英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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不測

 ランクアップ時の恩恵は凄まじい、らしい。俺も最近したが微妙に強くなったか? 程度の印象だし、強化魔法を使った時の様に力が湧き出す感覚は無いのだとか。

 

「……終わったな」

 

 時折窓の外の鏡に映し出される映像を眺めるが。そろそろ決着が着きそうだった。

 

 今回の試合は砦を使った攻城戦、守りであるアポロン・ファミリアの方が圧倒的に優位だったが、団員の一人がベル達を招き入れるかの様に門を開けたせいで状況は大きく変わった。

 

 リリルカ居ねえし、あの動き方からして彼奴だよな? 変身魔法か、ちょっと面白そうだ。

 

 裏切り者として市内に公開された奴は可哀想だが、今回の始まりが始まりだからな。

 誰かが泥を被るのは仕方が無いって事で……。

 

 それからはそれなりの威力を持つ魔剣を最近第一級冒険者にまでランクアップしたリューが振るい、フレイヤ・ファミリアとの合同訓練で鍛え上げられた命が大立ち回りの末に広範囲魔法で足止めをして、今はベルとヒュアキンストスとの一騎打ち。

 

 途中、横槍を入れようとしたのも居たが、ジャンプで避けられて上から魔法を喰らって伸びている。

 

 そしてヒュアキンストスとベルだが、経験も技量も前者の方が圧倒的に上。ベルのは才能が無い奴が短期間で無理やり詰め込んだ物だからな。

 

 だが、格上相手の濃密な戦闘経験といままで溜め込んだステイタスの数値はベルの方が上だ。

 前はレベルに差で上回れていたステイタスを今やベルの方が上回っている。

 

「【ファイアボルト】ォオ!!」

 

 あと、イカレ具合でも上か。ヒュアキンストスの炎の円盤に正面から突っ込んだベルは追加の詠唱で円盤が弾ける寸前に手を突き出し、火傷を負いながらも自分の魔法で弾け飛ばした。

 

 そして近接戦闘に持ち込むと、突きで脇腹を切り裂かれながらもヒュアキンストスの腕を掴むと魔法を発動、そのまましがみ付きながら魔法を連発した。

 

 ヒュアキンストスだって魔法を喰らい続けるながらもベルを殴打し続けたが、最初に倒れたのはヒュアキンストスだった。

 

「最近鍛え直したって言ってたのにな」

 

 音楽仲間であるアーニャは強さを目の当たりにして少し鍛え直す事に意欲を見せていた時にベルと戦闘、予想よりも喰らいついて来た事で戦士の血が騒いだとか言っていたが……。

 

「祝勝会を開いてやるか、残念会を開いてやるか。……後で考えよう」

 

 ベルの奴、負傷する事を前提に動く癖がついてやがるし、その辺はヘスティアかアドバイザーにどうにかするのを任せるとして……あの傷は流石に不味いな。

 

 チラッと見た限り、結構深く抉られている。ヒュアキンストスの奴、ベルを引き入れる戦いって事を忘れて倒す事に専念してやがった。

 

「アミッド、ちょいと……」

 

「出張ですね。どうぞ行ってきて下さい。あの距離では怪我を負ったまま戻るか治療師の到着まで待たなければなりませんので」

 

 皆まで言わずとも俺のやりたい事が伝わっていたアミッドの許しを得て、俺は派手にぶっ壊れた砦まで転移して行った。

 

 

 

 

 

 

「【イクスキュアス】。……にしても派手にやったな、お前達。殆ど瓦礫じゃねえかよ」

 

 砦に向かえば酷い有様だ。あくまで試合だが、だからって死なない程度に手加減する余裕なんて無いのか大怪我している連中は多い。

 特に魔剣で吹っ飛ばされた連中と団長二人、特に勝った方のベルなんてモツが出てもおかしくなかったからな?

 

「あははは。ギルが来てくれて助かったよ」

 

「流石に長時間怪我人を放置するのは趣味じゃねえよ。手続きせずに市外に出ちまったのはどうするかだよな……」

 

 やっぱり罰金か? 罰金だよな、多分。

 

 怪我は癒えても気絶したのが即座に目を覚ましたりはしないからアポロン・ファミリアの多くが意識が無い状態で、圧倒的に不利だった筈のベル達の陣営は全員意識があるってどうなってんだ?

