空に晴、花に風   作:珱瑠 耀

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最近何故か人生初の東方熱が燃え盛っているので初投稿

よろしくお願いします





「欠伸を我慢」

 

 

 

『眠りは浅い方がいい

 

 黄昏時の美しさを知るのは

 

 私だけで良かった』

 

 

 


 

 

 

 

 

ぱしゃん、と軽い音が響く。

 

その周囲に人影は無く、浮き沈みを繰り返す球体をじっと見つめる少女の呼吸音があるだけ。

 

胡座をかいて座る少女が息を潜めて辛抱強く待ち続けること数分、斯くしてその場面に変化が現れた。

 

「……む」

 

とぷん、と先で見張っていた浮が沈んだのを見た彼女が先程の様子から打って変わり、手に持った釣竿のリールを素早く巻き始める。

 

キリキリキリキリ、と糸の巻き取られる音に合わせて、釣竿の先がぐぐぐと曲がる。

 

その引きは急に強弱が付くなんて事は無く一定だが、決して根掛かりではない。

 

むしろ、彼女にとってはこれこそが()()である。

 

……そうして腕を止める事なく糸を引くこと更に数分、漸く先端が水から顔を出した。

 

ざぱっと音を立てて上がってきたのは、魚———ではなく、一冊の本。

 

まず普通ではあり得ない光景だが、それでも彼女は大きく反応する事なくそれを背負ったリュックの中へと入れた。

 

「……うん、今日はもう終わりだね」

 

その言葉と共にぐぐっと背伸びをした彼女は、リュックに釣竿を吊るして川から離れる。

 

ふらふらとあちらこちら、当ても無くゆったり歩き、約数時間。

 

そろそろ陽が落ちるであろう時間になって、やっと彼女は開けた道に出た。

 

「こんばんわ」

 

「ん……?おぉ、由良木(ゆらぎ)さんか。今日はどうだった?」

 

「ぼちぼちです。売れそうなのが幾つか」

 

人里の門の前に丁度居た人と、至極普通に会話を交わす。

 

片方は人間だが、彼女は鴉天狗という妖怪。

 

とはいえ、今この時の二人はただの釣り人とその知り合いだった。

 

「今日も()()()、借りますね」

 

「はいよ、お疲れさん」

 

その会話を最後に、お互いは歩を進めてゆく。

 

歩いて、歩いて……今日は反対から出ちゃったみたいだな、なんて思いながら、一つの小屋に到着。

 

「ただいま」

 

ぽつりと零しても返す言葉はない。

 

けど、それを気にする事なく彼女は小屋を進んでリュックを置く。

 

「重くなってきた、かな……?」

 

置いた時の音を聞いてふとそう思った彼女は、また今度整理してもらおう、と一人で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由衣慈(ゆいじ) 由良木(ゆらぎ)は鴉天狗だ。

 

風を味方に付け、空を駆け、風を操る妖怪の山を統べる妖怪。

 

そんな鴉天狗といえばかなり姑息な妖怪として有名だが、由良木にのみ限定して言えばそれは否となる。

 

一つの場所に留まる事を嫌い、陰ながら僻む事を嫌う。

 

だが彼女の性格は風の———微風(そよかぜ)のようであり、本音のみを曝け出す。

 

古き友を除けば、その立ち振る舞いはただの異端者として見られてしまうだろう。

 

……どうやら人里には鴉天狗の書いた新聞が出回っているようだが、生憎彼女はそれにも興味を示さない。

 

写真を撮る事は好き、だがそれを新聞として顕示したい訳ではない。

 

カメラを構えて、ふと切り取った刹那の風景をただただ楽しみたいが為だけの趣味と言えるだろう。

 

むしろ、彼女が好きなのは釣りの方だ。

 

それは彼女の能力、【釣り上げる程度の能力】が関係している。

 

川でも池でも水溜りでも、彼女が釣糸を垂らせば何かしらが必ず釣れるという能力。

 

結果の指定は多少できる程度であり、釣れるものは先程の本や衣服、食材と様々だ*1

 

稀に外界に居た時に釣った海産物等も釣れる事があるために、辞めずにいる。

 

……正直な所、能力の影響で趣味になったのか趣味が能力になったのかは分からない。

 

鳥か卵かのパラドックスのような能力ではあるが、そんな事を彼女は一切気にしたりしない。

 

彼女にとって、釣る事と歩く事、写真を撮る事と人と関わる事以外に関しては然程興味が湧かないものなのだ。

 

……そして、その四つの中に「天狗として動く」という事項は入っていないものとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紫さん、紫さん」

 

「———はいはい、どうかしたの?」

 

リュックの口を開いていた由良木が虚空に向かって声を掛ければ、少しの間を開けて空間を割いて女性が現れる。

 

スキマの妖怪、妖怪の賢者、幻想郷の管理人。

 

八雲紫がひょこっと出てきていた。

 

「実は今日、この本を釣り上げまして。以前渡した物の空き刊はないかと」

 

普通なら畏怖や緊張を齎すであろう人物との会話だが、それを意に介する事なく彼女は先程釣り上げた本を見せる。

 

「あら!これでやっと揃ったわね」

 

「はい、なのでどうぞ」

 

ぱっと笑みを浮かべる紫に何の躊躇いもなく本を渡す由良木。

 

「ふふ、ありがとう。ちょっと待ってなさい?お礼持ってくるわ」

 

頷く彼女を他所に、紫はスキマから引っ込んで何かを探す。

 

ゆらゆらと座り込んだまま身体を揺らすこと数分、手に何かを持った紫が再び現れた。

 

「はい、これ。最近手に入れたものなのだけど、貴方なら使うんじゃないかと思って」

 

「おぉ……」

 

