英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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突入

「死ね! 此処でテメェを殺せ、ばっ!?」

 

 フィンとの密会後、建物から出た所で待っていたとばかりに人相の悪い女が槍を手にして屋根の上から襲い掛かって来た。

 此処に来る間に俺を尾行していた奴だが、魔法でパッと移動しない事に疑問を持たなかったのか?

 

 俺を狙う理由なんてそれ以外に無いだろうにな。

 

 殺気をバリバリ漏らしながら心臓に向かって突き出される槍の柄を掴み、相手が反応して離すより前に地面に叩きつけ、顔面を蹴り抜いた。

 

 地面に貼られた石の破片に砕けた歯の破片が混じって宙を舞い、そのまま槍を投げ付ければ右足の太腿を貫いて地面に縫い付ける。

 

「最後のは余計だったか? まあ、別に良いだろ。どうせ凶悪犯だしさ」

 

 もう蹴り潰したせいで原型は留めていないが、イシュタルが謎の情報提供者として知らせた敵の構成員の中でも要注意人物として見せられた顔だ。

 何でも少し前、好き放題殺ってたからダンジョンにいる時に主神を送還したから死んだと思っていたらしい。

 

 手落ち、そう判断するには危険な奴だってのは分かる。出て来るのを待ち構えるにしても別に出入り口があった訳だしな。

 

「それでも気にするんだろうな。あの人、色々抱えているみたいだし」

 

 神が降臨した時代に信仰の対象の不在を知って没落した種族の復興とか、バイアシオン大陸じゃ見た目子どこなのを利用しての犯罪を防ぐ為に付け黒子の装着(激痛)が法律で決められているだけで別に個人が背負うべき物でも無いだろうに。

 

 何だかんだで平穏が一番だぜ? 黒竜倒してダンジョンも攻略してモンスター出現の元を断った場所、英雄が何時迄賞賛を浴び続けるかって問題があるし。

 

 どれだけ強くても腹は減るし眠くなるし出す物も出すし、手の届かない場所にいる相手しか守れない。

 ネメアさんだって帝国に残れば犠牲が増えるから祖国を去った訳だしな。

 

 結論、英雄なんて面倒なだけだ、必要で立派なのは確かだけれど。

 

 

「取り敢えず此奴どうしよう……」

 

 顔面蹴り潰したし右太腿は槍で貫いて縫い止めて、連れ戻されても相手側に余程の回復薬が居ない事には……いや、危険か。

 

 俺は今のところ苦戦をしていないが、どんなスキルや魔法の使い手が居るのかは分からない。

 油断は禁物、徹底的に潰すには……。

 

 しゃがんで相手の予備の武器らしい短刀を一応奪っておく。流石に全裸にして隠し武器が無いか調べるのは俺の体裁が悪そうなので手首を踏み付け、骨を砕いた後で肉に破片が食い込む様に念入りに踏み躙った。勿論、両手だ。

 

「表情一つ変えずにとか恐ろしいなあ、君。なーるほど、これが戦場を経験した証って事か」

 

 二本目を踏み躙る音に混じって聞こえて来たのは拍手、さっきから物陰に隠れてた神が一柱姿を見せる。

 クノッソスに関わる二名の内、スポンサーであるイシュタルに正体を明かしていた方。

 

 タナトスだっけか? ヘルメスは同類っぽいな。腕くらいへし折って指を全部引きちぎっても良いだろか? 良いよな、別に。だって敵だし。

 

 何が楽しいのか俺の方を見ながらニヤニヤと笑い、無防備に近付いて来る。

 

「良いよな、戦場って。アレスが攻めて来る時は軽く叩き潰すから出ないけれど、基本的に大勢死ぬからさ」

 

「そりゃ殺し合いだからな。死ぬよ、死ぬ死ぬ。貴族も平民も老いも若きも何なら戦場に出ていなくたって死ぬもんだ。だから俺は必死に味方の命を繋ぎ止めたし、味方を殺そうとする敵を大勢殺した」

 

 あんな異常な場に最早正義も悪もありゃしない。どんなお題目を掲げようと、戦争なんて所詮は殺し合いだ。どっちが正しいかなんて終わった後で勝手に決めてくれ。頑張る動機になったとしても、俺はあの場で正義も悪も名乗る気はねえからさ。

 

 目の前でタナトスはペラペラと楽しそうに喋る。汚れ切った魂が生まれ変わる時に綺麗な真っ新になるのを見るのが好きだとか、今の時代は死人が減り過ぎだとか。

 

 いや、それならオラリオの破壊に手を貸すんじゃなくってラキアにでも行って他の地を攻めろと進言する方が楽なんじゃねえの?

