英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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ちぃっと色々あって遅れました


贖罪

 肩透かし、杞憂、僅かばかりの安堵。その様な言葉が似合う心境に置かれながらティオナは仲間と共に帰路に着いていた。

 

「カーリー達、何もして来なかったね」

 

「そうね。何を企んでいるのか不気味だわ」

 

 力を求め血を浴び続けた故郷での日々、捨て去った過去との再会に戸惑い警戒していた二人だがカーリー達からの接触は一切無く、それどころか常識も何も大きく違うメレンで揉め事も起きないまま調査は終わり、湖に生息する食人花の出所も分からないまま帰り道を進む。

 

「アイズも少し考え事をしているみたいだし心配だな」

 

「何か話したい事があるとか言ってたわよね。リヴェリアに先に相談していたけれど何かしら?」

 

 今回の調査で得たのは封印が万全であるという情報のみ、その他は悩みの種が増えただけで、ロキなどはギルが魔法で運んでたとかの単純な理由が良かったと愚痴を溢す。

 

 ディオニュソスの護衛を務めていたフィルヴィスなら何か手掛かりを持っていたかも知れないが未だに行方不明であり、一堂の顔は何処か鬱屈と影が掛かった様子であった。

 

 特にカーリーの動きが読めない以上はティオネのピリピリとした空気は収まりそうに無く、普段以上に扱いを考えなければ大怪我を負う者さえ出かねないとロキが冷や汗を流す中で漸く見えてきたオラリオの外壁。

 

「なんや、今日は何時もに増して人が多いな。他所のファミリアか商団でも……」

 

 普段から人の出入りが激しい正門の関所に大挙して並ぶ大人数の姿にロキが目を向けながら近付けば、その全員がアマゾネスである事が分かる。

 この時点で何処の誰なのかを察したティオネの放つ殺気が膨れ上がる中、先頭で手続きを行なっていた小柄な神物もロキ達に気が付いた。

 

「……久しいの、二人共」

 

「カーリー!! テメェ、何しに……」

 

 射殺さんばかりに強く睨み、ティオナが咄嗟に羽交締めにしなければ襲いかかる事さえ有り得る勢いのティオネだったが、その言葉尻は目の前の女神の姿を見て少し途切れる。

 

「……何か窶れてない?」

 

 恐怖と憎悪を向ける相手なのには変わりないが、目の前の女神は記憶の中で笑いながら戦いを眺める残酷な姿とは違い、心労が溜まった弱々しい姿だった。

 

 姿形が似ているだけで別神にすら見えるが、確かにカーリーであると記憶が告げる。だが、更に大人しく並んで順番を待つ同郷の顔見知りの姿に更に唖然として殺意すら見失った。

 

 ルールに従っているだけでなく、何かを待ち侘びる顔、恋に夢中になった女の顔になっていたのだ、それも一人残らず。

 

 

 

 

「一体何があったのよ? ロキから噂を聞いたけれど、バーチェとアルガナもLv.6になったんでしょ?.」

 

「攫った男を助けに来たエルファスという奴に全員やられて観戦していた者も含めてアマゾネスの本能にやられてしまった」

 

 成る程と納得するしか出来ない。寧ろ好き勝手に国を出て惚れた相手を探しに行かないのが不思議とすら思える理由だ。

 

「何か私も疲れたわ……」

 

 過去の因縁やらカーリーの思惑やら警戒していた物が全部無駄な心配で、相手は疲れ切っているか自分に興味を向けていないという事実。湧き上がる怒りすら打ち消す徒労感にティオネは肩を落とす。

 

「取り敢えず外での常識を学びつつディオニュソスの仲間の残党達と戦う予定だから顔を合わす機会もあろう。イシュタルめに全面的に世話にならねばならぬのは屈辱だがな」

 

「……イシュタルと?」

 

「ああ、強者との戦いがあるから手を貸せと言って来てな。眷属達が惚れた相手は正義感が強いみたいだし、アピールになるぞと言い包める事で出奔は防いだが……はぁ」

 

 イシュタルといえばフレイヤに強い敵意を抱いている相手。……今となっては抱いていた相手なのだが、ロキ達がそれを知る由も無い。

 

 カーリーが口にしたのは表向きの口実で、実際は大規模な派閥間抗争の為なのでは、そんな風に思うも恋に落ちた知人の顔にティオネとティオナは判断に迷う。

 

