英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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闘国

 ロキ・ファミリアの遠征からの帰還の後、オラリオは随分と湧き上がっていた。

 

 相変わらずステイタスの成長が無い俺とは真逆に遠征に参加した団員の内、アイズとレフィーヤ(ポンコツコンビ)を除く全員がランクアップ、第一級冒険者手前で足踏みしていた連中が一斉にランクアップした事で最大派閥の座を独占……とは行かない。

 

「それにしてもオッタルの奴がLv.8か。先代の最強派閥の領域に至ったって事じゃないか。こりゃ負け戦を仕掛けなくて正解だったって訳だ」

 

 そう、三首領が揃ってランクアップして並んだかと思いきや置いて行かれた。

 最近ランクアップした二人を除いて全員がランクアップした辺り、リヴァイアサンとの戦いは五分未満でも経験値としちゃ大儲けだったって訳だ。

 

 そして打倒された筈の伝説の復活だが……こっちは一切話題になっちゃいない。

 フェルムさんの話じゃ戒口令が出たって話だが、それでも流れるのが噂だってもんだし、あのヘルメスさえちょっかいを出して来ないんだ。

 

 何かオラリオ全体にフレイヤが細工をした感じがあったんだが、騒がれないなら別に良いかって思っていたら歓楽街から極秘のお呼び出し、そしてイシュタルは何が起きたのか知っているみたいで……。

 

「十八階層が氷漬けになった上で階層主の強化種が現れたという事を他言するな、ギルドからのお達しはそんな感じらしいね。……あの女が市内全体を魅了してそういう事にしたのさ」

 

「成る程、それなら納得だ」

 

 ギルド側としてもリヴァイアサンの復活なんて混乱を招くし、フレイヤからすれば新しい友達に余計な手出しはさせたくない、どっちが言い出したかは分からねえが利害の一致って奴か。

 

「お前は魅了が効き辛いみたいだからもしかしてとは思ったんだがな。……それで春姫は上手くやってるのか?」

 

 わざわざそれを教えてくれる為に呼び出したとは思ってなかったが、元眷属が心配だったのか。

 それでも恥ずかしいから眷属に探らせる訳にも行かないと。

 

「調合の方は基礎的な作業を覚えている途中らしい。その辺は団長に任せているからな」

 

「そうか。そっちは別に良い。それで彼奴の具合はどうだ? 流石に一度は抱いたんだろう?」

 

「え?」

 

「は?」

 

 思わぬ問い掛けに聞き返したら向こうも予想もしていなかったのか驚いた顔の後、マジか此奴……って感じの目を向けて来た。

 

 いや、好意には気が付いちゃいるが相手が自分を好きだからって気軽に手を出せるのは別の話だろ?

 

「いや、だって今は娼婦じゃなくって派閥の一員だし……」

 

「うちの団員だった頃から手を出せてないだろうが、ヘタレめ」

 

 そんな事を言われても育った文化の違いとしか……。

 

 

 目が気になるなら宿に連れ込め、とか、気絶するなら目隠しでも用意しろ、とか、酒をチビチビ飲みつつネチネチ嫌味を言ってくる姿はアレだ、孫は未だなのかと嫁さんばかり責める姑だな。

 

 余計な事を考えたのを見抜かれてか軽く睨まれたんだが、イシュタルは不意に小さな鍵を投げて寄越して来た。

 

「ちょいと極秘のクエストを頼みたいんだが、報酬の前払いだ。貸金庫に行けば中身を受け取れる。……ディオニュソスの裏の顔が発覚してから状況が変わってね。闇派閥に探りを入れるのを止めたんだが、面倒な事になった」

 

 忌々しそうに話すのは少し前の事。フレイヤを倒す為の戦力を提供すると言われ、資金提供をする振りをしながら探りを入れていたが、依頼ってのはそれに関わる事らしい。

 

「混乱を生むから機密事項だがギルドには伝えても公表はされてないがな。うちの店の女達が寝床で聞き出した色んなファミリアの機密もくれてやったよ」

 

 探りを入れる為に協力者になった振りねぇ、実際はフレイヤに固執するのが馬鹿馬鹿しくなったからディオニュソスの送還を口実にしてるだけじゃないのか?

