オラリオ一の苦労人を甘やかしたい。 作:眼鏡大好き
アスフィの手を引いて、本拠地を出る。
忙しない日々を送る彼女を癒やすには、まずはのんびりお散歩でしょ!
「おー、いい天気だ! やったね、散歩日和だよ!」
「二日酔いにはちょっと眩しいですが……休みだと思うと清々しい気がしてきました」
顔を見合わせて笑う。
なんてことない会話なのに、なんでこんなに楽しいんだろう。
アスフィと話す時はいつも心地いいけれど、今日は格別に感じる。
……これからもずっと、そうだといいな。
「どこへ向かうんですか?」
「さぁ?」
「無計画ですか!?」
「計画的な散歩なんてないよ? だらだら頭空っぽにして歩くの!」
「……マジですか?」
「大マジ! アスフィはもっと適当にならないと!」
「そういうものでしょうか……?」
何時でもきっちりかっちり、目的を持って動くのは、アスフィの魅力の一つだ。彼女の行動には全て理由があるし、彼女やその周りの人達の利益を見据えている。より良い未来を目指している。
それは本当に素敵なことだけど、そればかりではアスフィ自身の息が詰まってしまう。ヘルメス様みたいになれとは絶対に言いたくないけど、たまには休息も取って欲しい。
「ぼーっとしながら歩くと、いいアイデアが思い浮かぶの。部屋で寝る前とかに、新しい魔道具を思いつたりすること、アスフィもない?」
「ああ、確かに……」
「だからハイ、りらーっくす」
「言いたいことはわかりましたけど……リラックスは無理かもしれませんね、これは」
少し赤い顔でアスフィは呟く。
繋いだ手がちょっと熱いし、まだあんまり体調がよくないのかもしれない。
「大丈夫? ちょっと失礼……」
少し背伸びして、アスフィのおでこに手を当ててみる。
うーん? あんまりわかんないもんだな、こういうの……。
「!? そういうとこですよ!!」
「わっ、ごめん」
急に触るとびっくりしちゃうか。そうかも。
あ、ちょっとおでこが見えるアスフィも可愛いなぁ。
「全く……行きますよっ」
「あぁちょ、ひっぱらないでー!」
肩を怒らせてボクを引っ張っていくアスフィだけど、少ししたら吹き出して。ボクも思わず、笑ってしまうのだった。
☆☆☆
「あ、この公園でご飯食べようよ」
「いいですね、そうしましょうか」
ベンチに腰掛け、弁当箱とスープジャーを取り出す。
こうしてみると、ちょっと多いな。張り切りすぎちゃったかも。
「好きなだけ食べていいからね。もちろん、食欲なかったら残してもいいから」
「ありがとうございます。いただきます」
アスフィは渡したタオルで手を拭くと、すぐさま食べ始める。
おお、いい食べっぷりだ。
「嗚呼……私はこのために生きていたんですね……」
「毎度のことながら、大げさだなぁ」
「大げさじゃないんですよ、本当に。シトリーの料理は、食事って安らぐものだと思い出させてくれるんですから」
「……ありがと。なんかそれ、味を褒められるより嬉しいかも」
だってそれは、アスフィがボクの料理に、味の良し悪し以上の価値を感じてくれているってことだから。
「もちろん味も最高ですよ」
「ふふん。アスフィの好みはわかってるからねぇ」
「完全に胃袋を掴まれてしまいましたね。毎朝私にスープを作って欲しいくらいです」
「っ、それ意味知ってて言ってるの!?」
「意味って、どういうことですか?」
「えっと、知らないなら大丈夫、うん……」
び、びっくりした……。
極東の言葉で、毎朝ミソスープを作ってほしいというのは、すなわちプロポーズだ。
ものすごーく真剣に言われたから、ガチなのかと思っちゃった。
知らないのか、そっか……。
ちょっとだけ、残念かも。
☆☆☆
結局アスフィは、用意していたサンドイッチを平らげてくれた。こんなにも食べてくれると、本当に嬉しいな。
「ふぁ……。仕事がないと、こんなにも時間はゆっくりすぎていくんですね」
「そうだよ。アスフィはもっとこういう時間を過ごさないとね~」
あくびをもらすアスフィを見て、衝動のままに頭を撫でる。
ちょっとだけびくりとしてから、受け入れてくれる。
「ご飯食べたばっかりだけど、ここでちょっとだけ寝ちゃう?」
「いえ……シトリーに悪いですし」
「ええ~。膝枕させてよ~!」
