アイズやレフィーヤやオッタル達に片方を任せ、俺達ももう一体のリヴァイアサンの相手をしていた。
向こう側から飛んで来た水のブレスは俺が凍らせた地面を切り裂き、遥か向こうまで切断の痕跡を刻み込んでいた。
「射程がとんでもねえな」
「直撃したら痛そうです、ねっ!」
当然、俺達が相手取るリヴァイアサンもブレスを放つ。鼻の辺りはフェルムさんが最初の一撃で砕いて潰しちゃいるせいでひしゃげた口先を絞り、薙ぎ払いじゃなく直線の水流は向こう側から来た奴の三分の一程の幅で、その分貫通力を増している。
狙われたのは前衛張っていたフェルムさんだ。伝説のフライパンの一撃一撃はリヴァイアサンの分厚い鱗も強靭な骨肉もものともせずに陥没させる程。
だから先に消すべき脅威と判断して向かって来たブレスをフェルムさんは伝説のフライパンを盾にして防ぎ、逆にジリジリと前に進む。
そしてブレスが途切れた瞬間に口の中に向かってロングショットを放つんだが、間一髪の所で口を閉じられ、牙が数本折れて喉の奥へと飛んで行くだけに終わった。
「【サンダーボルト】」
俺の方はちょっと精神力を節約、アブソープで吸う相手がリヴァイアサンしか居ない以上は向こうで出るだろう怪我人の治療に取っておかないといけないからな。
雷を落としてリヴァイアサンの身を焼くが、あまりにデカいから動きは止められても丸焼けとまではいかない。
「デカさによる厄介さを含めて海王位?」
「戦った時ってジルさんが少し荒れてて“何様のつもりだ”って忠告に挑発で返したんですよね。竜王教徒からすれば海王様だってなるんでしょうが……」
「竜王倒したんだ、今更だろ? それよりも大丈夫か? 俺と違って変装もないんだし。ヘルメスとかあのエルフの同類っぽいぜ?」
酒場で働く給仕がぶっ倒すには些か有名過ぎるモンスターらしいし、あの神には眷属がダンジョンにいない時を見計らって天界に帰ってもらうって選択肢も有りだ。
故郷の方でも騎士団長へのお誘いとかあって大変だったんだろうし……。
「うーん、今は目の前の相手に集中しましょうか。もしもの時は友達に相談すれば良いだけですしね」
俺はあの女神に借りを作るのは嫌だが、フェルムさんは別に良いのか。それならそれで構わないんだが……。
「ー【スタラグ】」
リヴァイアサンの全身が凍り付き、身震いと共に凍って砕けた肉の一部が周囲に散らばる。砕けて抉れた部分は直ぐに肉が締まって傷を塞ぎ、ダメージは大きいがリヴァイアサンは未だ動けそうだ。
「五分で倒すって伝えたんですよね? でも結構強いし向こうは大丈夫かな?」
「大丈夫じゃね? 連中だって弱くない。おんぶに抱っこで守ってやる必要は無いからな。……またか」
かつて水の禁呪の封印場所まで向かう道を守っていた海王は神の代行者である竜王の配下、その力はリヴァイアサンすら上回るにも関わらずギルに海王と同程度と判断させた要素は二つ。
その巨体故に生命維持に必要な器官に届き辛い事、そしてもう一つは辟易した様子でギルが見詰める先の姿。
大きく身震いすると凍って砕けた辺りの皮が剥け落ち、直ぐに膨らんで元の状態へとなった。
「顔面は脱皮しないのにな? いや、 断定は危険か?」
「そうですね。……街の方も動きがありますし、さっさと倒さないと」
リヴァイアサンに挟まれたリヴィラの街だが、伝説級の怪物の復活以外のは理由でも騒ぎは更に大きくなっている。
両断された部分から大地が左右に開き、中から提灯アンコウに似た見た目のモンスターに加えて双面四腕四脚のゴライアスが現れていた。
「……神が居るからだよな、多分。マジでダンジョンにあの女神みたいなのが居るんじゃねえの?」
ダンジョンはダンジョンだ、神にダンジョンについて訊ねても誤魔化しにならない誤魔化しをされるだけ。
答えられない何かが有るのは確実だが、ミアハみたいな善神でも口を噤むって知られる事自体が不味いのか?
