英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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オラトリオ新刊  やべえ


依頼

「よく来たわね! そして感謝なさい! この美神の中の美神であるアフロディーテと言葉を交わせるなんて幸運なんだから」

 

「……」

 

「私の美しさに言葉も出ないみたいね。でも、良いのよ? 美しい物を美しくしいと口にするのは当然だもの」

 

 うわっ、ウゼェ。

 

 喉の奥から込み上げて来る言葉を必死に飲み込む俺の目の前でこっちの反応を都合良く受け取った金髪の女神はアフロディーテ、歌劇の国メイルストラで劇団みたいな事をしているファミリアの主神らしいんだが、見ていると思い浮かぶのは爆裂娘だ。

 

 方向性は違うがガルトランやユーリスの同類か。要するに悪意無しで無自覚な傍迷惑。

 

 それがどうゆう訳か俺の噂を聞いて興味を持った結果、豊穣神との仲介をする代わりに呼び寄せたって訳だ。

 

「どう? 凄いでしょう? 美しいでしょう?」

 

 次々にポーズを取る姿は確かに美しいんだろうが、駄目だ。色々な意味で駄目な女神だ。

 ヘスティアが駄女神ランク四ならアフロディーテは7、次元が違う。

 

 魅了されているのではなく絶句、それに気が付かないって言うべきか、そうなる事を考えものしない感じだな。

 

 

「これならイシュタルの方がマシだな。アレにも最低限としての美神の矜持はあった」

 

 さて、今回の依頼だが俺は体験入団みたいな物としてアフロディーテ(……アフロでいーや、あだ名らしいし)の近くで行動するらしいんだが、下級冒険者なので護衛が派遣された。

 

 フレイヤ・ファミリアのヘディンである。オッタルの腹心でありフレイヤ・ファミリアの頭脳労働担当。

 そんなのを派遣して大丈夫かと思ったんだが……。

 

 

「恋敵を遠ざけた.……?」

 

「いい加減にしろ、本当に! 確かに私は愚ウサギの好みに当て嵌まるのだとここに来る迄に聞いたが、彼奴には男色の気はないだろう!」

 

 あ、予想以上にキレた。

 

 

 

 

 飼い慣らした竜に乗ってメイルストラへと向かう最中、俺は改めてヘディンからベルの奴の好みを訊ねられた。

 

「私は時間の無駄遣いは嫌いだ。さっさと話せ」

 

「金髪で長髪で種族はエルフが良いんだってよ」

 

 自らの髪と耳を触りヘディンは絶句しながら天を仰ぐ。今までフレイヤが誰かを気に入るなんて何度もあり、欲されたから応じつつ欲されるに相応しくなるべきってのがヘディンの持論……だったのだが、少し問題が発生した。

 

 フレイヤとして気に入り、シルとして接する内に芽生えたのは愛じゃなく恋。

 其処に正体を知って尚も友達として接するフェルムさんと出会い不変の神が変わり始めた……らしい。

 

「私はどうすべきなのだ? いっその事、彼の方の前から姿を消して……」

 

 最近会ったばかりだし、ヘディンにも思うところがあったのか呟いた幾つかの情報から導き出した事だ。

 

 側から見ていて異性に興味が無いのは分かるが、自分が恋敵として最大の敵となりかねない事に苦悩していた。

 それとノーマルなので普通に嫌だった

 

 

「いや、普通に男には興味無いぞ?」

 

 なので誤解を解いてやったのにヘディンは喜ぶどころか固まって、錆びついた動きで俺の方に顔を向けた。

 

「おい、 何故それを早く言わん?」

 

「面白そうだから黙っ……【スペルブロック】」

 

 怒りによっての限界突破、超高速詠唱によって魔法を放とうとして来たので慌てて消すが、思った以上に悩んでたんだな、此奴。

 

「私の魔法を消しただと!? それが第三の……いや、違う。今のは……」

 

 流石は都市有数の魔法剣士、今のが何か何となく察したって訳か。

 

 魔法の様で魔法でない技術、フェルムさんのせいで俺の力にも何となく察しが入っている連中じゃなければ見せなかった手札だ。

 

 驚き、直ぐに何かを察した表情で考え込む姿に俺は確信する。ベルの好みがヘディンだって紛らわしい言い方で伝えたのは有耶無耶になった事を!