 

 重要なのは今は関与していないって事で、多分ギルド側にもその追求をさせないだけの何かは手に入れているんだろうけれど……。

 

 

 

「まあ、ぶっちゃけフレイヤの所と戦う為に呼び寄せたカーリーと眷属のアマゾネス共が大暴れしそうだし、手を貸しな」

 

 落ち合う予定だったメレンにはロキの所が何やら行くらしいが、歓楽街に口出しする口実を与えたくないからギルドの手も借りられないらしい。

 

 

 

「どっちにしろメレンには行く予定があったから、そのついでになら……」

 

「そうか。ああ、それともう一つ……お前のアレが役に立たないのなら専門家を紹介してやるぞ」

 

「いや、要らない……」

 

 やっぱアレか? うちの大陸の冒険者よりも戦いに比重を置いてるからその辺が緩いのかもな。

 

 

 

 

 

 

 

「成る程、確かに面倒な事になりますね。怪我人も増えそうです」

 

「アミッドも気を付けろよ? 問題が起きたら俺が対応するからさ。……魔法で何処かに飛ばせば良いだろ」

 

 オラリオの船の玄関口であるメレン。モンスターによって漁獲量は下がっちゃいるが、それでも魚介類の仕入れ先だけあって結構賑わっている。

 そして人が集まれば当然だが患者だってでるもんだ。だからアミッドに頼まれて臨時の診療所を開く為にやって来ていた。これがメレンに来る用事で、カーリーについては知り合いからの情報とだけ伝えたが、この時点で怪我人が増えそうなのは頭が痛いな。

 

「それはロキ・ファミリアの方には……?」

 

 知らせた方が良いのでは、とでも言いたそうなアミッドだったが、俺は首を左右に振って町から外れた方を指差した。

 さっきアミッドが漁師を束ねている神に挨拶しに行った時、気絶した奴を宿に運んだらロキと偶然会ったんだが、その時も話さなかった。

 

「水着だっけか? アマゾネスの衣装みたいなのを来て遊んでるみたいだし、どうせ顔くらい見せに来るだろうから、その時で良いだろ」

 

 遊びの時は気分を台無しにされたくはないだろうし、どうもイシュタルの持つ情報じゃヒリュテ姉妹はカーリーと因縁があるみたいで、遊びの最中に教えるのは野暮だ。

 どうせ会えばただじゃ済まないだろうし、今位はな。

 

 

 まあ、ぶっちゃけ必要以上に揉め事に関わりたくはないってのもある。ポンコツコンビは別として、他の連中とは別に仲良くも無いしさ。

 男子禁制やでー! とかウザイ感じで威嚇されたってものある。

 

 

 

「まあ、どちらにせよ私達のすべき事は代わりありません。何処の誰であろうと患者を治療するだけですから。ですが……水着姿の私を見たかったですか?」

 

「否定はしないな。多分似合うだろうしさ」

 

「そうですか、それは良かった。……所で彼女は大丈夫ですか? その、漁師の方々は上半身を露出させた方が多いですが……」

 

 実は今回の診療所だが、春姫も来ているんだ。アミッドの手伝いに行くって伝えた時に団長が連れていけって言ったんだ。

 訳ありで世間知らずだから社会勉強ってのと勉強を頑張っているから気晴らしもって事らしいが……。

 

 

 ああ、うん。男の鎖骨見放題のメレンで無事な訳が無かったよ。カーリーの所の連中は俺がどうにかすれば良いとして、夜に気晴らしに連れ出してやるか? 人が来ない所で水遊びとか釣りとか……。

 

 

 

「春姫にはアレだ。裏で事務仕事をしてもらえば良いさ。いや、まあ、確かに治療の手伝いは難しいけれどな」

 

 夜中にテルスキャラ? のアマゾネスと遭遇したら逃げの一手で良いや。

 

 

「……それにしても救世主が居るって聞いたから会えると思ってたんだが、グダグダしている内に居なくなっちまったか……」

 

 モンスター襲われて下半身不随だの貝の毒で視力を失っただの、絶望的な状況に陥った船乗り達を救い、暫く滞在するからって噂になったのが届いたんだが、俺が到着した時には旅立った後だった。

 

 シャリの依頼に関して伝えたかったんだが困ったと思いつつも、贖罪の旅の最中なんだから暫く引き止めるのも悪いとは思う。

 

