英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

43 / 58
協力

 ゴリゴリと慎重に薬剤を潰して粉末状にし、秤に乗せて量を調節する。普段よりも若干ばかり緊張と慎重さを増した表情のナァーザによる新商品開発は佳境を迎え様としていた。

 

「……ん。多分これで大丈夫。後は試せば良いだけ」

 

「新薬をですか。では、新米の私めが……」

 

 この日、ミアハには団長の自分が調合を教えると二人っきりになったナァーザだが、別に今まで女性客を追い返して来た時の様にミアハから女を遠ざける意図は無い。

 

 いや、異性への耐性が皆無の春姫から男を遠ざけるという意図があった。

 今では黒字経営にまで業績が回復したものの薬師を目指してオラリオに来た者ならば別のファミリアに行くのは当然で、ファミリア関係者でもなければ調合のレシピにまで関わるのだから臨時の店員も雇えない。

 

 かつての栄光を取り戻す、とまでは行かなくても商売の拡大を目指すナァーザにとっては人材の教育は欠かせない。

 ミアハには異性としての好意を向けていないのも高得点だ。

 

 そんな中で今し方完成したばかりの新薬。詳しくは聞かされていないものの試すのならば自分が飲んでも問題無いのであろうと考え、役に立とうと立候補した春姫であったが、ナァーザは手でそれを制して首を横に振った。

 

「出来ればミアハ様に試してもらった方が良い。いや、彼の方に飲んでもらいたい。だって、これは……精力剤」

 

「精力ざっ!?」

 

 経験こそないが妄想と知識だけはある春姫は一瞬で意図を理解して顔を真っ赤に染め上げた。

 アイシャやイシュタルが見れば鼻で笑うか額に手を当てて呆れるかの有様だが、ナァーザの反応は違う。

 

「大丈夫。春姫がギルに飲ませる分も作ってあげる。被験者は多い方が効果を実感しやすいんだ。神も歓楽街に通う以上は性欲がある。でも、ミアハ様はその手の店に行かないし、発散させる為の本も持ってない。……多分」

 

 神は眷属を子供と呼ぶが、ミアハやタケミカヅチが向ける愛情は正にそれ。

 未だ育てた孤児への扱いがそれなタケミカヅチなら分かるものの、自分への扱いがそれなのは気に入らないナァーザだったよ

 

「せ、せい、精りょ……」

 

「アミッドに一本でもリードする為。ギルはもう二人とも付き合えば良いと思うけれど、序列は大切」

 

 仲間の恋を応援している風に聞こえるが、実際は支援と自分の利益の為である。

 自分の義手の代金でファミリアが落ち潰れたが、その借金の取り立てに同行するアミッドの目的は察していた、同じ相手に好意を寄せる故に気が付いていた。

 

 恋とまでは行かなくとも安らぎを求めていたのだし、ギルの方に矢印が向かったのならば戻って来ない様にくっ付けば良い。

 それはそうとして仲間になった春姫の応援はしたいし、間近でイチャイチャしていればミアハもその気になるであろうとの考えだ。

 

「多分億年生きててそっち方面の役にタッた事がないだろうから変化を齎せる。そっちはそっちで頑張って」

 

「は、はい! ナァーザ様のご厚意は絶対に無駄には……」

 

 これ以上は声に出ない姿を見てナァーザは悟る。多分上手くは行かないだろう、と。

 

 自分の今までミアハへの想いが空回りしていた事を棚上げしたどの口案件の恋愛ポンコツ弱者である事をガン無視である。気が付いてさえいないかも知れない。

 

 

 

「悪い事にはならないだろうけれど。……多分」

 

 それではミアハにどうやって飲ませるか。疲労回復や滋養増強とでも本当の事だが本命は伏せて渡そうか、その様に考えていた時に慌ただしい足音が聞こえて来た。

 

 突如扉が開いて入って来たのは一服盛る対象にされているミアハだったが、当然ながらその様な事を想像すらする事もなく、只々ナァーザが平静を装いつつも内心では冷や汗を流す中、その表情は緊急事態に対する焦りを浮かばせていた。

 

 

「大変な事になった。どうやらベル達がタケミカヅチ・ファミリアの桜花と共にダンジョンで緊急事態に遭遇したらしい。……使いの者が知らせてくれたが、ヘスティアからギルに救援要請が出たのだ。私はディアンケヒト・ファミリアにギルを探しに行ってくる。店番は頼んだぞ」

 