 

「イシュタルの奴がかぁ? 何企んどるねん、彼奴」

 

 だが、迷うのはあくまでカーリー達に対する判断だ。イシュタルのフレイヤへ執着的な迄の敵対心を向ける姿を知るロキからすれば信用出来ない。

 

 自分も眷属に囲まれて変わったと分かっているが、それでもイシュタルは信用していない。

 カーリー達を利用して何をやらかす気なのか警戒心を募らせるのであった。

 

 実際は敵視が馬鹿馬鹿しくなった事で今後の無駄な出費を抑えられるには良いが、それはそうとして今まで用意した裏のアレコレを体面を保ちつつ切り捨てながらフレイヤやロキの派閥に無駄な警戒をさせるという嫌がらせも兼ねているのだが、流石に分かる筈がないだろう。

 

「さてな。妾の預かり知らぬ事だからな。イシュタルめが何を企んでいるのか……それは其方で探るが良い」

 

 尚、直接関わったカーリーは薄々分かっているが、八つ当たりの嫌がらせで黙っておいた。

 

 女神とはそういった存在なのである。

 

 

 

「アポロン・ファミリアからの招待状か。行くのか?」

 

「いや、私はこういった場は苦手であるが、ナァーザに息抜きをさせてやりたくてな。まあ、着飾らせる程度の余裕も出来た」

 

 メレンからの帰還後、ベルがヒュアキンストスと揉めたとかの話を聞いたが、酒場でそこそこやり合った迄は良かったが結局レベルの差で負けてしまったとか。

 

「武神から指南を受けているとは聞いたが、成る程な。L v.2の上位ではあるだろう」

 

 実際に戦った奴の感想がコレ。自分も少し怪我したらしいってのに楽しそうだったな、彼奴。

 

 そんな揉めた相手であるアポロン・ファミリアが開く宴は神だけでなく眷属を一名連れて行けるとか。

 

 招待状をヘスティアの所は当然だが唯一の眷属であるベルになる。リヴィラで聞いたアポロンの悪評を考えれば何か企んでそうなんだがな……。

 

「本来なら稼ぎ頭のお前を連れて行くのが筋だろうが悪いな」

 

「いや、俺って田舎の農夫だぜ? 前回は相手の影響力とか考えて行ったが、今回は別に良いや。俺を指定した訳じゃねーだろ?」

 

 今回は着飾っての豪華絢爛なダンスパーティー。団長も義手を気にしてか長袖で手袋って組み合わせにしたそうだが、俺は華やかな場で優雅にってのは無理。

 

 気の合う仲間とワイワイ騒ぐ方が好きだな。

 

「ダンスとか軽く習った程度だからな……」

 

 姉貴は戦争で活躍したし、貴族なもんでそういった催しへの参加は決まっている。仲間はあくまで仲間って事で一緒に活躍したメンバーは招待されなかったんだが……。

 

 はい、俺の配属は後方、魔法を使って負傷者の治療が役目だった。平民も貴族も問わず、それでも回復魔法の使い手は貴重って事で貴族を優先して治療させられて手遅れで救えなかった兵士が大勢居た。

 

 特にクソ貴族が戦線放棄して敵前逃亡しやがった所の被害は凄まじくって、精神力が枯渇しそうになるのを何度堪えただろうか。

 

 それで俺も表彰されて出る事になったんだが、あの時の場違い感は凄まじかった。

 白い目を向ける貴族の中には俺が助けた奴も居たんだぜ?

 

「習った経験があるが、行きたい場所では無いのだな」

 

「会いに行った時に軽く練習に付き合ってくれたティアナ様への義理が無けりゃ仮病でも使ってる所だった位には縁が無い場所だからな」

 

 大きくなったら公式の場で一緒に踊りましょう、なんて子供でも有り得ないと分かる約束をしたんだよな。結局あの人と踊ったのは部屋の中での練習だけ。

 

 もし闇の王女になったのがあの方じゃなくて……いや、止そう。仮定の話をしても意味なんて無い。俺がティアナ様を手に掛けた事実を否定するな。逃げてんじゃねえよ。

 

「ふむ、ならば甘えさせてもらおう。少し心配な事もあるが、この様な機会でもなければ私も縁が無い場だ」

 

