英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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給仕

「一体どうなっている? 此処最近、ダンジョンが何度も鳴いている。まさか私の祈祷が遂に届かぬ様になったのだろうか……」

 

 ギルド内部祈祷の間にてウラノスはダンジョンの異変を察知し僅かに戸惑いを見せる。バベルによってダンジョンに蓋がされて早千年、保たれ続けた均衡を崩す事態が立て続けに起これば如何に神時代の始まりから地上に居た彼でさえも心を乱す。

 

「いや、違う。これはダンジョンに神が入ったのか……」

 

『ソノ事ニツイテ報告ガアル。最近ノ事態ヲ考エテバベルニ付ケタ見張リガ神ノ侵入ヲ発見シタ。ヘルメスガ主犯ノ様ダガ、モウ一柱居ルミタイダ』

 

「ヘルメスか。何を考えているのやら……」

 

 これ以上は何も起きなければ良いが、その様に願うウラノスだったが、既に異常は起きていた。

 黒いゴライアスが破れた後、ダンジョンがその機能を失ったかの様にモンスターを産まなくなったのだ。

 

 但し、異変が起きたのは大樹の迷宮以降。それより上では何事もないかの様に普段通りの顔を見せている。

 まるで黒いゴライアスが破れた事で入り込んだ神の抹殺を諦めたかの様に。

 

 

 

 

「成る程な。神タケミカヅチの眷属が十八階層まで……ふむ」

 

 本来生まれない筈のモンスターが生まれたってんでリヴィラの方も少しだけ騒がしくなる中、魔法で全回復させたオッタルと俺は適当に茶を飲みながら駄弁っていた。

 

 目的は果たしたし即座に帰っても良いんだが、椿にアルトロンを見せてくれって凄い勢いで迫られて渡してしまったんだ。

 

 オッタルも武器を失ってしまい一旦帰るしかないんだが、往復半日も掛からないこの場所に留まる理由はフレイヤお気に入りのベルに……正確にはその師匠の一柱であるタケミカヅチさんの技に興味が湧いたらしい。

 

「自分が地上までの同行を申し出て、その代償って形で武神に教えを乞うってんなら諦め強く方が良いぜ」

 

「よく分かったな。俺はそんなに分かりやすいのだろうか……」

 

 そもそもベルの話題になった途端に技がどうとか、武神はどの様な修行を、とか色々と喋ってたんだ。

 それで眷属が迷い込んで困っているって聞いた時の反応を見れば大抵分かる。

 柵があって教わりたくても難しいって言っていたからな。

 

 

「あくまでも偶然生じた貸し借りを無くすという口実があればいけると思ったのだが駄目なのか?」

 

「ヘファイストス・ファミリアの団員も居るからって遠征に参加した団員と一緒に同行させてもらう約束を団長が結んだからな。そこに首は突っ込めないだろう?」

 

「そうか。フェルムに勝つには生半可な方法では無理だと思っての事であるが。……フェルムといえば、あの少女は更に笑う様になった。実に楽しそうで幸せそうに見えるそれを良しと考えない者も居るが……」

 

「生まれ持った立場に相応しき振る舞いをしなければ、その人が汚れてしまう。それを防がねば、的な? 王侯貴族も立ち振る舞いには五月蝿く言われるそうだが、何処も大変だ」

 

 オッタルは忠義で動くタイプだ。そして盲目的ではないから諌める時は諌めるタイプ、アレンはそれを強烈にした感じってのが俺が持った印象だが、だからこそオッタルは迷っている。

 

 ちょっと違うかも知れないが、夢を追う子供を応援するか堅実な道に進ませるか、どっちも親の愛としては正しいんだろうさ。

 俺は親の顔とか知らないし、レムオンも弟を自由にさせてはいたけれど考古学について応援していたって訳でもなかったな。

 

「愛情も忠誠も人それぞれだ。俺がとやかく言うべき事でもないからな」

 

 迷った挙句に後悔はするなよ、そんな風に話をしていたらいつの間にか夜の時間帯にまでなってしまった。

 さてと、どうするかね……。

 

 心配なのはダンジョンで起きた異変。冒険者なんて自己責任が付き纏う職業だし、リリルカ以外は自分で選んだ道だろう?

