Elinの軌跡 作:半神処刑人
いつものようにすくつへと潜り、荷物が一杯になったところで切り上げ帰還の魔法を唱えたあなたが目にしたのは、移動先に指定した拠点の街並みではなく一面の荒野だった。
帰還の魔法は今まで万を超える回数使ってきたが、これは初めての経験である。帰還の魔法の誤作動というのは、長年冒険者をやっているあなたでも耳にしたことがない。だが長年生きていればそういうこともあるだろう。あなたはさして気にすることもなく再び帰還の魔法を唱えた。
*ぼわん*何も起こらなかった。
……。
あなたは脱出を詠唱した。
*ぼわん*何も起こらなかった。
……どうやらあなたはいつの間にか魔力と詠唱の技能が著しく低下したらしい。などということはない。そもそも身に着けている装備のエンチャントによってあなたのステータスが下がることはない。何より帰還の魔法も脱出の魔法も、初心者でも使える下級の魔法だ。試しに魔力の矢を放ってみれば普通に発動できた。テレポートはどうだろうか。
あなたはテレポートを詠唱した。
テレポートを唱えたあなたの視界には相変わらず荒野が広がっているものの、先ほどの場所から数十メートル離れた場所に移動していた。それからいくつかの魔法を試したところ、どうやら使えなくなっているのは脱出の魔法と帰還の魔法、超遠距離の移動を行う魔法のようだ。それがわかったところで何の慰めにもならないが。
さて、帰還の魔法も脱出の魔法も使えないとなれば今のところあなたに拠点へと帰る術はない。改めて辺りを見渡してみても一面の荒野が広まるばかり。徒歩で帰ろうにも現在地がわからないことには逆に拠点から遠ざかってしまう可能性もある。死に戻りも考えたがどうにも嫌な予感がするので保留。
……とりあえず気分転換に未鑑定品の鑑定でもしよう。そう考えた貴方は、どこからともなく頑丈な箱を取り出し地面に設置した。重量が超過する寸前まで装備を掘り、拠点に帰ってから一気に鑑定して性能を確認するのはあなたの趣味の一つなのだ。大半は奇跡品質でしょっぱいエンチャントしか付いてないのだが、まれに見つかる神器品質の未鑑定品には状態異常無効や高い属性耐性が複数付いていることがあり、そういった装備を見つけた時の喜びに代えられるものはないと断言できる。まさに冒険者の醍醐味といえるだろう。
そうしてあなたが鑑定の魔法を唱えようとした時。
「お、彼かな?我らが盟主の仰っていた異邦の客人とやらは」
「そのようですね。見たところ尋常ではない腕前の持ち主です。カンパネルラ、いつもの軽口は控えるように」
「君にそこまで言わせるのかい?これはマクバーンを連れてこなくて正解だったかな。それじゃあ手筈通り、君に任せるよ」
「ええ」
あなたの背後にどこからともなく2人の気配が現れた。振り返ったあなたの目に映ったのは、全身を甲冑に包んだ女騎士と、人をおちょくるのが好きそうな雰囲気の少年だった。今のところ敵意は感じないし、何よりこの状況を知っていそうな口ぶりだ。とりあえずあなたは初めましてと当たり障りのない挨拶を投げかける。
「初めまして、異邦の客人よ。我が名はアリアンロード、こちらの彼はカンパネルラと言います。我らが盟主より、あなたを拠点までお連れするように命を受けています。怪しいのは承知の上ですが、我らと共に来ていただけますか?」
兜でくぐもっているというのにどこまでも透き通ったような美しい声は、兜の下に隠された素顔が間違いなく玲瓏なのだと万人に思わせる。だがそれ以上に、アリアンロードと名乗った女騎士から立ち昇る凛とした闘気。間違いなくノースティリスでもそうはいない戦闘力の持ち主だ。あなたの感覚でいえば廃人一歩手前といったところか。ぜひとも殺し合ってみたいものだが、残念ながら向こうにその気はないらしい。あなたは出したばかりの頑丈な箱をしまい、女騎士に尋ねた。そちらの招待に応じればこの状況について説明してもらえるのだろうか、と。
「恐らくは。私も詳しくは聞いていないので、あなたが望む答えが得られると断言はできませんが、あなたの疑問については解消できるかと」