 団長も華やかなパーティーで団長と踊るのも良いだろうが、二人っきりで何処かにお出かけって方が嬉しいだろうけれどな。

 その辺は誘えない団長が悪い。精々今回の件で進展を……無理っぽいな。

 

 連れて行きたいってのも父親が娘をって感じだし。そもそも見た目が同じなだけで寿命も価値観も別の存在との恋愛が成立するのかよ……。

 

「エルフとでさえ難しいからな……」

 

 エルフって基本寿命無いらしいし、千歳でさえピチピチらしいからな。そりゃ長生きしても百行くかどうかの相手と成立する方が無理がある。

 ハーフエルフが蔑視されるのも半分だけ違うってのが重要なんだろうしさ。

 

 

「ところでアンタと団長はダンスとか……うん? おーい、聞いてるか?」

 

 前は大手だったらしいが没落の始まり頃の団長は子供だったらしいから最低限の動きは出来るのか、そんな疑問の問い掛けの途中で他の事を考えている様子だったので振り向けば眉間に皺を寄せて考え込んでいた。

 

「ギルよ、メレンで何かしたか?」

 

「ナニかシたか? どうしたんだよ、一体……」

 

 カーリーがあのまま引き下がるかどうかは疑問だし、面倒な事は勘弁して欲しいんだがな?

 

 

 

 

 

「は? ごめん、もう一度言ってもらえるかしら?」

 

 ギルドの奥、職員の休憩スペースっていう本来は入れない場所で俺と向かい合うローズは胃の辺りを押さえながら問い掛けて来る。

 その目は疲れ切っていた。

 

 リヴァイアサンの出現から少し経つが、ギルドの方は普段の業務を取り戻していないらしく未だに忙しいらしい。

 

 昨日になって漸く上層部での出現が確認されたが中層以降じゃ相変わらずモンスターが出現せず、鉱石も薬草も出ないってんで値段は高騰、蓄えていた魔石を放出して凌いじゃいるが、ダンジョンが正常に戻るまで持つかどうか。

 

 ……いや、壁や天井からモンスターが生まれる異常が正常ってのは妙な話か。

 

 そんなこんなで冒険者の多くが詰め掛けるも、市外からの問い合わせも大忙しで調査中としか言えず、通常の相談業務も今は中止って有様だ。

 

 オラリオから離れようってファミリアも居るみたいだし、普通なら俺も担当アドバイザーと会うなんて無理な話。

 

 なのに俺がこうして会えているのは魔法があるから。心身共に疲れ切った職員達の肉体だけは回復出来るから、寝不足による肌荒れさえも完全回復だ。

 

 精神的な方は知らねえ、頑張れ。

 

 

 

「いや、なんかランクアップしたらしい」

 

「恩恵受けてからどの位だっけ?」

 

「三ヶ月はいってないな」

 

 ベルが一ヶ月と世界記録塗り替えたし、俺はその裏に隠れて目立たない、とはいかないよな?

 

 

「ええ、分かっているわ。お祝いすべきなのでしょうね、アドバイザーだもの。先に言うわ、おめでとう。そして言わせて糞忙しい時に爆弾持って来ないでよ、お願いだから!」

 

「お役所勤めって大変だな。俺は頑張れとしか言えないが……別に期間の記録を改竄すれば良いんじゃねえか? こんな事態だしさ」

 

「上に相談してみるわ。普段なら有り得ない話だけれど。……それで何をやらかして昇格したかわかるかしら?」

 

「ナニをって言われても、ランクアップしたいって思った位しか……」

 

「そんなのでランクアップ出来たら下級冒険者で止まっている人ばかりじゃないわよ」

 

 まさか二人を同時に相手しようとした、とかが理由な訳が無いよな? そもそもステイタスだって全く成長してなかったのに。

 

 ソウルと変な反応起こしてたか?