 じゃあ何処で何時死んでも仕方が無いんだが、さっきの奴は俺が使った神聖属性の魔法にダンジョンが反応したのではってのがフィンの予想だ。

 

 仕方が無いので一日だけ滞在して様子見だ。アミッドやミアハ達には悪いけれどな。

 

「お前は送ってやらんのか? 素顔を晒して今来たとでも言えば良いだろうに」

 

「何かあれば命の危機が待ち受けて、助かったにしても窮屈な思いをしながら同行させてもらう。そんな経験も冒険者には必要だろう? 社会勉強って奴さ」

 

「そうか。ならば同業者の悪意も学んでおくべきとは思うが……」

 

 ベルは一度俺に連れられてこの街に来てはいるし、ボールスとも顔見せはした。

 金の亡者で現実主義者が此処の住民だが、だから一定の繋がりってのも利益がある内は大切にしてくれる。

 

 だから俺の知り合いって事で住民連中は良いとして……。

 

「今は椿が関わってるから気に入らなくても手は出されないとして、今後別口で来る時に会えば……」

 

「世界最速でのランクアップに偶然とはいえ十八階層までの到達。中途半端に自信のある者からすれば気に食わんだろうからな」

 

 まあ、それも目立つ奴の宿命って奴だ。姉貴が濡れ衣着せられたのも名を上げて目立ってたからだし。英雄を目指す為には多少以上に無理してでも急成長しなくちゃならなくって、その速度が遅い奴や停滞している奴からすれば急成長する奴なんて気に入らないものだ。

 

 どんな物を幾ら積み上げたかも気にせずにな。次回辺りに多分何かが起きるんだろうと思っていた時、遠くから聞こえていたゴライアスの叫び声が消え去る。

 それを消し去る程の轟音が十七階層からの通路から被さって聞こえた事で。

 

 

「……は? いや、まさかな……」

 

 轟音が響く直前、ゴライアスの叫びは威嚇ではなく恐怖からの物に聞こえたが、階層主を怯えさせ悲鳴を上げさせられる存在なんて限られている。

 ロキ・ファミリアが未だに夜営地から動いていない以上はフレイヤ・ファミリアの幹部連中か、それよりも上の……。

 

「うん、まさか立場上は……無いよな」

 

 まさかと何度も連呼して頭に浮かんだ予想を消し去る。幾ら何でも心配が過ぎるって奴だよな、全く。

 

 

 

 

 

 ダンジョン外とダンジョン内部のモンスターの強さは余りにも違う。それこそダンジョンの下層に出現するモンスターでさえ魔石を分け与え続けた事で上層のモンスター程度の強さしかない程度には。

 

 それと同じく恩恵の有無やランクアップの回数は戦う力において別の生物でさえある程の物……なのだが。

 

「行きますよ!」

 

 嘆きの巨壁前にてゴライアスと対峙するのは恩恵を持たず、手にフライパンを握りしめただけの女。

 英雄譚の中で怪物に無惨に滅ぼされる村の一描写か間一髪で英雄に救われる存在。

 

『グ、グォォ……』

 

 だが、恐怖に顔を歪めるのは彼女ではなかった。

 

「あっれぇ? アスフィ、俺の目の錯覚かな? ゴライアスが怯えてない? 後退りしている様に見えるんだけれどさ」

 

「驚く事ですが現実です。彼女、フェルムでしたか? 此処に来るまでも力の一端は見ましたが、一体何者でしょうか……」

 

 怯える巨人にフェルムが更に一歩近寄ると完全に狂騒状態に陥ったのか、駄々っ子の様に腕を振り回しながら向かって来る。 

 

 この時、リューの目でさえフェルムの動きは捉えきれなかった。動くと思った次の瞬間にはゴライアスの懐に潜り込んで伝説のフライパンを振り抜いていて、ゴライアスの強靭な肉体は魔石と共に粉砕した事により灰へと変わる。

 

 伝説のフライパンを振り抜いた時に発生した風圧は灰の一粒すらもフェルムより後方へと降りかかる事を許さず、何が起きたのか歴戦の冒険者であるリューにすら把握させないまま着地した彼女は振り返った。

 

「……ギガースと同程度でしょうか? じゃあ、行きましょう皆さん。十八階層に来ていると良いのですが……」

 

 ゴライアスの討伐はロキ・ファミリアなら数分以内で終わるが、それはあくまでも単独ではなく集団戦による物。

 だが、目の前の相手はそれを五秒以内に成し遂げた。

 

 汗一つ掻かず、息一つ乱さずに。

 

「これは計画の練り直しが必要かな?」

 

 ヘルメスは誰にも聞こえない様な小さな声で呟く。何処で計画が狂ったのかと思い直すのは救出隊の結成前、既に知り合っていた事でダンジョンを脱出後に二手に分かれた命がヘスティアのバイト先まで向かった時の事だった。

 

 