あなたを騙すような気配は感じられず、警戒はしていてもあなたへの敵意もない。あなたへの警戒を隠していないのは誠実さの表れだろう。悪いことにはなるまいと、あなたは盟主とやらのお誘いを受けることにした。それに、仮にだまし討ちされるのであればそれはそれで悪くない。あの女騎士と殺し合えるということなのだから。
「あなたの英断に感謝を。──カンパネルラ」
「オッケー。それじゃお客人、もう少しこちらに来てくれるかい?僕らのアジトまで転移するからさ」
頷いたあなたが少年に近づくと、少年が軽快に指を鳴らした。するとあなたの足元に魔法陣のような紋章が描かれ淡い光を放ち始めた。他者にも使える帰還の魔法といったところか。
身体が一瞬浮くような感覚の後、あなたは先ほどの荒野とは全く異なる風景の場所へと転移していた。
「ようこそ、異邦の迷い人。ご足労感謝します。アリアンロードにカンパネルラも、ご苦労様でした」
女騎士とはまた違う、妙に聞き心地のいい女性の声。あなたは瞬きもしていないはずなのに、意識の外から目の前に現れたその声の持ち主は見る者に安心感を与える笑みを浮かべてあなたを歓迎した。
「いえ、盟主の命とあらばこの程度」
「そうそう、ちょっと転移しただけだしね」
どうやら、この女性が彼らの口にしていた盟主らしい。癖のありそうな少年に凄まじい戦闘力の女騎士が跪いているあたり、相当のカリスマの持ち主なのだろう。実際彼女からはイルヴァの神々に近しいものを感じる。あくまで近しいというだけで彼女が女神そのものというわけではないのだろうが、あなたが敬意を払う理由としては十分だ。あなたはノースティリスにおける最高礼をもって盟主へと自己紹介をした。
「これはご丁寧に。私は身食らう蛇という組織の盟主を務めている者です。少し面映ゆいですが、グランドマスターと呼ぶ者もいます。故あって名乗るわけにはいきませんので、呼びたいようにお呼びください」
では盟主と呼ばせてもらうことにしよう。それで、直截に尋ねるがここは一体どこなのだろうか。
「ここは星辰の間、使途と呼ばれる幹部が話し合いに用いる場所ですが、あなたが聞きたいのはそんなことではありませんね。もったいぶるつもりはありません、ここはゼムリア。あなたのいた世界とは全く異なる位相に存在する世界です、ノースティリスの冒険者よ」
ゼムリア。いつもであれば過保護なぐらいに声をかけてくる神の電波が届かないのでうっすらと感じてはいたが、あなたはイルヴァではない別の世界に迷い込んでしまったらしい。
「あなたがこの世界に来ることになった原因についてはわかりません。私に見通せたのは今日あなたがゼムリア大陸東部に現れること、そしてあなたを放置すればゼムリア大陸が大変なことになってしまうということだけでした。故に、あなたをこの場へと招くことにしたのです」
大変なこととはどういうことだろう。ここが異世界だという話を聞いてあなたが考えていたのは、とりあえずこの世界を巡って趣味の一つである剥製とカード集めをしようということだけなのだが。
「その剥製とカードとやらは私達の知るものと同じなのでしょうか?どのようにして集めるつもりなのですか?」
剥製とカードというのは、ノースティリスで生物非生物問わずに何かを殺害した時に確率で手に入る蒐集品だ。剥製は本人と瓜二つで、カードには落とし主の紹介文のようなものが書かれている。そしてもちろん、あなたはゼムリア大陸の生き物を片っ端から殺してこれらを手に入れるつもりだ。
「……マジ?」
「なんと……」
何かおかしいことを言ったのだろうか。アリアンロードとカンパネルラが信じられないといった目であなたを見ていた。
「冒険者よ、よく聞いてください。あなたのいた世界がどうかは知りませんが、この世界では人は一度死ねばそれまでです。一度死んだ者が蘇るといったことは基本的にありえません」
信じられないという目を向ければ、アリアンロードもカンパネルラも無言で頷いた。どうやら本当らしい。
「この世界で人が死亡した時に剥製とカードが現れたという話も聞いたことがありません。できれば、それら目的とした殺生は控えてもらいたいのですが」
