英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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誤解

 ヘスティア・ファミリアとアポロン・ファミリアとの戦いだが、当初は数と質で圧倒的に不利って事で既に勝利は決まった様な物。

 ダンジョンの異変も合わせて殆ど話題にも上がらなかった。

 

 ……但し、開始三日前までは。

 

 

 

 

 

 

「何をやっている。呑気に寝ている時間など無いぞ、愚兎」

 

 何の気まぐれかフレイヤ・ファミリアに招待されたタケミカヅチ様の眷属のオマケとして鍛えられる事になった僕だったけれど、地獄ってこんな状況なんだろう。

 

 降り注ぐ雷の矢は僕に直撃はしない、したら即死だから。それでも真横を通るだけで全身に凄まじい電撃が走るし、多分手加減はしているんだけれど鞘に入ったままの剣で殴打されたら宙を舞う。

 

 今も全身が痺れた所を宙に舞い上げられ、そのまま追撃で叩き落とされた。

 血を何度吐いただろう。気絶だって日に何十回もしているし、瀕死になって漸く回復されて直ぐに再開って感じだ。

 

 正直言って辛い。でも、これを乗り越えない限り僕の勝利はないんだ。痺れた体を無理に動かし、途切れそうな意識を繋ぎ止めて立ち上がると直ぐに攻撃が飛んで来る。

 

 握るのは貸し出された短剣、神様から贈られたナイフはリリの改宗費用の質に入れて、ミノタウロスの角からヴェルフが打ってくれた短刀は訓練の最中に折れてしまった。

 

『待ってろ、ベル。直ぐに新しいのを用意してやるから』

 

 ヴェルフはそう言ってくれるけれど、僕は悔しい。あの短刀は僕にとって重要な物だったのに、それを折ってしまった未熟さがだ。

 

「……そろそろか。私は書類業務がある。後は休憩時間まで戦い続けろ」

 

 立ち上がって直ぐに地べたを這いつくばって、直ぐに起き上がって数秒後には倒れ伏して、それを繰り返していると時刻を知らせる鐘の音が響き、ヘディンさんは他の人に僕の相手を任せて去っていく。

 

 ただ、後ろ向きに跳んでだとかして絶対に僕に背中を向け無いし、打ち込もうと近付いた時だって主に下半身への攻撃は警戒が凄いんだよ。

 

 書類作業、座り仕事……あっ! 

 

「もしかしてヘディンさんって……痔?」

 

 しかもお尻を見せないから血が滲む程の切れ痔なのかも。

 

 なら疑問の答えに納得が行った僕は正面に向き直る。目の前には僕とレベルが同じ位の人達、それが全員武装していて全員敵の乱闘が今から始まる。

 

 心なしか僕への攻撃の比重が大きい気もするんだけれど、大勢を相手にする経験を積めると思えば構わない。

 

「兎殺す兎殺す兎殺す兎殺す」

 

「兎死すべし、慈悲は無い。女神の為だ、ぶち殺せ」

 

 絶対に気のせいじゃ無いよね!? どうして此処迄殺意が高いんだ!?

 ……少し心辺りは有るけれどさ。

 

 

「はい、手当ては終わりましたよ。じゃあ、一緒にご飯にしましょうか」

 

 それは向けられる殺気から解放される、そんな事は無く余計に殺気が増す時間。

 ヘディンさん達団員とタケミカヅチ様達が食堂で一斉にご飯にする中、僕はシルさんがわざわざ持って来てくれたお弁当を一緒に食べる。

 

 この時に手当てをされるからか昼休憩前は攻撃が熾烈になるし、治療だって最低限だ。

 

 本当にシルさんの繋がりってどうなっているんだろう? ミアさんが前の団長だったのはオッタルさんが教えてくれたけれど、そんな人のお店の従業員だから?

 

 聞いてみたけれど笑って誤魔化されるし、話したくないなら聞き出さない方が良いんだろうけれど。

 

「はい、あーん」

 

「シルさん!?」

 

 そしてこの時間、シルさんのスキンシップがある度にすくみ上がりそうな程の殺気混じりの視線が突き刺さるんだ。

 もしかしてシルさんってフレイヤ様にとって凄く大切な存在とか?

