課長から逃げる男   作:全智一皆

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『パッケージは設置した。もう此処に用は無い』
『もう帰るの? まだ見たいのが幾つかあるんだけど』
『長居は無用だ。Ghostも無敵じゃない』
『はいはい。まったく、真面目なんだから……あら?』
『どうした?』
『ねぇ、初代虚狩りって7人よね?』
『あぁ。星見家三代目当主、ミス・サンブリンガー、ジョイアス、ファルケンハイン傭兵団の長とダン中佐とヴァイク大佐、アーチ教授の7人だ。さっき確認した筈だが…何かあったか?』
『見て。星見家三代目当主の情報……その裏側(ブラックウォール)よ』
『…初代剣神———石上(いしのかみ)土佐(とさの)武蔵(たけぞう)……だと?』

———極秘情報データファイル内部で起きた機密事態につき。


第七話 剣とは斯くありき

 

■  ■

「うー……しんど」

 

 疲れ果てた声を漏らしながら、高幹はどさりと地面に座り込んだ。

 天を仰ぐ様を見れば、時速200kmで疾走する虚狩りと追いかけっこを続けてきた彼がどれだけ疲弊しているのかが、よく分かるだろう。

 結論から言えば、高幹はホロウ内部から逃げ遂せた。

 それなりに時間を稼ぐつもりだったが、元赤牙組のエーテリアス……デュラハンとでも仮称すべき存在は途中から戦線を離脱。

 そのまま追い掛けて仕留める事も出来たが、流石に長い時間をホロウで過ごした所為か、些か頭痛に見舞われた高幹は、らしくもない全力を出して、ほんの僅かではあるが斬撃によって『空間の裂け目』を作成がし、そこから外部へと逃げ出したのだ。

 

「ダルかった……少なくともここ最近で2番目にダルかったッ! もうヤダ考えるだけでまた頭痛くなるぞゴラァ!? なんで俺は戦闘の最中だって雅が来るかどうかの心配しなきゃいけない訳ぇ!?」

 

 情けない声を大きく漏らしながら、高幹は周囲を確認して自分が何処に出たのかを認識する。

 街並びからして、六分街の辺りだろうか。元居た場所からはそれなりに離れてはしまったものの、これくらいの距離であればすぐに辿り着けそうだ。

 

「取り敢えず連絡しとかないとな……」

 

【グループ:我ら同級生】

高幹:悪い、ちょっと手間取った。雅はまだ居るか?

朱鳶:高幹くん! 無事で良かった…雅は大丈夫よ。メロンパンで足止めしてたの

高幹:こんな状況で尚もメロンにご執心とかどうなってんだよアイツのメロン好き加減は

朱鳶:お陰で助かったとも言えるけどね…

雅:高幹、よくぞ戻ってくれた

高幹:あ、やっと反応した。なんとか空間ぶった斬って戻ってきたわ

朱鳶:ホロウの歪曲空間をっ!?

高幹:まぁ正確には自力で『空間の裂け目』を作ったって感じなんだけどな。まぁそこはどうでもよくて。ホロウの状況は?

雅:今の所、問題無い。数値も安定しているとの事だ

高幹:なら良かった

雅:それよりも高幹、今お前は何処に居る?

高幹:六分街の辺りだな。こっちは特に被害も無さそうだが……一応、住民に注意喚起しながらそっち戻るよ

朱鳶:分かったわ。お願いね、高幹くん

高幹:応よ。そっちも頼むぜ、二人共

雅:委細承知

 

「メロンは偉大だなぁ……事態が収まったら朱鳶に差し入れ持っていこう、絶対に」

 

 あんな混乱した状況下で虚狩りを抑え、尚且つメロンまで調達するなんて、きっと大変だったろうに。完全無欠の同級生には感謝してもし切れない高幹であった。

 それはそれとして、急いでルミナスクエアに戻らねば。六分街の辺りには被害がいってないのは確認済みだが、相手はホロウ。未だ完璧な解析が出来ずにいる未知の災害だ、万全を期すとまではいかずとも、備えておくに越した事はないだろう。

 彼女から逃げおおせる毎日で自然と知り合いが増えていく高幹にしてみれば、六分街は知り合いが1番多い場所だと言えよう。

 