 

「ギルも大変だね」

 

「あっ、流石に今回は治療院の手伝いの最中って事で治療費は請求するからな? 出張費込みで。……それとお前達だって今後は大変だぞ? 派閥のランクが上がれば税金だのミッションだの負担が増え……こんな時になんだ?」

 

 言葉の最中、此方に近付く武装集団の姿を目で捉えて言葉を止める。数は二十にも満たない程で、どうも怪我をしているのか背負われていたり肩を借りていたりと敗残兵の印象を受ける。

 

 外の冒険者が少し強いモンスターに返り討ちにあった? いや、どうも様子がおかしい。

 それに鎧に大きく刻まれた紋章に見覚えがあるんだが。

 

 俺が疑問を抱く中、リューは警戒した様子で武器を握り締めた。

 

「あれはラキアの紋章ですね。オラリオへ戦争を仕掛ける為に無茶な行軍をしていると聞きましたが、あの様子からして脱走兵でしょうか? 何方にせよ捕縛しましょうか」

 

「訳ありだろ? 俺が相手しておくから大人しくしてな」

 

 返事も聞かずに兵士達の後ろに転移、一撃で気絶させるのを何度も繰り返す。

 これで無許可で抜け出した事はチャラにならねえかな? 治療もした事だしよ……。

 

 

 

 あー、イシュタルから返して貰った一億ヴァリスをアポロン・ファミリアに賭けなくって良かったぜ。

 ……ベル達に賭けてりゃ尚良かったがな。

 

 

 

 

 

 

 

「ガネーシャ・ファミリアからしこたま怒られた。普段から無許可で出入りしているのもバレたし、ラキアの連中を捕まえてなくちゃやばかったな」

 

「うむ。今回は兎も角、普段から出入りするのは反省するのだぞ?」

 

 ラキアの連中を問答無用で引っ捕らえてオラリオまで連行、そして俺も無許可で外に出たからとガネーシャの所まで連行された翌日、直球で今回が初めてなのか問い質されたら曖昧な返答での誤魔化しも効かずに怒られて、アミッドとの合流が遅れたから少し拗ねられて強引に来られての朝帰り、今度はミアハに色々と叱られている俺だ。

 

「しかし脱走兵かと思いきやアレスまで連れていたとはな。奴も酷い重症だったのだろう?」

 

「散々戦争を繰り返しているんだし、送還したら国が混乱するってんなら目玉抉って指を切り落とす程度はしても良かったと思うけれどな。今回は普通に治療したから現在ギルドで話を聞いている頃だろうさ。随分と衰弱しているみたいだったが……」

 

 恩恵ってのは指先で操作するんだろ? だったら改宗すら出来なくして地上を楽しめない状態にでもしてやりゃ良かったのに。

 

 領土を広げる中で略奪や焼き討ちやらが行われなかった筈も無いし、その程度はしても良かったとは思うけれど、それなら地上に居ても仕方無いから帰る! ってされる可能性もあるのか。

 

「もうイシュタル辺りにでも全員魅了させれば良いんじゃねえか? 戦争好きに熱狂してるんだし、次代からの教育に期待する感じでさ」

 

「流石にそれは人ではなく神が選ぶ考えだぞ? あまり物騒な事を言わない事だ。お前は農夫に戻るのであろう?」

 

「確かにな。……どうも戦争を楽しんでいる節があるから嫌悪しかねえんだわ。始末して終わりってならないのが厄介だよ」

 

 ミアハの言葉には反論の余地も無い。どうも勝ち目の無い戦争を仕掛けて、その目標が世界秩序の崩壊に繋がりかねないって思ったら敵意が湧いてくるんだよ。

 

 少なくてもオラリオに一度敗北してから出た戦争の犠牲者は似た感想を抱くとは思うんだけれどな。

 

 

 そんな政治的判断なんてベルベルなら別として、俺にはサッパリだからこれ以上は口には出さないけれどな。

 どうも戦争と聞くとあの地獄を思い出す。覚悟して赴いた兵士でさえ悲惨だったんだ、戦禍に巻き込まれる民衆を考えたら……。

 

 

