オラリオ一の苦労人を甘やかしたい。   作:眼鏡大好き

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2話:計算通り。

かつての神会(デナトゥス)

その日の神々は沸いていた。

 

「よっしゃー!!それじゃ、シトリーたんの【二つ名】決めるでー!!!」

「「「「キターーーー!!!」」」

「「「「待ってました!!!!」」」

 

【ヘルメス・ファミリア】の眷属、シトリー・ヴェールがレベル2へとランクアップしたのだ。いつも飄々としたヘルメスの眷属に二つ名を与える――もとい、彼の眷属をイジり倒せる貴重な機会に、神々は大いにはしゃいだ。

 

なにせ、【ヘルメス・ファミリア】はランクアップが中々起こらない。

商業系ギルドであることを差し引いても、レベル2より上の眷属が多くないのは、ヘルメスが”何かしている”のだと、神々はなんとなく察していた。だが、それを誰も指摘しないのは、ひとえに”その方が面白そうだから”だ。ヘルメスがミスって、何かしらの細工がギルドにバレたときの顔が拝みたい。あるいは、彼の企みを予想するのが一興という神もいるだろう。

 

各々の思惑はあるものの、今この場にいる神々は皆、”黙っていた甲斐があった”と浮かれていた。すなわち、「滅多にないランクアップなんだから弄らせろ」「やましいこと黙っててやるんだから遊ばせろ」と。口には出さないが、彼らの目ははっきりとそう語っていた。

 

「はぁ……。お手柔らかに頼むぜ?」

 

そうなるともう、ヘルメスとしてはお手上げだ。苦笑するしかない。彼の言葉に神々は思い思いの二つ名を提案していく。

 

「おさげの文学少女で、しかも巨乳だぞ?これはもう【地味子】(オタサークイーン)しかない!」

「【本の虫】と書いてインデックスだろ!」

「ボクっ子で巨乳はどこぞの女神すぎる!【紐神2号】(2Pキャラ)か?」

「ちょっと待てぇー!シトリー君にもボクにも失礼だろうがっ!」

「ツインテと三つ編みは違う良さがあるしな」

「悪ノリがすぎた。すまんかった」

 

カオスだった。それはもう騒がしく、楽しげであった。

 

【大赤字】(キング・クリムゾン)などはどうだろう。あの騒動は愉快だった!」

「やめてやってくれ……」

 

一柱の神の言葉に会場はどっと沸くが、ヘルメスだけは冷や汗をかいていた。

「あの騒動」とは、シトリーのドジでポーションのケタを間違えて発注した事件のことだ。

マイペースなシトリーもあの時ばかりは号泣して、ファミリアの面々やヘルメスに謝り倒していた。彼女が引きずらないよう、当時はヘルメスも腹を抱えて笑ったが、内心は赤字に心臓がキュッとなっていた。アスフィは頭を抱えて「もぉぉぉぉ!!」と叫んでいた。

 

顛末としては、アスフィの手腕で大量のポーションを捌くことに成功した。上手いこと、困っているファミリアや冒険者へと安く売りつけたのだ。シトリーの情けないミスをさらけ出し、同情も大いに利用して。

結果、金銭的には大赤字だが、恩を売ったことも加味して収支はギリプラスという決着だ。

ファミリアとしては数ある笑い話の一つだが、シトリー本人にとっては圧倒的な黒歴史だろう。それを思い出させる二つ名は、さしものヘルメスでも忍びなかった。

 

「だが、やはり彼女の作品について触れないわけにもいくまい」

「それな!『希望の星座』はいいぞ……」

「どの本読んでも思うけど、苦労人が好きすぎるだろ、あの子。【万能者推し】(ペルセウス・ラバー)か??」

「【女神の黄金】や、あの【九魔姫】とも仲がいいと聞くな」

「逸れてる逸れてる。そろそろ決めようぜ」

 

「じゃ、【旅の文士】(トラベル・ライター)で!!」

「「「異議なーし」」」

「お前ら決まってたのに遊んでやがったなぁ!?」

 

いつも振り回す側のヘルメスが叫ぶのは、さぞ愉快だったと、後に神たちは語った。

 

 

☆☆☆

 

 