「錦鯉は……大丈夫そうだな。CDショップと玩具屋も問題無しで…ん?」

 

 ふと足が止まる。高幹の目に留まったのは、普段からよくお世話になっている兄妹店長のビデオ屋———『Random Pray』であった。

 ガラス越しから、普段は立ち入り禁止となっている部屋の扉が少し開いて、テレビの光が漏れている様子が見えたのだ。

 

「おいおい、まさかの夜更かしか…? しかも普段は立ち入り禁止にしてる場所で? 何やってんだ、あの兄妹は」

 

 流石においたが過ぎるぞ……これは治安を守る身———別に守護職などではない———としてお灸を据えねばならぬのでは?

 高幹は疲れていた。別にエーテリアスとの戦闘は大した事ではないのだが、如何せん幼馴染がいつ来るかという要らぬ恐怖との戦いは、神経がガリガリと削られるのだ。

 要はストレスが溜まっていた。別に八つ当たりとかではないし? これはただ、こんな状況でも夜更かしをしてしいる兄妹へのお仕置みたいなもんだし? 高幹くんはなーんも悪くないのだ?

 

「ふーん。これは善行なり善行なり。全てはいずれ良い子になる為。まぁ侵入する時点で俺が悪い子じゃあるんだけど……うん、やっぱダメだ。侵入は止めよう。流石にこれは悪い。丁度店の裏側があの部屋の部分だし、聞き耳的なくらいにしよう」

 

 どうやらヘタレてしまったらしい。或いは良心の呵責とやらであろうか? こういう所がダメだから男の癖して幼馴染に面倒くせぇのだ、この男は。

 

「なんか今すっげぇバカにされた気がする……まぁ良いや。悪いなアキラ、リン。恨むなら夜更かしした自分達を恨むんだぜ」

 

 そろりそろりと店の裏側に回り込み、愛刀の束を壁に押し付ける。壁を伝う振動から唇の動きを読み取り、外部的な読唇へと繋げる———石上の分家が扱う忍術である。

 朧気なものが少しずつ明確になり、遂には言葉を形作っていく。

 

『さぁどうする、《パエトーン》?』

『さ——し————どうしよう、お兄ちゃんっ!? ニコ達だけじゃなくて、まだ高幹さんもホロウに居るのに…!』

『分かってる。なんとかして助けに行かないと……』

 

「……ん?」

 

 《パエトーン》———その言葉が、少なからず高幹に衝撃を与えた。

 インターノットで話題になっている有名なプロキシ。ホロウの内部において通信を確立させるという凄技で以て、依頼人を必ずホロウから帰還させる伝説だ。

 ただ、ホロウレイダー協会に所属している訳ではない為、世間的には違法ホロウレイダーという扱いになる。故に治安局やH.A.N.Dにおいては、取り締まるべき相手として名前が挙がる。

 まだ断片的な情報誌しか無いが、今の話を聞く限りでは———

 

「アキラとリンが……《パエトーン》だってのか?」

 

 マジかよ、と声が漏れた。

 どうやら自分はいつの間にか、伝説のプロキシと友人関係を築き上げていたらしい。そうなると、普段から邪兎屋がプロキシプロキシと言っていたのも、おそらくこの二人の事だろう。

 なるほど、道理だ。点と点が繋がっていき、金欠続きの邪兎屋が、何故必ずと言って良い程にホロウから帰還出来るプロキシを雇えていたのかに合点がいった。

 ツケがどうと言うのも、ビデオに関するものではなくプロキシの仕事としてのそれなのだろう。高幹はまんまと騙されていたという訳だ。

 だが———

 

「んー……まぁ、だからなんだよって話だけど」

 

 高幹にとってすれば、別にそんな事は()()()()()()

 この新エリー都だ、そりゃ隠し事の一つや二つは余裕であるだろう。なんせ自分だって隠し事が沢山ある。幼馴染である雅にだって言っていない事など山程あるくらいだ。

 まぁ、なんで人を騙してまで死地に飛び込んだんだと言いたい気持ちはあるが……それでも、あの二人の人柄を高幹はよく知っているつもりである。あの二人の事だ、きっと人には言えない、或いは言いたくない事情があって、黙っていたのだろう。

