英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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影響

 精霊の分身の敗因は何だったのかと問われれば、強く生まれた事だろう。肉体も魔法も古代の恩恵を持たずともモンスターと渡り合った英雄の時代、その英雄達を助けるべく派遣された神の寵児。

 

『アリアノ仲間、弱イノニ、強カッタ』

 

 故に弱い人間の様に役割を分担しての陣形を取らない。精々が末端の使い捨ての駒を無造作に暴れさせるだけだ。対して人間達が磨き続けた集団戦における陣形や連携は互いの得意を最大限にまで高め、同時に相手の強みを潰す物。

 

 それでも尚、それすらも叩き潰すからこその怪物ではあるのだが、此度の敵は現代の英雄にならんとする者達。怪物との戦い方を学び続け磨き続けた相手だ。

 

 もし、圧倒的な能力差で駆け回りつつ魔法を連発されたら、アイズを取り込む事を優先させなければ、力の差が分かっているが故の油断を無くしていれば、それこそ超長文詠唱の魔法をあと一度使えていれば勝敗は順当にひっくり返っている。

 

 

 とある偉人の言葉にこうある。"私に失敗は無い。うまく行かぬ方法を一万通り発見しただけだ"と。人は、知性ある生物は失敗や敗北を重ねて成長を続けて来た。

 

 

 何故失敗したのか、何故負けたのか、それを分析し、もっと良い方法がなかったかを考える事こそが重要なのだ。

 

『次ノ子ハ、次ノ子達ハ負ケナイ』

 

 相手が自分達より優れている物、自分に足りない物、それらを学べば良い。ただの怪物を倒すのが人間の戦士なのだとしたら、人間の戦士を倒すのは怪物の……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか春姫殿とオラリオで再会出来るとは思いませんでした。どうして行方不明になったかはお聞きすまい。こうして再会出来た事を喜びましょう」

 

「ええ、そうで御座いますね。本当にこうして会えて良かった……」

 

 アルテミス様から聞いた春姫の魔法だが、ミアハと団長には伝えた結果、秘匿が決定した。元々ステイタスなんて隠して当然だから問題はないが、まさか一時的なランクアップとはな。

 

 イシュタルはそれを使って何か企んでいたらしいのに急にやる気を失ってくれたから、今こうして春姫が桜花を除く友達と再会出来たんだから本当に良かった。

 あの身請け(後から知った制度)の代金となっているらしい一億ヴァリスを払った後で手紙だけでも書くかとなったが、遅れさせたから気兼ね無しに居られるんだ、正解だったな。

 

 

「せめて桜花様もこの場に居れば……。酷いお風邪で面会も叶わぬとは」

 

「ひ、日頃の疲れが体に響いたのでしょうね……」

 

 残念そうに呟く春姫に命達の目が一斉に泳ぐ。そりゃそうだ。勘違いで春姫が歓楽街に居ると思い探しに来た結果、変態として捕まりました、とか言えねえもんな。

 

 褌と手拭いの覆面だけで外に居た所を捕まって今現在は明日の釈放まで勾留中の桜花。場所が場所だけに歓楽街で身ぐるみ剥がれた程度に思われたから問題にはならないが、通報を受けて捕まえた以上は正体を伏せて一日勾留だけはするとの事だ。

 

「それで今はミアハ様の所に出向という形で居るのですね」

 

「ええ。ギル様のお側に置いて欲しいという我儘で御座います。許されるなら一晩の夢を……」

 

「あっ、そうだ。ちょっとアルテミス様の所に行った時に土産持って来たんだ」

 

 頬を赤く染める姿にタケミカヅチ・ファミリアの視線が俺に向く。しまったなあ、土産だけ先に渡して帰ったら良かった。

 

 極東の茶菓子を作ったからと誘われ、回復に来た時に飲んだ茶の味も悪くなかったから部屋の端で話を聞いていたんだが失敗だったかも知れん。

 

 でも牡丹餅だったか? 美味かったよ、茶にあうし。

 

 春姫の好意の理由を詳しく聞かれたら歓楽街の事とかまで知られるだろうし、嘘を見抜けない人間相手じゃ変な勘繰りをされかねないって事で慌てて話を逸らす為に持って来たのは大の大人より少し大きい程度の巨大な水瓶。

 

 一体何だと思い視線を向ける一行の前で蓋を取れば命が表情を変えて立ち上がった。

 

 

「こ、これは温泉の香りっ!? まさかその中身はっ!?」

 

