オラリオ一の苦労人を甘やかしたい。   作:眼鏡大好き

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7話:デート③

お互いにわんわん泣いた後。

愚痴を聞く側のボクの方が、なぜか涙と鼻水でひどい顔になってしまった。アスフィがくすくすと笑うから、すごく恥ずかしくなってきた。

 

「もー、ちょっと顔洗ってくる!」

「それなら、一緒にお風呂に入りませんか?」

「えっ」

 

からかってる? と思ったけど、アスフィは少し照れながらも真剣だ。うーん……。ボクはアスフィほどスタイルがよくないから、本当に恥ずかしい。でも、今日はアスフィがお姫様だ。

 

「ぅん、いいよ。じゃあ、お湯入れてくるね……」

 

うわ、湯船ちょっと小さいかも? 一人なら十分な大きさだけど、2人だとだいぶくっつかないとダメそうだ。

今からでも撤回……いやでも……それはアスフィがしょんぼりする光景が想像できてしまう。

だって、アスフィは日頃、”期待”というものに縁がない。期待をしても仕事はなくならないし、希望的観測は商売において命取りとも言っていた。

……そんな彼女に、ボクくらいは”期待”をさせてあげたい。望みを叶えてあげたい。

 

大体、何を恥ずかしがるというのか。アスフィは同性で、友達だ。見られてどういうことはないはずじゃないか。

スタイルに自信はないけど、だからといって困ることもない。そりゃ、少しは魅力的に見られたいという気持ちもないではないけど、スタイルの良し悪しでアスフィは人を判断しない。だから見られて問題はないはずで……。

 

そう、問題はない、”はず”。

答えは出ていると思うのに、それだけではないぞと感覚がずっと訴え続けている。

アスフィはどう思っているんだろう。なんで、一緒にお風呂に入りたいって言ったのかな。

 

 

 

 

 

答えの出ない疑問にくらくらしていると、アスフィがやってくる。いつの間にか、お湯も溢れている。あれぇ、どれだけぼーっとしてたんだこれ……!?

 

「では、その……脱ぎましょうか」

「そ、そうだね……」

 

なにこの空気! なにこの空気っ!!!

なるべくアスフィを見ないようにと目を逸らす。でも衣擦れの音と僅かな呼吸音が耳に入って、心臓が跳ねてしまう。

 

「おぉ、すごいですね……」

「ちょっ!? ガッツリ見てるの!?」

「ええ、せっかくですから」

「すけべ!」

 

アスフィはしっかりこっちを見ていた。お風呂なのに眼鏡を外すつもりもないらしい。えぇ、そんなに見たいの……? なんで……?

 

「……こういうのは少し、憧れがありましたから」

 

そういうことを言われると弱いなぁ。アスフィにとって、こうして友達とじゃれ合うことなんてなかったのかもしれない。いつも仕事ばかりだし、友達付き合いも大人って感じだしなぁ。何にせよ、アスフィがやりたいというのなら、全力で応えるとしましょうか!!

 

「ならボクもしっかり見てやるんだからなー!! ってうわスタイルよっ!!!!」

「っ……!!」

 

外していた眼鏡をかけて、アスフィの方を見る。

なんというか、アスフィの体は芸術品みたいだ。白くてきれいな肌に、藤色の髪が映える。スタイルには無駄がなく、でも貧相じゃない。体のラインや筋肉の付き方まで、これが人間の正解なのではと思わされて、思わず息が漏れてしまう。あんなに多忙で、不健康な生活を送ってこれかぁ。しっかりとお肌のケアをしたら、あのフレイヤ様にも匹敵しちゃうんじゃないの……?

