オラリオ一の苦労人を甘やかしたい。   作:眼鏡大好き

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書きたい話が無限だ……。書くのが追いつかない……!



3.5話:帰宅後のアスフィ

片付ける暇がないせいで散らかった、アスフィの部屋にて。

アスフィは手慰みに新たな魔道具を作りながら、先程までシトリーの前で晒していた醜態に悶えていた。

 

(私は何てことを……!!恥ずかしい……!消えてしまいたい……!!!!)

 

自室に戻った直後は、得も言われぬ高揚感に浮かれていたアスフィだったが、30分もすると、羞恥に支配されていた。ただでさえ、最近はシトリーの前では感情の制御が効かない。そこに酒まで加わると、簡単に取り返しのつかないことになるのだと、アスフィは自覚し後悔していた。動揺してぐちゃぐちゃな造り手の心と同じように、魔道具もまた上手く作動せずに壊れてゆく。

 

魔道具造りという逃げ道に考えを逸らそうとしても、巨大すぎる感情に全てを塗りつぶされる。今日、シトリーと過ごした時間がフラッシュバックし、嬉しさと悲しさと恥ずかしさの全てが、アスフィの思考を支配していく。

 

最初は良かったのだ。シトリーが無事に戻ってきてくれた。怪我もなく、トラブルもなく、笑顔で。きっと成果があったのだ。彼女が前に進めていることを、アスフィは自分のことのように喜んだ。

 

それだけで十分だったのに、シトリーは真っ先にアスフィのところへ来て言ったのだ。「ありがとうアスフィ。ボクを行かせてくれて。ご飯楽しみだね」と、はにかんで。なぜだか落ち着かない気持ちになったが、心地の良いものだった。

 

少し浮かれていることを自覚しながら、さりげなくめかしこんで。柄にもなくそんなことをしてる自分が恥ずかしかったけれど、でも、そうしたいという思いのほうが強かった。

 

豊穣の女主人に着いてからしばらくは、いつものように落ち着く時間を過ごした。シトリーとの会話は心地がいいとアスフィは思う。話題も、相槌も、無言も、ツッコミも、笑顔も、お互いに欲している温度でやり取りできている、と感じるのだ。安心する。アスフィにとって、こんなにも安らぎを感じる友人は、他にはいない。特別だ。だから、何気ない会話ですら輝いて感じていた。

 

 

(でも、でも!!ここからが!!ダメ!!!!!)

 

 

思い返したアスフィが悶えていると、魔道具が小さく爆発する。部品が軽く頭にぶつかり悶絶するも、いっそこの衝撃で忘れてしまえばいいのに……という思いの方が大きかった。

 

酒場でアスフィが乱心したきっかけは、シトリーがギルドのエルフやら、どこぞの少年やらの話をし始めたことだった。親しげなエルフの話をニコニコと語る彼女を見て、アスフィは貧乏ゆすりが止まらなくなり、男の話をし始めたあたりからもう、酒を飲む手が止まらなかった。

 

酔いがどんどん回って、感情が抑えられなくなっていく。今は私がいるのに。なんで他の人と親しげなんですか?また知らない人と仲良くなってる……。そんな恨み言がぐるぐるしていた。口数も減っていき、眉間にシワが寄って……。

 

このあたりで、アスフィは自分が不機嫌になってることに気づいた。なんでシトリーとの時間を楽しめないんだろう。楽しげに話す彼女に悪気なんてあるわけないし、彼女が責められる謂れなんてない。人当たりのいい彼女が好かれるのは当然のこと。それすら許せない自分の狭量さが、嫌で嫌でしょうがなくなって、また酒を呷って……それからは、シトリーがアスフィの様子に気づくまで、同じ思考がループしていた。

 

(友人への独占欲をこじらせて、勝手に自己嫌悪して心配をかけるなんて。全部の要素が恥ずかしい……!!)

 

慌ててこちらを気遣うシトリーを見て、アスフィはどんどん情けなくなってしまった。

そんな悲しそうな顔をしないで。そう言いたいのに、口が動いてくれない。こんな恥ずかしい内心を言えるわけがないと躊躇ってしまう。

真摯に謝ろうとする彼女に、胸が苦しくなる。貴女は何も悪くない。

自己嫌悪と不機嫌と羞恥に訳が分からなくなりながらも、沈痛な表情のシトリーを見ていたら、アスフィは全てを白状していた。

 

「すみません。シトリーは、悪くないんです。ちょっと、嫌だったんです。……二人きりなのに、別の人の話をする貴女が。でもそんなの八つ当たりじゃないですか。それに気づいて、どんどん自分のことも嫌になるし……でも、でもぉ……」

 

(もぉぉぉぉぉぉぉ!!!なんですかあのか細い声は!!)