「アルテミス様に教えてもらった場所で汲んで来た。前に温泉に行きたいとか言ってたからな」

 

 このホームに風呂は無いが、金ダライにでも温泉の湯を張れば良いだろ。

 庭に幕を張っての露天風呂ってのも有りだしな。

 

「な、何と貴方の魔法を使えば何時でも温泉に入れるのですか!? か、神か!?」

 

「落ち着け、命。神は俺だ、俺!」

 

 目を輝かせて詰め寄る命と止めようとするタケミカヅチさん、他の仲間は分かっていたとばかりの反応だ。

 仲良いな、此奴等。ああ、育て親が同じなんだから大家族の兄弟みたいなもんか。

 

 春姫から聞いちゃいたが風呂好きだったと思いつつ、公共浴場に通うのも苦労する程度には貧乏なんだとホームを見て思う。

 ヘスティアなんて友達に世話してもらった廃墟みたいな場所の地下室だし大変だわ。

 

 ミアハも凄い借金してたしな……。

 

「今日早速……いや、しかし桜花が捕ま……ではなくて風邪を引いて入院中に先に入るのも……でも、しかし……」

 

「……あー、じゃあ積もる話もあるだろうし俺は一旦行くわ。春姫、後で迎えに来るからゆっくりしてれば良い。久々なんだ。これからも時間があろうと話は別だろ?」

 

 冒険者なんだし明日には死に別れって事も有り得る、とは流石に言わない。

 だからボールスだってリヴィラでは個人ではなくファミリア単位の証文にしているし、別のオッさんは冒険者のする来月の約束と女の安全だからって言葉は信用するなって言っていた。

 

 安全? 何のこっちゃ……。

 

「よ、宜しいのですか? お店の手伝いなどがあると思っていたのですが……」

 

 もっと話したいと思う反面、責任感が強い上に新しい場所で役割を持ちたいって気持ちも強いんだろうから迷いはあるんだろうが、気にしなくても良いのにな。

 

「団長には許可をもらってる。明日からは調剤の基礎から叩き込むから覚悟しておけ、ってよ」

 

 ミアハの許可? アイツに頼んでも許可しか出さないのは分かりきっているんだし、優しさに甘えるみたいで気が引けるだろうから団長に聞いたし、それで良いって言ってたな。

 

「それならお言葉に甘えるとして、あの、現地では叶いませんでしたが申し上げたい事が有りまして……」

 

「俺に? 別に何でも……とはいかないが言ってくれ。お前なら無茶な要求はしないだろうしな」

 

 但し団長、テメーは駄目だ。憩いの場として入浴施設を作りたいって計画が俺の持ち帰った温泉で再燃しやがったからな。

 毎日大勢が入れる程の量ってどれだけ大変なんだよ、それとコストと人手。

 

 ミアハも賛同しているし、春姫までってなったら少し困る。

 

「それなのですが……」

 

 俺をじっと見るも最後の一歩が踏み出せないのか黒籠り、命達の方をチラチラ見ると耳打ちでもしたいのか手招きする。

 

 ランクアップしたのもいるんだし多分聞こえるんじゃないかとは思うんだが、聞かれるのは恥ずかしいんだろ?

 

 それでも今言いたいみたいだし、仕方が無いので耳を近付ければ唾を飲み込む音に続いて絞り出した声が聞こえた。

 

 

 

「今夜、お背中を流させて下さいませ……」

 

 無理じゃね?

 

 背中流すって事は最低でも腰のタオル巻いただけだろうし、目隠しでもして流してくれるのかと不安になる。

 

 一応薬は臭いし医学に関わるからってホームに小さいながら風呂はある。

 自分は神だから垢とかは出ないが男だしって事で団長を先に入れるのがミアハの方針だが、春姫もぜんごで入る事になるだろう。

 

 

 うーん、他の同居人がいる中で男女が一緒に入浴とか気まずくないか? 気まずいよな……。

 

 だからってこの場で断るにしても他の連中の目があるし、説明は出来ない。

 それこそ春姫が恥ずかしさで引き篭もるかも知れない程に。

 

 

「……まあ、その内な」

 

 この場は先延ばししかねぇよな。ついでに顔を真っ赤にして俺達を見ている命は知らんぷりしよう。

 上級冒険者だし、この距離なら聞こえるよな、普通に考えてよ。

 

「はい……」

 