「ははは……。あの二人、本当に何者なんだ? それこそ古代の英雄達すら……」
今のオラリオの冒険者ですら到達していない領域にまで到達したゼウスとヘラの眷属達、それが万全の準備を整えた上で死力を尽くして倒したリヴァイアサンとの戦いを有利に進める二人の姿を遠目に見ながらヘルメスは乾いた笑いを上げる。
彼が求めるのは人類の希望となる英雄、ベルがそれに相応しいか見定める為にダンジョンまでやって来たら目の前の光景だ。
未だ到達階層の更新に手間取るフィン達と、最強と称えられながら実際は次の領域の手前で足踏みをしている有様。
これでは何の為に最強派閥達を追い出して成り変わったのか分からない。
だからヘルメスが神工の英雄を誕生させようと手を回そうとしていたが、そこに現れたのが両派閥すら凌駕する存在。
どうにか近付きたいと思うが、不信感を持たれている上にフェルムはフレイヤのお気に入り。
ベルへとは違う形で強い感情を向ける相手に手を出せば消される可能性は非常に高い。
「さて、どうするかな。正直、ベル君が英雄になれるとは思えないし……」
世間を揺るがす大きな事態は英雄となるのに必要な事だが、あの二人が介入するならベルの活躍の場はなくなる。
ならば二人を英雄に担ぎ上げるべきかと思うが……。
このままでは無理だろうと結論付けた時、リヴィラの土台が左右に傾き始めた。
「ヘルメス様、安全な場所に避難を……いえ、その様な場所など有りませんか」
大きく広がった亀裂の断面が崩れ水球に包まれた不気味な魚のモンスターが次々に出て来る。
怪魚が球の中で泳ぐのに合わせて水球も宙を動き、更に土台が激しく揺れたかと思うと割れ目の底から現れたのはゴライアス。
「二体? いや、違うな……」
断面を掴み攀じ登って来るのは結合性双生児の姿をしたゴライアス。それが割れ目から顔を覗かせるより前に鐘の音が響き渡った。
「【ファイアボルトォオオオオオオオ】!!」
ゴライアスが現れた時点で始めていたチャージ。それを乗せた魔法を顔を見せた瞬間に魔法に乗せて解き放ちゴライアスの横っ面へと炸裂させた。
頬を貫き口内で破裂した炎がゴライアスの頭の片方を焼く。悶え苦しみ叫び暴れる中、無事な頭の瞳がベルを睨み口内に魔力が溜まる。首を動かし顔を向けた先に居るのはベルと恩恵を通じて繋がるヘスティア。
「テメェ等ぁああああああっ! ポーションも装備の予備もたらふく有るんだ! 全力でぶっ放しやがれぇえ!!」
ボールスの指揮の下で次々に放たれる魔法はゴライアスに降り注ぎ続けるが、大きく散らばった怪魚を駆逐するには至らない。
それどころか詠唱を邪魔しようと魔導師達に殺到する中、その横合いからリューが攻撃を仕掛けて一ヵ所に纏まる様に吹き飛ばす。
そこに向かって投げられた試験瓶が爆発し、包んでいた水球を蒸発させて怪魚達を爆炎が焼き尽くした。だが、それを投げたアスフィが険しい顔で見詰める先では次々に生まれる怪魚と、それによって崩れ始める土台。
「このまま長引けば崩壊しますね……」
ギルは五分で片付けるとは言ったが、アスフィにそれの可能不可能を判別する程の力は無い。彼女が弱いのではなく、リヴァイアサンも二人も規格外が故だ。
そして規格外はゴライアスにも当てはまる。魔法や防衛用の設置武器を次々に受けながらも亀裂より完全に這い上がって片方が大地に手を付けば地面は盛り上がり、もう片側も同じ動作を見せればその手に収まっていたのは分厚いタワーシールドとトライデント。
