灰かぶりの老鴉 - ARMORED CORE Ⅵ Fires of Rubicon   作:竹河参号

2 / 3
 清書するだけしてみた、そのいち。


■ミッション「封鎖機構勢力排除」

『621、仕事だ。ベイラムグループから依頼が入っている』

 

 

 

G13(ガンズ・サーティーン) レイヴンに伝達!』

 

『貴様も知っての通り、先日ついに、惑星封鎖機構が強制排除の執行に乗り出した! 連中の攻勢に我が方は後れを取り、拠点をいくつか奪取されている』

『しかし、コーラル採掘のために費やした人材や物資の損耗は無視できない。そこで、我が方はアーキバスと停戦協定を結び、封鎖機構に対抗することを決定した!

 貴様には、まず“エルヴィス採掘基地”を奪還するため、同基地内の敵勢力の排除を務めてもらう!』

『ただし! いくらレッドガンの名を借りている貴様とて、単騎で相手取るのは困難だろう! そこで我が方にて独立傭兵「アイリーン・スピアリング」を雇用し、同任務に当たらせることを決定した!

 つまり歩合制だ! 稼ぎたければ、せいぜい発奮することだ!』

 

G13(ガンズ・サーティーン) レイヴン! 確実な遂行を期待する!』

 

 

 

『……コルヴスか』

『いや、何でもない。お前は自分の仕事に集中しろ』

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 ガレージの中で、アイリーンは独り機体チェックをしていた。

 整備工(メカニック)は、いない。マッスル・トレーサー(MT)の運搬能力を基準に建築された巨大建造物(メガストラクチャー)の数々は、同時に人間の手では追い付かない高精度な整備能力を要求した。結果、整備ロボットの開発技術も大きく向上し、軽微な摩耗損傷であれば、そのほとんどが無人の整備ロボットで事が足りるようになった。懐事情の芳しくない独立傭兵の多くは、専属の整備工(メカニック)を抱える余裕などなく、大抵はそれで済ませている。どうしても細かい作業が必要な場合は、その都度企業へ整備依頼を発注すればいい。そのために高価(たか)い保障費用を払い、アフターサポートの契約を維持しているのだから。少なくとも彼女は、それで収支が成り立つだけの実績を積み上げている。

 とまれ、そうして無人ロボットの整備で仕上がった彼女の機体に、いまさら点検するような箇所は残っていない。そも、まともに被弾すればそのままパイロットまで死にかねない機体だ。敵の攻撃は極力回避する戦闘スタイルを強制される都合上、端から深刻な点検箇所などありえない。

 つまるところ、これはただのルーチンワーク。一瞬の判断が生死を分かつ鉄火場へと赴く前に、万全を期すための最終確認。

 

 

 彼女の愛機“コルヴス”は、機動力に特化した軽量逆関節機だ。

 基本は、ルビコン星系外から愛用しているシュナイダー社のKASUARシリーズ。燃費の悪さと耐久性の脆さが難点だが、彼女の得意とする機動戦にマッチした性能から、長らく愛用するに至っている。同社の営業マンが執拗に「わが社の空力制御技術がいかに素晴らしいか」を熱弁しようとする点以外は、お得意先と評しても差し支えない。

 腕部のみ、奮発してエルカノ・ファウンドリーのFIRMEZAへ換装。噂の鍛造屋の手になる高級品は、射撃精度と近接格闘を両立した良品だ。アフターサポートの保障費用も含め、結構な買い物だったが、その甲斐あって、充分以上の働きをしてくれている。星内企業にしては随分と強気な価格設定だったが、それが単なる製品技術に対する自信の表れなのか、それとも運営資金に裏があるのか……彼女は、敢えて踏み込まないことにしている。

 右腕にはBAWS製のバーストマシンガン、MA-E-210 ETSUJIN。バースト射撃を連射するというやや変わり種の代物だが、ある意味見てくれ通りの素直な使い勝手は、()()()()の手によく馴染んだ。同社が売りにしている『新兵向け』としては、いまひとつ不向きな気もするが……

 左腕にはタキガワ・ハーモニクス製のパルスブレード、HI-32: BU-TT/A。パルス技術に特化した同社製品の中でも、それなりに息の長い名品だ。発売そのものは数十年前だったはずだが、ルーキーから玄人まで愛好者が多く、今でも主力製品のひとつとして生産ラインが稼働しているらしい。

