英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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拒否

「先程から妙ですね。私の顔に何か付いていますか? 衛生面を考えるなら教えていただかないと困ります」

 

 関係を持ってから数日、春姫の事もあって少し気不味い感じになると思った治療院の仕事だが、アミッドの態度は変わらない。

 俺の態度に怪訝そうにする姿を見ていると都合の良い夢でも見たかとさえ思い込みそうだ。

 

「おう。じゃあ、俺も治療して行くわ」

 

 これが普通の男女関係なのか、そんな事は俺には分からない。ティアナ様はレムオンとかタルチュパとかに好意を寄せられていたが、あの二人は色々と拗らせていたし、ゼネテスもその辺の話はしてくれてないからな。

 

 田舎育ちの餓鬼が四年間戦乱に陥る大陸を冒険者として身内と旅をしていたんだ。アカデミーを飛び級卒業するまでの半年間しかその手の話題に触れる事は無かった。

 

 だからアミッドが普通に接するのなら俺もそうすべきなんだろう。だって周囲に相談出来ねえし。

 この手の話題で相談出来るのアイシャくらいで、アマゾネスはアテにならないからな。

 

 ダンジョンが金も経験値も稼げないからか、モンスターにやられたって類の怪我人は少ない。力が枯渇する前に生み出されていた資源の取り合いで人と人が争うってのが増えてはいるらしいが、それでもモンスターを相手にするよりはマシだろうよ。

 

 ……この機会にマップ埋めや例の人工的な迷宮の調査を進めたいからってギルドが大手ファミリアと俺にミッションを課す案が出ているのは厄介だが。

 

「話って何だ……って決まってるか」

 

 そんな風に気持ちを切り替えて治療に専念し、迎えた休憩時間。普段の休憩室へと向かおうとしたが、アミッドに呼び出されて建物の裏口付近の物陰に来ていた。

 

「なにを言っているのかは分かりません。ギルさんの口から言って頂けると助かりますが」

 

「この状況でか? 分かってるよな? いや、マジで」

 

 人目の無い裏口付近、二人っきりになった状況で俺の首に腕を絡めながらアミッドは笑う。

 身長差のせいで俺は背中を曲げ、アミッドは爪先立ちでプルプル震えているが、これで世界情勢について語る方が変だろうよ。

 

「……私の態度が変わらなかったのが不思議みたいですが、大人になりきれていないみたいですね。あれが大人の余裕という奴です」

 

「そんなもんなのか……」

 

「え、ええ。わ、私のはじゅ、初めてを奪えたからといって身も心も手に入れたとは思わない事です。今はお仕事の最中、お年頃だからと妙な期待をしないように。……今はこれだけです」

 

 そりゃ少しはあったかも知れないが、そんな言われる程に期待した覚えは無いんだが、こっちの意見を聞く事もなくアミッドは俺と唇を重ねる。

 少し強く押し付ける様にして約十秒後、漸く唇を離すと顔も見せずに扉に向かって駆け出していった。

 

「休みは後日お伝えしますので、それまでは通常通りでお願いします!」

 

 それは予定を合わせて一緒に過ごそうってお誘いで良いのか? 本人にはとても聞ける状態じゃないから分からないけれど。

 

 未だ感触が残る唇を指で撫で、建物の隙間から見える空を眺める。魔法を跳ね返す骨の獣とか喋る骨とかリザードマンとかリヴァイアサンとか色々と驚く事があったが、アミッドや春姫との関係がここ迄進む方が驚きが大きい。

 

 そして驚きが大きいと言えば……。

 

 

「あわわわわっ!?」

 

 そこの曲がり角の向こうでキスシーンを目撃した結果、真っ赤になってアタフタしているムッツリエロフ。 

 幾ら何でもキス目撃で驚き過ぎじゃねえの? 変に恋愛拗らせるか悪い奴に引っかかりそうで不安になるレベルだろ。

 

 精神力を鍛えろって。

 

「どうしたよ、ムッツリエロフ」

 

「だ、誰がムッツリですか、誰がっ!」

 

「そこはエロフも否定しろよ。こんな路地裏を歩いていて良いのか? 立場的に狙われるだろうに。ただでさえ不安定な時期なんだからよ」

 

 顔を真っ赤にして抗議してくるが、今までの言動やら今の覗きやらを合わせたら否定出来ねえだろ?

