英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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竜としての格

 ダンジョン下層の始まりである大瀑布『巨蒼の大滝(グレートフォール)』。ダンジョン二十五階層から二十七階層まで続く巨大なエメラルドブルーの滝。

 

 飛び降りれば一直線に行けるんだが、流石に姉貴と同じ馬鹿とは思われたくないのでオッタルには普通に目視してから【テレポート】で移動したと嘘を言っている。

 

 まあ、それでも下級冒険者が此処まで単独で来る事に呆れた様子だったが。

 

「知っているか? 四日前の朝、あの滝が完全に凍り付いていたらしい。階層主のアンフィス・バエナごとな」

 

「ふーん、そりゃおっかねえ事だ」

 

「調査の結果、何者かの魔法による物と分かり、一時はロキ・ファミリアの九魔姫(ナインヘル)千の妖精(サウザントエルフ)の仕業との疑惑が出たが……」

 

「生憎、基本的に夜は早いんで誰かが何かをするなんて見てねえな。そんな疑いが出る位には凄いのか、その二人」

 

 他の大陸にも名が轟いているのに知らなかったのか、そんな風にオッタルは驚いた様子だったが、そっちだって俺を知らねえだろ? 神も竜も倒した英雄の弟で仲間の一人だぜ? 言わねえけれどな。

 

「お前の回復魔法も段階を踏むが、それぞれ詠唱の追加で魔法の質すら変わり計九つの魔法を使う者と、エルフなら誰の魔法でも使えるという者だ」

 

「へぇ。どんな魔法か見てみたいな。ちょっと興味有る」

 

 因みに階層ぶち抜いて滝すらも完全に凍り付かせたのは俺だ。深夜のノリで試してみたくって暴走したんだ、関係者の皆に悪い事したよ。

 

 

 

 

 

 

 あれは深夜の事、仮面とフード付きのローブでベルゼーヴァになった俺が滝壺周辺で魔法を打ちまくっていた時、それは現れた。

 二頭を持つ水竜、魔法威力を減衰させる力を持つ紅霧と、灼熱の蒼炎を吐くらしい強力なモンスター。

 

「海王とはちょっと違うな。知能はあっても知性はなさそうだ」

 

 唸り声を上げて今にも俺に襲い掛かりそうな竜を前に俺は平常心で声を掛ける。返事は無し、喋れないし言葉も理解してないか。

 

 モンスターの強さとしては5だが、水中にいる時は6になるとか。海王を分類したらどうなるんだ?

 

 仮にも神の代行者として世界のバランスを保つ竜王直属の配下、ウルグやティラがモンスター作り出してたしダンジョンも似た感じなんだろうが、あの時の威圧感とは大違い。

 

 遠くから禁呪獲得の邪魔をして来たり、邪魔するなって住処に頼みに行っても一度は警告で済ませようとしたりと力と知性を持っていた。

 

「【ファイア】」

 

 試しにと放ったのは初級の火属性魔法。アンフィス・バエナの真下から立ち上った炎に苦痛の声が漏れだし、身を捩る。

 肉の焦げる臭いがした。

 

「ガッ!?」

 

 慌てて水中に潜って燃え盛る炎を消すが肉が焦げた臭いは周囲に漂い、随分と息が荒くなっている。おいおい、【スペルラッシュ(初級魔法威力三倍)】も使ってないのにこれか。

 ただの獲物だと思い、本能から襲った相手からの思わぬ攻撃に竜の瞳に恐怖の色が滲み出し、少しだけ俺から距離を開ける。

 

 それでも逃げ出さないのは未だ俺を倒せると思っているのか、それとも本能に抗えないのか。

 

 正直、【スペルラッシュ】を使っていたら終わっていただろう。直ぐ下辺りの雑魚より強いのは流石に階層主だけあるんだが、勘を取り戻す為の相手にしちゃ役者不足もいい所だ。

 

「ギャオオオオオッ!」

 

「海王だったら無効化してたぞ? 【アクア】……このまま帰るのも惜しいよな」

 

 俺の言葉は通じずとも期待外れの意思は伝わったのか、先程の仕返しとばかりに吐き出される蒼炎。怒りを込めた咆哮と共に迫るそれに水の初級魔法をぶつけて相殺、このまま帰って寝たいとも思ったんだが、今日は春姫に先客が来たせいで会えなかったんだよな、と若干八つ当たりをする気持ちも存在したんだ。

 

「はぁ!」

 