 右肩にはファーロン・ダイナミクス製の双対ミサイル、BML-G1/P31DUO-02。ミサイルでおなじみのファーロンが売り出した、左右へ大きく広がる独特な軌道の軽量ミサイル。威力は心許ないが、単独での戦闘が多い独立傭兵にとって、『本機突撃と合わせて三方向からの攻撃』という戦術が採れるようになったのは大きい。

 左肩にはウェポンハンガーを装着し、大豊核心工業集団製のDF-MG-02 CHANG-CHENを懸架。大仰な社是と引き換えに『扱いやすさ』という概念を捨ててきた同社製品の中では、まだ使いやすい方。風聞によると、レッドガンの“歩く地獄”がついに兵装開発部門にも口出しを始めたらしいが……結果はいかほどか。

 

 

 いつもの機体、いつもの武装。いつも通りの機体構成(アセンブル)

 いくら脳髄を弄ったところで、もう肉体(からだ)がついていかない。新しい機体(からだ)に馴染むには、時間がかかり過ぎるだろう。あるいは、()()()さえ叶わなくなっていても(おか)しくない。少なくとも今のこのルビコンは、そんな悠長な真似をしている情勢下ではない。

 つまりこれが、最期まで飛ぶためのカラダだ。

 

 

【オペレーティングシステム、通常モード起動。パイロットデータの認証を開始します】

【網膜チェック――クリア。指紋チェック――クリア。パイロット:アイリーン・スピアリングの認証完了、戦闘モードセットアップシーケンスを開始します】

【パーツ連携チェック開始。生体維持管理システム起動、バイタルチェック開始。姿勢制御システム起動、アクチュエータ起動チェック開始】

【頭部連携――異常なし。右腕部連携――異常なし。左腕部連携――異常なし。脚部連携――異常なし。パーツ連携チェック完了、全パーツ異常なし】

【アクチュエータ起動チェック完了。セットアップシーケンスを完了しました。“コルヴス”メインシステム、戦闘モードを起動します】

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

【メインシステム、戦闘モード起動】

 

 コアブロックに神経接続された脳裏に、いつもの音声が響く。どすん、と着地する重厚な衝撃は、ミッション開始の合図だった。

 強化人間C4-621――対外的には「独立傭兵レイヴン」と称される()()は、流れるように意識のスイッチを切り替えた。

 

『ミッション開始だ。基地内の封鎖機構の戦力を、全て排除しろ。

 数は多いが、今回は僚機がいる。恐れる必要はない、いつも通りやれ』

「よろしく頼むよ、レイヴン」

 

 崖下のエルヴィス採掘基地を見下ろす()()に、ハンドラー・ウォルターがいつも通りの命令を下す。しかし今日はそこに、別の声が割り込んできた。

 見れば珍しく、()()の隣には既に一機のACが屹立していた。独特の流線型で構成された黒と赤の機体――レッドガンのG6(ガンズ・シックス) レッドが説明していた、独立傭兵アイリーンとやらか。通信越しのしわがれた女の声には、()()を侮る感情がない。何かと異例な存在に対し、621はただ脳裏のデバイスを起動し、「よろしく」とテキストメッセージを送信するのみにとどめた。

 

 

 ――一方。アイリーンは“独立傭兵レイヴン”の武装をちらりと盗み見、そしてその全貌を把握した。

 全身は、星内企業RaDの開発した宇宙探査用フレーム。かなりの年代物に加え、本来戦闘向きではない装甲性能だが、癖がなく扱いやすいため、駆け出しの新兵から熟練の老兵まで幅広く使われている。それこそ、容易にパーツ換装ができない真人間の中には、引退までずっとこのフレームで戦い続けた兵士もいるらしい。

 右腕にはBAWS製のバーストライフル、MA-J-200 RANSETSU-RF。単発のセミオート射撃と三点バースト射撃を使い分けることができる、同社製品でも屈指の名銃だ。ちなみに、これを新兵向けにアサルトライフルとして改修を試みた製品もあるが……その成果は、ルビコン解放戦線の戦果が物語っている。

 左腕にはタキガワ・ハーモニクス製のパルスブレード、HI-32: BU-TT/A。彼女と同じ武装だ。やはりいい品は、目利きの目に留まりやすい。おおかた、このレイヴンを従えているハンドラーが選んだ武装だろう。その武装選びのセンスについて、彼女には少しばかり心当たりがあった。

 右肩には、メリニット製のグレネードランチャー、SONGBIRDS。小型の榴弾砲を二連装という驚異の設計で、軽量でありながら強烈な破壊力を発揮するそれは、多くの独立傭兵に愛されている。業界屈指の“職人”に相応しい仕事ぶりといえるだろう。