 それはそれとして、高幹にしてみれば今はその二人が何やら窮地に陥っているであろう事の方が大事なのだ。

 

「声的にスピーカーだよな。って事は、ハッキングでもされたのか? 困ったな、それだと俺の専門外……と言うか、アイツら的にはバレたくないよな。しかも話聞く感じ、ニコ達はまだホロウの中らしいし……優先すべきはこっちだな。あの二人ならなんとかなるだろ」

 

【グループ:我ら同級生】

高幹:悪い、二人共。ちょっと緊急事態

雅:すぐ行く

高幹:待たんかバカ。話を最後まで聞けい

朱鳶:何があったの?

高幹:注意喚起してたら知り合いと出会してな。ソイツの友達がホロウの中に居るらしいんだ。運悪く現場に居合わせちまったらしい

朱鳶:そんな…! 今すぐ救援を送らせるわ!

高幹:だから待てって。まだそっちも事態収集してないだろ? 俺が行くから、お前らは待機しとけ

雅:私も同行しよう

高幹:うんお願いだから話聞いて? お前は皆の精神的支柱なんだからさ。こういう時に虚狩りは市民にとって大事なのよね? だからお前もお留守番してなさい

雅:断る

高幹:即答しないでくださいますぅ!? マジ頼むって! 帰ったら頑張ってメロンパン作ってみるからさ!

雅:高幹、お前ならその遭難者を救い出せるだろう。私は信じて待っている

高幹:メロンの力ってスゲーよな……

 

「さぁて……じゃ、もう1回行くとしますか、ホロウ」

 

 

 

 

 舞台は実に賑やかだ。

 何処もかしこもエーテリアスに満ち溢れ、そのど真ん中では失敗も成功もお任せあれな邪兎屋がなんとかして、その猛攻を防いでいる様が拝められる。

 次元の裂け目を通って、運良く高台らしい場所に転移した高幹は、抜刀と共に一息に駆け出した。

 

「おォォォォォォォォォォォォ—————————!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 退けテメェらァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「ちょっ!?」

 

 龍が尾を叩き付けるが如くを描く様に振り下ろされる一閃は、瞬く間に嵐を巻き起こし、周囲に存在するエーテリアスを尽く天目掛けて蹴散らしていく。

 時間稼ぎ? その程度で収まるか。此処に居る奴ら全員纏めて薙ぎ倒して、アキラとリンが戻った頃には余裕を持て余すくらいの時間を確保してやろうではないか。

 

「よぉ、加勢に来てやったぜ」

「兄弟! よく来てくれたぜ! なんだよ今のカッコイイ登場はよ!」

「真上から剣を振り下ろして颯爽と参上……サムライ映画で見た事がある展開だわ」

「なによプロキシのやつ、高幹を呼んでくれたの? 大サービスも良い所じゃない!」

「んにゃ、生憎呼ばれた訳じゃない。聞いた感じ、誰かにハッキングされたらしい」

「ハッキング? あのプロキシ先生———パエトーンが?」

「ちょ、ちょっと待って!? 聞いた!? アンタ、今聞いたって言ったわよね!?」

 

 流石に流さずにはいられまい。

 なんせニコ達にしてみれば、高幹はアキラとリンがパエトーンである事は知らない筈である。

 邪兎屋が凄腕のプロキシを頼っていて、それぞれが店長だったりプロキシ先生と呼んでいる事だけは知っているが、それが誰であるかは分からない———そういう認識だった。

 だが高幹のそれは、明らかにプロキシが誰であるかを分かっているかの様な口ぶりであった。

 

「まさかアキラとリンが伝説のパエトーンとはなぁ……流石に俺も驚いたぞ」

「まさか捕まえに来たんじゃないでしょうね……?」

「……なぁ、俺そんな情け容赦のない奴に見えてんの? 流石にショックなんだけども」

「そうだぜ、ニコの親分! 兄弟なら店長達の正体を知ったって味方してくれるさ! 現にこうして、俺達を助けに来てくれたじゃねぇか!」

 

