空に晴、花に風   作:珱瑠 耀

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幼葉もそろそろ蕾を成そうとする季節ですね。

そんな季節に就活とか地獄以外の何者でもない(豹変)

なお多少の残酷描写


「甘露な傷」

 

 

 

『指先に滲んだ筈の熱を

 

 逃がさぬよう 抱えるように

 

 握り締めたなら』

 

 

 


 

 

 

 

 

『ルーミア』とは、闇そのものである。

 

それは生物の根源的恐怖だったり、物質的な暗がりだったり、比喩による表現だったりと様々だ。

 

先の見えない夜の森にも、人一人居ない静かな路地裏にも、必ず存在する闇。

 

彼女は()()であり、嘗て世の上位に存在した大妖怪である。

 

しかしそれは昔の話であり、その強すぎる力を御札によって封印された彼女は基本的には唯の弱小妖怪となるまでに弱り切ってしまっている。

 

 

 

———それが、満月の夜でなければ、の話だが。

 

 

 

「……そっか、今日は満月でしたね」

 

「うん。だから()もちょっとは出られるのよ」

 

道すがら見つけた廃屋の中に並んで座り、月を見上げながら話す。

 

妖怪は夜に———それも満月の昇る夜に最も活発になる。

 

現在のルーミアはその満月の影響で、封印される前の人格が少し表に現れてくる。

 

「ねぇ、だから今月も()()()いい?」

 

月から目を離したルーミアが、頬を仄かに赤く染めながら問うてくる。

 

それに対して私の返答は一つだった。

 

「……まぁ、指くらいならと言いましたし、良いですよ」

 

彼女の頼みは、食事。

 

「あは、ありがとう、ゆらぎ」

 

喰らうのは、私の指である。

 

 

 

 

 

彼女の食事は軽い前戯から始まる。

 

ルーミアは実は膝枕をされるのがとても好きで、私も膝枕をするのが好きだからかもしれない。

 

「最近顔を見せてなかったのですが、元気でしたか?」

 

「わはー、元気だったのだー。リグルとミスティアと、チルノと大ちゃんもー」

 

「ところで、四人で慧音先生にちょっかいを掛けたと聞きましたが……大丈夫でしたか?」

 

「ゔっ……えーっと、そのぅ……ぉ、おこられた

 

途端に身体を震わせたルーミアに、ふふふと笑いが溢れる。

 

いつものように、チルノやリグル達も一緒に折檻されたのだろう、大妖精は止めようとして止めきれなかったといったところか。

 

喋り方が封印前と後でごっちゃになりながらも弁解する姿に、益々笑いが止まらなかった。

 

そうしてふと、ルーミアが言う。

 

「ん……ゆらぎのカメラ、少し変わった?」

 

「はい。紫さんから頂きまして、アルバムが埋まりました」

 

「へぇ……見ていい?どんな写真があるか、気になる」

 

「はい、いいですよ」

 

首からカメラを外してルーミアに渡すと、くるっと私に背を向けてカメラロールを開く。

 

「じゃ、ちょっと顔をあげてください」

 

「んー」

 

促して、向こうを向く彼女の顔の下に左手を滑り込ませる。

 

そのままルーミアは手の枕を楽しみ、残った右手は彼女の腰辺りを優しく叩く。

 

彼女が指を食べる時は色々あるが、こうして写真を見ながらの時は大体この体勢だ。

 

「この写真———」

 

「それはあっちで———」

 

カチカチと写真を流し見て、ルーミアの気になったものを私が軽く解説する。

 

もぞもぞ、という衣服の擦れる音と二人の声、そして無機質な軋音だけがこの空間に満ちていた中で、左手に暖かな吐息が纏わり付く。

 

「———ん」

 

「……あぁ、それは白玉楼のですね」

 

赤子が乳を吸う様に私の指を舐め、ぬるぬるとした唾液に包まれていく。

 

そろそろだろうと理解して、そして———

 

 

 

———ペキ ゴリ プチン

 

 

 

「———ッ」

 

突き刺さる歯、貫かれる薬指、千切られる肉。

 

神経が激痛を(もたら)して悲鳴が出そうになるのを耐え、チラリとルーミアを見れば。

 

「———ん、ふぅ

 

じゅる、と垂れそうだった血を吸って頬を仄赤く染め、写真を回すのも忘れて指を咀嚼し続けている。

 

そんな彼女がカメラを少し傾けて、モニターに映るルーミアと目が合った。

 

未だ先のない指を(ねぶ)る彼女が口の端を妖しく吊り上げ———

 

 

 

———ブチ ボキッ

 

 

 

更に深く、強く噛み締める。

 

「ッぎ……ふ、ぅ……っ」

 