 

 一つヒントになりそうな事に覚えがある。気を失う寸前の朦朧とした状態の中、アレンさんが娘の行動がどうとか言っていたんだ。

 だからもしかして……シルさんはフレイヤ様の娘なのかも知れない。

 

 眷属として子供と呼ぶ対象でなく、本当の意味で子供として育てられたとかなら説明が行く様な……。

 

「ご馳走でした」

 

 そんな疑問を浮かべ殺気を浴びながらのに食事が終わり、お弁当箱を片付けて、ここからが更に強くなる時間だ。

 

「じゃあ開始前に一眠りして英気を養いましょう。どうぞ、何時もみたいに私の膝で眠って下さい」

 

「何時もみたいって、これで四度目ですよね?」

 

 断らなくても断っても殺気は濃厚になるだけで、何より有無を言わせない圧力がシルさんにはある。

 膝は柔らかいし匂いは良いし女の子の膝枕とか嬉しい筈なのに、どうしてこんなに怖いんだろう……。

 

 この日も午後からの訓練は厳しく、幹部の人達に混じってタケミカヅチ様に修行を見てもらう時間が一番心が安らいだ。

 

「今日からはヒュアキンストスとの一騎討ちを想定し、十人組み手を終えた後にLv.3の魔法剣士を相手に戦え」

 

 今回は攻城戦、相手の方が数が多い以上は疲れた状態でヒュアキンストスさんに挑む必要がある。それを考えれば普段よりも優しい内容なんだろう。

 

「安心しろ、愚兎。一騎討ち中の横槍はアレンが時折石を投げ付けるだけだ。精々骨が折れる程度で済むぞ」

 

 骨折程度かぁ、確かにそうなんだろうけれども……。

 

 

 この日も日が暮れても訓練は続き、晩御飯は食堂で皆さんと一緒に食べる。

 相変わらず視線が突き刺さる事が昼間に浮かんだ予想を強くするけれど、多分言っちゃ駄目な事なのだろうから口にはしない。

 

「おい、兎。もっと食え。何の為に女神がお前の参加を許したと思っている」

 

 相変わらず名前じゃなくって兎呼ばわりだけれど話し掛けてくれる人は何人か出て来た。

 言われるがままに山盛りの料理を胃に押し込み、少し経ったら直ぐに激しい戦いに身を投じる。

 

 これが最近の僕の日課、その成果は如実にステイタスに現れていた。

 

 

 

「相変わらず凄い伸びだな。どれだけ無茶をしているんだい、君は……」

 

 早朝から訓練が始まるからって居候先であるミアハ・ファミリアのホームへは神様に更新をしてもらいに向かうだけなんだけど、今日もトータルの成長率が凄い事になっている。

 神様からすれば心配みたいだけれど……。

 

「それはそうとフレイヤから妙な事はされていないだろーな!?」

 

「フレイヤ様なら時々窓から訓練の様子を覗く以外はバベルの部屋に居るらしいですよ。初日に挨拶したっきりで会っていませんし」

 

「そうか。ベル君が彼奴の色気にコロッとやられてパクっと食べられないか心配だよ」

 

 シルさんについての予想の影響なのか、神様の僕への態度の理由も何となく分かった気がする。神様は竈を見守る女神らしいけれど、同時に孤児の守護にも関わるらしい。

 つまりお母さんだ。僕にはお爺ちゃんしか家族が居なかったけれど、神様のこの態度は息子には男女交際は早いって心配する母親みたいな……そんな感じなのかな?

 

「まあ、それなら良いんだ。でも、フレイヤの所の女の子を引っ掛けるとかしちゃ駄目だぜ? 君にはもっと別の相手が居るっていうかだねぇ」

 

「そんな余裕無いですよ。回復してくれる人達は大忙しですし、あくまで僕は招待客のオマケって扱いなんですから」

 

「そうかい? それなら良いんだけれど……」

 

 多分神様のこの言葉は"交際相手はお母さんが見付けてあげる!"って感じなんだろう。神様には嘘が通じないから正直に話すし、実際フレイヤ・ファミリアの女の人達には避けられている気がするから嘘じゃないんだけれど、シルさんがお世話してくれている事は知られない方が良さそうだなあ。

 

 

 

「じゃ、じゃあ僕は戻りますね。お休みなさい!」

 

 さてと、明日からも頑張らないと!