 

発した内容と声、両方のどうしようもなさに頭を抱える。

幼稚すぎる嫉妬をシトリーに知られてしまった。醜く弱い部分を自分から見せてしまった。それが嫌で嫌でしょうがなかった。

 

でも、シトリーは安心したように微笑んで、謝ってくれた。それが不思議だった。無理をさせているのかもしれない。内心は愛想を尽かしたかもしれない。バツが悪くて、どんどん気分が沈んだ。その時だった。

 

「おーよしよし。今日はアスフィだけのシトリーですよー。どこにも行かないから安心して?」

 

 

くらっときた。酔いのせいではなかったと確実に言える。

その温かい声に嘘はなく、本気で嫌わずにいてくれるのが分かってアスフィは安心した。それが最初だった。

それだけで終わりではなかった。”アスフィだけのシトリー”。その響きの意味を認識した時、彼女は自分の中の何かがダメになるのを感じた。心が満たされていく。

だが、気付いてしまう。”アスフィだけのシトリー”という言葉は、嘘というわけではないが、同時に深い意味はない。彼女が今、私だけを気にかけてくれることは間違いないが、アスフィの独占欲を真に満たす意味ではない、と。

 

(あ、当たり前じゃないですか……。冗談というか、その場のノリってやつじゃないですか……)

 

今になって冷静になった頭はそう否定する。当時の多幸感を思い出して浮かれるも、深い意味がないのは当然だという羞恥にも襲われる。

そう、嬉しいことも噛み締めたくなってしまうがゆえに、この自傷めいた回想をやめられないことに、アスフィは気付き始めていた。

 

 

その後は、シトリーが早々に会計を済ませて店を出てくれた。ああ、後でお金渡さないと……。

少し現実に思考が戻り始めたものの、すぐに帰り道を思い出して、顔が熱を持つ。

 

「ふふ。でも、我儘は……できれば、ボクの前でだけがいい……かな」

 

思い出すだけで、心臓が跳ねる。

独占欲を抱いているのは、自分だけだと思っていた。

 

(だってシトリーは、私のようにダメになっていない……というか。調子が狂っていない、というか)

 

ともかく、彼女は自分に特別な執着はないのだと思っていた。

けれど、違った。

それが本当に嬉しくて、舞い上がって、それで、それで……。

 

 

(それで胸を揉んでいいわけがありますかッ!?)

 

 

また魔道具が爆発する。今度は部品を避けて、新たに作り直す。

……手にはまだシトリーの柔らかい感覚を覚えている。それに浸ってしまいたくなるが、アスフィはギリギリ残った良心でそれを堪えることに成功した。

 

 

また同じことを最初から回想しそうになる思考を食い止めるべく、アスフィは考える。シトリーとのこれからの接し方を。

情けない独占欲を全て知られてしまった。でも、彼女も少しは特別に思ってくれているようだった。

 

ーーならば、もう少しシトリーと親しくなることを期待しても、いいのではないか。

 

そう思い至ったアスフィは、更に思考を巡らせる。

自分の望むシトリーとの関係はどんなものか。朧げだが、友人だけでは満足できない自分がいる。特別でありたいと願ってしまう。

では、ずっと隣にいられる特別な存在になるには、どうするべきなのか。

 

そのためには、今のままではいけない。

寄りかかるばかりではダメで、シトリーの拠り所にならなければいけないのだと思う。彼女が私の心を救ってくれたように。すなわち。

 

ーーシトリー・ヴェールの心に、アスフィ・アル・アンドロメダという存在を刻み込む。

 

その決意は妙に、しっくりと来た。

かちり、という音と共に魔道具も完成する。動作も正常。成功だ。

 

 

恥じらいはまだ消えない。でも、覚悟は決まった。

アスフィは清々しい気持ちで、ベッドに横たわる。

彼女は別れ際の真っ赤なシトリーの顔を反芻して、幸福に包まれながら眠りにつくのだった。




たくさんの人に読んでいただけて嬉しいです!!
誤字脱字報告や、お気に入りに評価、感想も本当にありがとうございます……!!
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