 ムッツリレズエロフとまでは呼ばないだけ感謝しろ、そんな言葉を飲み込みつつ相手を眺める。

 

 キスを見ていただけで耳まで真っ赤になっていて、長寿な種族だから性的欲求が薄い分耐性が無いのかと思うが、此奴の場合は興味自体はあるらしい。

 

 それで誕生したのが真面目で初心な優等生だが実は脳内ピンクって複雑怪奇なムッツリエロフの誕生って訳だ。

 

 それはそうと今の情勢で気軽に出歩くのはどうなのよ? 闇派閥からすりゃ目障りな敵の戦力を削るチャンスなんだからよ。

 

「うっ……。確かにリヴェリア様にも不要不急の外出は控えろと言われていまして、急はその……治療院で働いていると聞いたので皆さんに差し入れを持ってきました!」

 

 そう言ってレフィーヤが差し出してきたのは小さなバスケット。中を見ればクッキーが入っている。

 

 別に顔見知りだろうに正面から来れば良いものを……。

 

「有り難くもらっておくよ。お前なら間違いは無いだろうしな。それで随分と大変だったみてぇだが大丈夫か? 遠征の疲れとかで怪我してたら洒落にならないからな」

 

 軽く魔法で回復させるが、俺の魔法って精神的な疲れは癒せないからな。最大派閥の所属で有名らしい魔導士として魔法が盛んな国から狙われているって噂だし、送って行くのは流石に行き過ぎだろうけれど……。

 

 表通りまでは見送るかと決めた時、不意に通りが騒がしくなる。怒声に悲鳴に争う音、少し喧嘩したどころの騒ぎじゃない争いが街中で繰り広げられて一般人も巻き込まれている感じだが……。

 

「美味いクッキーの礼だ。送って行くから掴まりな」

 

 一応名目としてクッキーを一枚口に放り込んで食う。まあ、丁寧に作られてて悪くない味だ。ちょいと砂糖が少ない気もするがな。

 

「は、はい」

 

 この程度で慌てるなんてまだまだの証拠だが、その辺は派閥の仲間がどうにかする問題だ。

 エルフの価値観からすれば難しいかも知れないがな。学問だけじゃ駄目だって。

 アイズだって情緒育ってねえじゃねえか。

 

 

 こうして裏路地で他派閥の男とあっているだけでも良い顔をしない奴もいるだろうからホームの裏手にでも転移してやるとして、誰かに見られる前にさっさと掴まれと急かせば慌てた様子で手を伸ばして来る。

 

 

 

「いや、肩か腕でも掴めば良いだろ? 何で抱き付く!?」

 

「はわわっ!? うっかりしてました!?」

 

 なのに胴体に腕を回して抱き付くとかどうなってるんだ? あれか? さっきの光景目撃して混乱してるのか?

 

 実際、指摘してやったら慌てて離れるが、大きな声出すなよ。

 

「腕ですね、腕!」

 

 そして次は腕を組んだ上で抱き付くんだが……何で?

 

「落ち着け。本当に落ち着け。深呼吸したら、肩だ、肩に掴まれ」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 誰かに見られたら変な噂が流れるんだからさっさと送り届けたいとレフィーヤを落ち着かせ、掴まりやすい様にと背中を向ける。これで腰を屈めれば慌てて飛び乗ったかも知れないが、流石にそこまでじゃないだろう。

 

 

「そんな風に楽観視していた俺が馬鹿でした……」

 

「あ痛たたたたたっ!?」

 

「回復はしてやるから騒ぐな、ムッツリドエロフ」

 

 俺の背中に飛び乗ろうとしていたので仕方無く振り返り、アイアンクロー決めながらホームの裏手まで転移した頃には休憩時間だってのに精神的な疲れが俺を襲っていた。

 

 え? さっきまで精神的疲労を心配していた俺が何故精神的に疲れてるんだ?