 結局、ラキア関連についてはギルドに任せる他は無く、何があったのかさえ情報は入って来ない。

 いや、正確にはアレスを連れた兵士達が重傷を負って何かから逃げて来たという事に口止めが入りはしたから全くとは言えないのだが。

 

 

 

 そんな風にモヤモヤを抱えている内にダンジョンに力が戻り始め、失われつつあった活気も戻って来た頃、俺はボールスの付き合いでエルドラド・リゾートにまで足を運んで来ていた。

 

 冒険者はモンスター不足で財布の中身は減っているってのに随分と景気の良い連中は居るみたいで、着飾った商人らしいのが何人も大金を賭けている。

 

 ボールスの奴も客が減って懐事情は寂しい筈なんだが、今後の儲けの為にも此処で耳に入る噂話何欲しいとか。

 

 俺? 俺はヤバい時に逃げるのを手伝ってくれってさ。

 

 そんなこんなで前みたいに適度に稼いで今はカジノを歩き回って耳を澄ませる時間なんだが、女を何人も連れて得意そうにしている奴をボールスが指差して注意して来た。

 

「此処には女連れで来るな? そりゃ何でまた」

 

「支配人に問題が有るんだよ。随分と好色な上に成功者が嫌いらしいからな」

 

 此処のオーナーは遠くの国から派遣されたドワーフらしいが、どうもキナ臭い話が伝わって来るんだとか。

 借金を理由に気に入った相手を愛人にしているとか、破落戸冒険者を雇って無理に借金を負わせるとか。

 

「俺も褒められたやり方はしちゃいねえが、流石に裏の世界でも鼻摘まみ者になるやり方だぜ。その内消されるかもと思ってたんだが……妙な話を聞いてな」

 

 此処でボールスは高ランクの獣人にも聞き取れなさそうな声で囁く。本国に行った事のある奴とこっちでカジノに入り浸っている奴とじゃオーナーについて食う違う証言があるってな。

 

 どうも別人の可能性があるんだそうだ。何かあっての影武者か、それとも成り代わりか。

 派遣先が絡んでいようがいまいがろくな事じゃなさそうだ。

 

「本国でオーナーであるテリーと会った事のある奴から話を聞いて人相描きを描かせたんだが、肝心の本人を見たいとも思ってな。……恩でも弱味でも本拠地から金を引き出せるとは思わねえか?」

 

「アンタが消されない様にな? ……あん? あっちに居るのは……」

 

 最近凄い借金が発覚したベルが見覚えのある男達と快勝していて、更に向こうじゃシルが男装したリューと一緒に稼いでいる。

 

「取り敢えずルーレットにでも行こうぜ。ダイスで稼ぐのも飽きた」

 

 現在、持ち込んだ一億ヴァリスは五倍になった。これを適当に溶かして程々の儲けを持って帰ろうかと思ったが、ちょいと気になるんだよな。

 

 

 いや、借金のせいで愛人になったって連中は可哀想だが、だからって大立ち回りをする気はねえよ。確実に裏の世界の住人に目を付けられるからな。

 

 それに本人から解放されたいって言われてもいない。借金で身売りする様な暮らしから金持ちに囲われての生活になれて文句が無いってのも居るかもだし……。

 

 本当に一線を越えたならその内って感じだろう。

 

 さて、先ずはルーレットで三億程溶かすか。数字に賭けてりゃ確率的に大丈夫だろうし、一気に賭けてればオーナーが様子見に出て来るかも知れないしな。

 

 

 

「あ、当たりです……」

 

 あちゃー……。三億全部一括で賭ける際はディーラーは迷った末に手柄欲しさに受け入れたんだが、それが当たっちまったから顔を青ざめさせている。

 三十六倍の百八億ヴァリス、それだけの分のチップが山の様に目の前で積まれ、ボールスも少し困り顔だ。

 

 尚、俺と同じ数字にそれなりの金額を賭けたから儲けは億に届いている。

 

 儲かるのは良いが派手にやり過ぎた。大忙しでチップを運ぶ店員達の姿を眺めて困っていると奥から太っちょのドワーフが姿を現す。

 ボールスにでも視線を向けると僅かに頷いた。

 

 ……当たりか。

 

 