 このまま有耶無耶に持ち込もうとする意志を悟ったのか少し拗ねた様子で頬を膨らました春姫の手は俺の体に伸ばされてタケミカヅチさん以外には見えない位置を抓る。

 全然痛くないから別に良いんだが、少し図太くなったもんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

「……あの、春姫殿とギル殿は一体どの様なご関係なのでしょうか?」

 

 ギルが先に帰った後、再会を祝うのは明日退院する事にしている設定の桜花が変質者として捕まっての勾留から解放されてからとなり、今は“がーるずとーく”の真っ最中。

 

 互いに少ないお小遣いから出し合って買い求めた甘味(先程の牡丹餅は別腹。カロリーは合算)を食べつつ話に花を咲かせる。

 

 内容は冒険者特有の血生臭い物は避けて、節約の為に今は話でしか知らない人気のお菓子やらお洒落着やらの話が中心となり、何時しか話題は恋愛についてに移っていた。

 

 一時は何かの因果で歓楽街に堕ちたと思っていたが(実際は正解である)、誤解と分かった上にタケミカヅチからアルテミスについて聞かされれば大きな心配は無い。

 

 行方不明になった経緯は聞くまいとして、年頃故に気になったのは二人の様子。

 

 今までアルテミスと共に行動して放浪していたのなら関係は薄くなりそうなのにも関わらず、命が見て耳にした内緒話からしてただならぬ関係にしか思えない。

 

「とある切っ掛けで出会って以来、私の心を救って下さった彼の方は定期的に会いに来て下さり、夜を共に過ごしました」

 

「お、おう!?」

 

「それって……」

 

 二人は赤子がキャベツ畑やコウノトリの配達で両親の元にやって来るなんて事を信じる程にお子様ではなく、ちゃんと小さい頃に赤ん坊がどうやって生まれるのかを男神であるタケミカヅチに聞いたし、相談された女神が折を見て教育を施している。

 

 だが、所詮はその程度なのだ。想う相手は身近に居るものの伝える勇気は持ち合わせず、中途半端に読み物で補填された二人に春姫の話は刺激が強過ぎた。

 

 頭に浮かぶのは大人の関係に至った二人の姿。暫く行方不明だった幼馴染みが再会した時には恋愛方面において自分達を追い越したのだ。

 

 勿論誤解含まれるが、恋愛方面でスタートラインも越えていない二人を大きくリードしているのは間違い無い。

 胸や鎖骨を大人の関係になどなり得ない

 

「逢瀬の度に語り合い、膝枕や尻尾の毛繕いなどで絆を育んだ。彼の方とはその様な関係です」

 

 この言葉でその誤解も解けそうではあるのだが、すっかり茹で上がった二人の頭では理解など出来ようものか。

 

「私は神であっても殿方に肌を晒すのに抵抗がありまして出向という形の身分故に我儘は言えないのですが、叶うならばホームでは二人で一部屋が……」

 

 頬を染めながら言う春姫だが、真面目なミアハに恋愛の進展がないナァーザが結婚前の同室など許す訳もなく、ギルも抵抗があったので却下されている。

 

 あわ良くば夜中に忍び込んで、と狙ってはいるものの出来る筈も無いのだが、命達には分かる筈もない。

 

 何せ二人の中では既に十歩は先に進む恋愛強者、植え込まれた先入観があるのだから。

 

「成る程……」

 

「じゃ、じゃあ話は変わるけれど……オラリオについてどう思う?」

 

 既に祝言も間近な二人の惚気話(誤解)はポンコツ化が進む恋愛弱者の二人には刺激が強過ぎる。

 勝ち目はゼロだ、負け戦も良い所なのだ。

 

 だから背後に向かって全力前進、これは釣り野伏せなのだと自分に言い聞かせて戦略的撤退、要するに逃げて話を逸らす。

 

 敵前逃亡をした雑魚を前に恋愛において猛将(そんな訳無い)の春姫は話し足りないと思いつつも、オラリオに来て長らく経つも足を踏み入れる事が叶わなかった市内の様子を思い出し心弾ませた。

 

 見るもの全てが新鮮で驚きの連続。一度散歩中の壁の擬人化ならぬ擬神化の様な糸目の女神にナンパされそうになるものの輝いて見える物ばかり。

 

「……少しばかり食材の値段が気になりました。市井の人々も値上がりに愚痴を溢していらっしゃいましたし」

 

「確かに少しばかり値上がりが続いていますから。デメテル様の事もありましたし……」

 

