成る程、酔っ払った荒くれ者相手に商売を続けられる筈だな、店に入った時に思ったのはそんな感じの事だ。
あのエルフ以外にも猫の獣人やら店主のドワーフ(デカいのでハーフか?)らしいのやらが居て、前に店前で掃除していた奴を除いて強そうだ。
その例外は休みなのか居ないが、少なくとも今居る連中は一山幾らの下級や第四級じゃ話にならないだろう。
酒場の給料よりもダンジョンの方が儲かりそうだし、訳ありって所か?
動き方が暗殺者っぽいのも居るしな。まあ、深入りは厳禁だ。趣味でもねえ。
「三名様ご来店だニャー」
それと思ったんだが、何で猫の獣人、それも女だけニャーとか語尾に付けてるんだ? 独自の女言葉とか? デリケートな話だったら本人には聞けないしな。
少なくとも団長やリヴィラの街で会う獣人が動物の鳴き声みたいな口調使ったの聞いた事ねぇ。
気になったのはそれだけで、テーブルに案内される時にチラッと見えたメニュー表の値段が高めだが財布の中身を考えれば十分だ。
いや、それでも高くねっ!?
「……じー」
「何か俺の顔に付いてるか?」
店員が女ばかり、それも美女ばかりともなればベルは随分と緊張した様子で店内の様子を、特にあのエルフを中心に見ているし、ヘスティアはそんなベルが気になる様子。
そりゃ何度も勧誘に失敗、成功したと思ったらホームを見た途端に逃げ出され続けたんだもんな。
実際、勧誘後に知り合いの店を借りて恩恵を刻んだらしいしさ。
まあ、それは人様の所の問題だ。例えあのエルフがベルの曾祖母さんが生まれる前から今の見た目だろうと、本人が気にしないなら別に良い。
問題は店員の一人が俺の顔を覗き込んでいる事なんだよな。初対面だが、あのエルフとの遣り取りが理由か?
「お前が『運び屋』だニャー? シルが一度会いたがってたみたいなのに休みの日に来るだなんてタイミングの悪い男だニャ」
「俺も言われてもな。 団長が嫉妬して主神は連れて行きたがらないし、俺だけ豪華な飯食うってのも、こうやって飯奢るとかの口実が無い場合は気が咎める。はい、これ範囲で適当に持って来てくれ」
酒は飲めない、釣りは要らないと二万ヴァリス程入っている財布を手渡す。
あっ、財布は後で返してくれ。使いやすくて気に入ってるんだ。
「ヒュー! おミャー良い奴だニャー。ミア母ちゃーん。三人にお勧めの飯と飲み物頼むニャー」
「客に失礼な真似してんじゃないよ、馬鹿娘っ! ちょっと待ってな。直ぐに用意するからね!」
ちょっと騒がしいが、旅先で飯食いに立ち寄った酒場もこんな感じだったのを思い出すと懐かしい気分だ。
「あの、ギルさん? 大金でしたけれど良かったんですか?」
「気にすんな。俺は下級冒険者だが魔法は優秀だから大金稼いでいるんだ。まあ、気になるんならお前が稼げる様になった時に新米に飯を奢ってくれりゃあ良いさ」
忘れるなよ? と冗談めかして言えば帰って来たのは素直な返事だ。うんうん、その日が来れば良いな。
来ないとしても生き延びて可能性が残り続けるだけでも良い。人間、死んだらそれまでだからな。
さてと、俺の話はここ迄だ。ただの村の餓鬼だった俺が魔法の天才だったんだし、将来有望かどうかは分からねえがベルの話を聞かせてもらおうかね。
「英雄に憧れて冒険者にねぇ」
「えっと、子供っぽいのは分かっているんですが……」
「別に良いんじゃね? 重苦しい動機があれば偉いって訳じゃねえんだ。結果だよ、結果。成果を上げれば馬鹿にする声も止むもんだ。門前払いしたファミリアに後悔を味合わせてやりな」
祖父から聞かされた御伽話の英雄への憧憬が動機だってのに照れと気後れがあるみたいだが、世の中には綺麗探しの為に妻子放り出して旅してる奴だっているんだ。
