英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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不満

 このままでは身の破滅であるとテリーは……いや、テッドは焦っていた。

 元は違法賭博場の元締めであり、アストレア・ファミリアによって壊滅させられた際に必死の懇願によって見逃された。

 

 神に嘘は通じない事からその時は本心から改心を誓ったのであろうが、一度道を外れて贅沢な暮らしを体験すれば細々とした質素な暮らしなど選べる筈もない。

 

 人には善性があり、悪人も善人になれるのではあろうが、それは容易な道では無いのだ。

 結局、本物のテリーが事故死したのをこれ幸いと入れ替わり、カジノの大元の影響力を利用して同じ様な生活を送っていた。

 

(あの馬鹿が余計な欲さえ掻かなければ……)

 

 相手を嵌めて叩き潰す為に行われる特別なゲームと比べ表での最大ベットは大きく額が下がる。

 それなのに億単位の賭けを一点賭けだから大丈夫だろうと欲張ったディーラーが承諾し、そして三十六倍の高配当が出てしまった。

 

 一晩で百八億もの損害が出れば確実に大元から賄賂で誤魔化せない程の相手が査察に来る筈だ。

 そうなれば身の破滅であると焦り、少しばかり短絡的な手段を選んだ。

 

 自害用の毒を持たせた女達、愛人にしたが少し飽きて来た数人にハニートラップを仕掛けさせて始末し、失敗しても死人が出た騒ぎを理由に支払いを遅らせて逃亡、もしくは手の者に命じてギルを始末させる、そんな予定を立てていたのだが……。

 

 

 

「この通り俺を狙って来た女達は気絶させたが、毒薬やら娼婦みたいなお揃いの服装やら誰かが前もって準備しないといけないよな? そうそう、今お越しの神様方。俺が狙われたってのは嘘ですかー?」

 

 焦りのあまりに失敗しても自害出来る事が可能なのを前提にしていた、テッドがその様なミスに気が付いてももう遅い。

 

 仕向けた女達を担いだギルは店内の客達、そしてオラリオからの誘致だった事を理由に警邏を任せているガネーシャ・ファミリアの団員達の注目を大いに浴びる様にして糾弾を行って来ている。

 

「テリー……いや、それとも違法賭博の元締めだったテッドと呼んだ方が良いか? 肯定か否定で答えろよ。アンタはテリーに成り変わった偽物か? 此処にいる神様達に嘘の判定をお任せするか……背中のステイタスでも確認してもらうか?」

 

「何故その名を……」

 

 肯定と取れる言葉が口から漏れてしまった事で咄嗟に口を塞ぐがもう遅い。

 

 知られている筈の無い本名に思わず焦りが生じたテリーが思わず視線を向けたのは今回のターゲットの候補だった貴族のエルフ。大金を手にして美人の妻と共に来たのが気に食わず、借金を負わせて妻を奪ってやろうと経過していた。

 

 その顔に敵意を覚えたが、今まさに記憶の想起と同時に理由を理解した。

 自分を一度叩きのめしたアストレア・ファミリアの一員で、死んだと安心していたその名前は……。

 

「リ……」

 

 それを口にする前にガネーシャ・ファミリアの団長であるシャクテイによってテッドの意識は刈り取られた。

 

 

 

「皆様方、何分人を巻き込んでの逃走の可能性が有りましたので少しお騒がせ致します。……失敬ですが神様の何方かに一応ステイタスの確認をお願い出来ますか?」

 

 結構速い手刀、俺だったら見逃さないが行動に迷いが無かったな。前から目を付けていたか?

 

 俺の言葉を聞いて即座に動く姿から言葉の通りの理由もあるんだろうが、視線が一瞬リューに向かった事でもう一つの理由を悟る。

 確かにこんな大勢の前で訳有りの奴が名前を呼ばれるってのは不味いんだろう。

 

 おっと、解決するといなやシルの姿もねえし、リューも既に出口の方に。

 こっちも判断が早い。

 

 そして判断っつったら……。

 

「しかし参ったな。こりゃ換金していない百八億は無効か? オーナーが偽物だったし、こんな事態に陥った訳だし。その辺はギルドやガネーシャ・ファミリアの裁量だろうけれどな」

 