 追撃は放たず、力を貯める。所要時間は数秒程度、足止め役が居ないと戦いで使うのは難しいが、俺に追い詰められ動きの止まった竜相手には容易だった

 狙うべき隙なのか、何かをする前兆なのか、それに迷って俺の一度目の【チャージ】を前に動けない。

 

「ふんっ!」

 

「ギャ、ギャアアアッ!!」

 

 二回目を終えた俺に対しアンフィス・バエナが選んだのは逃走ではなく攻撃。何かする気なら何かする前に潰す。例え命尽きても体が崩れる前に道連れだとばかりに全力での突進。

 俺を押し潰さんと迫る巨体は届く前に魔法を叩き込もうが止まらないだろう。

 

 

 それでも【スペルラッシュ】を使えば一瞬で灰にしてしまえるんだが、他の冒険者の気配がしない今の時間帯だからこそ試せる事がある。

 

「【ハイメガスペル】」

 

 それはチャージ二段階で放つ魔法スキル、効果は魔法の段階無関係に威力を三倍に引き上げる。

 

 だが、それだけじゃない。本来は一発撃てばチャージは解除されるが、俺は星の精霊であり賢者の師でもあったネモから認められる才能の持ち主。

 

 【スペルラッシュ】に【デュアルスペル】を重ね、三倍威力の魔法を二重に放つ事が出来るのは俺以外には居ない。コントロールが難しく、二発目はチャージが乗らない事もあるが、今回は上手く行った。

 

 まあ、今回は竜王の右半身を奪った魔法じゃねえがな。あんなの地下で使ったら崩落するだろうしよ。

 

 使うのはこの場所に相応しい奴だぜ。

 

 

「【ブリジット】」

 

 放つのは水の禁呪、全てを凍てつかせる冷気。アンフィス・バエナの動きは周辺の水と共に氷に包まれた事で完全に停止する。止めどなく落ち続ける滝も完全に凍り付き、俺の目の前だけ氷の世界へと一瞬で変貌してしまっていた。

 

 そう、前だけだ。冷気は前方にのみ凝縮されて氷の壁は二十五階層まで形成されているが、後ろには一切の影響を与えない。

 

 俺の目前、下層の入り口であるエリアの約半分が氷に包まれていた。

 

 

「ヤベー。調子に乗り過ぎた」

 

 まあ、目撃者は居ないから大丈夫だろ。精々……背後の人魚だけだし。

 

 

『ヒェッ!?』

 

「ありゃ? 喋った。ティラの娘……じゃないよな? ゴブゴブ団と似た感じか?」

 

 本来モンスターは喋らないが、例外が居るのは俺も知っている。知能を後付けされたか……最初から持って作り出されたか。

 

 女神によって産み出されるも人間との共存の為に力を自ら封じ、子供と遊ぶまで人間に馴染んだ奴を俺は知っている。

 その最後は操られ、最初の友であり説得を続けたイオンズさんに止めてくれた事への礼を言ってだが。

 

 資料の人魚とは違って肌の色以外は人間に近い上半身を持った人魚は岩影から俺の様子を伺ってたが、気付かれたと驚いたのか固まっている

 

 

 敵意は無いっぽいし、やりにくいんだよな……。

 

「戦う気が無いなら逃げて良いぞ。その代わり、さっきのアレを俺がやったのは秘密な。ほら、これやるから」

 

 夜食に持ち込んだじゃが丸君を投げ渡し、食べたのを確認すると手で追い払うような仕草をして背中を向ける。何かをしてくるなら容赦する気は無いけれど……

 

『ハ、ハイ! オ、美味シカッタデス』

 

 聞こえる水音、遠ざかる気配。逃げたっぽいな。

 

 さてと、モンスター憎しって意見が普通なこの大陸でモンスター見逃すとか見られてなくて良かった。じゃねえと変装していても動くのが難しくなるからな。

 

 イオンズさんは人とモンスターの融和を望んでいたし、ゴブゴブ団は働きによって人々に認められた。でも、モンスターへの憎悪や殺すことで得る魔石なんかの利益を考えりゃ難しそうだ。竜王を単騎で倒すのとどっちが大変かって感じだよな。

 

 

 ……姉貴ならギリ行けそうだけれど。どっちもの意味でな。まあ、人とモンスターの両方の英雄が必要って事だな。

 

 

 

 

 

 

 

「そんな馬鹿な真似をするなんて何者だろうねぇ」

 

「さてな。……無駄話は此処までにしよう」

 

 まあ、その馬鹿は俺なんだが、それを隠しつつオッタルの後に続いてダンジョンの奥へと向かって行った。

 

