【完結】クライン(♀)と駆け抜けるアインクラッド 作:甘口列
「クリスマスにゃ間に合いそうだな」
「そうだね」
カタナスキルがステータスに現れてからしばらく経った。エクストラスキルに二人で大喜びして、皆とパーティーまでしたことを昨日のように思い出せる。しかし今はそれどころではなかった。
フラグモブ、背教者ニコラス。彼の持つ財宝の中には『死者をも蘇らせる』アイテムがあるらしい。その噂を聞きつけてから、僕達はひたすらレベル上げに邁進した。半端だったカタナスキルも曲刀を上回り、最前線で問題なく立ち回れるようになってきたところだ。クラインと揃いの日本刀は手に馴染み始めている。
しかし、これはよくない傾向だ。僕が最も得意とする大太刀の動きを忘れてしまいかねない。あの間合い、突く・切る・薙ぐをこなせる応用力。アレを忘れる前に大太刀を……できればクリスマスの前に。最も強くあれる僕でニコラスと戦いたい。
そして、あの、死んでしまった友人を蘇らせるのだ。黒鉄宮の生命の碑に刻まれた横線を取り除けるのならなんだってする。それでクラインが笑ってくれるなら、喜んでくれるなら。最早顔も朧気な人の名前を呟く。それが友を拒んだ風林火山の、その状況を生み出した僕の、責任だろう。
「クエストの確定ドロップが、大太刀……」
そんな中、情報屋からある話が飛び込んできた。前金を払っていたこともあり一番に知らせたという彼女は、きっちり報酬を受け取り疾風の如く去っていった。見送りもせず貰った情報を反芻する。
主街区から離れた村で、ある冬の日に生贄の娘を求める龍が現れる。それを倒すと龍の体から刀が現れるのだ……というどこかで聞いたことのあるようなないような話。しかし村に行くと生贄に捧げるための娘がおらず、龍は顔も見せないまま代わりのモンスターをけしかけるのだそうだ。
つまり、『娘』が必要になるクエストなのだろう。関連するクエストにそのためのNPC探しもあるのだろうか。そこまでの情報は得られなかったが、十分だ。それなりの金を払ったかいのある良い仕事である。
このクエストを受けたい、とクラインに相談すると二つ返事で了承してくれた。
「しかし娘、娘ねぇ……オレで良いか?」
「無理だろ」
「生贄を攫う女山賊」
「ぶん殴るぞ」
「……危ないよ、何かあったらどうするの」
「おうおうイズモは良い子だな、おめぇらも見習え!」
実際生贄の娘に何が起こるか分からない以上、危険なことはしてほしくない。けれどクラインは優しい顔で僕に「前から大太刀欲しいって言ってたもんな」と語りかけてくる。好きになっちゃう! と内心叫びながら転がりまわった。現実の僕は頷いただけだが。
「とりあえず村に行ってみっか!」
それで今後の予定は決まった。皆で必要なアイテムを揃え、早速噂の村に向かう。途中他のプレーヤーに追跡されている気配を感じたが、今はフラグボスの捜索をしているわけではないので関係がなかった。新しい狩場かと勘違いした連中も一人、また一人と消えていく。
村に着く頃には僕達だけになっていた。これは都合が良い。寒々とした村に踏み入れると、途端に家々からNPCが飛び出してきた。
「娘だ!」
「あぁ、神様は見ていてくださったのね!」
「これで捧げ物ができる!」
その目は皆クラインに向いていた。ゾンビのように近付き腕を伸ばしてくる村人からクラインを背に庇う。僕達の周りにできる、村人の輪。人に囲まれた中心でクラインは声を張り上げた。
「先に話を聞かせてくれ!」
「その通りだ。お客人に失礼だぞ」
彼女の声に反応するように、村人の輪を割って初老の男がやってきた。いささかくたびれた様子の男は、僕達の前で深々と頭を下げる。「そんな」「村長!」と声が上がるので、彼が責任者なのだろう。家に上がるよう進められたので警戒しつつも僕達は男についていった。ここから先は何も飲み食いしないようにしよう。そんなメッセージを共有し、男の話を聞く。