まあ、ぶっちゃけ弱そうだし一から育てる気にならずに門前払いするって気持ちも分かるけれどな。
冒険者の多くが下級冒険者で終わる。俺みたいにアビリティが初期のまま上がらない奴は居ないだろうが、限界値には才能の差が出るらしい。
誰でも英雄になれる奇跡じゃなく、英雄になれる奴を効率良く英雄に育てるのが恩恵だ。
誰しもそれを知っていても自分は特別だと思いたいんだろうがな。
誰もが夢を抱えて訪れ、そして夢から覚める場所、それがエンシャントだったが……。
「やっぱりオラリオもだな。……気にしないでくれ。ちょっと思い出してな」
少なくても今から夢に向かって歩き出す奴に言う事じゃないし黙っておくとして、英雄扱いされた連中のその後について色々知ってるから複雑なんだよな。
「じゃあ、俺から未来の英雄にアドバイスだ。英雄譚が巨悪を倒して平和を勝ち取った所で終わる意味を考えな」
「え? それって一体……」
「考えるのも大切な事だぜ? まあ、英雄が英雄のままで居続けるのは大変だって事さ」
此処から先は宿題みたいな物だと話さないが、ベルは真剣な様子で考えるも思い当たらねえみたいだ。
それで良いよ。俺みてぇに十六で捻くれてるのは駄目だろ。
飯も最初の一品が運ばれて来ているし、今すぐ答えを出さなくて良いからと言い聞かせる。
モチベーションが下がってもいけないし、今は答えが出なくても良いさ。
「それ、まるでエルファスさんが言ってた事みたいだ……」
「うん? エルファス?」
こりゃ懐かしい……って程でもねぇか。それに名前が同じだけだろうしな。
ベルが思い出した様に呟いた名前に旅の最後辺りで仲間になった奴を思い出す。
正直処刑されても反対出来ない程の事はやった奴だが、悔い改めて償いの旅に出たからには安全を祈ってる。
出会った当初、兵士に絡まれてる所を助けたら暴力に頼る野蛮人みたいに言われたのは根に持ってるけれどな。
いや、何度か目からは立ち去る前に振り返って礼を言ってきたし、神になる為とはいえ人助けをやってたのも確かだし、何をやって来たかも、何をやって行くかも大切だと思う。
「そのエルファスって女みてぇな顔して変な服着た銀髪で生白い感じの奴だったりする?」
いや、まさかな。
「知り合いなんですか!? オラリオに来る途中、モンスターに襲われた村を救ったとかで滞在してて、英雄が必要とされる理由を考えるんだ、って言われました」
まさかのまさかだよ。え? やっぱりシャリが暗躍してるだろ? 彼奴、シャリの仲間だった奴だし。
「それでエルファスさんとどんな関係なんですか?」
にしても村を救ったって辺りを話す時に目をキラキラさせているし、英雄を直に見たって気分なんかね?
さて、どんな関係だと話すべきか……。
「彼奴のやった事で色々あった結果、追加で俺に二人の姉がいた事になった。それと一応仲間になった奴だ」
うん、俺って説明下手だな。パスタの大皿持って来たエルフなんて“頭大丈夫か、此奴”って目で見ているし。
「はぁああああああっ!? いやいや、何があればそうなるんだい!? 僕が神じゃなければ頭を心配しているよ!?」
そんな空気を一変させたヘスティアの叫び。俺の尊厳と引き換えに元から貧相だった女神の威厳が負債になったが、神の言葉で真実だと知ったのか唖然とした様子で大皿を置いた。
「本日のおすすめパスタです」
「おう、悪いな。取り皿もくれるかい?」
珍しく神へ感謝しつつパスタを受け取るもエルフは動かない。それどころか無言の圧を掛けて来ていた。
え? 続きが気になるのか?
