オラリオ一の苦労人を甘やかしたい。 作:眼鏡大好き
「どこか、宿に入りませんか?」
「……え?」
予想外すぎるアスフィの提案に、フリーズしてしまう。
なんかこう、お互いの部屋で過ごすことはよくあるのに、宿で2人きりだと、何かが違う気がしてドキリとしてしまう。ボクが意識しすぎだろうか。
でもなぁ、確かに本拠地だとルルネやファルガーあたりが乱入してきそう。彼らの困った顔を見たら、きっとアスフィも手助けしてしまう。それは絶対にダメだ。今日だけはアスフィに仕事のことを思い出させたくない。ほとぼりが冷めた頃に戻って、夜ご飯を作るくらいが丁度いい。
……うん。ボクが恥ずかしいくらい何だって言うんだ。アスフィが落ち着けるなら、それが一番だ。
「うん、わかった。この辺で空いてるところ、探そうか」
「……!はい」
ボクの返事を聞いたアスフィは、本当に嬉しそうに笑う。この笑顔が見れるなら、まぁなんでもおっけーかなって思った。
☆☆☆
少し怪訝そうな受付のお姉さんに案内され、宿の部屋に入る。飾り気はないけどそれなりに広い部屋だ。そして、大きめなベッドが一つ。泊まるわけじゃないのに、何故か少し緊張してしまう。
「やっと、人目がないところですね」
「ふふ、アスフィを存分に甘やかせるね?」
「……ぅ、はい」
誰にも邪魔されない空間。
顔を真っ赤にするアスフィ。
得も言われぬゾクゾクが、背中を駆け抜ける。
「どうしたい? ボクは今日一日、アスフィのものだよ?」
「え、あ……」
「急には思いつかないかな。ボクはマッサージしてあげようかなって思ってたんだけど」
「マッサージ!!??」
うわ、すごい声。
「まぁ、そんなに期待しないでよ。お母さんと友達にやってあげてたくらいで、素人に毛の生えた程度だからさ」
「じゃ、じゃあお願いします……」
「うん、任されました。まずは肩から失礼しますよっと…………って、かっっっっった!!!!!!」
なにこれ、岩??
Lv.4の耐久ステイタスは伊達じゃないかもしれない。
……と現実逃避しちゃうくらい深刻な凝りだ。これは腕が鳴るなぁ。
「恥ずかしながら、体はボロボロかもしれませんね……
「もー……。もっと早く言ってよね」
「心配かけるだけですし……」
「心配かけていいの! ていうか、もうずっと心配してるし!!」
「う、すみません……」
「まったく。ボクってそんなに頼りないかなぁ。……ふふ、その分今日は極楽につれてってやるんだから! うりゃー!!」
「ぁっ、ちょ、そこは……っ!!」
くすぐったそうに身を捩るアスフィに、なんだか気分が高揚する。ボクは今、彼女を好きにできてしまう。そう思うと、ちょっと悪戯心が出てきてしまう。
「ひゃぁぁああ!? 何するんですかぁ!?」
ちょっと首筋を撫でただけでこの反応。かわいすぎでは??