 こんな大金を手にしたとなったら妙な連中が寄って来るのは明白で、だからってギャンブルで浪費するには膨大な金額だ。

 勝敗を問わず不利益でしかない。オラリオを捨てるって選択肢が無い以上はな。

 

「さてな。私が判断する事では無いが。オーナーが偽物だった以上はカジノの大元が何か言って来るだろう。期待はしないでくれ」

 

「保留って事か。まあ、仕方無いな。ギルドには逆らえねえし」

 

 はい、これで勝敗とか無関係に金は手放せた。俺自身が放棄する訳でもねえし、他の勝ってる客の恨みとかは判断するギルドに任せよう。

 

 そう、この場にいるギルド長ロイマンに。

 

「む、むぅ。確かにこれだけの大金を問題があったカジノに支払わせた場合、政治的な問題が……」

 

 最終的には無効ってなるんだろうが、これは貸しだ。何せ招致したのはギルドであり、そのお膝元で起きた問題だ。

 今後の付き合いを考えれば俺の分は勿論、公平性の為に他の客の勝ちも無効になるんだろうが、額が額なだけに今後突っつく材料になる。

 

 何せ俺は普通に賭けをして勝っただけ。それがボールスに頼んで換金してもらっていた元金合わせて二億しか残らねえんだから。

 

 ……因みに俺が大勝ちしてから換金を頼んだ時点で察したのか既に自分のチップも換金してやがった。

 判断が……早い。

 

 

 

 後日、俺の手元には二億ヴァリスと感謝状的な奴、それと向こう二年の税金を免除するって書類が残った。 

 一割程度は手元に来ると期待していたんだが世の中そこまで甘くないらしい。

 

 

「少し腹立つから二年の間だけ第一級冒険者大量に加入させて派閥の等級上げてやろうか」

 

 椅子にもたれ掛かりながら恨み辛みを呟く俺だが、普段からギルドに不満を持ってる派閥や少し困らせてやろうって思っていそうな派閥にも心当たりがあるから有り得ない話じゃない。

 

 相手側だって等級が下がっている間に遠征の費用を貯める事が出来る訳だしな。

 

「駄目だからね、そんな事したら。いや、確かに一割でも数代は遊んで暮らせる金額だけれどさ。ギルドの糞共め。毎日小指をタンスの角にぶつけろ」

 

 まあ、団長が言う通りしないぞ? 俺が実際にしないと分かっているからか調合の手は止めずに口を動かしているが、最後には呪いを呟く。

 

 だよな。惜しい気がする。

 

 カジノの一件が終わった後、本当に色々あった。テッドが雇っていたチンピラ冒険者の検挙や本国との交渉、あの場で勝っていたのに騒ぎで無効になった客の不満や今まで損した連中が利益が無効なら損も無効だと騒いだりさ。

 

 それとロイマンがまた血を吐いて倒れたりしつつも収束を見せ、俺は疲弊し切っていた。

 

 

「……囲われていた女達からの事情聴取が終わったら全員を故郷まで送り届けたとかお疲れ様」

 

「ラキアの軍隊を壊滅させた奴を考えたら無難な選択だとは思わずんだが、流石に長距離移動を連続で行うのはな。幾ら回復しつつでも疲れた……」

 

 もう無理、数日は働く気力が湧かないと思っていたら店の戸を開けて二人が入って来る。

 ダフネとカサンドラ、俺が暫くホームを離れている間に入団した元アポロン・ファミリアの団員だ。

 

「ただいまー」

 

「今帰りました」

 

 アポロンが追放されちまったからな。実はもう一人勧誘したのが居たらしいが、結構大きいファミリアに所属してたってプライドが邪魔して断ったらしい。

 

 自分を安売りしないのは良い事だが、リリルカのせいで裏切り者扱いされてるから大手は無理だろうな、うん。

 

「あ、あの、ギルさん。夢で見たのですが……」

 

「ちょっと止めなって。新しい所でも変に思われるわよ」

 

 そんなカサンドラが少し気弱そうに話し掛けて来てダフネが止めているが、どうも予知夢の能力があるらしい。

 ヒュアキンストス曰く偶然が重なって的中しているが、所詮は妄言だそうだ。

 

 実際抽象的な内容でこじ付けだと言えるんだそうだが……エアを知ってるからな、俺。

 