 

 

 寝坊でもしたら雷の矢を撃ち込まれかねないと急いで戻ると、時間が時間だけに灯りは消えて静まり返っていた。

 早朝からの訓練で力を使うからか読書や談笑で夜更けまで過ごす人は基本的に居ない。

 

 求めるのは主神からの愛で、だから力を欲するし他の団員はライバルだっていうのは分かっている。

 そんな建物の中、唯一灯りが漏れている窓が一つ。ヘディンさんの部屋だ。

 

「こんな時間まで大丈夫かな……」

 

 あの人は僕の指導の他に自分の訓練も合わせた上で派閥の事務仕事も請け負っているらしい。

 僕も団長だから少しはしていたけれど、団員一人の零細ファミリアと都市最大規模の此処じゃ必要な仕事量も桁が違うだろうに。

 

 あの人、幹部ではあるけれど副団長ですらないんだよね? 

 

 座り仕事が多い上にストレスだって溜まるだろうし、だから……。

 

「どうした? 早く寝ないと身が保たんぞ」

 

「あっ、オッタルさん」

 

 汗の強烈な臭いと声に振り返ればオッタルさんが背後に立っていた。手には訓練用の剣を握っているし、この人は今まで訓練もを続けていたんだろう。

 

 団長として書類業務……いや、他の派閥の事だしな。

 

「少しヘディンさんが気になって。ほら、お尻……いえ、何でもないです」

 

「彼奴の尻か……」

 

 流石に痔なんて話題に出すべきじゃ無いかと思い、口が滑ったのを途中で言い淀むけれど、オッタルさんは少し複雑そうにしている。

 これは本当にヘディンさんのお尻は……。

 

「僕、もう寝ますね。この話は聞かなかった事にして下さい」

 

「ああ……」

 

 痔だなんて知られたくないだろうし、僕は何も知らなかった事にする。オッタルさんが知っているのは団長として接する機会が多いからなのだろう。

 

 痔かぁ。結石も凄く痛いそうだけれど、痔も痛いって聞くし僕も将来に備えて予防方法をミアハ様に教わった方が良いのかも。

 

 明日に備える為に僕は当てがわれた部屋へと向かって行く。オッタルさんは何故かその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

「困った。フレイヤ様に報告すべきだろうか……」

 

 

 

 翌日からオッタルさんも僕に背中を向けなくなったけれど何故だろう? 

 

 まさか彼も……。

 

 

 

 

「あの、非常にお聞きしづらいのですが……ベルさんって男色の気ってあります?」

 

 そしてお昼、シルさんからお弁当と共に凄い問い掛けがぶち込まれた。

 

 え? 男色? ちょっとどんな意味だったか思い出して……え?

 

「ありませんよ!? どうしてそんな風な誤解が!?」

 

 有り得ないと首を激しく左右に振って否定する。確かに男の人でも綺麗だと思える人は大勢居るけれど、それとこれとは別だから。

 

 なのに僕が男を恋愛対象と見ているって疑問が何処で生まれたのかまったく分からない。 

 シルさんも否定したのを見て安心した様子だし、何時もの揶揄いとは別だよね!?

 

 あれ? だったらヘディンさん達の反応って……えぇ!?

 

 何処から誤解が生まれたのか必死に考えて、思い当たったのはギルの発言だ。

 僕の好みを箇条書きにするとヘディンさんに当て嵌まるとだけ伝えて、ただし女の子に限るって部分はマルッと無視。

 

「心当たり浮かんじゃったよ……」

 

「安心しました。ベルさんが両刀なら別に良かったのですが、実は女の子に興味が無いってなったらと思うと」

 

「男の人は入りませんから! 僕は女の子が大好きですから!」

 

「まあ、私が大好きだなんてベルさんったら大胆」

 

「えぇ!? それは……」

 

 わざとらしく照れた演技をするシルさんの言葉を否定する寸前に浴びせられる殺気。

 肯定以外の言葉を吐くなと無言の圧力を感じる。

 

「……」

 

 だから選んだのは肯定でも否定でもなく沈黙。シルさんも分かって言っているし、安易に肯定するよりは良いよね?