「ミアハ様、何か気になる事でもあるの?」

 

 急ぎの事態だと分かっている筈の相手に対する呼び止め、ナァーザがしたそれはミアハから感じ取った疑念や訝しさに起因する物。

 ただ知人が危険な目に遭っているだけではない、そう思わせる何かがあった。

 

 

「知らせに来たのはヘルメスの所の子達なのだが、どうも様子がおかしいので問い質せば一人が漏らしたのだ。曰く、ヘルメスから私達への連絡は遅らせろと言われたが、とある者達に脅されて慌てて来たらしい」

 

 その者達が誰なのかはキツく口止めさせられていたらしいが、ヘルメスの思惑がきになると呟いてミアハは急ぎ足で店を出て行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっはっはっ! モンスターを押し付けられそうになったが、仲間の知り合いだったので共闘していたら縦穴に落ちてしまったと。不運だったな、ヴェル吉」

 

「うっせぇ。それよりも滞在費なんだが……」

 

 十八階層で出会ったのはヴェルフが苦手とする団長の椿・コルブランド。普段のごとく絡んで来る相手を振り払えないのには理由があった。

 リヴィラでの滞在に関わるツケ払い、本来なら下級冒険者や零細ファミリア所属の一行では無理なそれだが、椿ならば十分な信用がある。

 

 もし一行が大怪我をした状態でアイズ達に保護されたならば、仲間を抱えて此処まで来た事やミノタウロスの件も合わさって夜営地に招待されたのだろうが、上級冒険者が二名で重傷者も居ないのならば、精々が遠征に同行した鍛冶師達と同じファミリア所属のヴェルフが精々といった所。

 

 それはエルフも派閥の仲間も苦手な彼が自分だけ、そんな選択肢を選ぶ筈もなく、此処まで集めた物を担保に椿に借金をする形でツケ払いを頼む事。

 後はロキ・ファミリアの帰還に同行させてもらう事だが、こっちの交渉も彼女に任せる事になるだろう。

 

 

「別に良いぞ。そこの白髪頭も一度は修練に協力してやった仲であるしな。ロキ・ファミリアの連中やウチの団員の多くが毒で参っているが既に治療薬の調達に向かった者が居るので明日には帰還が叶うであろうな」

 

 酒を調達しに行くついでに街まで送ってやろう、そんな風に快活に笑う椿に漸く一同は安堵して、緊張の糸が切れたのか一番ステイタスの低いリリ等は膝から崩れ落ちてしまう。

 

「おっと。お主達も限界近いだろう? 運ぶのは任せてついて来い。最近はギルの運搬で食材も酒も豊富になったからな。流石に地上ほどではないが。ああ、そうだ。金を貸してやるのだし、酒盛りには付き合うのだぞ、ヴェル吉」

 

「げぇっ!? ……運び屋が来てねえかな。そうしたら借金なんかせずに帰れるのによ」

 

 こうして一旦は死線を乗り越えた一行は緊張の糸が切れた事で一気に押し寄せる疲労感に耐えつつも椿の先導に従って宿へと向かって行く。

 半分意識が朦朧とする中、水辺を生み出す水晶が地中より僅かに競り上がった事に気が付いた者はこの場には居ない。フィンだけは親指の疼きに悩んでいたが、毒に苦しむ仲間を前に迂闊な行動にも出られず、今は治療薬の到着を待ちわびながら警戒を強めるだけしか出来ない。

 

 

 そんな彼の天幕を少し困った様子のリヴェリアが訪ねて来た。

 

「やあ。リヴェリア、解毒は順調かい?」

 

「いや、流石に私では簡単に行かんさ。それで厄介な事なのだが……ベルゼーヴァが毒の治療を申し出しに夜営地までやって来て、団長であるお前の返事を聞きに来ている」

 

「……は?」

 

「それも何故か猛者(おうじゃ)と共にな。軽く手合わせをするから第三者として観戦して意見が欲しいとの事だが……どうするのだ?」

 

 例え治療薬が届く予定であっても現在苦しむ者が多いのであれば、毒の治療を多少の借りを作ってでも、その様な判断も、帝国やらとフレイヤ・ファミリアと必要以上に関わるリスクを天秤に乗せ、更に先程から強くなり続ける疼きにどう動くべきか重い選択肢がのし掛かる。

 

 

 

「彼の魔法って心因性の頭痛や胃痛にも効くのかな?」

 

「さあな。……効けば良いのだが」

 

