英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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遭遇

 同じ呪いを解く魔法でも術者によって解ける範囲の違いがある。だから俺にもツェラシェルにエルファスが掛けた死の呪いは解けなかった。

 

 それと同じでポイズンウェルミスって蛆のモンスターの毒は余程の実力者かドロップアイテムを使った専用の毒消し薬じゃないと治せないとか。

 

「私は急いで薬を調合します。ギルさんにお願いしたいのは大量発生したならば群生地が何処かにある可能性がありますので」

 

「さっさと片付けて犠牲者が増えるのと値を吊り上げられるのを防ぐんだな? 任せておけ、【テレポート】」

 

 床に置いていた服を引っ掴んで即座に出現する階層に転移する。リヴィラの連中とはそれなりにズブズブな関係だけに、商機と見るや費用度外視して薬の材料を集めそうなのは分かるからな。

 

 それで値段に上乗せするんだろ? ダンジョン内部でのポーション販売に響かない様にって気軽に回復魔法を使っちゃいないが、だからって頼んで聞いてくれる連中じゃねぇし。

 

「さてと、見晴らしの良い所で探すとするか。……やべっ。ミアハ達に連絡頼んでねえ。アミッドも大忙しみてぇだし……」

 

 まあ、多分団員の誰かに頼んでくれるだろうし、何処に行くかは伝えてあるからな。

 

 マッサージとアミッドの出汁……じゃなくて残り湯のお陰か体が軽いし、もらった物の分は働かないとな。

 

 

「【スキップ】」

 

 見通しの良い場所から周辺を調べて、死角になっている場所を速度を上げた足で調べる。

 前にオラリオで追いかけっこになった時は道や屋根を壊さない程度に抑えていたが……。

 

「ダンジョン内部なら地面が爆ぜようが崩れようが気にせず走り回れて楽だわ。下手に加減する方が逆に疲れるんだよなっと」

 

 緊急事態だってのに全力で体を動かす事にワクワクしている俺が居た。帰るべき場所、居るべき場所は愛する故郷の我が家だが、オラリオにも大切な相手が増えたし、居心地も悪くないんだよな。

 

 ランクアップしたら俺でもオラリオとノーブルを一瞬で行き来出来ねえかな?

 

「ランクアップには偉業が必要なんだっけか? 一度乗り越えた試練も評価が下がるとか何とか。……単体で国滅ぼせる奴を何体も倒したし世界も救ったし、黒竜とやらでも倒せば良いのか?」

 

 俺のステイタスが一切成長しないのもスキルも魔法も出ないのはそんなのが理由だと最近思っている。

 

 黒竜ってどれだけ強いのやら。竜王と同じだと想定して、流石にフェルムさんに前衛任せたらいけそうだが、お供考えりゃエルファスも欲しいよな。

 

「まあ、どっちにしろ戦闘勘を取り戻さないとな」

 

 久々なんで装着しっぱなしだったアルトロンに視線を向け数度の素振りの後で手近な岩を殴って粉砕する。

 飛び散った破片が視界の彼方まで飛んで行くが、だいぶ鈍ってると再認識させられた。

 

 一年前なら腕が貫通しただけで無駄な破壊はしなかった。実戦だけじゃなく、ちゃんと立ち寄った道場で習って体に染み込ませた動きが出来なくなっている。

 

「俺もタケミカヅチさんに教えてもらえれば良いんだが、力を見せなきゃ教える方だって……おっと、モンスター発見」

 

 遠目に見えるのは武装したリザードマン、しかもダンジョン産じゃない武器と防具だ。少なくても防具を付ける時点で他より頭が良い個体って訳だし……。

 

「厄介だな。うん、下手に強い奴よりも賢い方が面倒だし……」

 

 問題は特殊個体なのか頭が良い新種で他に群れの仲間が居るかどうかだが……。

 

「【テレポート】」

 

 先ずは不意打ちで武器を奪って逃げ出したら追跡、ポイズンウェルミスの群生地の調査も必要だが、厄介な奴を見付けたなら対処しないとな。

 

 

 リザードマンの背後に転移するなり剣の柄頭を蹴り上げて武器を跳ね飛ばす。

 振り返ろうとした所で再び転移、今度は少し離れた物陰に隠れて様子を伺うが、仲間を呼ぶか逃げ出すか、どう出るのやら……。

 