 

 

 

 

 

「凄ぇ! 救世主もそうだったが、回復魔法ってのはこうも楽になるんだな。そうだ! 礼と言っちゃなんだが後で茶でも一緒に……」

 

「治療は終わりました。次の方がお待ちですので」

 

 治療院の仕事だが、体を酷使する仕事のせいか船乗りが結構訪れた。中には口説いて来るのもいたが簡単にあしらわれるのを聞きつつ俺も治療に当たっていた時だ。

 

 少し具合の悪そうな足取りの女神が心此処に在らずな様子のアマゾネスと共に入って来た。

 褐色の肌な上に仮面を着けたままで顔色は分からないが様子からして頭と胃が不調って所か。

 

「心労から来る頭痛と胃の腑の不調の治療は可能か?」

 

「素人判断は危険だし、先ずは専門家のアミッドに診察してもらってくれ。えっと……」

 

「カーリーだ。糞ぅ。長い年月を掛けて育てた戦士の国が……」

 

 何かよく分からねえが悩み事があるらしい。女子供から話を聞くだけなら春姫でも出来るか? その辺はアミッドにでも相談してみるか。

 

 役割欲しくて頑張ってるからな、彼奴。

 

「あー、こっちは一段楽着いたし悩みとかあるなら先に聞いておくが?」

 

「……貴様に話した所で既にどうにもならんが良いだろう。妾の築き上げた物が崩れ去った顛末をな」

 

 大きな溜息を吐き出したカーリーは椅子にドサリと座り込むと足をブラブラ動かし、何かを諦めた死んだ魚の目で話し始めた。

 

 

 闘国(テルスキャラ)、それがカーリーが主神の座に着く国家系ファミリアの名だ。

 国民はアマゾネスのみ、男は攫うなどで集められた奴隷か種馬で国民と呼べる立場に無い。

 

 そこで毎日行われるのは終わりなき闘争。幼い内からモンスターの殺し方を教え込まれ、顔を覆う仮面を被って戦いの後は石の寝床へと向かうだけ。

 

 全ては真の戦士を誕生させる為。その為の蠱毒、モンスターだけでなく同族でも喰らい合わせる戦いこそが全ての国。

 

 やがて同じ寝床のアマゾネスとも戦わせ、特別な相手を殺す事で恩恵を昇華させる。

 

 

 別に出て行きたいなら出て行っても良い。恩恵はそのままに送り出してやるが、自らの意思で出て行ったのは今までの中で二人だけだとカーリーは嘲笑う様に述べて、直ぐに疲れた顔になった。

 

 

 少し前、一人の男が国にやって来たそうだ。

 

 

 

 

「国の在り方を否定して潰そうとは思わない。ただ、攫われれた男達は返してくれ。彼等には帰るべき場所がある」

 

 男如きが、と眷属達は怒り、その澄まし顔を恐怖に歪ませ死ぬまで種を搾り取ってやろうと嗜虐的な笑みを浮かべる。

 

 このまま囲んで叩きのめしても良いが、久し振りに現れた活きの良い客人には楽しませてもらおうと、カーリーは男に交換条件を出した。

 

 

「杖を持っている所を見ると魔導士であろう? 魔法を使わずに此方が用意した戦士を倒せ。貴様がくたばる迄に大した人数で開放する人数を決めようではないか」

 

「つまり僕が全員倒せば男達は全員開放するんだな?」

 

「……そうなるな」

 

 得意の魔法を禁じられ怯むかと思いきや引き受ける言葉は即答だ。これでは少し面白くないと思ったカーリーはさっさと終わらせる事にした。

 

 

 

 男を通したのは普段アマゾネス同士で戦わせる闘技場、地面に血が染み込んだ儀式の場に男を通すと集めたのはランクアップを果たしている戦士全員。

 未熟な者も観客として集め、超えるべき者達の力の一片でも見せつけつつ血に溺れる宴でも開こうか、その様に企んでいたのだが……。

 

 

 

 

「全…滅……だと? 貴様っ! 一体何をしたぁ!!」

 

 だが、結果は戦士全員が死ぬ事もなく意識を刈り取られ転がり、その光景を作り出した男は無傷で息一つ乱していない予想外過ぎる展開。

 それに動揺して声を荒げるカーリーからは神威すら漏れ出したが男は涼しげな顔を崩す事なくカーリーを見ていた。

 