 救いの手と共に持ち込まれた厄介な案件に頭痛を覚える二人。取り敢えずガレスも巻き込み、彼も交えて判断を下そうと、道連れを求めて天幕を出る二人であった。

 

 

 

 

 相棒と呼ぶには充分な付き合いであるアルトロンを久し振りに身に付けて、岩を殴ってみたら予想以上に感覚のズレがあった俺を襲ったのは焦燥感だ。

 シャリが世界を救う為に姉貴を呼びたかったと口にする案件を前にして、鈍りに鈍った感覚を取り戻したい俺の目の前に現れたのはオッタルだった。

 

 

「お前もダンジョンに来ていたのか」

 

 どうやら長期間ダンジョンに潜る気なのか大荷物を背負った状態で大剣を振るって邪魔なモンスターを薙ぎ払っている。

 目の前のモンスターを邪魔な岩と一纏めに粉砕し、刃に付いた物を剣を振るって落とした所で俺の方を向くが、何か期待している目だし手応えのある所まで送って欲しいのか?

 

「ポイズン・ウェルミスの大量発生の調査でな。群生地が何処かにあると思ってたんだが見なかったか?」

 

「いや、見ていないな。成る程、忙しいのなら仕方無い」

 

 コミュ障な所がある奴だが道理が通じない奴じゃないし、俺が相手をしている暇もないと分かったのか少し肩を落とした程度で先に進もうと背中を向ける。

 別に送る必要も無いし、このまま見送っても良いんだがな。今は俺としても丁度良い。

 

 

「なあ、俺も久々に拳術の稽古をしたくってさ。ちょっと相手をしてくれねえか? 生憎、俺の拳術はフェルムさんには程遠いがな。十秒少し打ち合うのが精々だ。魔法さえ使えば話は別だがよ」

 

 あの人と近接戦? 無理無理、間近でヨーイドンじゃ勝てねえって。

 

 

「十秒持つのか……。それと、その言い方だと別の戦い方なら彼女と並べる風にも聞こえるが合っているか?」

 

「当然。俺は本来後衛だぜ? 最低限自分を守れる程度でしかねえよ。それで協力して……聞くまでもねえか」

 

 返事の言葉は無いが、その代わりに闘争心をバリバリに滾らせた獰猛な瞳を俺に向けて来ている。俺程度の話を聞くだけでこうなってるんだ。

 姉貴の強さを目にした場合は一体どうなるんだよ、このオッさん。

 

 まあ、今はその位が有難い。相手は現役バリバリの戦士、近接戦闘術はオマケ程度の俺とは武器を振るう事に費やした時間が違う。

 勘を取り戻す為の相手には十分だろうさ。

 

 

「しかし、良かったのか? 俺ではなく彼女に相手をしてもらった方が良いだろうに」

 

「そりゃアンタより強いんだろうが、フェルムさんは給仕としての日常を選んだんだぜ? 給仕の姉ちゃんと戦士のオッさんなら後者を選ばなきゃ駄目だろ?」

 

「……道理ではあるな。俺達も同様の理由でフレイヤ様から挑む事を禁じられている。無論、されていまいが大敗を期していながら即座に挑む程に未熟な者はいない。それぞれ自分の力を見直している所だ。……所でオッさんとは俺の名前と年齢の……いや、言わないで良い」

 

 そりゃ倍以上生きてる三十代に十代がオッさんって言う理由は他に無いだろ?

 一応オッタルだからあだ名っぽくはなったけれどよ。

 

「あんたのファミリアではあだ名で呼ぶとかねえの?」

 

「先日、自主的にパーティを組んでダンジョン探索へと向かった。普段は襲われるだけなのにな。……その間も基本は脳筋としか呼ばれなかったが……」

 

「リーダーの資質って戦闘力だけじゃないって典型的な見本だな」

 

 各々の夢を持った連中の集まりじゃなく、女神の寵愛を欲する個人が同じ組織に所属しているだけなのがフレイヤ・ファミリアだって話だからな。

 

 つまり実力で選ばれたからって団長に敬意は無いし、寧ろ立場上主神の近くに居るから目障りですか、そうっすか。

 

 えぇ……:

 

 

「それじゃあガリバー兄弟みたいに身内で所属してる連中以外は互いにアドバイスとかしてねえのか。ベルが神タケミカヅチから指南を受けてるみたいなのを派閥内部で……」

 

「俺が入った頃から今もそう変わらん。……先代団長のミアは美味い飯を作ってくれたから従えられてはいたのだが。誰かの助言や指南を受ける、か。俺の立場では難しいだろうな」