 

「今のは一体何だったんだよ? まさかフェルズが言ってた……」

 

「あっ、喋った」

 

 まさか人魚に引き続き喋るリザードマンに遭遇するなんてな。目もよく見れば理性的でも他みたいに本能で動くモンスターとは別物だ。

 

「うおっ!? そんな所に隠れてたのかよ」

 

「賢そうだったからな。他より警戒すべきだろ? 観察してたら喋ったから驚いたんだが……」

 

 それで声を出して居場所がバレたとか三流喜劇の一幕だな、そんな風に自分で呆れ返る姿にリザードマンは少し驚いた様子だ。

 

 

「なあ、もしかして薬を凍らせたり人魚に出会ったのって……」

 

「ベルゼーヴァ、そう名乗ってる奴の仕業だな。とある帝国の宰相……お偉いさんの名だ」

 

 やべぇ、俺の事を誰かから聞いてるみたいだし、あの人魚にも見られちまってるのを知ってるって事は仲間か。

 

 この時点で言語を使えるモンスターがダンジョンにも存在するのを悟り、少し厄介な事になったと焦った。

 鳴き声と言葉じゃ情報伝達にも作戦にも幅に差があるからな……。

 

 何より外の奴と繋がっているらしい奴の目を気にしなきゃならないのは窮屈だ。俺が好きに暴れられる場所だったのに……。

 

「いや、そもそも俺っちが喋ってるの驚かねえの?」

 

「知り合いに喋るゴブリン三人組とか人間の街で子供と遊んで……いた奴とか知ってるからな。言葉が通じるなら一旦は話し合いを持ち掛けるさ」

 

 今更だよな? 竜とかも普通に喋ってたし。他のティラの娘も喋れたのかは気にしてなかったが、彼奴だけ喋れとは思えないし。

 

「はぁ!? マジかよ、それ!? モンスターが人間の街で暮らしてるってのか!?」

 

「いや、まあ神が人間滅ぼす為の兵士として生み出した特殊個体か神の道具で知性を得た連中とかだったけれどな? 特例特例」

 

 言葉が通じるだけってだけじゃな。ゴブゴブ団も最初の頃は苦労していたらしいし、言葉が通じるだけじゃな。

 

 まあ、それは今は置いておいて今は目の前のリザードマンだ。俺の言葉に半信半疑、何処か羨ましそうにしている辺り、外で暮らしてみたいのだろう。

 

「せめてバイアシオン大陸だったらな。さっき言ったゴブリン達も冒険者として実績積んで復興中の国で王女の護衛していたし」

 

「なあ、それが本当だとして、其処なら言葉の通じる俺っちを、俺達を受け入れてもらえるのか?」

 

「さあ? 彼奴達もそれなりに乗り越える物を乗り越えた結果だろうしな。言葉が通じるだけで分かり合えるなら世界から戦争なんて無くなってるぜ?」

 

 希望に満ちた目をしている所に水を差すようだが、ゴブゴブ団の苦労とかモンスターと人の共存を願ったイオンズさんの努力とか無視して希望をチラつかせるのもなぁ……。

 

「そうか……」

 

 無責任に希望を持たせるのは良くないって思ったから一応言った事だが、思ったよりも落ち込んでるな、此処。

 トボトボと肩を落として何処かに向かう背中に少し罪悪感を刺激され、このままお別れってのもどうかと思うな。

 

 

「その子供と遊んでいたモンスターを説得して共存してたイオンズさんなんだけれど知り合いだし、大陸に帰る方法が分かれば紹介はするから後は頑張れ」

 

 口には出さないが人間と争うって選択肢を選んだ場合……その時は紹介した手前、俺が始末を付ける事になるけれどな。

 

 

 

 

「ところでポイズン・ウェルミス……あー、人間が付けた名前だから分からないか? 強力な毒を使うモンスターの被害が拡大しそうだし、どうせリザードマンじゃないから別に良いって考えで知っていたなら助かるんだが……」

 

 そもそも人間だって周囲から習うのに言葉とか単語とかどうやって身に付けたんだ、そんな考えが浮かぶが、ちょっと思い浮かぶ事が。

 あの赤い髪の女やフィルヴィスは精霊に呪われて何かしらの異変が起きているらしかった。

 