 

「対魔法の技術みたいなもんだ。……それで今から会いに行くアフロディーテってどんな神か知っているのか? ウチの主神に聞いても言葉を濁すだけでさ」

 

「フレイヤ様曰くギャグキャラ? らしい。意味は見れば分かると言われたが……」

 

 一体どんな奴なのかと、俺とヘディンは首を傾げるしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと私を前に失礼よ! ほら、恥ずかしがっていないで私を褒め称えなさい! ほら! ほら!」

 

 成る程、つまりこの手の喜劇の登場人物みたいなのがギャグキャラって事なんだな。

 アフロは激しくポージングを繰り返し、イシュタルが前にやったみたいに魅了を振り撒く。

 

 自分自身の力っちゃあ力なんだが、ヘディンの言葉の意味がよく分かるぜ。

 

 こっちはオラリオから派遣された接待役、それも向こうの指示で俺と護衛(不要だろう、と不満そうな顔をされた)のヘディンだけ。だから互いに言いたい事は飲み込んで表情から隠す。

 

 

「うふふふふふ。フレイヤの子すら見惚れるなんて美しさって罪ね」

 

「……ならば裁いてやろうか。極刑で」

 

「あー、えっと俺を指名した理由を聞かせて……下さいますか?」

 

 アフロに見えない位置でヘディンを小突いて黙らせて話を変える。聞こえなかったには自分に酔って魅了を振り撒く事に夢中になっていたからなのかどうか。

 

 

 

「あら、決まってるじゃない。誰よりも美しい私の役に立てる栄光を与えてあげる為よ。この上ない幸福として咽び泣きなさい」

 

 駄目だ、この言葉は通じるのに意思疎通に問題があるのは予想以上に二人の同族だよ……。

 

 

 それで何をやらされるのやら。荷物運びか乗り物扱いか、わざわざ呼び寄せてこき使う気なのは間違いないんだろうけれど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【イクスキュアス】」

 

「ご苦労様。じゃあ、次に行きましょうか」

 

 意外と言うべきか、それとも腐っても神と言うべきかアフロが俺にやらせたかったのは劇団員……それも自分の眷属以外も含む人達の治療だった。 

 

 開幕を控えて酷使して蓄積した疲労を取り、使い過ぎて痛めた喉を癒やし、睡眠時間を削って荒れた肌や髪に艶を取り戻す。

 

「これなら最初から治療を頼めば良かったんじゃ?」

 

 驚いたのは治療対象がいたのは病院とかじゃなくって劇団所有の建物とか個人の家。

 

 舞台を見させてももらったが、客の前では優雅に踊っていた役者が楽屋では包帯を巻いたり患部を冷やしたりしていて、調子が悪いなんて客には分からなかっただろうな。

 

 でも、これなら困っている連中を一気に治せるんだから一纏めにすれば良いし、遠回しな言葉で呼ばなくて良かったんじゃ?

 

「これだから素人は困るのよね」

 

 そんな疑問を込めて口にした言葉だが、向けられたのは呆れの表情だった。

 

「あのね、歌手も役者も観客に夢を見せるのが使命なの。それが体を痛めました、喉を痛めました、髪や肌が荒れてますなんて知られたら駄目なのよ。.ほら、貴方を待ってる子達は多いんだから急ぎなさい!」

 

 美神の自分が走る姿なんて見せられないけれど急ぎもしたい、そんなアフロが選んだのは俺の背中に乗る事。

 

「ほら、あの時計台の隣の赤い屋根の劇場よ。レッツゴー!」

 

 感涙しても良い、とか言われても困りはしたが、護衛だからと俺の服の裾を掴むヘディンも眼鏡をクイッとしながら黙っているので俺も黙っていよう。

 

 まあ、役者達の矜持を守る為って動機なら文句は無いさ。まだまだ掛かりそうだが観念してやり遂げるしかねえしな。

 

 

 

 

 

「深夜までご苦労だったわね。今日の分は終わったし、このまま……ぐぅ」

 

 途中、食事や休憩を挟みつつ治療を続けて終わったのは日付が切り替わった頃だった。

 

 途中で酒を飲もうとしたり気分転換にヘディンの背中が良いと駄々を捏ねたり(断固拒否されてた。俺もウザいので放り出したい)と神としての評価が上がった以上に落ちて漸くアフロは眠る。

 

「顔が当たっている肩辺りが濡れ始めたんだが……」

 

 これって寝ヨダレじゃねえの? ハンカチ何処に入れたっけな……。

 

 背中で呑気にスヤスヤ眠る駄女神をさっさと眷属の所に送り届けたいと思う中、ヘディンは深く溜め息を吐き出した。

 

 

 

 

「フレイヤ様と同じ美の女神と認めはしないが女神としては認めたのだがな。……早まったらしい。愚かな私が憎いな」

 

「えっと、元気出せ? オッタルだって腹心の部下が落ち込んでたら困るだろうしな」

 

「……ちょっと待て。誰が脳筋めの腹心だと?」

 

 え? 違うのか? 