 

からかってじゃれ合うつもりが、まじまじと見つめてしまっていた。いや、これはほんと、何時間でも見れちゃうやつだ。

 

「み、見すぎです! いくらなんでも!!」

「あ、ごめん。ほんとにきれいだったから……」

「ありがとうございます……?」

「これはちょっと、作品の参考にさせてもらうかも……」

「絶対にやめなさいっ!!」

 

ははは、と笑いながら、ぷりぷりと怒るアスフィの手を引いてお風呂へ。ボクがアスフィを後ろから抱きしめるような形で、密着する。お湯だけじゃなく、アスフィの体温も感じてドキリとする。

 

「嗚呼……。いつぶりでしょう、湯船に浸かるなんて……」

「いつもお疲れ様。今日はゆっくり温まろうね」

 

緩みきって、体重を預けてくれるアスフィの頭を撫でる。普段張り詰めている彼女が、こうしてリラックスしていることが何だか嬉しい。口調もぽわぽわしてて可愛いし。どんどん甘やかしたくなっちゃうな。

 

「温まったら体洗おうか。ボクが洗ってしんぜよう」

「わ、私もシトリーのこと……」

「お? じゃあおねがーい」

 

湯船に溶けそうになりながら、とりとめもない話をする。魔道具を作ってる途中にケガしかけただとか、ヘルメス様がまた女の人に言い寄ってただとか。穏やかな時間が過ぎていく。

 

「そういえば、今日はどうやって休みにしたんですか? 私がどうやったって作れなかったのに……」

「あぁ、それねぇ。何ていうのかな……ヘルメス様を餌で釣ったというか……」

「餌ですか。あれでヘルメス様は計算高いですから、よっぽどの対価じゃないと私の代わりなんてしないはずですが……」

「説明が難しいんだけどね。ヘルメス様のための小説を書いたの。あの主神が主人公で、あの主神そのものの望みを叶える、オーダーメイドの小説っていうか……」

「なるほど……。それは新しい切り口ですね。いや、それは神々にとっては夢のようなものでは?」

「おっ、それいただき。今日からあれを『夢小説』と呼ぶことにしよう」

「それは確かに、というか、だいぶ大きな発明のような気が……」

 

脳内でそろばんを弾き始めちゃった。仕事のこと忘れさせるつもりだったのに……。でも、なんだかんだ活き活きしてるあたり、こういった勘定はアスフィにとって好ましいことでもあるんだろうなぁ。いつもは、キャパを完全にオーバーするまでやっちゃうのがよくないってだけで。

 

「これで一山当てて、アスフィやみんなに少しでも楽させてあげられたらいいなぁ~!」

「ふふ、ありがとうございます。でも、シトリーにはいつも助けられているんですよ?」

「嘘だぁ……。思い出したくないミスばっかだよ……」

「まぁ……たまに笑えないミスもありますけど。でも、気難しい職人さんとの商談では、シトリーがいると楽なんですから」

 

あー。何にも商談の内容を知らないのに連れて行かれたのって、そういうことだったのか。ボクとしては普通に、職人さんのこだわってそうな部分に感動していただけなんだけど。でも、言われてみればあの人、ボクと話した後、だいぶ機嫌よくアスフィと話していた気もする。

そっか、役に立ってたんだ、ボク。アスフィを甘やかすつもりが、今日はボクのほうが救われてばっかりだ。

 

「ありがとう……」

「? いえ、お礼を言うのはこっちだと思いますけど……」

「いいの! さ、体洗うよ! のぼせちゃう!」

「じゃ、じゃあお願いします……!」

 

 

☆☆☆

 

 

すみずみまでしっかり洗ってやったぜ。

アスフィの方はといえば、どこかやらしい手つきでくすぐったかった。なにあれ、恥ずかしかったんですけど!!

 

「さて、この後はどうしようか? オススメはスイーツを食べに行くとか、惰眠を貪るとかだけど」

「スイーツは夜にシトリーのご飯が控えてますから、今回はパスですね。少ししたら、今度は一緒に寝たいです。少しでも寝溜めしないと……」

「わかった、いいよ~」

 

ボクの料理を楽しみにしてくれてるの、すごく嬉しいなぁ。でもスイーツを我慢させるのも心苦しい。うん、今日はデザートに何か買って、今度自作を振る舞うとしよう。

 

「あ、そうだ。これは夜になってからでいいんだけど、お願いがあるんだ」

「? なんですか?」

 

 

「ーー空を、一緒に飛んでみたいなって。アスフィの憧れた景色を見せて欲しいな」

 

 

 




この子たちとんでもないペースでいちゃついてるんですけど!書き手の妄想が追いつかないんですけど!!
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