 俺の予想では人間が呪いか何かでモンスターになった上で記憶も弄られている、そんな可能性もあるんだよな。そうじゃないと態々一部の個体に知性と知識を与えたって事になるが、禁断の聖杯の類似品でもあるなら……。

 

 シャリの言葉を疑っちゃいない。敵だが、敵だったからこそ彼奴がどんな奴か分かっているからな。姉貴の代わりに俺達三人を呼び寄せたっつうなら……恐らくそれが関わっているんだろう。

 

 

「そういった気遣いは無用だぜ。俺っち達は普通のモンスターから敵と認識されているからな。あー、それでモンスター自体は知ってるんだが、厄介な奴なんで関わりたくないんで知らねえんだ。……そーいや名乗ってなかったな。俺っちはリドだ。仲良くしようぜ、宜しくな」

 

「おう、俺はギルだ。そっちが敵対しない限りは俺も敵対しねえからな」

 

 要するに敵対するなら容赦しないって意味だが、別に今言う必要はねえし黙っておくか。向こうだって伝わっているだろうしさ。

 

 

 

「おっと、別れる前に頼みがあるんだが、俺っち達みたいに喋るモンスターに会った事は秘密にしてくれ。狙う連中がいるんだよ。……最近は妙に大人しいんだけれどな」

 

 狙ってる連中? 喋るモンスターを飼う奴でも居るのかもな。モンスターを飼ってる連中は何度か見ているし……。

 

 それにエルフだって王族はユニコーンを飼ったりしているんだろう? あれも元々はダンジョン生まれのモンスターだし、案外普通の嗜好なのかもな。

 

「無闇矢鱈と吹聴する気は無えから安心しな。その連中ってのに目を付けられるのも面倒だし」

 

 ……その連中を敵と見做した時は誘き寄せる為に口が滑るかも知れないが。

 

「喋る珍しいモンスターからレアなドロップアイテムが出るとかで狙ってるって可能性もあるけれど、どうもキナ臭いんだよな」

 

 戦争を体験した身からすれば、言葉が通じるからって理由で敵対を躊躇う事も敵対する奴を止める気にはならないが、文字通りに言葉が通じない相手よりはマシだろう。

 

 冒険者は自分の意思でモンスターの巣窟に足を踏み入れ、モンスターを殺して得た金で暮らし、モンスターを殺す事で素材や金を稼いで装備を整え、モンスターを殺した経験値で強くなり、モンスターを殺して得た魔石を使った道具で快適に暮らしているんだ。

 

 そこら辺はちゃんと自覚すべきだ。……こうして話した時点で縁が結ばれたリドには少し肩入れしそうだがな。

 

 

 

「さてと、適当な相手と少しやりあいたいんだけれどな……うん?」

 

 リドと分かれて少し経った頃、そんな風に呟いていた俺の視線の先には……。

 

 

 

 

 

「俺達のせいですまん……」

 

「謝らなくって良いですよ、桜花さん。それより命さん達も無事だと良いんだけれど」

 

 俺はカシマ・桜花、タケミカヅチ・ファミリアの団長をやっている。仲間のランクアップもあって中層に進出したは良いが、成長したという自負を叩き潰す程の地獄だった。

 

 漠然と数で襲ってくるのではなく、群れとして機能する戦い方をするモンスター達が休む暇も無く襲い掛かって来る中、仲間の一人がアルミラージの投げた石斧を受けてしまい、逃走を開始した。

 

 当然、モンスター達は素直に逃してはくれない。戦っていた時よりも背後から迫るモンスターの数が増え続ける中、先の通路から誰かが戦っている音が聞こえた。

 

 その時に浮かんだのが怪物進呈(パス・パレード)。俺は見も知らぬ連中よりも仲間の命を優先し、モンスターを押し付けようとしたんだ。

 

「ベル!?」

 

 だが、通路の先に居たのは最近知り合ったばかりだが共に訓練を重ね、先日ランクアップを祝い合ったばかりの相手だ。

 

「悪い。巻き込んだ。お前達、逃亡は中止だ。迎え打つぞ!」

 

 ベルの仲間の二人の内、一人はサポーターでもう一人の力の程は分からないがベルが加われば何とかなる……そう油断した所で天井からの大量出現による崩落に巻き込まれ、その結果として四人揃って縦穴へと落ちてしまった。