 

「ハァ。そもそも何処の馬鹿だ? 街中で暴れてるのは……」

 

 様子を見に行くか? いや、面倒事に巻き込まれるの嫌だし放置しておくか。

 本当に大事なら治安維持を受け持つ連中が居る事だしな。

 

「あの、ギルさん。改めてお礼を……」

 

「だから言われる理由が無いっての。お前の所の団長は妙に鋭いんだ。ヒントを与えないでくれ。……アイズにも言っておいてくれ、頼むから」

 

 ……ったく、此奴にまで何時バレたんだ? アイズが口を滑らせたなら態度に出るだろうし。

 

 そしてバレてる事を俺が指摘しない事に何かあるだろ。何で自然にしてるんだ?

 

 フェルムさんの存在もあって誤魔化せるのにも限界があるだろうが、俺には後ろ盾になって周囲を黙らせてくれる相手が居ないんでね。

 

 

 

 

 

 

「……あれ? 何か自然にしてますけれどギルさんがベルゼーヴァの正体だと気が付いているのどうして知っているんですか!?」

 

「分からいでか」

 

 あー、マジで疲れた……。

 

 

 

 

 

「はっ? ベル達がアポロン・ファミリアに襲われてた?」

 

 翌日、暇だからとブラブラ散歩をしていた俺をシルが呼び止めたんだが、その用ってのは昨日あった大騒ぎについてだった。

 

「はい。どうもリリルカさんに恨みを持つ人達が手を貸したらしく、襲った理由もそれを大義名分にした様です」

 

 最近は物騒だからって理由かお使いに出たシルの護衛役らしいリューは予想していた感じの表情で語るが、俺も何時かは考えなきゃならない事だと分かっていた事だ。

 

 相手が悪質とか人としての扱いをされていなかったとか、彼奴としても動機にはそれなりの物が有るんだろう。

 その真偽はそれこそ治安維持を受け持つガネーシャにでも話せば分かる事だ。

 

 ダンジョンの中でリリルカがアポロンの協力者を嵌めたって事の真偽もな。

 

 切っ掛けは被害者だろうと命に関わる事態に陥ったのなら逆恨みだって買う。

 ましてや被害者本人じゃなく身内だったら尚更だ。

 

「境遇の悪さは無罪の理由にはならないからな。俺は忠告していたし、それでも受け入れていたのはベル達だ」

 

 起こるべくして起きた、冷たい様だが誰かを庇うってのはその誰かを狙う奴等から自分も狙われるって事だ。

 可哀想だから守りたい、それだけで上手く事が進む程世界は優しくない。

 

「……彼女は一旦ソーマ・ファミリア預かりとなったそうです。前の団長も神ディオニュソスとの繋がりがあったらしく、何やら密輸紛いの事をしていたと拘束されていますが……」

 

「問題はそれだけじゃなく、ヘスティア様は挑まれていた戦争遊戯を受けてしまったらしいのですが……」

 

 開催まで鍛えるにしてもダンジョンは枯渇した力を取り戻す最中で、ロキ・ファミリアは例の人工迷宮の調査を秘密裏に受けているからか、表向きのミッションで忙しそうにしている。

 

 さて、そんな状況で頼れるのは師匠の一人であるリューだけだが、ルール次第ではヒュアキンストスと団員達を相手取る必要があるから鍛えるにしても普通のやり方じゃ時間が足りない。

 

 普通のやり方じゃないなら出来るって事でもあるんだが……。

 

 

「先に言っておくが俺は今回ベル達には協力しないぞ。リルルカ関連での自業自得って理由じゃなく、アポロン・ファミリアには友達が居るんでな」

 

 表向きは容疑者を庇う事に義憤を感じたって言っちゃいるが、実際はアポロンの欲望を満たす為の行為だ。

 これが理由が出任せなら多少は力を貸しただろうが。理由自体は本当だからな。

 

 友達同士の争いには不介入、ベルの身柄が目的な以上は命に関わる事態には陥らないだろうし。

 

「ゲームの前に嫌がらせはするなとかは言っておく。そうしたら俺はベルに手を貸さないって、あくまでフェアに戦えと友達に忠告するだけだ」

 

「それは……」

 

「えー? ちょっとどうにかなりませんか? このままじゃベルさんのお尻が大変な事になっちゃいますよ」

 

 両陣営に友達が居る事を告げ、俺なりに譲歩も見せた。リューの方はそれでも何かいいたそうにするに留めて複雑そうなだけだが、シルの方は知った事かとばかりにグイグイ押し込んで来る。