 まぁ雅とか朱鳶なら分からんくもないけど……と、わりと失礼な事を付け足しながら、流れ作業の様にばっさりと斬り捨てていく。

 隠し事なんて新エリー都では珍しくもない。TOPSはおろか新エリー都の市政ですら、幾つも隠し事をしているのだ。

 別に二人が『実は伝説のプロキシでした』なんて言われても、高幹にしてみれば『あー、そうなん? すげー』くらいの事でしかない。というか、それ以上の反応が思い付かないくらいだ。

 

「つかそもそも、俺ただの神社の跡取り候補よ? 逮捕するとかそんな権限無いっつーの」

「いや、常日頃からH.A.N.Dの虚狩りと一緒に居られても説得力無いわよ」

「それ別に俺悪くなくね? 主にしつこく誘い続ける雅の所為だよ? 誤解も甚だしいよ?」

「アンタがさっさと身を納めないからでしょ? 男なんだから女の頼みくらい受け入れなさいよ!」

「巫山戯た事抜かすんじゃないよバカ! 六課に入ったら確実に俺が雅の面倒見ないといけないだろうが!!!! あのタスク管理完璧な柳さんですら手間取ってんだぞ!? 雅の監視と修行と書類仕事とホロウ任務のマルチタスクとかクソ面倒なの御免被るっつーの!!!!!!!!」

「理由が全部だらしなさ過ぎるっっっ!!!!!! アンタ本当に男!?」

「これでも男だよ悪かったな!!!!」

 

 斬ッ!!! と、容易く敵を両断しながら情けない声で吠える様は、もはや失笑すら出てこない。

 年がら年中付き纏われている高幹からすれば、マルチタスクは実に面倒極まりないのだろう。幼馴染の面倒を見ながら書類仕事を消化させて、修行にも付き合って、そこからホロウ任務も行って……確かに地獄みたいな労働環境になりそうだ。

 

「だが今の俺に怖いものはねぇ! なんせ雅は確定で来ないからな! ここに居る奴ら全員ぶった斬って休み時間を確保してやるよォ!!!」

「じゃあ休ませてもらおっと」

「さり気なくサボろうとしてんじゃねぇぞコラ。お前のその髪まるっと斬り落としてやろうか、お?」

「ウソウソ冗談に決まってるじゃない☆」

「調子が良過ぎるぜ、ニコの親分…」

「今に始まった事じゃないでしょ」

 

 着の身着のまま思うまま。剣に向き合うでもなく、或いは舞踊の様でもなく、もはや遊びと卑下されても何らおかしくはない棒振り。

 しかし、その剣筋は極めて正確。遊ぶと卑下するにはあまりにも綺麗な軌跡をなぞり、悉くコアを両断しては敵を消滅させていく。

 

「何度見ても、高幹先生の剣は不思議ね。型はめちゃくちゃで不安定なのに、剣筋が一切ブレてない。そういう流派なの?」

「いやいや、俺のこれは適当に振ってるだけよ。刀なんざ刃を当てて敵を斬れるなら、別にそれだけで十分だろ?」

 

 剣神に最も近いとされる男の剣技を、星見雅は『無行の剣』と称した。

 『これだ』という思考が無く、『ここだ』という理合が無く、『こうだ』という感情が無い。その剣にあるのは、()()()()()()()()()()()()()()()という無想のみ。

 そもそもが大した判断力も持たない有象無象であり、文字通りの烏合の衆であるエーテリアス。特異個体を除けば自我など無いに等しい奴等にしてみれば、高幹の剣を捉えられよう筈もない。

 

「右も左も関係無い。マジで適当に、その場のノリに合わせてふらりひゅるりと振るってるだけなんだよ、俺は。アキラとリンにも言ったけど、これは真似事。チャンバラとなーんも変わらない、粗品な技術だ」

「ソレを粗品な技術と言うのは、世の剣士に失礼な気もするけど…」

「んな事言われてもなぁ……あー、でも、俺の御先祖もこんな感じだったらしいぜ? なんかもう、斬る!って感情爆発させたみたいな感じ。剣術ってより『斬術』とか言われてたらしい」