岩山をそのまま削って拵えたかの様な武骨な装備だが、本来武器を持たない筈の階層主が武具と防具を身に付けるという事が異形の姿も合間って威圧感を更に増大させた。
『『オォオオオオオオオオオッ!!』』
周囲一体の空気を打ち震わせる叫び声は魔力も帯びていないのに街の冒険者達を萎縮させる。それでも僅かに遅れて次弾となる魔法が一斉掃射されたのだが、それは全てタワーシールドによって防がれた。
アビリティによって強化された魔法の雨はタワーシールドの表面を弾けさせるに留まり、本体には届かない。そして反撃とばかりに振り下ろされたトライデントは直撃による死者こそ出ないものの衝撃波は着弾地点一帯を吹き飛ばすには十分だった。
「これは一筋縄では行きそうにないですね。……仕方有りません。隠しておきたいなどと言っている暇は無いでしょう」
彼方まで届く水のブレスを吐くリヴァイアサン二体に挟まれ、無数の怪魚が宙を泳ぎ続ける今の状況では神二名を逃がそうにも逃がせない。
此処まで異常事態が頻発している以上、新手を警戒するなら目の届く範囲に居てもらった方が逆に安全であり、同時に先程の火力を見せたベルやLv.4の自分が恩恵を失えば戦況は一気に瓦解するのも見抜き、溜め息と共に奥の手を発動する。
タラリアと名付けられた靴の能力は飛翔。空を駆け回れる力を持つ特殊装備だ。
アスフィはそれで空を駆け、ゴライアスの前へと躍り出る。振り回されるトライデント、叩き付けられるタワーシールドは共に直撃すれば即死とまでは行かずとも重傷は免れない。
発生する風圧だけでも大きく体勢を崩しそうになる中、爆薬を投げ付けながら冷静に観察を行っていた。
「再生能力の類は無しのようですね。武器の扱いも使えるだけで使いこなしてはいない。どうせなら扱えず振り回されていてくれれば楽だったのですが……」
矛も盾も力任せに振り回すだけで技と呼べる物は何一つないが、その見た目から伝わる重量に振り回されない程の剛力は通常のゴライアスを超えているだろう。
アスフィが目の前で駆け回る事に苛立ったのか鬼を大きく振り上げた瞬間、留守がちになっていた足の一本にリューの強烈な打撃が叩き込まれる。
矛の重さによって傾いた先にはゴライアスが出て来た大亀裂。タタラを踏んだ足がはまりそうになるも踏み止まろうとして、その足ではなく踏もうとしていた地面に向かって【ファイアボルト】が打ち込まれた。
再びのチャージで威力を高め、亀裂に向かって斜めに抉られた足場にゴライアスは足を取られそうになってバランスを取ろうとするが、この瞬間に命の詠唱が完了した。
「【フツノミタマ】!」
空から降りる巨大な剣が大きく体を傾かせたゴライアスへと向かい、強力な重力場を形成する。
盾でそれを防ごうとするも意味をなさず、片方の体を下にする形で倒れ、亀裂に下半身が落ち込んだ状態になったゴライアスへ向かいヴェルフが駆け出す。
その手には主神の伝言と共に渡された自作の魔剣が握り締められ、本能からか盾二枚を重ねる様に構えるゴライアスに向かって振り下ろす。
「火月ぃいいいいいいいい!」
自壊を代償に放たれたのは紅蓮の炎。盾一つを砕き、残りの一つに巨大な亀裂を入れ、そこに迫るのは三度目のチャージを発動したベルだ。
「【ファイアボルト】!!」
ヘスティアナイフを盾に入った亀裂の中心に打ち込み、内部から更に巨大な亀裂を入れる。
それでも盾は完全破壊には届かず……。
「さっさと退け【リトル・ルーキー】! テメェ等! 今度こそぶっ倒せ!!」
ボールスの号令と共に再びの一斉掃射。構えた盾が完全に砕ける中、ゴライアスは無理矢理亀裂から這い出し、トライデントを振り回して追撃をしようと纏わり付く冒険者達を散らせようと暴れ回った。