「お、お客様。奥の方で特別なゲームを楽しみませんか? 賭け金も店内とは桁が違いまして……」

 

 さて、どうするか。此処で持って帰っても困る事態になりそうだが、三桁億を一晩で失ったって噂が流れるのも困る。

 

 奥の部屋でのゲーム、何だかカモになりそうな気配を感じつつオーナーの護衛らしき男に奥へと連れて行かれるディーラーの姿を目で追う。

 勝手に億単位のゲームを引き受けた事を叱責され追い出されるなら自己責任だが、明日には水に浮かぶ事になっても目覚めが悪い。

 

 いや、どうも男の様子からしてそうなりそうな気がする。

 

「ちょいと便所に行って考えるさ。これだけあれば何代も先まで働かずに暮らせそうだしな」

 

 暗にこのまま儲けを全部持って帰ると告げるとテリーの目付きが一瞬で変わり、もう一人の護衛に目配せをしていた。

 

「そうですか。このまま勝てばカジノを手に入れる事も夢ではないでしょうし、是非ご参加をお考え下さい」

 

 ギラギラと敵意を漲らせたひとみに圧を乗せたつもりの言葉。悪役としちゃ三流で、だから俺の誘いにだって乗る。

 

 トイレに向かう途中で気配を殺しながら近付く奴が三名程、曲がり角を曲がる時に一瞬視線を向けたが一見すれば客の服装だ。

 俺を始末しても店とは無関係だと言い張るんだろう。実際、個人で雇ったなら嘘ではない。

 

 後はそれを叩きのめして派手に騒いでやるかと思ったんだが、便所に入った所で俺は足を止める。

 尾行して来ていた連中が別の奴に叩きのめされた。

 

 

「大丈夫ですか、ギルさん?」

 

「あー、うん。偽テリーの部下だと思うから縛って連れて行こう。……とはならないんだよな」

 

 何故って決定的な事はされていないから襲われたと騒げない。怪しい言動をしていたとして、最大カジノのオーナーを糾弾するには不十分。

 

 計画が台無しになった事で思わず口を滑らせた内容にリューが僅かに反応した辺り、偽物の正体に心当たりが有ったのか。

 

「未だ確証はなかったのですが、あの男は矢張り……」

 

「こっちは偽物の可能性があるから本物を見た事がある奴の証言で用意した人相描きでボールスが確かめたんだが、何処の誰か知ってた訳ね」

 

「ええ、実は……」

 

 とある女神の派閥が追い詰めた悪党で、懇願を受けて見逃した奴だと。その女神の派閥ってのに此奴が所属してたんだろうし、人の善性を信じた結果がそれなりの数の人生を狂わせたと。

 

 最後の方は口に出さないが、駄目じゃん。人は変われるけれど簡単じゃないし罪は消えないんだぜ?

 然るべき方法で罪を償わせるのは大切なんだが、状況次第か。

 

「さてと、俺を狙ってたのはどんな奴だ? 足運びからして素人だったが……」

 

 リューが気絶させた連中はフードで顔と体を隠していたが、どうも尾行はバレバレだし刺客にしちゃ頼りない。

 まさかと思ってフードをめくってみれば女だ。しかもフードの下は薄着。

 

「……あれか。ハニートラップ的な奴か。色仕掛けに参った所でグサッと」

 

「ええ、素人の様でしたので手加減しつつも最悪のケースを予想して直ぐに気絶させましたが、どうやら正解だった」

 

 女達の懐を漁ったリュー何取り出したのは小瓶。中には液体が入っているが、この状況からして毒薬だろう。

 

 何らかの理由で従えている一般人を使い、失敗したら自害させようって腹らしい。

 ナイフも持っちゃいるが、口付で毒を飲すって手も有ったんだろうが……。

 

「確かギャンブル狂いの馬鹿親父が脅されて参加させられた賭けで娘を連れて行かれたんだよな? ボールスの話じゃ常套手段らしいし、この連中もその手の犠牲者かもな」

 

「恐らくはそうでしょう。故郷の家族に手を出すとでも言われたのでしょうが……卑劣な」

 

「親父については何を失っても半分くらい自業自得だが、連れて行かれた娘がこんな目に遭うのはな」

 

 困った。既に穏便な方法は選択肢に無いぞ。

 

 

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