 

 

 荷物の多くも失い帰り道も分からない中で選んだのは縦穴を利用して十八階層まで向かって何処かのパーティに同行させてもらう事だ。

 

「ベルは確かリヴィラには行った事があるんだったか?」

 

「うん。ランクアップ後の慣らしの為にってギルが中層に連れて来てくれた時に。ギルがリヴィラに居てくれたら直ぐに帰れるんだけれど……」

 

 幸い、俺もベルもランクアップしている前衛、ヘルハウンドの炎もヴェルフの魔法での対応が有効で、リルルカが持ち込んだ強烈な臭気を放つ道具も二個あるので何とか持ちそうだ。

 

「経済的に余裕があると時間も余裕が有るとアミッド様がドヤ顔で三個下さったのは良かったですが、鼻にティッシュを詰め込んでましたよね」

 

 俺達も鼻が痛くなる程の臭気だ、暫くは体に染み付きそうだなと少し呑気な事を考えそうになるのを振り払う。

 これだけの臭いでモンスターを避けていようと近くで生まれた奴には関係無いし、全く寄って来ない訳でも無い。

 

 曲がり角から聞こえる唸り声と二足歩行の足音が三つ。臭いのせいで苛立った様子の瞳が三対俺達を睨み付けた。

 

「ミノタウロスが三匹……」

 

「やるしかないか……」

 

 俺にとってミノタウロスの相手はこれが初戦、それでも頭の中では何度も反復して戦い続けた相手だ。故に怯えはない。

 同様に他のモンスターとの連戦を突破した末に強化種さえも討ち果たしてランクアップしたベルも同様だ。

 

「先ずは足を潰すぞ。後衛に襲い掛かられればジリ貧だ」

 

「うん。咆哮(ハウル)や他のモンスターの横槍にも警戒しないとだね」

 

 目配せして先に狙う相手を伝え合う。さてと、油断は禁物だが負ける気はせんな。

 

 

 

 

「有ったぞ、縦穴だ!」

 

 物資も予備の装備も最低限の状況でたどり着いた十六階層、この次の階層さえ越えれば目的地であるリヴィラまであと少し。

 目の前の穴が十七階層のどの辺りに繋がっているのかは分からないが、宛もなく階段を探してさ迷うよりは希望が見える。

 

「モンスター避けのアイテムも残り一個か……」

 

 俺とベルも前衛を張っている事で疲弊しているが、未だランクアップしていない二人の体力も限界が近いだろう。巻き込んだのは俺だ。

 もしもの場合は俺が……。

 

 

 

 

 

 

 

「な、何とか到着したね……」

 

 そんな風に覚悟を決めていたんだが、あの後はあまりにも順調に進んで行けた。

 階層主であるゴライアスの出現も不安だったが、インターバルの終了までに何とか通り過ぎ、到着した十八階層で何とか安堵する。

 

「食いもん目当てにモンスターが来る事もあるんだろ? さっさと街まで行こうぜ」

 

「ですね。リリも一休みしたい気分です。ですが……」

 

「金が問題だな……」

 

 ギルから聞いた話ではリヴィラの店はとんでもないボッタくり。倒したモンスターの魔石やらドロップアイテムを邪魔にならない程度に服に包んで持って来たが足りるかどうか……。

 

「ギルの知り合いって事でツケ払いは……無理だよね。大手ファミリアでもない限りは……」

 

「そうですよね。それこそヘファイストス・ファミリアでもない限り簡単には……」

 

「いや、流石に俺みたいな下っ端だと無理だと思うぞ?」

 

 完全に気を緩めている訳ではない。怪我人を抱えて地上へと向かった仲間達も心配だが、それでも大きな死線は越えた筈だ。

 リヴィラを目前にして他の階層から来たモンスター達にやられるなどとはならぬ様に慎重に進む中、ベルが水辺の方に視線を向けて首を傾げた。

 

 

 

 

「あれ? 前に来た時より水晶の数が……」

 

「おーい! そこに居るのはヴェル吉ではないか。何故お主がこの様な所に居るのだー?」

 

 ヴェルフは嫌そうな顔をしたが知り合いらしい。これは共に帰ってくれる相手が見付かったと考えて良いのだろうか?

 

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