 

 と言うか良いってことにして下さい、お願いします。

 

 憧れる相手は大勢居るけれど恋愛的な感情とはちょっと違う。うーん、難しいな。

 

 シルさんもそれを分かった様子で悪戯して来るし。

 

 

「あの、それで勝てそうですか?」

 

「ヒュアキンストスさんは僕よりレベル格上ですし、冒険者としての歴だってずっと上です。でも、シルさんのお陰で皆さんに鍛えてもらっていますし、絶対に勝ちます」

 

「そんな。私の為に勝ってみせるだなんて格好良いですね、ベルさん」

 

「この場合は違わない……のかなぁ?」

 

 色々な意味で勝たないといけないし、恩に報いたいってのは本当だから。

 

 それにしても僕への誤解って酷い。一体何処まで広まっているのか、それは怖くて聞けなかった……。

 

 この後も何度も吹き飛ばされて意識を失って叩き起こされてぶちのめされて、決戦三日前の事……。

 

 

 

「……か、勝った」

 

 僕は対戦相手だったL v.3の団員を倒した。自分でも信じられず、周囲もザワザワしているけれど、僕は確かに格上相手に勝ったんだよ

 

 

 そして、この日の更新で知らされたのはランクアップが可能という事。それは直ぐにヘディンさん達にも知らせて、体の慣らしと最後の調整の為に訓練は数倍厳しくなって普通に死ぬかと思った。

 

 そして遂に決戦の日がやって来た……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遂に始まりましたね。最近は暗い話が多かったので余計に盛り上がっている気がします。開催まではそれ程でもなかったですのに。……それで良かったのですか? 応援していなくって」

 

「声も届かない遠い場所じゃ、応援も恨み言も救援要請も口にしないのと変わらないさ。その手のスキルでも持っているなら話は変わって来るけれどな」

 

 オラリオは闘いが決まった当初とは違って大盛り上がりを見せている。それは騒がずにはいられない空元気なのか、それとも本当に祭りの一種として盛り上がっているのか、それは分からない

 

 只、分かるのはこういった行事があると気が大きくなるもんで、勝敗を予想するギャンブルまで行われているもんだから白熱した馬鹿が喧嘩をするし、事故だって起こる。

 

 それ故にガネーシャ・ファミリアも警備に力を入れているし、アミッドだって怪我人が大勢出る事を想定して治療の用意をしている状態だ。

 俺もそれを手伝う事にしていて、当然だが空中に設置された鏡で呑気に観戦なんかする暇もないって事になる。

 

 友人同士の闘いだ、気にならない訳でもないが、俺が見守っていても結果は変わらない試合の応援よりも手伝わないと大変なアミッドの手伝いの方が優先だからな。

 

 

「お手数お掛けします。流石に今回ばかりはそれなりの報酬を用意しなければ私共の派閥の名に泥を塗ってしまいます」

 

「良いのか? 貰えるなら貰うけれどよ……」

 

 此処最近はダンジョンでの怪我人は大幅に減っている。つまり薬を求める客だって大幅に減っているだろうし、だからって仕入れを控えれば普段の取引相手が大打撃を受ける。

 売り上げが無くとも諸経費は変わらないし、大丈夫なのか?

 

 

「ディアンケヒト様はちゃんと売り上げが低迷した時の為の資金を用意していますし、近々大きな売り上げのアテも有りますので」

 

 そのアテって何なのか予想は出来ているが、言及はしない。複雑な気もするんだが、好き嫌いでアレコレ言うのもなって感じだ。

 

 それでもモヤモヤとした物は残る中、周囲を見回し誰も見ていない事を確認したアミッドは俺に横から抱き付き、そっと耳打ちをして来る。

 

 

 

 

 

「終わったら私の部屋で慰労会をしませんか? 派閥からではなく、私個人からも特別報酬をお支払しますので。報酬内容はご想像にお任せします。……一度経験してしまいましたし、多少の無茶にもお応えしますよ?」

 

 オマケとばかりに耳たぶを唇で軽く挟み、頬に軽くキスをされる。

 

 

 そうか。特別報酬、護衛任務、目的地目前でゴブゴブ団と遭遇、自棄になった姉貴がギャンブルで有り金融かして……頭が……。

 

 

 

 

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