 

 聞けば襲われたのを撃退した後に一言告げる事はあってもオッタルが受けるのは罵詈雑言位だとか。

 

 それを語る時に少し気落ちして見えたが、嫌われ者がリーダー任されるって大変だよな。反骨で下が纏まっているって訳でも無いし、そもそもオッタルに助言が出来る実力や経験の持ち主っつったら……。

 

「ロキ・ファミリアは敵対派閥だし、武神の類いに繋がりもないだろうしな」

 

「俺に指導を授ける事で狙われる可能性を考えれば生半可なファミリアには依頼も出来ん」

 

 面子とか関係性が個人の問題で済まないってのは厄介な事だ。まるで英雄の動向に勢力が反応して大勢に影響が出るみたいに、世界の中心とされるオラリオで最強の冒険者には注目が集まるからな。

 

「俺の面子など女神の命令を遂行する為ならば幾ら潰れようが構わないが、力不足を理由に女神の顔に泥を塗る事はあってはならんからな」

 

 それでも、と言葉を途中で切ってそれ以上は語らないが、予想はしている。フェルムさんと戦って圧倒された事が悔しいと同時に嬉しいんだ。

 最強と称され横に並ぶ奴が居なかった所で不意に現れた圧倒的な格上の存在に挑めるってシチュエーションがさ。

 

 出会った時よりも目がギラギラ輝いて見えるオッタルの姿に少し共感する。

 隣の家の畑の方が収穫量が多いとか、兄貴が耕した面積の広さが俺より上とか色々あるんだよ。

 

 幾ら神すら倒して世界を救う力を持っていようが、農業関連の事は敵わない相手がいる。肥料の調合なのか間引きの見極めなのか、ベテラン農夫の方がずっと上だからな。

 

「勝ちたい相手がいるってのはよく分かる。俺もそうだからな」

 

「そうか。ならば急いで調査を進めるとしよう。二人で探せば早い」

 

「あっ、うん」

 

 俺が魔法を使って探した方が効率良いから其処迄変わらないんだけれどな。

 善意だし指摘しづらいから黙っていよう。

 

 まあ、ドロップアイテム集めは手が多い方が良いしな。

 

 

 

「……農作業してたら嫌でも虫とは関わるんだが、こうも集まると嫌になるな」

 

 俺達が少し高い場所から見下ろす先には目当てだったポイズン・ウェルミスの群生地。

 巨大な蛆が蠢きながら密集する姿には生理的な嫌悪感を覚えて仕方が無い。

 

「毒が厄介だな。俺でも喰らえば全くの無事とまではいかん」

 

「うぇ。」

 

 一応ドロップアイテムを集める為に瓶は持って来たし、此処で倒してしまいたい。

 オッタルも嫌そうにしながら剣を構えるが、やってもらいたい仕事は戦闘じゃないんだ。

 

「取り敢えず俺が魔法でぶっ飛ばすな」

 

 散らばられても面倒だから広範囲魔法で、炎やら闇やらはドロップアイテムすら余波で消し飛ばす可能性があるから却下。

 なるべく四散しない魔法といえば……。

 

「【クエイク】」

 

 これだよな、うん。隆起した岩はポイズン・ウェルミスを押し潰して魔石すら砕き、灰の中に粘つく体液が残っている状態だ。

 

 

「掬う道具は持って来たから集めるの手伝ってくれ」

 

 倒すより集める方が大変そうだな、これじゃあ。まあ、オッタルが手伝ってくれたって言えば納得するだろうし、アミッドも喜ぶだろうな

 

 

 

「取り敢えず飯時だしリヴィラで飯食ってからにしようぜ」

 

 集めるだけ集め、次は戦う時間だがちょっと腹が減った。それはオッタルも同じなのか腹が鳴るのが聞こえて来ていた。

 

「ああ、その方が良いだろう」

 

 こんな風に意見が一致した事もあり、観戦者探しは今度にしようって事になり、一旦向かったのはリヴィラの街。

 但し、俺は事前にちょっとするべき事があった。

 

 

 

「……その格好は趣味か?」

 

「この仮面とフードの時はベルゼーヴァって呼んでくれよな。それと話し方もヘグニみたいなのに変えるからな」

 

「そうか……」




オマケ 、別の考えようか



ロキルート 原作での遠征中 オラリオでのリューさん

フレイヤルート アレンが苦労する アイズも惑う

カーリー 平和
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。