見ればベルやヘスティア以外にも話が聞こえたらしい他の客も聞き耳を立てていて、店主だけが仕事に集中している。
俺もうっかり話に出しちゃった訳だ
「これ以上話すと家族愛の為に犠牲になった男の悲劇に移るから飯時にする話じゃねぇぞ? 俺も此処から先は話したくないしな……」
「リュー! さっさと配膳持って戻って来な! 仕事は立て込んでるよ!」
話せって空気をぶった斬ってくれた店長の声で終わりで良いんだろう。うん、これを茶化す空気で話したら姉貴に拳骨食らう奴だし。
「ふーん。多分そうだとは想ったんだが、ベルも田舎出身か。俺の故郷も畑以外は特に何もない感じでな。十一の時に代官に反乱起こした後で大陸巡りながら冒険者やってた。街ごとにギルドがあって、検査に受かれば配達や討伐の依頼を受けれるんだ」
「へー! オラリオの冒険者とは違うんだね」
「どっちかってっと便利屋の面が強いな。それでも旅しながら戦ってれば少しは身に付くもんだ。……こっちに知り合いでも居れば戦い方を学べたのにな。お前、我流だろ? そもそもナイフだって支給品だろうし」
俺の指摘にベルは頷く。道具として使うのと武器として使うんじゃ別物だし、俺達も苦労したっけな。姉貴の方は剣術道場で短期間指導してもらったけれど、兄貴は槍は兎も角、剣の方はさっぱりだったしな。
「指導者か。タケの奴なら武神だから武器の扱い方を教えられるんだろうけれど、彼奴も自分の眷族の指導だってあるだろうし。あっ、タケってのはタケミカヅチって奴の事で……」
「ああ、春姫が言ってた友達の育ての親か」
少し前に春姫がポロっと漏らした名前に反応してしまうが、ちょっと不味いか? 懐かしそうに話をしていたし、大切な思い出なんだろうが、何か訳あって娼婦になったにせよ会いたいけれど会いたくない様子だったからな。
ちょっと今のは忘れてくれと二人に言った所で次の料理が運ばれて来る。今日はどうも失言が多い。反省しないとな。
……春姫の事がタケミカヅチ・ファミリアに知られるのも困るが、こんな場所で娼館に頻繁に行くとか知られるのも凄く気まずい。
「まあ、最後に言うなら死ぬなって事だな。英雄だろうが破落戸だろうが死んで残るのは死体だけ。死後の魂の扱いだって神によっちゃ善悪無関係に一律に扱われるだけだろうしな」
そろそろ休憩時間も終わる頃、別れ際に忠告だけ残して先に店を出る。それにしてもエルファスまで来てるとか、絶対に面倒な事になるけれど会いたいもんだ。
彼奴、姉貴に惚れていたから絶対に弄くって遊んで……惚れた、か。
春姫を一目見た時、初恋の感情を思い出した。彼奴に惚れて何度も会いたいと思っていたんだが、一緒にいて脳裏に浮かぶのはティオナ様もなんだ。
心の闇から救えた人と、それが追い詰める理由となって心の闇を増幅させてしまった救えなかった人。自惚れでなければ姉貴より俺と仲良くなっていたし、戦いになった時は手を抜かずに倒すのが償いだと思っていた。
初恋の相手と、今でも夢の中で俺を責め立てる事のあるあの人。二人と重ねてしまっているんじゃないか?
「こんな時に相談に乗ってくれそうなのがイオンズさんかオルファウスさんなんだけれどな……」
他にも年長者は何人も居るけれど、この手の相談に乗れそうなの不良貴族しかいねえし、絶対茶化すからな。
いや、茶化して流したくもなるか。だってティオナ様とは婚約者だったんだから……。
どれだけ強くなろうとも救えない人は存在する。世界一強くても声の届かない場所に居れば助けようが無い。出会った時には既に手遅れなんて事も大抵だ。
何時何処でどの様に出会い、どんな選択をするのか。それが関わって来るんだよな。
「姉貴ならどうしただろうな。迷わず助けに行って、俺や兄貴が文句言いつつフォローしたか?」
連れ出すのは簡単だ。首輪外して瞬間移動、団長達も巻き込まれるから連れ出すか? そしてメンツ潰されて怒った連中が追手を出して大勢巻き込むと。
凄いな、シャリが何かするには絶好の機会だし、団員全員再起不能にしたら残るは本気を出した神だ。それから周囲への犠牲を防ぎながら戦えと?
ああ、情けない。こんな風に迷う時点でどうかしているよ。神やその代行者を仲間と一緒に倒したからこそ分かる。
俺だけじゃ絶対に無理だ。それでも動くに足りる動機が不足しているんだから。
「いや、そもそもどうして力技で解決する方向になってんだ?」
治療院を前に立ち止まり、ふと気付く。姉貴ならどうするかって考えていたが、姉貴が取りそうな正面からの力技でなら姉貴がどうするかってなってたじゃねぇか。
危ねえ!? ここに居ない姉貴を頼りにする前提で考えてたぞ、俺。
息を整え、一瞬だけ歓楽街の方に視線を向ける。外と中を遮断する巨大な壁と門。
うん、姉貴なら抜け道見付けて潜入、後は流れでってするんだろうが。そして俺や兄貴が戸惑いながら着いて行くのな。
ふぅ、どうかしていたぜ。
姉貴の帰る場所を守るって言いながら、一緒に居なけりゃ友達に何かあるかも知れないのに動けずにいた。
向けている感情が恋なのか罪悪感を晴らすための代替えなのかは分からないが……少なくとも俺は春姫を友達だと思っている。
頭を左右に振り、迷いを追い出す。会ったばかりだし、向こうがどう思ってるかとかも知らねえ。
俺はただ、俺のエゴを通すだけだ。
「取り敢えず今晩辺り行ってみるか」
「何処に行くんですか?」
俺が治療院の前で立ち止まってるのが見えたのか出て来たアミッドが首を傾げてるが、流石に此処で娼館に女に会いに行くとか正直に言えるか?