 

 滅びちまったら綺麗になる前の汚れも何も無いだろ。

 

「それでお楽しみを待つタナトス様が何の用だ? 俺を勧誘しに来たって様子じゃないみてぇだが」

 

「え? だって計画なんて既に破綻しちゃってるし、珍しい魂の輝きを持つ君の顔を見てから天界に戻ろうかなってさ」

 

 

 無駄な事はしたくないし、そんな風に平然と話しながらタナトスはナイフを懐から取り出す。

 

「そこで伸びてる奴以外の眷属には約束を果たす為に先に待ってるって伝えてあるし。そうそう、安心しなよ。立つ鳥跡を濁さずって言うし、最期に自爆で華々しくってのは止めてるからさ」

 

「確か仲間が居る筈だろ? 其奴は……」

 

「最低限の義理って事で内緒。じゃあ、バイバーイ」

 

 ぶん殴って気絶させた後でイシュタルにでも魅了して貰うとか考えたが、同時に言葉に嘘はないと感じる以上は眷属が馬鹿な暴走をする可能性がある。

 

 つまり勝ち逃げって奴だ。好き放題やって特に後悔も無い感じで退場を選びやがった。

 

 ナイフを自分の胸に突き刺すのは止めないが、少し腹立たしい。

 

 

「【ロングショット】」

 

「へぐっ!?」

 

 だからナイフが胸に刺さる寸前に拳を振い、飛ばした拳圧で玉を潰し棒をへし折る。

 カエルでも潰したみたいな悲鳴と共に泡を吹き、ヘナヘナ崩れて倒れる際にナイフが胸に刺さったタナトスはみっともない格好で送還されて行った。

 

「やったらやり返される。娯楽の為に痛みを強いるならテメェも痛みを受けなきゃな」

 

 天に昇る光の柱、成る程神々しい感じだ、確かにタナトスも神だった。

 

「これで少しはスッキリしたが、この女の方はどうしよう……」

 

 神の送還は随分と目立つ。人が集まるのは時間の問題だろう。特にフィンが数秒後には来るだろう。

 この場に居てもタナトスの説明は出来るとして、こっちの方はどんな説明をすべきか。

 

 ……ステイタスの確認とかされて上級冒険者級だったらヤバいよなあ。

 

 本来のレベルより強い所は既に見せちまったが、流石に……うん。lーl

 

 

 

 

 

 

「それでウチに連れて来たと……仕方無いな。目覚めたら魅了しておいてやるよ」

 

 厄介事を押し付けるなら何処が良いかって考え、最初に思い浮かべたのはオッタルだ。俺の力を知っているし、クノッソスの突入には参加しないからな。

 

 でもなー、尋問で俺にやられた事を喋られても困るしフレイヤが何処まで誤魔化しに手を貸してくれるってのは疑問だし。

 

 だからイシュタルの所に頼みに行ったら思ったよりも簡単に引き受けてくれた。

 

「……春姫とは上手く行ってるんだろうな?」

 

「メレンに行った時に誘惑されたんだが、鎖骨とパンツを見た途端に……」

 

「それ以上は言わなくて良いよ。あの馬鹿、目隠しなり背後からなり色々とあるだろうに。アミッドの奴を魅了して焚き付けてまで後押ししてやったのが無駄じゃないかい」

 

 この女神、相変わらず眷属への愛は本物だよな。俺への報酬に渡した貸金庫の中身は身請け金そのまんまだったし。

 

 予想はしていたのか頭を抱える姿は娘を心配する母親みたいだ。……おっと、睨まれたぞ、思考を読まれてる。

 

 

 

「……よし、お前が迫れ。私に無駄足を踏ませるな。もう童貞でもないんだ。覚悟を決めな、糞餓鬼」

 

 マジで世話焼きだな、この女神。

 

 自分が手間暇掛けたから、そんな理由も半分位はあるんだろうが、もう半分位は春姫が心配だからだろうってのは伝わって来る。

 

 

「……まあ、俺も彼奴達と別れて暮らす気は無いからな。取り敢えずランクアップしたし、この調子で故郷とオラリオを行き来出来る様にするさ」

 

「童貞捨てたらランクアップしたのか。ギルドに知らせたら大騒ぎになりそうだな」

 

「流石に言わないぞ?」

 

 言わないし信じられねえし言えねえからな? それと流石にヤッたのがランクアップの理由じゃねえと思うぞ?