 

 フェルムさんが世話になったしなあ、フレイヤには。

 

 

「強いファミリアに伝手とか無いのか? あれば頼ってベルを鍛えてもらい、終わってボロボロになってる所を世話すりゃ良いじゃねえか。……因みにオッタルはタケミカヅチさんの技量に興味持ったってよ。最近眷属と縁があったらしいが……」

 

「それ良いですね! 早速お願いしてみます!」

 

 それはそうと多勢に無勢になってもベルが可哀想だからな。ちょっと別に理由で可哀想な事になりそうではあるんだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウチの脳筋と多少縁が出来たそうだからタケミカヅチ・ファミリアの一行を招待し共に訓練するのは良いだろう。私も武神の持つ技には興味がある。貴様は共に教えを受けているからついでだ。調子に乗るなよ、愚兎」

 

「安心しろ。俺達の派閥にも優秀な治療師は居る。手足に欠損さえなければ完治するだろう。……武神の指導の合間に俺もお前の相手をしよう。死ぬなよ?」

 

「貴様は引っ込んでいろ脳筋。ただでさえ加減を知らん上にランクアップによるズレも調整出来てないだろうが。邪魔だ、脳筋。シル様は私に頼まれた。分かるか? 貴様ではなく、私にだ。誰かを鍛えるという能力は期待されていないと気付け、脳筋」

 

「は、はい! 宜しくお願いします! ……短い間に何度も脳筋って言ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人造迷宮クノッソス、それがダンジョンに沿う様に作られた例の建築物の名前らしい。  

 それを何故知っているかというと、ギルドに情報提供をしてくれたとある派閥が裏で探っていたからとか。

 

「今回は協力感謝するよ、ギル君」

 

 ギルドからの極秘裏の呼び出しを受け、俺は夜中にホームを抜け出して密会場所までやって来た。

 出迎えたのはフィンだけ。リヴェリアは目立つから当然だろう。人目を忍ぶなら小柄な奴が一番だ。

 

 ギルド所有の普通の民家に見せかけた建物の隠し通路を通って到着した俺はフィンと向かい合い、今回のミッションについての説明を受けていた。

 

「まあ、俺にとっても目障りな相手ではあるからな。潰すのに手を貸すさ」

 

 情報を仕入れたのが誰か告げないのは報復の可能性を下げる為。善神を演じていたディオニュソスが黒幕だったんだ、何処に残党がって警戒するのも当然だろう。

 

 イシュタルだろうなあ、どうせ。そして実際はガッツリ裏で手を組んでいたけれど不要になったのに加えて相手が弱っているから切り捨てに掛かったのだろうが、誰もそれは指摘しない。

 

「治安も悪くなっているしラキアも好機とばかりに無茶な進軍をしているらしい。揃えられなかった物資は道中での徴収や略奪をしながらね」

 

「何度も攻めて来ては叩き返してるんだろ? 送還したら混乱を招くんなら指切り落として喉潰して足をもげば良かったんじゃねえか?」

 

 こっちの大陸じゃ捕虜への拷問が禁止されているかどうかは知らねえが、ラキアってのは戦火を広げてるんだろ? 

 システィーナの伝道師みたいなのが出ても嫌だし、闇派閥への協力者の中に戦火に追われたのも居そうだよ。

 

「あはは……。オラリオの評判を考えたらそうも行かなくてね」

 

「確かにな。此処は対モンスターの最前線、やり過ぎはタガを外しちまうか。……ラキアの犠牲者からは恨みを買いそうだがな」

 

 フィンもラキアの主神を国に帰す事に思う所はあるんだろうが、その辺は政治の話だ。本気ではあるが軽口はこの辺にしておくか。

 

「突入を急ぐ理由は未だある。協力者から手に入れたクノッソスの一部の地図とオラリオにある入り口の情報、そして罠や扉を開く為の鍵を手に入れたという優位性を活かす為にも対策を取られる前に動く」

 

 その為の少数精鋭、オリハルコンの門の周囲の壁を破壊して十八階層からの突入と合わせた同時作戦だとフィンは告げる。

 

 

 

 ふぅん、さっさと終わらせられたら良いんだがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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