 あの婆さん(中身は体を入れ替え続けているから婆さん認定)も未来を見通したし、ミアハも神でさえ理解不能な事も有るって言っていたしな。

 

「あー、大丈夫。実際に未来を見通す力を持ってた奴が知り合いにいるからな。言ってみな」

 

「は、はい。えっと、畑を耕している人とフライパンを持った狂戦士が温泉に入っていたら荊の杖を持った人が現れるって夢で」

 

「荊の杖って事はエルファスか。それで温泉ねぇ」

 

 要するに温泉に行けば良いんだな、フェルムさんを誘って。

 

 前例を知っていなけりゃ夢でしかないと思うんだろうが、的中率と合わせて考えれば参考にはなる。

 団長もダフネも信じた様子の俺に不思議そうにしているが、ヒュアキンストスの話からして全く信じないってのも妙な話だ。

 

「そういった呪いとセットなのかもな」

 

「え?」

 

「いや、気にすんな。しかし温泉っつったら……」

 

 団長が企画するも人員と予算の都合で俺が却下した入浴施設、それをディアンケヒトの所が施設の設計を含めて買い取って近々オープンの『ケヒトの湯』。

 

 実際はアミッドの出汁もとい残り湯を温泉と偽って提供するんだが……。

 

 どうしよう。実態を知っているだけに行き辛い。俺は良いとして、実態を知られていると知ってるアミッドの反応が予想可能だからな。

 あれだけ嫌がってたのにオラリオに広がった嫌な空気を払拭する癒しの場を提供するとでも言われて強引に進められたか?

 

「まあ、予知夢は兎も角として不服だけれど温泉は悪くないね。どうせ偽物だろうけれど、定休日に揃って行ってみようか」

 

「地面の下ってダンジョンだしね」

 

「楽しみだな……」

 

「じゃあ、出掛けてる春姫達が帰ったら誘ってみるか」

 

 この時、俺は敢えて何も言わないでいた。フライパンを持った狂戦士ってキーワードに。

 本人には言わない方が良いし、口止めしておくか。

 

 

 

 そして迎えた定休日、一日フルに使って体を癒そうとなった俺達は派閥総出で温泉へと向かったんだが、道中でシフトが休みだというフェルムさんとも出会した。

 

「へぇ。予知夢ってエアさんみたい」

 

「あっちは詳細に見えていたせいで楽しみも削がれるとか言ってたけれどな」

 

 こりゃ本当に予知夢は有り得るぞと話して到着したのだが、入ろうとした所で団体客と遭遇した。

 

「おや、春姫達も風呂に来たのかい?」

 

「アイシャ様もいらしてたのですね。私共は新しく入団なされたダフネ様とカサンドラ様の歓迎会も兼ねて来たのですが……えっと、新人の方ですか?」

 

 春姫が戸惑いを見せるのはアイシャ達見覚えのあるアマゾネスに四方を挟まれる形で一緒に居る見知らぬアマゾネス達。

 新人って感じでもない手練れの様子に戸惑う中、アイシャは笑いながら首を左右に振った。

 

「手を組む事になったカーリー・ファミリアの中でオラリオでの暮らし方に最低限適応出来た奴等を先に外に慣れさせようとなってね。残りの連中のお守りもやって欲しいし、今日は外に慣れる練習さ」

 

 言語も文化も違う暮らしをしていたが、その中で適応力が強かったのか元の性分が祖国に向いていなかったのか、それは別として凄い事なんだろう。

 

 取り囲んでるアマゾネス達が少し疲れた様子なのは未だ完全じゃ無いんだろうけれど。

 

 此処、疲れが取れるんだよな? なんで疲れてるんだよ。

 

「それはそうとして……春姫、アンタ漸く雄を知ったみたいだね」

 

「ひゃう!?」

 

「この胸で誘惑でもしたかい? まさか一回で気絶しちまったなんて情け無い真似は晒してないだろうねぇ? 惚れた相手なら一滴残らず子種を搾り取っちまいな」

 

 アイシャの腕が春姫の腰へと回り、引き寄せると同時に俺の方を見ながら春姫の耳に息を吹き掛けた。

 

 嬉しそうだな、妹分がそんなに心配だったか? それはそうと公衆の面前で何を言ってるんだよ。

 これだからアマゾネスはっ!