無視して肩を揉みながら……。
「ふぅー…………」
「!!!!! ちょっ、シトリー……!!」
耳に息を吹きかけたら、ぷるぷると震えてしまう。
なんか、これ以上やるといけない気がする……。
「もぅ、終わりですか……?」
「……お、終わり。肩揉みに戻るよ~」
耳を真っ赤にしながら、たまに息を漏らすアスフィにどぎまぎしながら、肩を解していく。うん、だいぶよくなってきた。
「次は頭のマッサージ~。……アスフィの髪、柔らかいねぇ」
「あ、ありがとうございます……」
「でも、ちょっとボサボサになっちゃってるね。後で髪のケアもしよっか。ボクのヘアオイル持ってきてるからさ、おんなじ匂いになれるよ~。お揃いだぁ」
「はぃ……」
せっかくの綺麗な髪が、忙しさのせいで傷み始めている。アスフィが頑張っている証拠ではあるんだけど、やっぱりこうして体が悲鳴を上げてるのを見ると、悲しくなってしまう。
頭が終わったら、背中と腰。おてて。足。
全身かっちかちのアスフィをひたすらに揉みほぐしていった。どんどん口数が少なくなってるあたり、だいぶ気持ちよさを味わえたみたいだった。
「天国でした……」
「それはよかった。じゃ、次はアスフィのやりたいことを聞かせて?」
「で、では……抱きしめて、もらえますか」
「うん。おいで」
アスフィは遠慮がちに、優しく、でも力強く抱きついてくる。温かい。
少しはマッサージの効果もあるのか、脱力して寄りかかってくれてる感じがする。なんだか嬉しい。
「あの。愚痴を聞いてもらえますか」
「もちろん。聞かせて」
「最近また、仕事が増えてる気がするんです……」
「えぇ……今までよりも?」
聞けば、仕事の量もさることながら、要求もどんどん高くなってるし、トラブルも頻発しているんだとか。ちなみに原因の9割はヘルメス様だ。今度ボクも殴っておこう。
「私だって人間なんですから……できるからと言って、やりたいわけじゃないんですよぉ……」
「そうだよね。つらいよね」
「でも他の人にやらせるのも心苦しいじゃないですか。じゃあ私がやるしかないんですよね……」
「そんなことないよ。周りを頼っていいんだよ」
何でも出来るというイメージが先行して、面倒事を押し付けられてしまうから。事実、アスフィはそれを抱え込むし、文句を言いつつも全てこなしてしまうから、始末に負えない。
そして、そんなアスフィの力になれない自分が恥ずかしい。役に立たずなせいで、ボクを頼ってと言えない自分が。
「仕事をするのは嫌いじゃないんです。でも……少し、私にも気を配って欲しいだけなんです……だから、シトリーには本当に、救われているんです」
「え」
「貴女だけなんです。私を見てくれたのは。だから、だから……ありがとう」
ぽろり、と。涙を流してしまう。
何も出来ていないと思っていたけど、違った。ちゃんと、アスフィのことを助けられていた。そのことに、ボクの方が救われてしまった。
「うん……。うん、ありがとう」
「なんでシトリーが泣いてるんですかぁ……」
「だっで……だっでぇ……」
釣られてしまったのか、アスフィも涙声だ。
そのままふたりで、わんわん泣いてしまう。
でも次第にこの状況がおかしくなって、ボクもアスフィも泣き笑いに変わっていた。
☆☆☆
「すっきりした?」
「ええ。……シトリーこそ、大丈夫ですか?」
「も、もちろん……!」
清々しい顔を見せるアスフィとは対照的に、ボクは何か恥ずかしかった。慰めるつもりが、情けないところを見せてしまった気がして。
「それにしても、シトリーがそんなことを気にしてたなんて。バカですね」
「ひどくない!?」
「だって、私はもうシトリーなしじゃ生きていけませんよ?」
「お、大げさ……」
「そんなことないですよ。だから……」
「?」
「私がどうしてもしんどくなったら、一緒に逃げてくれませんか?」
なんだ、そんなことか。
「ボクでよければ、死ぬまで一緒にいてあげる」
―――――――――――――
一方、その頃のヘルメス。都市内のどこかにて。
「うーん、さっすがシトリー。文句ない出来だ。いいもんだねぇ、自分の理想だけを味わえるエンタメってのも。本格的にサービス開始する前に、テストがてら、もう少し続きを書いてもらうとするか~!」
「あら、ヘルメス。面白そうなこと言ってるじゃない」
「……げ、フレイヤ様!?」
「失礼しちゃうわね、その反応。それで?手に持ってる紙は何かしら?」
「あー、これはその……企業秘密っていうかぁ……」
「理想を味わえる、って口走ってたわね。聞かせてちょうだい」
「えーと、それはちょっと……。いや、待てよ? ……!! おーけー、商談と行きませんか?」
「商談?」
「実は今、ウチの小説家が新しいサービスを画策してましてね?……かくかくしかじかで……」
「ふぅん。面白そうじゃない。乗ったわ」
「じゃあお好みのシチュエーションを、後日お伝えしてもらいましょうか」
「いいえ、その必要はないわ。その子をウチに呼んでちょうだい。直接伝えるわ」
「……へ? いやいや、そいつぁちょっと困……」
「嫌ね。乙女の理想を連絡役に聞かれるかもしれないなんて、恥ずかしいじゃない。それに色々と注文したいの。だから、少しの間貸してちょうだい?」
「りょ、了解しました……(やっべぇ!アスフィのメンタルがぁぁ!!!)」
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フレイヤ・ファミリアの苦労人もアップを始めたかもしれません。
ともあれ、何が何でも毎回アスフィとイチャつかせる所存です。