 

 俺が思うに既に終わった筈の冒険を再びする気になったとかじゃねえのかな。

 

 

 

 イシュタルに話を付け、ホームに戻ったのは遅い時間。普段ならブラッシングをして頬か額にキスをし終えた位だった。

 

 ……つまり今日の分の約束を果たしてないって事で、普段よりむくれてるんだよな。

 

「麝香の匂いがします。歓楽街にお出掛けですか?」

 

 向かい合ってのジト目、泣きそうでないのがせめてもの救いだが、相当拗ねてやがる。

 

「お、おう。ちょっと相談したい事があってな……」

 

「大勢を一度に抱きたい、とかですか? ねえ、ギルさん」

 

「違うからな!?」

 

 これは確実に俺を疑っている! 一度経験したからって今度こそ歓楽街を楽しんだと思われてるだろ!?

 

 

 

「今日は先にキスして良いか?」

 

「ひゃわっ!?」

 

 肩を抱き、返事を聞かずに唇を重ねる。手は肩から腰に撫でる様に移動して、唇は重ねたまま抱き寄せたままでベッドに倒れ込んだ。

 

「……良いか?」

 

「ひゃい……。お願いしましゅ、ギルしゃま……」

 

 春姫は鎖骨を見るだけで興奮のあまりに気を失う程の純情さ。覆い被さり唇を重ねていなくても顔が近くにあれば問題無い。

 密着しながら服を脱ぎ、そして脱がして行く。

 

 あっ、やべ……。

 

 避妊具持ってねえ。流石に十六で親になるのは色々と問題だろ。思わず手が止まるが、だからって此処で止めるのも……。

 指先は下着に引っ掛かった状態で、このまま動かずにはいられない。

 

「あ、あの、私のポケットにこの時に備えて持っていた物が入っていますので」

 

 春姫の手が俺の手に重ねられて必要にしていた物を手渡される。使い方は……うん。

 アミッドから散々教わったからな。

 

 

 

「ふふふ、アミッド様は自分から求めましたが、私はギル様から求めていただきました」

 

 そんな風に言いながら目を閉じて顔は真っ赤、手は俺の後頭部に添えられている。 

 これじゃあ顔を見ただけで気を失っちまうんじゃねえかって感じだ。

 

 かく言う俺も大分緊張している。少し体を持ち上げて大きくはだけた肌を見る。

 汗ばんだ白い肌、下着は未だ付けたままだが直ぐに外せるだろう。

 

 あー、駄目だ。一度経験してようが緊張が凄い。流石に此処で気絶したら恥ずかしいよな……。

 

「春姫……」

 

「はい……」

 

「お前が欲しい」

 

「ひゃい……」

 

 高鳴る鼓動に急かされる様に春姫に覆い被さり、そのまま服を脱がして行って……。

 

 

 

 

 

「来たぞ、新種だ!」

 

 ダイダロス通りの一角に隠されたクノッソスへの扉。俺がフィン達と共に突入して直ぐに現れた芋虫共。

 一斉に溶解液を吐き出そうとするが、氷の魔剣が迫る溶解液と共にその体ごと凍結させる。

 

「あのモンスターは倒すと破裂して溶解液を撒き散らすからね。それにしても……随分と人手が少ないな」

 

「そうだな……」

 

 今回の突入は十八階層からの突入との同時作戦、それで人手を割いたのか出て来るのは新種だけなんだが適当に配置しているだけの印象だ。

 

 もぬけの殻というべきか、残っている筈の神と眷属が何かをしてくる様子も無い。

 

「罠すら作動しないとはね」

 

 開く床に通路を遮蔽する門、事前に入っていた情報では仕掛けられている罠が色々あった筈だが、迷宮内部を監視する事も出来るのに罠が一つも作動しない。

 

「放棄された? いや、流石に此処迄の物を放棄するか?」

 