ダチだぜ、ダチ。 それが一気に冷め切ってしまうだろ。
「リヴィラの街辺りに相談しに行きたい事があってな」
「あら? 相談でしたら私が乗りますよ。なんたって三歳も年上ですので」
自身ありげに胸に手を当ててるが、何で此処迄お姉さんぶってんだ? 会った当初は爺さんの隣で冷静な感じだったってのに一緒にダンジョンに行った辺りからだよな。
見た目が良いので様にはなっている。バイアシオン大陸じゃ付け黒子が義務化されてるから大人ってのに違和感を覚える時もあるんだが、ちゃんと大人らしくしてれば年齢相応に見えるんだ。
「……恋愛、とまで言って良いのか悪いのか分からねえんだが、偶に会って話をしたりする相手との事でな。会ったばかりだが友達だと思ってる」
「恋愛相談……。未だ休憩時間は僅かに残っていますね。中で詳しく!」
これ、アミッドに相談して良い事なのか分からねえ。そんな趣旨を伝えても興味深そうにしているんだが、話しても大丈夫か?
「旅をしていた頃、盲目のお姫様に光を与える古代のアイテムを探して、その後も隠し通路を通って会ってたんだ。それで最終的に姉貴が射止めた。そっちの気は無いのに。それが初恋の終わり」
「お姉さんが」
「もう片方は一人で動いてる時に貧民街に軍用モンスター連れて暴れてる馬鹿貴族が居てな。其奴が貧民街の子から奪って別の姫にプレゼントした人形を隠し通過通って返しにもらいに行ったのが出会いだ」
「お城の隠し通路って簡単に出入りして良いのですか?」
「鍵になるアイテム使わないと開かないから大丈夫だろ、多分。それはちょっと悪い感じの先輩冒険者にもらってな。後から聞いたら第一王女の婚約者なんだからビックリだ」
此処から話したのはティアナ様との交流。伯爵として会いに行く姉貴のお供で正面から行ったり、隠し通路通って貧民街の女の子に謝りに行ったりと楽しかった思い出だ。
「……まあ、そんな訳で髪が綺麗で真面目で楽しく話せて守ってあげたい、そんな感じの相手への気持ちが恋なのか友情や後悔なのか分からなくってな」
「そ、そうですか。私にはちょっと荷が重いみたいです、はい……」
そうか、ちょっと残念だけれど分からないんじゃな。手間を掛けた事を謝った辺りで仕事の時間がやって来る。
さてと、働きますかって感じに気合を入れた俺はその場から去って行った。
「髪が綺麗、真面目、話していて楽しい。それで守ってあげたい……この前、庇われましたよね?」
知らない方に説明すると
やばい組織の奴が呪われました
本来なら動かない体を無理矢理魔法で動かして苦しみながらも金を稼ぎます その理由は自分が死んだ後に2人の妹は不自由なく暮らせるように
自分の体の事は隠し、力の代わりに使用者の存在を消してしまう虚無の剣を使い、ついに限界を迎え、妹たちの前から姿を消す
最終的に消えてしまい、兄の存在が主人公に変わる
男主人公の場合は急に兄と呼ばれ、女主人公の場合弱音を吐く彼に寄り添います
エンディングによって大切な何かを忘れたと言う感覚が残ったままの場合や記憶が戻ったらしい描写があるなど違います
話したら場の空気が一気に冷めるのとエルファスの悪事を吹聴するから話しませんでした
あと、ティアナとの関係性をネモに訊ねた場合 ギリギリ 熱いねー とか言われていた可能性も 相手は子供だからとティアナは気付かず、ギルはアトレイアに矢印向けてたので
アトレイアからは 信頼 で終わってます