「アンタの御先祖って言うと、初代剣神? 確か、石上武蔵だっけ?」

「そ。石上土佐武蔵な」

 

 現代において、天賦の才を持って生まれ、刀剣の神の寵愛を受けているとされるのは星見雅と石上高幹であると、多くの人間が言うだろう。

 だがエリー都時代において、あらゆる全てを斬って捨てる最強の剣士は誰か? という問いは、石上神社の祖である石上土佐武蔵という一人の人間によって論争は終結した。

 エーテルを用いた能力がある訳でも、何かのシリオンである訳でも、知能構造体である訳でもない、純粋な人間。それがそこらにある様な普通の刀一本を握り締めて、零号ホロウから最初に枝分かれした共生ホロウ内部のエーテリアスを全滅させ、帰還した。

 それからは初代虚狩りの面々と様々な任務に同行し、武勲を立てたとされている。

 

「初代虚狩りと仲が良かったとかなんとか。星見家との繋がりはそこから続いてるんだとさ」

「先祖代々の縁があったのね…でもアンタの話を聞く感じ、その御先祖様もアンタみたいに面倒臭かったんでしょうね」

「面倒臭い言うなよてめぇよ。いや、親父が言うにはマジでヤバい人だったらしいぞ。親父もひいじいちゃんから聞いただけらしいけど、なんか事ある毎に星見家の三代目当主と打ち合って地形抉ったり、杖の軍のダン中佐だかを『クソ生意気な乳臭ぇ小娘(マセガキ)』」呼ばわりしたりとか」

 

 残念ながら全て事実である。

 

『おい青二才(チビ)

『斬る』

 

『はぁ……手前(おまえ)幾星霜(いくつ)経ってもクソ生意気な乳臭ぇ小娘(マセガキ)のままだな。その無駄な脂肪(乳と足)の所為で頭まで栄養行ってねぇんじゃねぇのか?』

『ほんっっっっとにデリカシーが無いよね君ってさぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 具体的にはこんな感じである。

 

「バケモノじゃないっ!? 面倒とかそういう次元じゃなくて、御先祖はとんでもない無礼者っ!? どんな血筋してんのよアンタの家は!!!!」

「俺が知るかっ!!!」

 

 まぁ、閑話休題(それはともかく)

 

『よし、繋がった! 皆、無事かい!?って』

「あ、やっと来やがったなテメェ。遅えぞー、ったく」

 

 周囲のエーテリアスをひと片付けした直後になって、オレンジのスカーフを巻いたボンプが飛び上がって周囲を確認した。

 エーテリアスは居らず、代わりにそこには見慣れた邪兎屋の面々と———涼しい顔をした高幹が立っていたのである。

 

『うそっ!? なんで高幹さんが居るの!?』

『こらっ、リン!』

『あっ』

「あー、それ歩きながらで良いか? 此処に留まりながら話すのも危ないだろ」

『その、高幹さん』

「はいはい、後でちゃんと聞いてやるって。ほら案内してくれよ———パエトーン」

 

 気にしてはいないが、まぁどうせだ。

 それなりの悪戯は、大目に見ろよ?




【此処に我ら(あめ)()いで剣を突き立てし者達の集いを示し、我が剣師に捧ぐ】

・石上土佐武蔵
零号ホロウから最初に派生した共生ホロウに単騎で突入し、無傷で生還。星見家三代目当主である剣豪・星見(ほしみ)(とばり)、杖の軍のレミエール・ダン中佐、ヴァイク大佐と共に幾度と共闘し、数々の武勲を挙げ、最後に弟子数名を連れて零号ホロウ最深部に潜航。
致命傷を負いながらも自身は帰還し、零号ホロウ最深部の情報を持ち帰った功績を称えて当時の市長から虚狩りの称号と勲章を与えられたが、そこらの路地に勲章と名誉を投げ捨て、本人の意思もあり公には虚狩りには数えられておらず、この情報は市政と石上神社、星見家のごく一部の人間のみに言い伝えられている。
とあるホロウに単騎で突入してから一切の消息が掴めず、生死不明である。ある者は見事な戦死を遂げたと伝え、ある者は今尚もホロウの中で戦い続けていると言い、その真偽は未だ定かではない。
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