それは構わない。剥製とカードが落ちないのに殺す意味はあまりない。だったらイルヴァには存在しない鉱石や植物やらを収集して帰るとしよう。それはそれとしていったいどうすればイルヴァに帰れるのだろうか。あなたは盟主にこの世界から帰る方法について尋ねてみた。何やら未来を見る能力があるようだが。
「わかりません。先も言ったように、私に見えたのは今日あなたがゼムリアに迷い込むということと、あなたを放置しておけばゼムリアで数えきれないほどの人が死亡することになるという結果だけ。あなたがゼムリアに来た理由も、あなたの世界に帰る方法も私の力では見通せないのです。力になれず申し訳ありません」
頭を下げる盟主に、あなたは気にしないでほしいと告げる。話を聞くにあなたがゼムリアに迷い込んだのは偶発的なものなのだから、盟主があなたに詫びる必要はないだろう。あなたとしては感謝したいぐらいだ。無駄なことをせずに済んだのだから。もしここで盟主と出会っていなかったら、あなたがその事実に気づくまでに何人も殺す羽目になっていただろう。そして「もしかしてここでは剥製とカードがドロップしないのでは?」と気づいたあなたは徒労させられた八つ当たりにラグナロクを振るって終末を引き起こし、ついでに核とメテオをその辺にぶっ放していた可能性がある。
「それで、君はこれからどうするの?今のところ元の世界に帰る方法はないわけだけど」
カンパネルラの問いかけにあなたは少し考えこみ、そして結論を出した。イルヴァに帰還する方法を探しつつ、適当にこの世界を観光すると。今更あなたが少しの間帰らないからといって拠点の仲間が心配するといったことはないはずだ。あなたは過去に何度か年単位で帰らなかったことがあり、その時も仲間はたいして心配していなかったのだから。仲間が言うには「どうせお前が埋まるはずないんだから心配するだけ無駄」とのことだった。あまりの薄情さにあなたは少し泣いた。
女神に関しても電波は届かないが加護を通して繫がりは感じられるので大丈夫だろう。そして、女神の加護があるということはおそらくイルヴァとゼムリアは何らかの形で繋がっているはずだ。根拠はないがあなたはそう感じた。
「でしたら、ここを当面の拠点にするといいでしょう。部屋は空いていますし、必要な時には転移を利用していただいても構いません。もちろん、どちらも対価は求めません。ああいえ、1つだけ望みがありますがそこまで難しいものではありません」
それはありがたいが、そこまであなたを気に掛ける理由は何なのだろうか。親切すぎて怪しいのだが。
「正直に言えば、あなたを自由にさせるほうが恐ろしいからです。なので、あなたにはこのゼムリアを見て回る前にこの世界の常識や価値観といったものを学んで頂きたいのです。あなたの行動を縛るつもりはありませんが、ある程度はこちらの世界に斟酌していただけると助かります」
盟主の答えにあなたは得心がいった。確かにあなたの行動基準はノースティリスの価値観に基づいたものだ。命が1つしかないゼムリアで同じように動けば悲惨なことになるに違いない。あなたが多少自重するだけで転移という便利な移動手段が使えるのなら断る手はないだろう。
「ではカンパネルラ、彼が必要な知識を得られるように取り計らうように。アリアンロードは彼の部屋を案内してあげてください。居住区画の空き部屋であればどの部屋でも構いません。私は少し離れる必要があるので、後は任せましたよ」
「了解」
「承りました。冒険者殿、こちらです」
盟主とカンパネルラが転移で去り、あなたはアリアンロードの後ろを着いていく。事故で意図せず訪れることになったとはいえ、せっかくの異世界だ。できるだけ色んな所へ行って色んなものを見よう。仲間や女神の待つノースティリスに帰ったその時には、きっとたくさんの土産話ができているはずだ。
基本的にはElinというかイルヴァの世界観などに関して何の説明もしないストロングスタイルでいきます。調べるのめんどいって人はちょっと過激なローグライクRPGだと思って下さい。人を選ぶけどハマれば無限に時間溶けるゲームです。
アーリーアクセスだからコンテンツ内容はまだelonaの方が豊富だけど、操作に関しては圧倒的にElin。なんとWASDで移動できる。だからelonaをゴミ箱ダンクした人も体験版やってみてね。