手渡されたのはカメラに装着させるレンズ。

 

それも今使っているものより明らかにいい物だ。

 

「いいレンズですね、これ」

 

「そう?私は余り詳しくないけど、貴方が喜んでくれたなら良かったわ」

 

「はい、凄く嬉しいです」

 

早速カチャカチャと付け替えて、軽く調整を挟んで外の風景を一枚。

 

「……うん、前のも良いですけど、こっちはより細かく調整できる」

 

「ふふ、羽が揺れてるわよ」

 

「本心なので」

 

写された写真の出来に満足した由良木が、ふと思いつく。

 

「藍さんと(ちぇん)ちゃんも呼んで、三人で写真でも撮りませんか?」

 

「良いわね……久しぶりだし、お願いしちゃおうかしら」

 

再び紫がスキマの奥へ消える。

 

しかし今回は閉め忘れていたようで、遠くから「らーん!由良木が写真撮ってくれるわよー!橙も連れてきなさーい!」「只今参ります!」というやり取りが聞こえてくる。

 

三人共仲が良いなぁ、とか考えながら、先程よりも早い帰還を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

写真を撮って少しの雑談を挟んだ後、三人は夕飯の為に帰って行った。

 

閉じて影もなくなったスキマから意識を外し、リュックからまた別の物を取り出す。

 

厚めの本———フォトアルバムを開いて、1番新しいページに写真を入れて———

 

「……しまった」

 

最後の1枚を入れようとして、ここで全てのページが埋まってしまった事に気付く。

 

遂にこれも終わりか、と短い感慨に耽り、表紙の「アルバム 133冊目」の後ろに「満了」と書き足して新しいアルバムを取り出した。

 

これは明日の内に稗田阿求(ひえだのあきゅう)の元へ持って行くことにしよう。

 

「134冊目……こんなに撮ってたとは」

 

片頁6枚、100頁で1冊辺り600枚、それが133冊なので合計79.800枚……数えればなんと約80.000枚の写真をこれまでに撮ってきていた。

 

撮り過ぎかと一瞬思ったが、私は撮る事が好きだから撮り過ぎもないなと納得。

 

暁がその色を落としてゆく中、「アルバム 134冊目」の表紙を開いて、1番最初の写真を入れる。

 

 

 

真ん中に困ったような笑みを浮かべた八雲藍が座り、その両側から挟むように抱き着くふんわりした笑顔の紫と無邪気に笑う橙のスリーショット。

 

 

 

———それぞれの笑顔の写る写真が、そのアルバムの最初の1枚となった。

 

 

 

 

 


 

 

 

『いのちが色付く、とは

 

 裂ける空に見惚れてしまった

 

 この瞬間の事だと思っているから』

 

 

 

*1
しかも一度釣り上げたものはしっかり乾いてくれるので、その場で読めるし着れるという良心的設計




由衣慈(ゆいじ) 由良木(ゆらぎ)
種族 鴉天狗
二つ名 『詞紡ぐ放浪天狗』
能力 【釣り上げる程度の能力】

射命丸文をベースに身長を一般下駄込みで150cmにし、藍色の髪をショートボブに、鈍色の垂れ目をした少女。
背中の羽は感情によってよく動く。本人も自覚している。
実はかなーり前から生きてて、交友がかなり広い。
誰とも敵対しない中立の立場を信条とし、自分の足で歩いて写真を撮ったり詩を書いたりする。
うるささを無くしてナチュラルな丁寧さを持たせた射命丸みたいなかなり静かな性格と古明地こいしのような自由奔放さを足して2で割ったような性格をしており、妖怪の山には住んでいない。
定住地を持たずにその場その場で宿を借りたり小屋を買ったりしている。
お金はアルバイトしたりで稼いでいるが、正直紫のお礼だけで元が取れそうなのは秘密。
背中に紫特性のリュックを背負っており、見た目よりも入る。かなり入る。
射命丸文、姫海棠はたてとは妖怪の山を出るまでに1番仲の良かった親友。
しかし由良木自身が新聞を一切作らない為、親友2人の「もっと色々な人に由良木の写真を見てほしい」と由良木の「自分の趣味の範囲だけでやっていきたい」の意見が対立してしまっている(とは言うがお互いにお互いを尊重している為にそんなに険悪な訳ではない。一種の決まったテンプレのようなもの)。
酒は匂いが苦手で飲まない。けど実はうわばみ。単純に飲まないだけ。

能力の【釣り上げる程度の能力】は、釣竿を持って初めて効果を得る。
それは『浮が入ると判断した水で確実に何かを釣り上げる』というものであり、例え道端の水溜りであろうと由良木が『浮が入る』と判断すればそこで何かしらを釣り上げる事が可能になる。
釣り上げられるものは魚、魚以外の海産物、衣服、雑貨、ガラクタ、本、酒、誰かの落とし物等様々で、多少の指定も可能。
能力を使って釣り上げると、その釣り上げたものによって乾燥するかしないかが決定される(例:本を釣り上げると直ぐに乾いて綺麗な状態になる、魚を釣り上げると綺麗な水で洗い流したような状態になる)。
幻想郷内だけでなく、時には外界のものが釣れてしまったりするのでそういう時は大体紫か霖之助か早苗に鑑定をお願いしてる。

持ってるカメラは初めて能力で釣り上げたもので、そこから紫からアタッチメントを貰ったりにとりに整備してもらったりした結果無駄に高性能になってしまったフルサイズ一眼レフカメラ(Canon EOS R5とかCanon EOS 5Ds Rくらいの性能)。
ちなみにこの話の後、にとりに紫から貰ったレンズを見せたらすっごく興奮してたそうな。





本文前後の詩は由良木ちゃんの手帳にあるものを引用したものです。
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