 左肩には、ファーロン・ダイナミクス製の六連装ミサイル、BML-G2/P03MLT-06。素直な性能で、取り回しも悪くない。一対一でも一対多でも効果を発揮する万能屋だ。太陽系ではほぼ市場独占状態と称される同社は、それに胡坐をかくことなく様々な製品を開発しているが、結局は基本に忠実なこれに帰結する軍隊も多いという。

 噴射炎の色を見るに、おそらく標準の内燃型ジェネレーター。スタミナがあり継続的な戦闘に向いているが、EN(エネルギー)出力とレーザー系武器への適性が低いため、武装との相性で割り切った選択だろう。ブースターは、おそらくファーロン・ダイナミクス製の第二世代のいずれか。各種ブースト性能のいずれにも特化せず、どんな状況でも安定した機動力を発揮する。

 良く言えば、汎用的。悪く言えば、無難。良くも悪くも独立傭兵らしく、状況対応能力の高い機体。少なくとも、足を引っ張る真似はしないだろう。

 

「顔を合わせたばかりじゃ、連携も何もない。それぞれ勝手にやろうじゃないか」

 

 そう言い残すと、彼女はブーストを噴かし、一足先に眼下の基地へ飛び立った。あっという間に小さくなった黒い影は、621が呆と見守っている間に封鎖機構の兵器へと接近し、射撃を開始している。

 己も往かねば、と機体操作を始める()()の脳裏に――ぴぃぃ、と赤い光が走った。

 

『僚機、戦闘開始しました。……私たちも行きましょう、レイヴン』

 

 “ルビコニアンのエア”を名乗る、謎の女。()()の脳波と同期して交信できるという、不可思議な存在。だが、彼女は何かと有能で、あちこちの情報収集をしては()()に教示してくれるため、少なくとも()()にとっては、頼もしい仲間だ。

 彼女の言う通り、仕事を始めよう。今日の仕事は歩合制で、つまり怠けた分だけ報酬が減らされるということだ。ハンドラーのためにも、頑張らなければならない。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

『コード15、ACによる襲撃を受けている!』

『こちらもだ! まさか、二機……!?』

 

 通信回線越しに聞こえてくる、封鎖機構の兵士たちの動揺。それを圧し潰すように、アイリーンは両腕のマシンガンを叩き込んだ。

 鉛弾の雨を浴びてひしゃげ、弾薬に引火し、爆発炎上する兵器たち。それに巻き込まれる兵士たちの悲鳴は、コクピット越しには聞こえなかった。

 

 

 通信を傍受する限り、“レイヴン”の方も戦闘を開始しているようだ。戦場全体を見渡すヘッドアップディスプレイ(HUD)が、確かに彼方で爆炎が上がっている光景を映している。しかもその規模は、先行した彼女をも凌ぐ激しい戦闘を伺わせる。これは期待以上だ。下手をすると、自分の取り分まで持っていかれるかもしれない。

 積載能力の関係上、瞬間的な打撃力に欠けるのが彼女の“狩り”の欠点だった。軽量ゆえの軽快さを活かしてぴょんぴょんと飛び回り、敵に捕捉させることなく確実に攻撃を叩き込む――それが“コルヴスの狩り”だ。見敵必殺(サーチ・アンド・デストロイ)と言わんばかりの暴力的な戦闘に比すると、どうしても効率が落ちる。

 とはいえ、報酬金(COAM)ごときのために躍起になるような、金の亡者でも吝嗇家でもない。老い先短い婆の身、生きていく糧を維持するだけの金があれば充分だ。このまま向こうには主力として頑張ってもらって、こちらは弾薬費と差し引きプラスになる程度に手を抜く。あとはお互い安全に仕事を片付けて、それぞれが満足する額を貰ってお別れ――

 と思い始めたところで、びびーっとコクピットに警報が響き渡った。

 

(……拙いね、こりゃ)

 

 その警報音が示す凶事に、彼女は無言で顔をしかめた。

 あらかじめ封鎖機構のシステムにハッキングし、その機体データを掠め取ることに成功した彼女は、封鎖機構が保有する各種兵器の信号を分析し、その接近に対してアラートを設定しておいた。それが反応してしまったということは、つまり相応の戦力がこの基地に接近していることを意味する。

 無論、いかな惑星封鎖機構といえど、即応できる増援の兵力には限度がある。それに通常警備部隊(サブジェクトガード)程度であれば、彼女の腕でも片が付く。まして僚機がいるなら尚更だ。追加報酬代わりに撃破してもいいし、雇用主(ベイラム)に押し付けてとんずら、という手もなくはない。だが、この信号は――