 因みに滝の氷は上級冒険者複数人が砕いて魔法で溶かしたが、壁の奥まで凍っていたらしく暫くはモンスターが誕生しない状態だったとか。

 

 

 

「あれが都市最強。確かに凄まじいな。……ランクアップって凄いのね、マジで」

 

 白い壁が続く迷宮の中、下級冒険者の俺は離れ過ぎず近過ぎずの距離でオッタルの戦闘を観察するんだが、ガナンと近い強さって見立ては間違ってなかったみてぇだな。

 

 群がる敵に大剣を振るうだけで紙切れみたいに吹き飛ばす様は人の姿をした災害。

 背中の棘を飛ばして来た大蜥蜴も棘を全部叩き落とされた直後に頭を割られ、羊みたいな奴も数匹纏めて宙を舞う。

 

 これを俺に気を遣いながら……いや、違うくね? 安全確保の為に様子を見てるってよりは観察する俺を観察している感じだ。

 

「まさかとは思ったが、俺の動きを目で追えているな?」

 

 そして最後の一匹を倒した所でオッタルの視線が俺に向けられる。少し疑いの念が籠った探る感じの目だ.

 

「目には自信があるもんで。向かい合ったら何も出来ずにやられると思うぜ?」

 

 こりゃ失敗。普通に見えるからって忘れていたが、第一級冒険者の動きなんて普通は目で追えないもんだ。

 初心忘れるべからずってこんな感じか?

 

 こうなると最初から探る目的で同行を許したのか? だったら女子トイレ置き去り(嘘)にしてやれば良かったかも知れねえ。

 

「まあ、良い。先に行くぞ」

 

「おう!テレポートで一発帰還可能な範囲まではお供させてもらうよ」

 

 これ以上の言及は無しか。さっきの説明で納得した筈は無いんだが、都市最強に受け者にして最大派閥の余裕って奴か?

 向こうが何も言わないのなら俺も教える必要も無いし、言って来ても誤魔化すだけだ。

 

 その後はモンスターとの遭遇も暫く無く、互いに無言で先に進む。別に話す相手でもないんだが、気不味いって気持ちも少しはあるんだよな。

 

 そうそう、このオッさんなら知ってるか?

 

「そういや喋るモンスターって珍しいのか? 人に近い姿の奴に限定されるとか?」

 

「喋るモンスターだと? その様な話など聞いた事も無いが……」

 

 俺の問いかけに足を止めるが、少し困惑した様子で、まるで俺が寝惚けているみたいな反応だ。

 言われてみりゃ俺が遭遇したのは聖杯の力か女神の力が加わったモンスター、もしくは七竜。

 

「あー。じゃあ誰かの魔法で喋ってるのか変身してたのかって感じか?」

 

「知らん、お前の故郷では喋るモンスターが居たのか?」

 

 どれもこれも特別な存在で、特別ってのは滅多に居ないから特別だ。あの人魚からは見た目と理性以外に何も感じなかった。

 

 なら、他の可能性の方が高いか。

 

「伝説の秘宝の力を得て喋る様になったゴブリン三匹と、人間殺す為に女神が生み出したけれど、人間に説得されて人間の街に馴染んでいた奴なら?」

 

「変わっているな……」

 

「俺もそう思う」

 

 ああ、何一つ言い返せる気がしない。マジで色々と巻き込まれてるよな、俺達。

 神話や御伽噺の存在で、畑を耕しているだけだった頃は話の中でさえ知りもしなかったのに。

 

「王妃と公爵の政争の影響で村娘の姉貴が伯爵になった時ぐらいビックリだったよ」

 

「何があればそうなるのだ……?」

 

 正室以外への恋心? レムオンって長男だし、正室との子供が生まれる前に他の女に手を出すとかな。

 

 オッタルも今度は少し唖然とした感じだったけれど、正室との間の子じゃないと後継者になれないのに正室の子だって誤魔化してた先代が悪いよな。

 

 その後はただ広いフロアを抜けて火山地帯みたいな場所まで辿り着いた所で足を止めた。

 

「そろそろだな。じゃあ、お互い頑張ろうや」

 

「ああ。……それと一つ言っておこう。俺の足に此処迄着いて来て平然とする下級冒険者は普通では無い」

 

 ……あっ。

 

 その辺に気を付けておけ、そんなアドバイスと共にオッタルは奥の方へと進んで行く。

 

 成る程、うっかりしてたわ。フレイヤ・ファミリアが俺について少し知ったからってどうなるんだとは思うんだけれどな。

 

 

 

 

「まあ。あの猛者(おうじゃ)とダンジョンに?」

 