 

 顔を真っ赤にしてフラフラし始めた春姫を支えながら視線で非難するも軽く流され、そのままアイシャはディアンケヒト・ファミリアの店の方に向かって行った。

 

「カーリー様の胃薬が尽きちまったからね。さっさと買って帰ったら勉強だよ、アンタ達。こっちは夜に商売があるんだから時間が無いんだ」

 

 え? あの女神、胃薬飲んでるのか。食い物が合わなかったのかもな。俺も兄貴も旅の途中でそんな事あったし。

 姉貴は何でもバクバク食っていたけれどさ。

 

 

「あわわわ。あの二人ってやっぱり……」

 

「うひゃあ。夜中、聞き耳立てないようにしないと」

 

 ほら、新人二人が反応しちまったじゃねえかよ。

 

 

 

「しかし男二人に女四人か。これは今まで以上に配慮してやらねばな」

 

「肩身が狭くなるよな。俺も血の繋がらない実の姉が二人増えていた時は気を使ったし。姉貴相手なら雑で良いんだけれどな」

 

「詳細は聞いているが妙な感じは消えんな、それ」

 

「だよな」

 

 女共とは一旦分かれ、広大な面積を誇る風呂を堪能する。これはウチじゃ管理出来ねえだろうって程に広いし、金も人も豊富な所は違うねぇ。

 

 サウナってのも面白そうだし、色々巡ってみたいよな。……この温泉の正体さえ知ってなきゃもっと楽しめたと思う。

 このお湯に彼奴が浸かってたのかぁ……。

 

 それでエルファスとは会えるのかね? 今日とは限らないが……。

 

 先ずは体洗って、のんびりしながら考えるべきと考え、備え付けのシャンプーのボトルに手を伸ばすと横から声が掛けられた。

 

 

「こっちのシャンプーのボトルは空なんだ。悪いが後でそっちのを貸してくれ」

 

 髪が長いから手入れが大変なのかシャンプーのボトルを手にしたエルファスは少し困り顔だ。

 

 

「盛況だし補充するのが間に合わないんだな。ほら、先に使えよ……あっ、居た」

 

「そうか。助かる。……ギルか。一年程見ない間に背が随分と伸びた」

 

「服が合わなくなるのは面倒だけれどな」

 

 劇的な再会は別に臨んじゃいないが、何ともアッサリとしたものだ。頼まれたシャンプーを手渡し、俺は先に体を洗い始める。

 エルファスは何度もプッシュして大量のシャンプーを出して髪を洗い始めていた。

 

 因みに何処とは言わないが大きさは俺の勝ちだ。タオルは腰に巻かない派らしい。

 

 

 

「……良い湯だ。そうだ、シャリには会ったか? オラリオ周辺が怪しいと教えられて来たのだが、流石に旅の疲れが溜まっていたから利用したらお前と会えたのは運が良い」

 

「別の理由でも運が良いけれどな。お前にベタ惚れのアマゾネス達が集団で来ているからな。さっき入り口で会った」

 

「それは面倒だ。僕が愛する女性はジルだけだというのに」

 

 仲間との再会ではあるんだが会話は弾まない。並んで湯に浸かりながら情報を軽く交換するだけだ。

 だってエルファスが仲間になったの旅の終盤だったし、それまでは兵士に絡まれているのを助けても暴力に頼る愚か者扱いだったんだぜ?

 

 何度目かからは去り際に礼を言う様になったけれど。

 

「フェルムさんも一緒に来ているんだ。今後の事もあるし話し合おうぜ」

 

「そうだな。詳しい話は必要だ。それに……随分と鈍っているじゃないか。いや、それで良いんだろうがな。君には鈍る生活を送る権利がある」

 

 そういうエルファスには鈍った様子が見られない。最近勘を取り戻し始めた俺と違ってずっと旅を続けて来たからだろうが少し悔しい。

 

 

 

 

 

「後でフェルムさんも誘って軽く運動しに行こうぜ」

 

「……良いだろう。僕も偶には全力を出して動きたいと思っていたんだ」

 

 

 

 

 

 

 




ダンジョン破壊常習犯 エルファス、ダンジョンで暴れようぜー

救世主 良いね!

狂戦士 参加しまーす!

ダンジョン Σ('◉⌓◉’)

ダンジョン :(;゙゚'ω゚'): こっち来るな
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