「申し訳御坐いません、ヘスティア様。私達のせいでベル殿達が……」

 

「桜花君だって戻らないんだろう? なら謝るよりも助けに行く方法を考えるのが優先だよ」

 

「そうですね。ギル殿ならば……」

 

 緊急事態だとバイトを切り上げて助けになってくれそうな相手の元へと急ごうとしたヘスティア達だが、それを横から掛かって来た声が呼び止めた。

 

「彼ならギルドの依頼でオラリオから出ているぜ? どうも唯ならぬ事態みたいだが、俺が力になろうかい?」

 

 全てはこの時代の英雄の誕生の為。ベルの祖父であるゼウスから彼について聞かされていたヘルメスの目的は見定めの為。

 即ち、ベルが英雄の器か否かを調べる事が目的だ。

 

 今動かせる命とアスフィだけでは戦力不足だと救援を求めたのは豊穣の女主人。

 此処の従業員でありLv.4以上の誰かを借りられれば助かるとしたヘルメスだったが、シルの頼みで動いたのはリューとフェルム。

 

「お待ち下さい。ただでさえ神二名を守る必要があるのにこれ以上は……」

 

 恩恵を持たないという彼女がダンジョンに向かうのは危険だとしたアスフィは当然反対するのだが、それを止めたのはリューの言葉だった。

 

「安心して下さい。彼女は店の誰よりも強いです」

 

 一般人である筈のフェルムがL v.4よりも強いのだと、神でなければ嘘だと断じて信じない言葉によってフェルムの加入が決まり、立ち塞がるモンスターの九割以上を命の目では追えない動きで叩き潰しながらダンジョンを進んで来た。

 

 フェルムという戦力もあって一般人程度の力しかない足手纏いの神達を背負って進む余裕もあり、想定よりも早く十八階層に到着した一行。

 時刻はすっかり夜になっており、リヴィラの街だけが明かりを放っていた。

 

 

「じゃあ、一旦街まで行くとして……ヘルメス様、先程おっしゃっていた計画を変更って何の事ですか?」

 

 フェルムは普段通りに人に良さそうな表情のまま振り返っただけで声色にも何一つ妙な物など有りはしなかった。

 

「い、いやぁ、こっちの話さ。気にしないでも大丈夫だよ」

 

「そうなんですねごめんなさい。少し前に大義を振り翳して酷い事をするエルフさんに会って。その方が少しヘルメス様と雰囲気が似ていたもので」

 

 それでもヘルメスが感じ取ったのは命の危機。不老不死である筈の自分に死を意識させる程の何か、今の力を封じた状態ではなく全知全能状態の自分にさえ届きうる牙を持った存在が目の前に居るのだと嫌でも思わさせられる。

 

 

 

「リ、リューちゃん。あの子って君達より強いって言っていたけれど、そんなレベルじゃないよね? 間違い無く第一級以上だと思うんだけれど……」

 

 圧力は一瞬だけ、それでもヘルメスを小刻みに震えさせるには十分だ。余裕ぶった笑顔を浮かべていても見るからに余裕の無い神に対してエルフはいたって普通、何を今さらとでも言いたそうな顔だった。

 

「言いましたよ? 店の誰よりも強いって。軽い鍛錬の筈が誰も敵わず、少し気まぐれを起こしたミア母さんさえも歯が立たなかったのだから間違いではないでしょう?」

 

 平然と答えるリューだが、ミアはフレイヤ・ファミリアの元団長。それが歯が立たないという事はつまり……。

 

 

「あは、ははは……。これは大人しくしておいた方が良いのかな……?」

 

 シルのお気に入りのお友達、そうは聞いていたのでただ者ではないと思っていたが、藪をつついて出て来る蛇を観察しようとしたら強化種のバロールがフォモールの群れを引き連れて出て来てしまった、そんな気分だった。

 

「ヘルメス様、ロキ・ファミリアの野営地が彼方にある様です。ヘファイストス・ファミリアの団員も遠征に参加しましたし、何か知っている可能性もあります。行ってみましょう」

 

「そうだね、行こう! さあ、行こう!」

 

 込み上げて来る恐怖から逃げ出す様にヘルメスはアスフィが指し示した方へと向かって行く。

 

 その背中を追う者達の反応は様々だ。ヘスティアは恩恵も無しにその力を得た事に素直に驚きながらも感心し、何処か価値観が狂ったリューはヘルメスに呆れた様な視線を向けつつ、諸事情でお尋ね者になっているので一旦離れる。

 

 

「え? いや、普通に考えておかしくはないですか!? 恩恵を持たぬ方が第一級冒険者以上の力を持つとか……」

 