 

 

「それと討伐記録とか普通に取って無い」

 

「いや、しておきなさいよ。ランクアップの際に記録として要るって言ったでしょ」

 

 

 

 迷惑掛けている俺が言うのもどうかとは思うんだが、ローズの姿見てたらベルベルの誘いを断って良かったと思うよ、マジで。

 だって有事の際にはマジで大変そうだからな。

 

 

 そして今の俺には別に悩むべき事がある。メレンから帰還した日から続くその悩みは春姫についてだ。

 

 

 

 

 

「今夜も宜しくお願い致します、ギルさん」

 

 飯も済ませて風呂にも行き、後はダラダラするか趣味に時間を使って寝るだけの時間帯。

 場所は俺の部屋で目の前にはベッドでうつ伏せになった春姫だ。その声色は少し不機嫌そうで表情は拗ねた感じ。子供みたいに頬を膨らませていた。

 

 あの夜が明けて目を覚ましてから拗ねてしまい、呼び方も余所余所しいせいで団長や桜花達からは何をしたんだと呆れ顔を向けられたが、とても説明出来る内容じゃない。

 

 二人に迫られた後、鎖骨を見て気絶している春姫の真横でアミッドに跨られてそのまま……だもんな。

 

 その日から呼び方が様付けじゃなくてさん付けになり、こうして寝る前に尻尾のブラッシングをする事になった。

 

 毛並みに沿って丁寧にブラシを動かし、漏れ出る艶かしい声に少しドキマギしながら時折服の上から形の良い尻を眺める。アミッドとの最中に着崩れた着物の隙間から見えた生尻が浮かぶのを振り払い、今は頼まれた事を進めていた。

 

「あっ……ううっ……」

 

 必死に押し殺そうとする声と身悶えなのか痙攣する様に震える体、正直言って凄く色っぽい。

 なので落ち着かないとな。

 

 ここで安易に誘われていると判断してしまうのは駄目だ。一度知ってしまったからって肉欲に流されまいと必死に耐えてブラッシングを終える。

 

「終わったぞ」

 

「……有り難う御座いました」

 

 起き上がった春姫は俺に向き直り瞳を閉じる。俺は彼女の肩に手を置いて、そっと顔を近付け唇で触れた。……額に。

 

 これもお願いされた事。毎晩のブラッシングとお休みのチュー(場所は任意)。

 これを一ヶ月続けるのを条件に許してもらう事になったんだが、終わるまでは余所余所しい態度は崩してくれないかも知れない。

 

 春姫からすりゃそれだけの事だった訳で、当然だから反省するだけだ。

 

「では、お休みなさいませ」

 

 まあ、立ち上がって一礼すると部屋から出て行く姿は一見すると冷静で他人行儀にも見えるが、尻尾と耳は激しく動いているから多分不機嫌ではないんだろう。

 

 ……キスする時は嬉しそうにしているしな。

 

 

「今頃踊りも終えて飯を楽しんでいる頃か? 変な事になってなきゃ良いんだけれどな……」

 

 喧嘩はしたが互いに歩み寄って許し合おう的な理由でヘスティア達を招待したなら良いんだが、そうでないなら大勢の前で揉める事になるからな。

 

 ギルドの機能不全が続いている今、余程じゃないと仲裁だって期待出来ない。

 

 

「それも冒険者なら乗り越えるべき事なんだろうけれどな」

 

 出る杭は打たれる。それが嫌なら細々と暮らすしかないのさ。ただでさえリリルカっつう特大の爆弾抱えているんだし、自分が選んだ道で成り上がりを夢見るなら頑張れとしか言えないからな。

 

 

 

 

 

 

「そして実際厄介事が起きたかな。まあ、遅かれ早かれだわな。目立った奴への勧誘なんてザラにあるし」

 

「確かにそうなのだが、アポロンの奴は度を越している。酒場の一件も最初からそれ目当てで絡んだのは明白だ」

 

 先日起きた酒場での乱闘騒ぎ、それで眷属が大怪我を負わされたとヘスティアを非難したアポロンが申し込んだのは派閥同士の対戦である 戦争遊戯(ウォーゲーム)

 

 手を出させる為に挑発するとかありきたり過ぎて引っ掛かるなよと呆れそうになる。

 リリルカも汚いやり方を知っているだろうに、その辺は教えといてやれよ、ともな。

 

 

「ヘスティアは断っていたが、アポロンが引き下がるとは思えん。ベルを手に入れようと随分と張り切っていたからな……」

 

 ふーん、じゃあヘスティアはバイトを控えた方が良いかもな。通行中の事故なんて幾らでも起きるもんだしさ。

 

 

 

 

「……モンスターも出ないし、受ける事になってもどうやって鍛えるんだろうな、彼奴」

 

 俺、今回ばかりは知らねえぞ?

 

 

 

 

 

 

 

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