 

 

「副団長のアレンと険悪な雰囲気だったし、派閥的な問題なのかと思ったんだが違うのか」

 

「我々はフレイヤ様の寵愛を奪い合う仲。だからガリバー兄弟を除いて自分以外は敵だ。フレイヤ様への侮辱以外では最低最悪の言葉だ。二度と言うな。……我々はそうやって女神への忠誠を貫いて来たのだ」

 

 まさか派閥の中での啀み合いが此処迄のレベルだったとはな。それで理由は他の全てをほぼ捨てての女神への忠誠と信仰だろ?

 

 

 大変だな、色々な意味で。目の前の奴には言うまでもないんだろうけれど……。

 

 

 それから約束の期間は公園や練習の合間を縫って治療して回る事の繰り返しだった。

 

 俺は歌も演奏も好きだからファミリア自慢の歌姫の歌を聞かせて貰ったのは嬉しかったし、俺が興味を向けていたからって値段が付けられない名器とされるハープで演奏させてもらった結果、謎の騒動が起きてハープが呪いの品扱いされる事になる“メイルストラの悪夢“が起きたりと色々あった。

 

「貴方、音楽の神に呪われた事とかあるんじゃない!?」

 

「人間滅ぼそうとしていた女神に魔法をぶち込んでご退場願った事はあるが、音楽は司ってなかったぞ?」

 

「二つの意味で何をやってるのよ!?」

 

 俺の演奏中に寝てやがったアフロが起きるなりガチで心配して来たが、俺の演奏が変わったって自覚は無いな。

 姉貴とかの身内からは人前で演奏するなって言われているのをアフロにも伝えたが絶句してたが何故だか分からん。

 

「これもある意味地上の神秘?」

 

「意味分からねえな。なあ、ヘディン。あれ? 死ん…でる……?」

 

 死んではいなかった。何故か気絶しているだけ。

 

 

 後で聞いた話だが、アフロディーテ・ファミリアに結構な額の損害賠償請求があったとか。なんで?

 

 

 

「はい。これが約束の紹介状よ。落としても再発行はしないんだから大切にしなさいよ」

 

 約束の期間は終わり、華やかな舞台の裏側で積み重ねられている努力の数々を目にした所で約定は果たされた。

 

 紹介状は受け取ったし、後はギルドと神々次第。これで後は帰るのみ。

 

 

「帰らないでー!」

 

「本気で残留を考えなさいって。貴方の回復魔法の価値は此処でこそ発揮されるわよ!?」

 

「ヘディン! ヘディンは何処だ!?」

 

 俺の魔法による美容効果や疲労回復を受けた劇団や楽団達による割とガチな引き留め、偶々暴漢から救った事でヘディンに心奪われたアマゾネスの歌姫とか面倒な事に。

 

 それとアフロが働きの褒美だって俺とヘディンの部屋に夜這いに来たが眠かったので追い出すってのもあったな。

 ヘディンとかマジギレ五秒前だったし。

 

 

「いや、俺はオラリオでやる事があるし無理」

 

「じゃ、じゃあ定期的にメイルストラに来て治療を!」

 

 うーん、流石に拘束時間が長くなるのはな。そもそも依頼としての治療はしていないし……。

 

 

 俺の帰還の話を聞いて詰め掛けて来たのはアフロの眷属以外にも大多数、【テレポート】でさっさと消えるにしては楽しい日々だったのが惜しい。

 

 だからって延長も考えられないと困っていた時に意外な方から助けの手が差し伸べられた。

 

 

「貴方達、その辺にしておきなさい。私は約束通りに此奴の力を借りて、報酬を払った。これ以上は私の顔に泥を塗る行為と知りなさい」

 