その内容は事前に得ていた情報と一致していた。隣の村から女性を一人連れて来る予定だった、と語るので恐らくそれが関連クエストなのだろう。女性のクラインがいるからそこを飛ばせた形だ。
「どうか我々の村を救ってください……!」
生贄になんて絶対させないけど。表面上は了承し、龍が出れば退治する。僕達のやることはそれだけだ。しかしクラインは準備があるというので別の部屋に連れて行かれてしまった。大丈夫かな、変なことされないかな。扉の前でうろうろしてると皆に心配しすぎと笑われた。それでもやっぱり不安なのだ。目の前にいないと、守ることもできない。
永遠にも感じる数分を経て、ようやく扉が開かれた。その中には白いドレスに着替えたクラインがいる。薄いべールで顔を隠した姿は生贄と言うより花嫁のようだ。
「綺麗……お姫様みたい。いつものクラインも良いけど、こういうのも似合うんだね」
思ったことをそのまま言うとクラインが何とも言えない唸り声を上げる。しかし「馬子にも衣装ってやつだな」とカルーが言うとすぐにいつもの調子に戻った。それでも僕の心臓はドキドキしっぱなしだ。綺麗だなぁ、好きだなぁ、と少しだけこのクエストに感謝してしまう。……あれ、クラインの装備品はどうなったんだろう。
「ちゃんと持ってるぞ。ただ敵が出てからじゃ一歩遅れちまうな……」
「皆で守るから大丈夫だよ」
「お前そこは『僕が守る』くらい言えよな〜!」
やいやいと茶化してくる皆を無視してクエストを進めていく。ここから村の裏手の森に行くらしい。その奥に龍が住む谷があるとのことだ。こんな綺麗な服に着替えたのに森を歩かせるのか……。
クラインの衣装には汚れのエフェクトがつかないようになっているのか、村長の案内で森の奥まで来ても泥一つ跳ねていなかった。杞憂だったみたいだ。さてここからが本番だ、と逃げていく村長を尻目に地響きと龍の咆哮を聞く。黒い龍が姿を現した瞬間、クラインはいつもの服に着替えた。あの衣装持ち帰れるのかな、なんて考えながら刀を構えて最初の攻撃を弾く。
どんなに恐ろしい龍だろうと僕達の戦い方は変わらない。盾持ちが前に出て攻撃を受け、隙が出来たら前衛が二人で突撃。適宜スイッチしつつ相手のHPを削り、長物持ちが相手の動きを妨害しながらダメージを蓄積させていく。回復アイテムは幾つか消費したが、そう危険な攻撃はしてこなかった。到着までに手間がかかる割に特殊な戦闘AIは積んでいないらしい。いっそ素直な程のモンスターを、僕達は七人で倒しきった。
「で、これがドロップ品、と……」
倒れたモンスターが粒子になり、尾の部分が形を変えて地面に突き刺さる。その大きさ、反り、どれも見覚えがあった。慌てて駆けつけ引き抜くと、慣れ親しんだ重さを感じる。
「少し振ってみていい?」
「おう」
背中に背負った大太刀をいつの間にか現れた鞘から抜く。百四十センチ程度の刃長、僕が最も扱いやすい長さ。我が家に伝わる家宝そのものだ。構えて空気を切ると、やはり知っている感覚がする。続けてお祖父様から教わった技を出せばソードスキルの光が見えた。ああ、ああ!
どこまで僕を馬鹿にすれば気が済むんだ、茅場晶彦!!
あの男に見せたばっかりに、受け継いできた技術も刀もデスゲームのためのデータにされてしまった。悔しくて悔しくて唇を噛みしめる。これがただのゲームだったら、こんな思いはしなくて済んだのに。
「……イズモ」
「なに?」
「いつか、話してくれよな。おめぇが一人で抱えてるもんのこと」
帰り道、クラインから不意にそんなことを言われた。「うん」と頷いてしまったが、話せるだろうか。いつか、彼女に。嫌われてでも本当のことを話す勇気が持てるだろうか。
ああ、そういうことかもしれない。月夜の黒猫団の時、キリトが彼らから逃げたのは。もしかすると、今の僕と似たような気持ちで。今さらそんなことを理解しながら、寒空の下拠点への道を歩く。
背教者ニコラスとの戦いは、数日後に迫っていた。
大晦日までノンストップで行きます。
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