 ダンジョンに沿って造られたこの場所は数十年じゃ足りず、今の時代になっても建築は続けられていた。

 狂気としか言い表せれない、そんな造り手は未だ残っている筈だが……。

 

 

 

 

 

「これはあの時の……」

 

 一方その頃、十八階層からクノッソスに突入したメンバーであるアイズは目の前で山の様に積み重なった灰を前にして足を止める。

 ここに来る途中、冒険者と思しき死体の、その残骸を幾つか目にして警戒を募らせるが目の前の光景は更にそれを後押しする。

 

「まさか五十九階層で戦ったのと同じのが……」

 

 アイズの後ろで杖を強く握りしめるレフィーヤが思い起こすのは大量の魔石に加えてダンジョンの力さえも注ぎ込まれた精霊の分身との死闘。 

 あの戦いによってランクアップこそしないまでもアイズと彼女は大幅なステイタスの成長を遂げ、共に突入したガレスやベートらを含む他メンバーはランクアップを果たしている。

 

 その上で同じ相手が立ち塞がるのなら一時撤退も視野に入れるのだが、幾ら進んでも発見するのは破壊の痕跡と逃げ惑った末に殺されたであろう冒険者の死体。

 

 最後に工具を手にし、クノッソスの建設を続けていた所を殺されたであろう男を発見するも精霊の分身も宝玉の赤子も影も形も見当たらない。

 

 内部のマッピングの為の探索こそ続けられたものの疎に配置された新種以外にモンスターとも人とも神とも出会う事は無く、見付けられたのは潜んでいたという痕跡のみ。

 

 可能な限り内部の調査を行い、精霊の分身が居る様ならこれを撃破、加担する神と眷属を捕縛する、それらの目的は一部を除いて失敗に終わった。

 内部の調査や解き放たれていた新種達の始末こそ出来たが精霊の分身の姿は無く、見付かったのはモンスターの残骸である灰の山のみ。

 

 殺害されていた冒険者達以外の第三者、あの赤髪の女が関わっている可能性は高いものの確証に至る証拠は発見されず、そのまま今回の突入は終わりとされた。

 

 

「恐らくは仲間割れが起きたんだろうね。犠牲者はイケロス・ファミリアの団員達だった。今頃ガネーシャ・ファミリアとギルドによってホームへの立ち入り調査が行われているらしいけれど、殺害の犯人の手掛かりを得られるかどうか……」

 

 フィンは発見について期待していない。イケロス・ファミリアは表向き普通の探索系ファミリアを装っていた。

 それが重要な証拠をホームに置いておくかと問われれば首を横に振るだろう。

 

 クノッソスを見る限りでは建築を続けていた男以外は撤退の準備を行なっていた様子が見付かっていた。

 それを良しとしない者によって殺されたのだろうが、第一級や第二級が混じる中でそれを行った者の正体が不明の状態なのは危機感を募らせる。

 

「クノッソスは今後どうなるんだ?」

 

「ギルドが決めるんだろうけれど、モンスターが居ない通路を通って十八階層に出入りする事の価値は高いからね。……君が居なければだけれど」

 

「俺ならパッと終わらせられるもんな」

 

「だからって爆破でもして埋めてしまうって訳にも行かないしね」

 

 下手に壊して地盤沈下を起こす可能性から即破壊して埋めるかどうかも疑問だ

 

 壁に埋め込まれていたり上下式の門だったりと希少な金属が豊富に使われている。それを取り出せば膨大な利益が見込める事から建築系の仕事を請け負っているファミリアに仕事の依頼が行くのでは、それがフィンの予想であった。

 

「そういった政治だの金だのの話は分かんねえからな。関わらないでおくに越した事は無い。そっちの派閥は大きいから無縁じゃ無いんだろうが、大変だな」

 

「いやいや、君だって奥から地上への運搬に駆り出されるかもよ?」

 

「うげぇ……」

 

 心底嫌そうな顔をするギル。彼が心配するのは大金が絡む事で妙な連中が寄って来るのではないかという事。

 避けられない面倒な現実から目を逸らす様に視線を向けた先のカレンダーにはベル達とアポロン・ファミリアの決戦の日に印が付けられていた。

 

 




まあ敵陣営色々とボロボロなんだし主人公の影響もあるしね? ナレ死してもらいました

そろそろ完結が見えて来そう だって派閥大戦が起きるかさえ疑問だし
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