 

「其方の要求の通りに魔法を使わずに用意された戦士全てを倒した。約束通り浚われた者達は故郷へと送り届けさせてもらうぞ」

 

 その男はその日の内に男達を集め、魔法で何処かへと消えて行った。オマケとばかりに打ち倒したアマゾネスと観戦していた者達全ての肉体を癒して……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その結果、打ち倒された戦士だけでなく観戦していた者達も全員揃ってアマゾネスの本能で心を射止められてな。……探し出す為に国を出ようとする者も多く、引き留めるのに精一杯でな。その男らしき者の噂を聞いてここまでやって来たのだが……既に居なかった」

 

「……へー、大変だなー」

 

 名前は未だ聞いちゃいないがどう考えてもエルファスだよな。国に乗り込んで浚われた奴を救うとかロセンに忍び込んだ時を思い出すよ。

 

 それにしても大変過ぎるって、同情しちゃう程度に。

 

 カーリーじゃなくってそれだけの数のアマゾネスに狙われるエルファスがな。まあ、姉貴は意思と正義感が強いが頑固で脳筋で直ぐに手が出るからな。惚れた相手に似ている部分が結構あるんだから悪い気はしないんだろう、俺は勘弁だが。

 

 それも贖罪の旅をするなら背負うべき事だと思って頑張れ。

 

 

 

「わざわざ浚った男共を救いに来る程だ。常識も違う場所で不埒な真似をすれば嫌われるだろうと言いくるめてみたが……揃いも揃って恋愛脳になってしまったのだ! どうすれば良いんだ、こんな事態!?」

 

「頑張れ、全知零能」

 

「……イシュタルとの約定もあってわざわざ来たが、どう説明しろと言うのだ」

 

 因みに付き添いの奴以外は船で恋愛関連の本を読み漁っている所らしい。まあ、通貨も無いし戦士の国だから揉め事は力で解決するんだろう?

 

 ……国の存続云々は別として、良かったんじゃねえか? アマゾネスの習性からして戦いを見ていない赤ん坊以外はエルファス以外の男に興味持たないだろうしさ。

 

 

 

 

 

 

「ええい! 絶対に見つけ出してうちの戦士達に子種を提供させてやるからな、エルファス!」

 

 頑張れ、凄く頑張れ! あの澄まし顔がアマゾネスの群れを前にして必死になるのは笑えそうだし見てみたいが、一応仲間なので心の中で応援しておこう。

 

 

 そして夜、互いに契約を反故にしたい女神の対面がなされた。事前に来るってのは分かってたからカーリーの所の現状を教えたらイシュタルは頭痛を堪えてたな。

 無駄な事をする為に随分と無駄な投資をしてしまったって。

 

 

 

 

「成る程。既にそちらのアマゾネスは使い物にならなくなったと言うんだな?」

 

「ぬかせ。ただ恋愛優先で奴に嫌われそうな非道な真似はしたくないと言っているだけだ」

 

 物陰に隠れて話し合いの様子を伺うが、互いに弱みは見せたくないらしい。どちらにせよイシュタルからすれば結構な投資をしてまで呼び寄せた戦力を遊ばせるしかなさそうでカーリーは無駄足になった上に戦士達を今後どうするか困っていると。

 

 

「こんな状態ではティオネとティオナを連れ戻す事も出来んしな」

 

「なら、面倒な連中との戦いに参加する気は無いか? 第一級冒険者さえも苦戦させる強敵との戦いが期待出来る上に悪党退治なら救世主とやらへのアピールにもなる。ダンジョンで鍛えられるという利点もあるしな。私も戦力確保でギルドに貸しが作れる。……どうだ?」

 

「こうなっては手段を変えるしかない……か」

 

 渋々といった様子でイシュタルの提案を飲むカーリー。ロキ達は姿を見せた後で大人しくしている事に随分と警戒していたが、男に負けて全員恋に落ちたって知ったらどんな反応するんだろうな……。

 




フレイヤ様が頑張りました そしてカーリーは少しバトル展開の予定が一話で

べ、別にカタカナ混じりの台詞が面倒だった訳じゃないんだ。エルファスに押し付ければ良いってイオンズさんが囁いたんだ
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