 デメテルによるディオニュソスを道連れにした送還事件、のちに判明した事実から彼の神の企みに関する情報の一部はギルドや一部ファミリアに情報共有されたもののホームに全ての情報が残ってはおらず、最後にデメテルが都市の敵を意味する名で呼んだ事を耳にした神々の思惑も相まってギルドは現在も混乱の渦中なのだ。

 

 ロイマンなど普段は豚だの誹られてはいるが長らくギルドの存続と発展に尽くして来た立場だ。

 

 短期間で不健康的に体重が落ちた彼を、普段は恥だと忌み嫌う同族も心配する中、更なる混乱の元になっているのは周辺一帯に野菜などの食料を卸していたデメテル・ファミリアの実質的解散。

 

 これは主神を新たに迎えれば良い等と単純な話ではない。デメテル以外に仕える事に不安を覚える団員や利権を狙う神や商人、オラリオの食糧事情に一枚噛もうとする周辺国。

 

「お陰でジャガ丸君も値上がりしましたからね」

 

「山菜だって何処かの商人が雇った人達が後先考えずに採り尽くしそうになって問題になったし……」

 

 結果、単純な不安や便乗値上げによって短期間で食料品が大幅に値上がりを果たした。それで売り上げが更に下がったタケミカヅチの時給が下がりそうになっていたりと命達も大いに困っていた。

 

 何せ未だ成長中の身な上に体力仕事、毎日の食費だって馬鹿には出来ない。

 

「今の所、オラリオにいらっしゃる豊穣神が受け持とうにも誰が受け持つか、それでギルドも迷っているらしくて……」

 

 ギルドはファミリアの動きに目を光らせ、何かあれば頭を押さえつけるべき立場だ。

 デメテルはオラリオ外でファミリアを運営していたから良かったが、オラリオで活動しているファミリアに食料事情を任せるのは、となると……:。

 

「問題しかありませんからね……」

 

 フレイヤは自由奔放で眷属も狂信的、イシュタルが既にフレイヤへの対抗に興味を無くした事をギルドは把握しておらず、ならば残りの……となったらなったらでファミリアの規模から問題が起きそうだ。

 

「どうにか都市の豊穣神から文句が出ず国同士のバランスに関わらない善神を招き入れる事は出来ないか、そう判断したギルドが善神を中心に聞いて回っているそうですが……」

 

 取り敢えずの食料の確保、それも今回の騒動で足元を見る様な事は出来ない程の遠方からの実行をしたり、オラリオから遠く離れて行動している神の場合はどの様に招き入れるのか、それが課題だ。

 

 

 

 

 

 

「それで俺に依頼ってパワーバランスとかは良いのか? まあ、ウチは弱小だから良いのか……」

 

「ええ、勿論ミアハ様の暗黒期での働きを鑑みた結果、多少の借りを作っても問題無いと判断したわ。勿論、貴方の事もね」

 

「余所者に其処迄の信頼を向けるって危機感足りてねえな、ギルド……」

 

 ホームに帰ると俺を訪ねて来たローズから【テレポート】を使用して遠方での食料確保、そしてもう一つ言い淀む依頼があると告げられたんだが、俺ってオラリオに来てそんなに経って無いのにな……。

 

「遺品の回収やら救助やらを散々無償で行っていて何を言っているのよ」

 

「無償じゃねえぞ? 代わりに誰かを助けてくれって頼んでいるし、向こうだって借りを作った気になるだろ?」

 

 感じない奴? 別に良いさ。そんな奴に普通に請求してもごねられるだけで時間の無駄だ。

 それに依頼を受けたら報酬をもらうのが冒険者の矜持で礼儀だが、勝手にやった事で請求するとか駄目だろうに何言ってるんだ?

 

「いや、何を言っているのよ……」

 

 俺が?

 

 どうも釈然としない反応に文化の違いを感じさせられた。

 

「それにこの決定を一応オラリオ内部の候補に伝えたらフレイヤ様とイシュタル様から貴方が関わるならって言われたわ」

 

「フレイヤ様とは殆ど関わりが無いんだがな。フレイヤ様とは……」

 

 それでもう一つの頼み事なんだが、オラリオ外でギルドと交渉をした事があるファミリアの主神に広い顔を借りる事にしたらしいんだが……。

 

 

 

 

「どうも貴方に興味が湧いたそうで数日間派遣しろって言って来たのよ」

 

「それって足元見られるパターンじゃねえの?」

 

 俺、忙しいんだけれどな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

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