 

(……噂の『軽騎兵(LC)』――しかも執行機か。私一人なら、撒けないこともないが……)

 

 惑星封鎖機構が満を持して投入した新型機、『騎兵(CAVALRY)』シリーズ。常に二機一対で行動するそれらは、さすがに老齢の彼女の手には余る難敵だ。ベイラムもアーキバスも、その撃破には躍起になっていることだろうが、そんなもののために命を捨てる義理はない。なりふり構わず逃げ出して、“歩く地獄”の罵声と引き換えに命を繋ぐ、という選択肢も、なくはないが――

 

(……仕方ないね。ババアとて、たまには無理してみるか)

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 ハンドラーから与えられたACを駆り、数多の兵器群を破壊する621。基地内は弾薬の爆発炎上による黒煙で満たされ、そろそろ倒し切ったか――という頃に、それは起こった。

 

『――レイヴン、増援です!』

「ワンちゃん、聞こえるかい」

 

 エアの交信と、僚機コルヴスからの通信が同時に届いた。

 ところで、「ワンちゃん」とはどういう意味だろう。確か、「犬」という生物に対する俗称と聞いたことがあるが……それを何故、自分に当てはめるのだろうか。

 

「おかわりだよ。近隣の区画から、増援が迫っている。この速度だと、お互い逃げ切るのは難しそうだ」

『ベイラムめ……仕方ない。迎撃しろ、621』

 

 あからさまに不機嫌さを見せたハンドラーの命令に、()()は黙って従った。幸い、最後の敵を撃破したところだ。迎撃には都合がいい。視線を巡らせ、頭部の広域スキャンを行使すると同時に、レーダーが新たな機体反応を拾い上げた。

 背面に取り付けられた大型飛行ユニットから赤い噴射炎を吐き、彼方から飛来する機影は、()()。だんと崖上に降り立った人型の機体は、右腕にそれぞれレーザーライフルとバズーカ、左腕に揃って実体シールドを装備している。情報通りなら、さらに背後に連装ミサイルを備えているはずだ。

 ――軽騎兵(LC)執行機。惑星封鎖の秩序を守る、剣にして盾。

 

『コード23、現着』

『独立傭兵が二機……排除執行する』

 

 それに搭乗するは、特務少尉と特務一級士長。余計な感情を削ぎ落した冷徹な言葉は、凡百の傭兵にとってまさしく死刑宣告だろう。

 だが、それに相対する灰色と黒赤はそうではない。ただ命令のままに戦う殺戮人形と、幾多の死線をくぐってきた老練の傭兵。漲る敵意が、特務兵たちをして独特の“匂い”を知覚させた。

 

 

 

 両者の戦闘は、特務少尉のレーザーライフルから始まった。びゅんと高い音を残して迸る閃光は、対峙する傭兵たちを離散させ、何者にも命中せず基地の内壁を焼き焦がした。同時に、特務兵たちがブーストを噴かせて突撃する。特務少尉はアイリーンと、特務一級士長はレイヴンと対峙する形になった。

 部位換装を前提としない封鎖機構の機体――特に飛行ユニットを増設したLC執行機体は、半永久的な滞空を可能とする。撃ち下ろされるレーザー光を飛び跳ねながら回避し、アイリーンは返礼とばかりに小粒の機関銃を撃ち返した。レーザー光とは弾速はともかく、軌道の素直さと連射性能の低さから、熟練の軽量機使いには回避しやすい部類の兵装だ。無駄だと分かっていても、特務少尉は舌打ちをした。それにしても、このぴょんぴょんと跳ねるような機動は、果たしてKASUAR(ヒクイドリ)の名に相応しいのか、どうか。

 

『ちょこまかと鬱陶しい……システムに照会しろ!』

『了解。コード44要請、敵ACのデータ詳解を要請する』

 

 苛立つ特務少尉の命令により、特務一級士長が封鎖システムへとコードを送信する。銃弾とレーザー光、ミサイルと砲弾が飛び交い、ただでさえ襲撃で荒廃していたエルヴィス採掘基地をぼこぼこと蹂躙していく。

 

『――識別データ照合。一方は独立傭兵レイヴン。もう一方も独立傭兵、スピアリングです』

『ふん、カラスが二羽か。老いぼれが、大人しく隠居していればいいものを……おい、レイヴンの方に集中するぞ!』

 