激痛の渦巻く中でも視線は離せず、涙の滲む視界をカメラを介してルーミアが占めてゆく。

 

血が減って少しだけ気分が悪くなったのを出来るだけ隠し、脂汗の滲みそうな右手を再び動かす。

 

とん、とんと優しく叩く手が稀に力み、ペースが乱れるとルーミアが薄く笑う。

 

まるで親が子を寝かし付けるように、優しく、優しく。

 

「ぅ、はぁ……ふ、ぅ……」

 

ぢぅ、と薬指の付け根から吸い取られる音。

 

いつの間にかカメラをそばに置いていたルーミアが私の左手を抱えるように持っていた。

 

薬指の消えた手を上から押さえ、とめどなく溢れる血をがっつくように吸ってゆく。

 

くふ♪」

 

荒い息遣いの中に、幼くも妖艶な声が混ざって、そのまま月の影に消えていった。

 

 

 

 

 

———浮き沈みするような眠気から優しく浮上して、まず初めにルーミアのあどけない寝顔が映る。

 

すよすよと安心しきったように、薬指のない自分の左手を頬に寄せていた。

 

毎月同じ眠り方であって最早見慣れた光景だが、こうしてみるとただの可愛い幼女だ。

 

こんな娘が隠れて人間を食べたりするような妖怪には到底思えないだろう、普通は。

 

彼女が持ってきてくれたのだろう、大きめの布団から右腕を出してルーミアの後頭部を撫でてあげる。

 

その際に御札に少し当たって電流のような痛みが走るが、目覚めの一撃だと思っておくことにした。

 

ふわ、ふわとゆっくり、手櫛で流すように梳いていると、次第に彼女は目を開く。

 

「……むにゃ、おはよー、ゆらぎ」

 

「おはようございます、ルーミア。よく眠れましたか?」

 

「くぁ……んー……ゆらぎがあったかいから、もうちょっと眠っていたいのだー」

 

起き上がって伸びをし、更に大きなあくびをしたルーミアがぽやぁ、ふにゃあと笑顔になる。

 

……確かに、昨夜は私も血をかなり飲まれた事もあって少し眠たい。

 

まぁ、今日は特に予定もないし良いだろう。

 

「……じゃあ、もうひと眠りしましょうか、一緒に」

 

「んふふ、ありがとうなのだー」

 

もう一度布団に寝転んだ私にくっつくように、ルーミアがもぞもぞと入ってくる。

 

「ゆらぎ、腕枕してもいいー?」

 

「良いですよ」

 

彼女は腕枕で寝るのが割と好きだ。

 

かく言う私も、ルーミアと寝るのなら腕枕で眠りたい。

 

「じゃぁ、おやすみ……」

 

かつて世を恐怖に陥れた大妖怪だろうと、今この瞬間の「ルーミア」は、何にも縛られないただの可愛いお友達だから。

 

お友達の体温は、近くに感じたままで眠っていたいだけだ。

 

今日くらいは、自堕落でいいだろう。

 

だって、お友達と一緒なのだから。

 

 

 

———そんな風に二度寝を楽しむ私が、恐らくルーミアがあの後で撮っていたのであろう食事後の私の寝顔の写真に気付くのは、もう少し後の話だ。

 

 

 

 

 


 

 

 

『畢竟 それは 貴女だけを

 

 射抜かんと 鈍く光る

 

 憐れで 愛おしい 言葉の綾』

 

 

 




由衣慈(ゆいじ) 由良木(ゆらぎ)(とルーミア)についての叙述③

由衣慈 由良木は鴉天狗であるのと同時に、遺失物を釣り上げる神の一端でもある。
それが何を表すのかといえば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

鴉天狗としての妖力と、神の一端としての多少の神力が大体7:3である彼女の肉体は、ルーミアにとって絶好の珍味でもある。
ただ由良木自身の事を元々好いている(ルーミア的にチルノ達と同じ位なので、好感度はかなり高い)のと、彼女が食事に対して嫌な顔一つせずに肯定するのもあり、こちらがむしろ恐縮してしまうという事でどうしても食べたい時に少しだけお願いする程度に留めている。
大体は毎月来る満月の夜、封印前の人格が強く現れる日に食事をする事が多い。
()()()()()()()()()()()()()()なので、あまりカメラの邪魔にならない指を選んでくれてるのかな?と本人は考えている。

ちゃんと封印後の人格もそれ(食事)を覚えており、彼女曰く「ぷりぷりのやわらかで、あまくておいしいのだー!」とのこと。

なお指は妖力と神力を交ぜ混ぜして頑張れば翌日の内にしっかり生やせる。










ルーミアは由良木にお熱だったりする。
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