「ん。これで奥の貴重な物を集められるし、もう少し会いに来れる頻度を上げられそうだ。主神が堅物なもんで誤魔化すのが大変だけれどな」

 

「それは嬉しゅう御座います。春姫はギル様のお出ましをお待ちしていますから」

 

 予定通りに訪れた春姫の所で軽く雑談を交わす。膝枕を堪能しつつ見上げれば嬉しそうに笑みを浮かべる顔と共に動く耳。

 手を伸ばせば届く距離の尻尾もパタパタ動いていた。

 

 狐自体は畑荒らすわ鶏狙うわで好きじゃなかったんだが、ちょっと触ってみたい。

 

 でも、話している最中に体に触らせてくれって頼むのも気が引けるしな。

 

「そうそう、この前話す途中で寝ちまって途切れた話の続きを頼めるか? ほら、不老不死の妙薬を求めて旅立った王様の話」

 

「ふふふ。あの時は申し訳御座いません。毎度寝てしまって、アイシャ様にも叱られてしまいました」

 

「良いさ。寝顔見てるだけでも楽しいしな」

 

 最初の出会いから何度か会いに来ているが、実は一回も手を出しちゃいない。

 だって春姫みたいな美人相手に手を出したら今後会う度にそればっかり気にして話に集中出来そうにないからな。

 

 少し前屈みになるだけで俺を顔を膝と一緒に挟みそうな胸も、何よりも茶の準備をしている時に見た形の良い尻も触りたいが我慢だ、我慢。

 

 ……手を出さない理由をアイシャに話したら笑われたのは我慢ならねえけれど。

 黙ってろって頼んだのに本人に話すしさ。

 

「……外そうと思えば出来るな」

 

「え?」

 

「いや、気にするな」

 

 春姫達娼婦の首に付けられた首輪。ありゃ多分逃亡防止の奴だろう。姉貴が剣闘士にされた時も強制転移させる腕輪を着けられたが、それを身内の話と隠して話す時に自分の首輪を意識してたからな。

 

 力はそれ程じゃないし、場所を知らせるのと痛みを与える、そんな所だろう。

 神話の時代に隠された宝箱の罠すら解除出来る俺なら外せる。外した所でどうなるんだって話だが。

 

 育ちが良さそうなのに娼婦なんてやってる時点で過去にゃ踏み込んで欲しくないだろうし、在籍する理由次第じゃ犠牲が増えるってんなら。

 

「まあ、取り敢えず【キュア】。……ちょっと疲れてるっぽかったからな。これで肌の艶も毛艶も良くなったし、美の神にも匹敵するんじゃねえのか?」

 

「ギル様ったら冗談でもお止め下さいませ。イシュタル様に聞かれたら大変な事になりますよ?」

 

 本当に自信があるんだったら気にしないで欲しい所なんだがね。まあ、忠告は受け取っておくか。

 

 

 

「俺としちゃ割と本気だぜ? 神は神、人は人。別の存在過ぎるからな。どれだけ心を奪われる美しさだろうが月や太陽に恋はしない。異性として魅力的なのはって問われたら……そんな所だ。 うん? おーい。どうかした…寝てる」

 

 急に胸が倒れ込んで来たからどうしたのかと思いきや、春姫は真っ赤になって意識を失ってた。

 え? いや、あの言葉で此処迄……?

 

 

 

 

「娼婦としては経験豊富って言ってたんだけれどな……。それで殺気を抑えたって事は俺の発言は許容されたって事で?」

 

 もう二度目以降は手伝ってもらえなかったので春姫を布団に寝かせた後で扉の向こうの相手に声を掛ける。

 

 返事代わりに扉が一回だけ強く蹴られ、その後は大人しい足音だったし、大丈夫なんだろう。

 

 

「気に入らないが理解は示す、そんな所だろうな」

 

 女神の威圧はとんでもねえな。流石に神相手は一人は無理だ。旅の仲間があと二人は欲しい。

 

 こんな感じで思わぬピンチを乗り越えた俺だが、数日後にある噂を耳にした。

 

 

 女神フレイヤがオラリオから抜け出した。……それを聞いてどうしたって? 稼いだ物全てと引き換えにオッタルをダンジョンまで迎えに行ってやったよ。

 

 なんか凄く感謝された。そりゃ人望無い団長不在の時に主神が居なくなるとかな。

 

 頑張れ!

 

 

 

 

 




オッタル君の好感度が少し上がりました 

春姫のは凄く上がりました

ジャガー君は出た時に既にいなくなって時間切れでした
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