 特務一級士長の報告に、特務少尉はあからさまな侮蔑の色を見せた。機動特化機体“コルヴス”、それを駆る独立傭兵アイリーン・スピアリングは“灰かぶり”を名乗る老兵だ。機動力優先ゆえに攻撃能力も低く、脅威度は低い。つまり、目下特務一級士長と対峙している、このレイヴンこそが脅威だ。

 独立傭兵レイヴン――優先排除対象リストの上位たる難敵。いかなこのLC機体で相手取ろうと、下手な真似をさせるべきではない。挟撃で手早く片付けようと、特務少尉は目の前の敵から視線を逸らし、

 

「――おい」

 

 まさにそれが、彼女の狙いだった。

 

老兵(いきのこり)を舐めるなと、教わらなかったのかい」

 

 KASUARの脚力を活かした高い跳躍、からの急速突進(アサルトブースト)。コクピット内のアイリーン本人すら意識を飛ばしかねない急加速が、特務少尉の無防備な背中へと迫った。

 同時に、両腕のマシンガンを突き出して連射。本体の慣性による加速が乗った弾丸の雨が、強烈な死の礫となり、その背後をがりがりと削る。視界外から襲う強烈な衝撃は、ついにLC機体の姿勢制御システム(ACS)を大きく崩し、がくんという衝撃と共に中空で静止した。

 

『――な、なんだとッ!?』

 

 まったく予想外の驚愕に、特務少尉の思考が止まる。咄嗟に振り返った彼が捉えたのは――左腕武装を肩部ハンガーと換装し、その腕を大きく振りかぶるコルヴスだった。

 

「ふぅッッ!!」

 

 パルスブレード、HI-32: BU-TT/A。電磁パルスで形成された翠緑の刀身が、特務少尉に向けて振り下ろされた。

 FIRMEZAの強靭な関節トルクを酷使した一撃が、無防備なLC機体の鋼鉄装甲を深々と抉り、決定的な損傷を与えた。衝撃に揺れるコクピット内で、動揺が止まらない特務少尉。そこに追撃せず、バックブースターを噴かせて後退するコルヴスを辛うじて捉えたのは、幸運と言うべきか、どうか。

 ――視界外から迫ってくる二対の榴弾を回避できなかったのは、間違いなく不運と言っていいだろう。

 

『馬鹿、なッ……!?』

 

 ばこん、と轟音と爆発が響き渡る。爆炎の尾を引きながら、特務少尉を乗せたLC機体は墜落した。その中にいる特務少尉は、すでに総身を圧壊されて絶命した。

 

『少尉!? くっ……このままでは――!』

 

 その光景を目撃した特務一級士長の脳裏が、驚愕と動揺で満たされる。形勢不利、いやそれ以上に、あの少尉が墜とされるはずが――咄嗟に思考が停止した特務一級士長へ、もう一振りのパルスブレードが迫る。

 灰色のレイヴンが振るう翠緑の刃を、回避する余裕もなく。その二連撃は、もうひとつのLC機体を深々と斬り抉った。

 

『おのれ……カラス、共……!』

 

 特務一級士長、その最期の言葉は、目障りな傭兵(カラス)共に対する怨み言だった。

 

 

 

『――敵全滅を確認。ミッション完了だ』

 

 もはやこのエルヴィス採掘基地に、動くものはない。ウォルターの宣告を以て、ミッションは終了した。

 コルヴスのコクピットの片隅で、報酬計算表(スコアラー)がぴろりと鳴いた。そこに映し出された金額は、13万3千COAM。つまり、それ以外はこの“レイヴン”の取り分ということになる。確かに、手柄を譲ってサボろうと考えていたのは事実だが、まさか半分以上どころか、ほぼ倍額という大差を見せつけるとは……

 

「まさに圧倒的ってやつか、見せつけてくれるねぇ。こういう時は、老兵にも華を持たせておくんな」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

【新着メッセージ 1件】

 

 

G13(ガンズ・サーティーン) レイヴンに伝達!』

『エルヴィス採掘基地での作戦成功、ご苦労だった! ミシガン総長より伝言を預かっている』

『「あの老いぼれの鼻を明かしてやったのは大金星だ。貴様も、一山いくらの役立たずよりは優秀だったらしい。

 ただし、所詮は老頭児(ロートル)を出し抜いて先走っただけのこと! 先行する貴様の背中を狙うのが、あの女鴉のやり口だ!

 役立たずのまま死にたくなければ、背中への注意も怠るな!」――以上だ!』




 AC6に加速撃ちはないけど大目に見て。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。