 決して大きな声でも普段通りの魅了撒き散らし節操無しの浮かれポンチの声でもなく、見た目の年不相応の落ち着いた声色。

 それに詰め掛けた連中が気圧され引き下がるとアフロはアフロに戻った。

 

 

「取り敢えず今晩は遅いんだし泊まって行きなさい。皆、宴を開くわよ! 今夜は無礼講、大いに騒ぎなさい!」

 

 さて、ヘディンを探しに行くか。これなら出る必要があるからな。俺の護衛だってのに色々と面倒な事に首を突っ込んでたりと人望稼いでたしよ。

 

 

 

 

 

 

「成る程。それで一晩中騒いでから私の所に来たのですね」

 

 そして翌日、ディアンケヒト・ファミリアを訪ねると普通にアミッドの所まで通され、休憩中なので一緒に茶を飲んでいた。

 

 あの酒盛りは楽しかったが同時に酔っ払いが大変だったんだよな。俺は飲めないからヘディンを盾にしたら次々に薦められて困ってたり、アフロが酔い潰れた結果、夜這い失敗の悔しさから裸踊りをしようとして歌姫にしばかれたり、肉体的な疲れは魔法で癒せるが精神的な方はそうはいかないんだが、部屋でのんびりって感じでもなかった。

 

「ちょうど奥で春姫がアミッドに調合の下準備から習ってる所だったからな。俺が帰ったって知ったら気を使わせるし、ミアハに言われて約束を守りに来た」

 

「ふふふ、つまり私の相談を彼女に顔を見せる事よりも優先して下さったと。成る程成る程。ギルさんは可愛らしいですね。そんなに私に会いたかったなんて、寂しかったのですか?」

 

「そりゃ毎日のように顔を見るのがここ最近じゃ当然になっていたしな。アミッドの顔を見なくちゃ落ち着かなくなった。こりゃ故郷に帰った後で困りそうだ」

 

 それで今話せる事なら話して欲しいんだが、急に背中を向けて黙ってしまうアミッドからは今すぐに聞き出すのは難しそうだ。

 故郷に帰るって言ったのが悪かったか? 治療院の方でも信頼されてるからだろうけれど、出会いがあれば別れもあるもんだ。帝国でお人好しの兵士の兄ちゃんに世話になったのに第二次戦争で敵として遭遇してしまった時のは流石に極端なんだろうが……。

 

 

 

「少し他の団員の目と耳を避けたいので私の私室まで来て下さいますか? 相談する上で用意したい物もありますので……」

 

 人目があるからと魔法で私室まで行けって言われたが、今更ながら商売敵の上に外聞が悪いか。

 俺との婚約の噂とか、アミッドにこれ以上変な噂が流れても嫌だと俺は一旦帰った振りをして転移する。

 

 前に入れてもらったが簡素っつーか無欲な奴の部屋なのは相変わらず。

 タンスも小さいし、装飾品のケースだって前に俺が贈った髪飾りを入れたら残りのスペースは僅かだろう。

 

「何か妙な背徳感が……」

 

 年頃の女友達の部屋で一人っきりってのは妙に落ち着かない。勝手に物に触りたくない上に物音を聞いた誰かが泥棒と思って入って来る事も有るだろう。

 

 なので扉を開けた時に一瞬死角になる壁に寄りかかってアミッドが来るのを待つ。

 

 それにしても仲間には知られたくない相談って、あの爺さんにどんな無茶振りをされているのやら。

 

 

 

「……見合いとか?」

 

 俺との噂が気に入らないディアンケヒトが見合い話でも持って来て、それを断るのに相談したいとか、その辺りかと思い付く。

 

 それなら他の団員も主神の勧めだからって反対側に周り辛いだろうし……。

 

 

「その場合、俺は役に立ちそうにないな。精々が相手の粗探し……いや、ちょっと気が早いな」

 

 相談を聞く前から俺が考えていても仕方が無い。ちゃんと話を聞いて……来たか。

 

 少し考え込み過ぎたのかノックと共にアミッドの声が聞こえるので壁から離れて返事をすれば扉が開く。

 

 入って来たアミッドの手には湯が入った桶とタオルが下げられていて、部屋に入ってそれを床に置くなり恥ずかしそうな顔になった。

 

 

 

 

 

 

「相談に関わる事なのですが、……ベッドの上で上半身裸になってうつ伏せで寝て下さい。それと着替えるので向こうを向いていて下さると助かります」

 

 うん? 別に良いけれど何すんだろう……。

 

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