「……誰もいませんけど、公園ですよここ?」
「嫌?」
「嫌じゃないです」
即答じゃん。
膝をぽんぽん、ってすると、アスフィはおずおずと頭を乗せる。この、ちょっと遠慮がちなところがアスフィらしくて、ボクは好きだ。
「ゆっくり休んでいいからね。ボクのことはお気になさらず」
「はい。ちょっとだけ……」
アスフィは言うが早いか、すぐに寝息を立てる。眼鏡は邪魔だろうし、預かっておこう。
まだ早朝と言っていい時間なのに、本来ならもう仕事。そんな毎日過ごしていたら、疲れも溜まるに決まってる。
少しでも彼女を労りたくて、優しく彼女の頭を撫でる。ふわふわしていて、こっちも気持ちがいい。あぁ、寝顔が綺麗だなぁ。
さて、アスフィが寝てる間に、この後のことを考えないと。休日を確保することはできたけど、プランは正直詰めきれてないんだよね。ヘルメス様を説得するための小説を書いて、朝ご飯と夜ご飯の仕込みでギリギリだったから。
こういう時、引きこもりは困る。
友達と遊ぶ時、普通は何をするのか、わからない。
ダンジョンは論外。
女の子らしくお買い物? ……服とか見るのかな。でも、2人共あんまり興味ないんだよなぁ。
あぁ、魔道具のお店や工房に行くのはいいかもしれない。多分ずっと、趣味の時間は取れてないはずだから。
でも、あちこち連れ回すのも気が引ける。
アスフィにはしっかり休んで欲しいし……少し魔道具のお店を見たら、ボクの部屋でマッサージかなぁ。
まぁでも、全てはアスフィの気分次第だ。今日は彼女が最優先だから。
アスフィはしばらく起きないと思うけど、それはそれで全然大丈夫だ。彼女が穏やかな寝顔を見るだけで、ボクは嬉しいから。
「ゆっくり休んでね、アスフィ。……それと、ありがとう。昨日の言葉、嬉しかったよ」
ほんとは面と向かって言うべき言葉だけど、まだ照れくさい。だから、ちょっとずるいけど今言わせてもらおう。
口に出すと、なんだか胸が温かくなった。浮かれた気持ちのまま、鼻歌を口ずさみながら、アスフィの寝顔を眺めるのだった。
☆☆☆
アスフィが目を覚ましたのは、それから1時間くらい経ってからだった。
「ぁ……おはよう、ございます」
「おはよう。まだ眠いなら、寝てていいよ?」
微睡み混じりでふにゃふにゃのアスフィにそう言うと、また眠る。
ふふふ、二度寝の幸せをとくと味わうがいい……!!
とか何とか言ってたら、今度はしっかり目が覚めたみたいだった。
「……二度寝というのは、ダメになりそうですね」
「ダメになって欲しくて言ったからねぇ。今日はどうしようか? どこか行きたいところはある? 魔道具のお店とか、一緒に行くよ」
「……そうですね。でも、できれば2人きりの場所がいいんですが」
「そうだね。ボクもアスフィにしてあげたいことがあるし。じゃあボクの部屋にする?」
「いえ、本拠地だと仕事に巻き込まれそうですし……どこか、宿に入りませんか?」
「え?」
……え゛????
――――――――――――
【オマケ】
~近くにいた、とある百合好きの神様たちの会話~
☆☆本拠地の近くにて☆☆
「なにあれてぇてぇ……」
「手、手繋いでた!? 付き合ってんの? 付き合ってんの????」
「いやあれは距離感のバグった友人関係だな。ああいうのが俺には一番効く……」
「友達なのに、ほんのり胸の高鳴りを感じちゃうということか……」
「【万能者】の方が嬉しそうなのがたまらんな」
☆☆☆
「おでこさわったぞ!!」
「首を傾げているが、きっと繋いだ手から熱がありそうと感じたものの、真っ赤な【万能者】を見て自分も体温上がっちゃってよくわからないというパターンではないか!?」
「恐ろしく早い考察。俺でなきゃ聞き逃しちゃうね」
☆☆公園にて☆☆
「め、めまぐるしい攻防だ……!!」
「受け攻めが入れ替わり続けてやがる……っ!!」
「膝枕ァーーーーー!!!(断末魔)」
「ヘルメスの野郎、あれを毎日見てるのかよ、許せねぇ……!!!」
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
お気に入り・感想・ここすき・評価嬉しいです!
いつもありがとうございます!
原作開始直後じゃなかったら、温泉行くのもアリだったな……。
いずれ書きたい温泉回。