目を覚ますと、朝だった。まぶしぃ。

あれ、ベッド入ったっけ……。アスフィが運んでくれたのかな。さすがレベル4だ。

 

適度に身支度を済ませ、とりあえず団長室へ。一応ダンジョンに行くことをアスフィに伝えておかないと。……と思ったんだけど、廊下でルルネに呼び止められる。

 

「おーシトリー、仕事だってよ」

「はぇ?何?ボクに???」

 

珍しいこともあるもんだ。普段は全然任せてくれないのに、間が悪いなぁ。

 

「書類の整理。書斎にあるやつ全部って。お前にやらせて大丈夫かって言ったんだけどね」

「…………ちなみに誰から?」

「アスフィ。珍しいよなー」

「あー……。はいはい。ちょっと話聞いてくるね」

 

どうやらあの時、アスフィは起きていたらしい。

あの子は昔からわりと過保護で、ボクがダンジョンに行くのに、あまりいい顔をしない。

 

集中したいから一人で、っていうのがよくないんだと思う。それに、ボクの魔法はわりとロクなもんじゃなく、制御が効きづらい。確かに心配の種が多いかも。優しいアスフィが心配してくれるのも、無理はない。

 

彼女の心配に胸が温かくなるのを感じつつも、ダンジョンは行かなきゃなので、どうしたものか。

 

 

 

思案しながら団長室の扉を叩く。

ボクだって腐っても【ヘルメス・ファミリア】のはしくれだ。いっちょ見せたりますか、交渉術ってヤツを!

 

「ねぇアスフィ」

「シトリーには仕事を頼んだはずですが?ルルネから聞いていませんか?」

 

取り付く島もない、とはこのことだった。

書類ばっか書いて顔も見てくれないなんて、かなし。

 

「いやあの、ボクがやっても散らかるだけだし……」

「自分で言わないでください。猫の手も借りたいんです」

「そのわりにルルネはゆったりしてたけどね?」

「彼女には午後から大仕事を任せてありますから。その調整です」

嘘……じゃないんだろうなぁ。アスフィなら、それくらいの辻褄は合わせてくるはずだ。

 

「ねぇダンジョン行きたいんだけど」

「却下です」

「えぇ……?」

 

どうしよっかな。思わずおさげをいじる。

ダンジョンに行けないのも困るし、普通に仕事も自信がない。

 

「分かったらキビキビ働いてください」

色のない声で言い放つ。

 

むぅ。せめて目を見て話したいな。

しゃがんで机を挟んでアスフィの表情をのぞきこんでみる。

 

苦しそう。……やっぱり無理してるよねぇ。

 

「ね、アスフィ。ごめん。行かせて?」

「っ……!ずるいです、そういうのは」

 

これまでも何度かあったのだ、こういうことは。

でも、やはりというか、アスフィはボクの意思を尊重してくれる人なのだ。遠まわしに用事を作って行かないようにすることはあれど、ボクがどうしても、って強硬した時には、絶対に折れてくれる。

 

「ごめんね。そうだ、今日帰ってきたら飲みに行こうよ。ミアさんのとこ」

「……お料理」

 

あ、ちょっと甘えん坊さんになってる?

 

「うん、そうだね。今日は多分へとへとだけど、明日なら。好きなの作ってあげるから」

「……なら、いいです」

「ありがと!!」

 

照れくさそうに目をそらすアスフィに、なんだか嬉しくなっちゃうな。うん、頑張ろう!

 

 

 

というわけで、装備を整えて出発である。

それにしても、アスフィったら引き止め方がかわいいんだから。なんか口角上がっちゃうな。

 

…………あれ?待って?

アスフィが一度通用しなかった引き止め方をするだろうか?

ていうか、ボクに書類仕事を任せるって正気??

本当にやらせる気があったんだろうか。仕込みが雑すぎやしないか。

 

一度違和感が走ると、思考が加速する。いろんなことが繋がってしまう。

 

あっこれ全部アスフィの計算通りだ!!

飲みに行くのも、手料理作ることになったのも!!

 

してやられたなぁ、と思いつつも、やっぱり要求がかわいいので許そうじゃないか。うん。

 

 




計算通り(一緒に飲み+手料理作ってもらう+おねだり+至近距離の笑顔)。

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