 そして感性が一番マトモだった命だけが戸惑いつつも後を追うのであった。

 

 大抵の場合、常識を捨てられない真面目な者が損をする事が多い。そう、アスフィがヘルメスによって毎月ストレス溜め放題になっている様に。

 

 

「ヴェル吉達なら街の宿屋で休んでおるぞ。流石に野営地に泊めてくれとまでは言えなかったのでな。手前が宿や薬の代金を立て替えてやったのだ」

 

「ベル君達は無事なんだね! 有り難う、椿君!」

 

「しかしグータラが理由で追い出された様な自堕落者が眷属の為にダンジョンまで来るとはな」

 

 ロキ・ファミリアの野営地に到着したヘルメス達だが、神とはいえ他所の派閥所属の者が素直に通される訳には行かない。

 これがベル達が保護されていた上で探しに来た一行と合流したならば話は変わったのだろうが。

 

 だから偶然顔見知りの椿が自分の天幕から出て来ていた所に遭遇したのはうんが良かったのだろう。

 

「うぐ!? い、今は頑張って働いているだろう?」

 

「なぁに、ほんの冗談だ。それより宿を教えるから顔を見せに行くが良い。悪いが手前はこれを調べるのに忙しいのでな」

 

「それってアルトロンですよね? どうして貴女が?」

 

 何せ時間は僅かにも関わらず材料も加工方法も全く検討が付かずにワクワクする、そんな風に上機嫌で見せて来たアルトロンに反応したフェルムはギルの物という言葉は何とか飲み込んだ。

 

「ああ、ベルゼーヴァと名乗る男が持っていた物を拝借して調べさせてもらっているのだが、知り合いだったか?

 

「……あっ! ええ、ベルゼーヴァさんは知り合いですよ」

 

「そうか! それならばこの籠手について何か知らぬか?」

 

「それが竜の眠る場所に封印されていたのを見付けただけでそれ以上は……」

 

 竜の眠る場所、その言葉にヘルメスは僅かに反応し、椿は残念そうにしながらも用は済んだとばかりにアルトロンへと視線を注ぎ始める。

 これ以上は此処に居ても仕方が無いと一同が天幕から出て行こうとした時だ。

 

 

 天幕を叩く雫の音が聞こえた。

 

「うん? おいおい、雨かい? 傘なんか持って来てないぜ?」

 

「いや、落ち着いて考えるんだヘスティア。此処は地面の底のダンジョンだぜ? 雨なんか降る筈がない」

 

 そう、ヘルメスの言う通り何処からか水が湧き出す事はあっても雨雲など発生はしない。 

 未到達階層なら別として、十八階層でその様な記録など存在しないのだ。

 

 それを否定するかの様に最初は小粒だった雨雫は大粒となり、小雨程度だった勢いも徐々に増して行っている。 

 何事かと天井を見上げれば本来は生えていない場所からも頭を覗かせた水晶から水が滴り落ちて豪雨となっていたのだ。

 

 それだけではなく、本来なら湖を形成する程度だった水晶達も本体を遥かに超える勢いで水を吐き出し続けている。

 

 

 

 

 

「おいおい。まさか既にバレていたのか? 俺達神が入り込んだ事が……」

 

 異常事態に周囲が慌ただしくなる中、ヘルメスは天井を見上げ、焦りを浮かべながら呟いた。

 

 




カーリーの所に来てたらルート


 この日、二人で飯を作って食い終わった俺とフィルヴィスは料理の最中から最低限の会話しかしていなかった。

「茶でも……飲むか?」

「あ、ああ、貰おうか……」

 ティオネ・ティオナ達みたいに妹分とかの知り合いが来ても良いように少し大きめのにしたソファーに肩が触れる距離で並んで座り、それでも互いに顔が見れないのには理由がある。

 ……俺達、さっきキスしたんだ。仕事終わりに晩飯の買い物を一緒にした帰り、夜景の綺麗な場所を見つけたと誘われた先で不意に首に腕を回されて……。

 唇が触れていたのは僅か数秒、その後は互いに目も合わさられない状態だ。

 そしてこの後は……。













「もう一度キスって雰囲気の時にパーチェ達がついに乗り込んで来たのね。騒ぎになってたからビックリしたわよ」

「オラリオにいるって突き止められちゃったんだ、大変だね」

「取り敢えず眠らせて魔法連発でカーリーの所に送り返したが、また来られると困るんだよな……」

 妹分達は故郷の連中が来たってのに平然としているのは良いのか、俺の危機に反応しないのは酷いのか。
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