盾を壊された事で身を守る術を失ったからか動きは精細を欠き、地団駄を踏んで狙いも付けずに踏み付け回る姿は癇癪を起こした子供の様だ。
周囲の物を掴んでは人が集まった所に投げつけるも雑な狙いでマトモに当たりはしない。
それでも巨体から繰り出される攻撃はそれだけで厄介だ。崩れ始めたリヴィラの崩壊は更に進み、決着を更に急がなければならないだろう。
二つの口から放たれる
「畜生っ! これじゃあ魔導師達が満足に詠唱も出来やしねえぞ!」
一同に混乱と焦りが生まれる中、リューが見詰めるのはアスフィとヘスティアの姿だ。
少し迷いを見せ、ベルの方に視線を向ける。
「……クラネルさん、ご提案があります」
一同が焦りを募らせる中、ベルの隣に降り立ったリューは彼にゴライアスを倒す為の策を話す。
危険極まりない一歩間違えば死ぬであろう内容であり、彼女は強制はしないと付け加えたが……。
「やりましょう! お願いします、リューさん!」
ベルは迷いなく頷き、リューはそんな彼に対して笑みを溢す。
「やはりシルの将来の伴侶なだけはある。安心して下さい。貴方は私が絶対に死なせはしない。……ですが少しお待ちを。この状況を覆す可能性が少しでも上がる方法があります」
そう告げた後、リューが向かったのはアスフィの所だった。
「……あの噂を耳にしてから必要になると思い依頼していた品ですが、調合にはどれだけ必要ですか?」
「こんな時に何を……いえ、この様な時だからこそですね。生憎ご禁制の品。しかもこの様な状況で調合など不可能です」
「そうですか。では、このまま向かい……」
「なので持ち歩いている完成品は一つだけです。これを使って下さい」
アスフィがリューに差し出したのは手の平に収まるサイズの小瓶。それは本来なら持っているだけでも法に触れるであろう品であり、ジャガーノートが十八階層に出現した際の噂を耳にしていたリューがアスフィに依頼していた物。
『
「これを求めはしたがいざという時に更新を頼む神の心当たりは未だに無く、もしもの時に備えて持っておくだけはしておく気でしたが……ヘスティア様、申し訳有りませんがこの状況を打破する為に共犯になって下さいますか」
急な申し出、その内容も詳しくは分からず本来ならば戸惑い迷うだろう。
「分かった。何でも言ってくれ」
だが、リューの真剣な眼差しと此処まで連れて来てくれた時に感じた人柄がヘスティアに頷く以外の選択肢を与えない。
差し出された物が何なのか、共犯という言葉を受けながらも迷わず受け取る。
その時、十八階層全体を揺るがす程の爆発音と共に離れた場所からの風圧がリヴィラを襲う。
「これは急がないといけないね……」
爆発地点はフェルム達が相手をしていたリヴァイアサンの居た場所。濛々と上がる煙が何が起こったのか、今どうなっているのかを誰にも教えない。
ヘスティアの顔に焦りが生まれ、真剣な表情をリューに向ける。そして……。
「行きますよ、クラネルさん!」
「は、はい!」
ベルの腰に手を回し、ナイフを握る手に手を重ねたリューの姿があった。
「何だろうっ! 凄く凄く悔しいんだけれど、本当にそれは必要な事なんだろうなー!? 騙してたなら許さないからなー!! ベル君に合法的に抱き付くなんてー!!」
ついでに拗ねるヘスティアの姿もあった。
オマケは今回休み フレイヤf√でクロニクルの様子でも描こうか
リヴァイアサンの情報があまりないのでガノトトスやアマツマガツチからを参考にね