手を生み出した。

 

 

「全員っ! 全力で叩け!」

 

 何が起きるか分からずとも、このまま好きにさせては必ず悪い未来が待っているのは確かだと、フィンの号令と共に総攻撃が叩き込まれる。

 準備の為故の不動での無抵抗、ダンジョンから力を吸い上げる事のみに全てを注ぎ反撃の動きすら見せる事は無く、そして階層主すら無事では済まぬ怒涛の攻撃が注ぎ込まれても守りは崩せず……準備は整ったとばかりに動きを見せた。

 

 巨体を包む蔦の球体が小さくなって行く。いや、巨大な体など不要とばかりに凝縮し、巨体を構成するエネルギーを力へと注ぎ込んだ。

 

 凝縮が止まり、球体の大きさは最終的に一メートル程にまでなり枯れるように色を変えながら萎びていく。仲から現れたのは長い黒髪を持つ少女。年の頃は十代前半、若葉を思わせる緑のドレスに身を包んだ女神に匹敵する程の美貌。

 

 膝を抱えて丸まっていた少女はゆっくりと立ち上がるも、隙だらけの華奢な少女の姿にも関わらず誰も動けない。まるで見えない巨人が身体を押さえつけているかの様な、それこそ神威を溢れ指した神に睨まれているかの様な威圧感だ。

 

 その瞳は他に誰も居ないかの様にアイズのみに視線を注ぎ、薄く小さな唇がゆっくりと開かれたその時……。

 

 

『『『……アリア。アリアアリアアリアアリアアリアアリアアリアアリアアリアアリアアリアアリアアリアアリアアリアアリアアリアアリア! ねえ、一つになりましょう』』』

 

 神秘的な空気を身に纏った少女は一瞬で強大な力を持つ怪物に、穢れた精霊の分身へと一変する。その声は三つ子が寸分たがわぬタイミングと声色で話しているかの様に重なって聞こえていた。

 顔は狂喜に染まり、美しい顔立ちは面影を残すが故に一層おぞましさを際立たせる。

 

 

「全員動け! 相手は精霊、魔法を使わせるな!!」

 

 皮肉な事に神秘的な精霊の少女から恐ろしい怪物になった事がフィン達が動く切っ掛けへとなった。フィンの号令と共にエルフ達は詠唱を開始し、前衛は四方から襲い掛かる。

 

 勇者の研ぎ澄まされた槍が、ガレオン船すら引くドワーフの斧が、勇猛な鍛冶師の刀が、狂暴な狼人の蹴りが、アマジネス姉妹の連携による刃が、精霊の風を操る少女の剣が回避も防御も許さないとばかりに精霊の分身へと向かい、その身に叩き込まれ突き刺さる。

 

「固っ……」

 

 ほんの僅かだけ皮を切り裂き肉に食い込んで、それで終わりだ。食い込んだ刃先は肉を断ち切れずに止まり、ベートの蹴りは片手で掴み取られ動けない。

 

 

 

『『【アイシクル・エッジ】』』

 

 再び重なって聞こえる声が詠唱不要の魔法を唱え、ベートの足を掴む手と精霊の分身の口から氷の刃が放たれる。ベートの足とフィンの脇腹を貫き、勢いを削がれずにそのまま後方まで吹き飛ばした事で重なる声の正体が明らかになった。

 

 

「口が三つ……」

 

 美しさを残したまま狂った笑みを浮かべる顔に一つ、そして両手の掌に一つずつの計三つ。二人を貫いた速攻魔法二つを含む三つの魔法を同時に放とうと口が動く。

 そう、三つだ。残った手の口がリヴェリアさえも上回る速度で詠唱を完成させようとしていた。

 

 

 

 

『【火ヨ、来タレー猛ヨ猛ヨ猛ヨ炎ノ渦ヨ紅蓮ノ壁ヨ業火ノ咆哮ヨ突風ノ力ヲ借リ世界ヲ閉ザセ燃エル空燃エル大地燃エル海燃エル泉燃エル山燃エル命全テヲ焦土ト変エ怒リト嘆キノ号咆ヲ我ガ愛セシ英雄ノ命ノ代償ヲ-代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ火精霊 炎ノ化身炎ノ女王】』

 

 

「退けっ!」

 

『【ファイアーストーム】』

 

 フィンが指示を飛ばすも、それを実行するよりも先に階層の広範囲を焼き尽くす炎風が放たれた。

 

 

 




闇の円卓の岸を代わりに出すか迷った

漫画オラトリアの精霊の分身の少女バージョンで
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