【完結】クライン(♀)と駆け抜けるアインクラッド 作:甘口列
風林火山男子会……という名の、ただクラインがいない時に酒を飲みながら下世話な話をするだけの時間がある。気晴らしは必要だし良いんじゃないかと思うけど、
「んでお前はいつリーダーに告んだよぉ!」
「一緒のベッドで寝ておいて何もないってこたねーだろ!」
「最初の手ぇ出さないって約束はどうなったんすか!」
最近はもっぱら僕の吊るし上げ会場である。どうにもクラインに対する態度が半端なのがいけないらしく、くっつくなら早くしろ、その気がないならベタベタするなと説教をされてしまう。
「いや僕そんなつもりは……ほんとに手は出さないって……」
出さないと言うか、出せない。僕にはその資格がない。しかしそれを彼らに言うこともできず、僕は毎度肩を丸めて小さくなることしかできなかった。大体皆が敏感過ぎるんだと思う。あのくらい友人でも普通だ。
「言っとくけど外の連中から見たらお前らほぼカップルだからな」
うそでしょ。そりゃ単独行動禁止期間はクラインと一緒にいる時間が長かった。しかし最近は物資の調達や攻略組間での交流会に一緒に行くくらいで、過ごす時間は他の皆とそう変わらない。
「無自覚!」
「ここで証人を呼ぼうと思います! まずはキリト!」
「飯奢るっていうから何かと思えば……お前何やってんだよ」
今日二回目の「うそでしょ」が出た。ソロで忙しくしてる人連れてきて何やってんの。というかそこ繋がりあったんだ……クラインを通してしか話してないと思ってた。
「キリトこそ何やってんの」
僕らがホームにしている階層には珍しく和食を提供する店がある。なんちゃって和食、という感じではあるがそこはかとなく懐かしいので贔屓にしていた。キリトがわしゃわしゃとかきこんでいるのは、そこの名物料理魚の塩焼き定食である。「米の食感はイマイチだが魚が良い」食リポありがとう。
「第三者の意見が聞きたいんだろ? 俺はとっくにお前とクラインが付き合ってるもんだと思ってたよ」
「えぇ……」
まさかキリトにまでそう思われてたなんて。確かに僕はクラインが好きだけど、分かりやすく表に出したつもりはない。クラインが僕のことをどう思っているかは分からないが……好きとか、そういう感じではないと思う。だってディアベルと初めて会った時とかメロメロになってたし。
「ディアベル? アレはアイドル見てるようなもんだろ」
「ヒースクリフは?」
「イケオジ俳優枠」
それはちょっと分かる。いや分かってどうする。混乱する僕を置いて食事を終えたキリトは去っていった。本当に食事に釣られてきたのか。まぁ彼は結構食べ物に面白みを見出すタイプだもんな。今度何かお願いする時は食事を報酬に加えてみよう。
現実逃避をしている間に別の人が呼ばれた。今度は僕達がよく取引する商人プレーヤーだ。彼もやはり僕とクラインが付き合ってると思っていたようで、結婚待ちでアイテム用意してたのに! と嘆いていた。稼ぎ時を間違えた商人って悲しいね。
それから何人か人が呼ばれたが、皆僕とクラインが付き合ってると思っていた。驚きである。まさか情報屋に変な話を流した人がいるんじゃないか、と陰謀論にまで飛びそうになったところで「分かったろ」とオブトラに念を押された。
「お前はそういう風に見られてんだ。つまりそんだけ、リーダーから恋愛の可能性を摘んでるってことだな」
大真面目に恋の可能性とか言うのちょっと面白くてズルいと思う。でも確かに言ってることは最もだった。僕がいなければあったかもしれない出会い、いたかもしれない恋に発展する相手。クラインが今恋愛したいかはともかく、一度真剣に向きわなきゃいけないことではありそうだ。
「まぁ普通にフラれて気まずくなっても追い出したりしねーからよ、当たって砕けろ!」
「砕けたくないんだけど!?」
近い内に、僕のことを話そう。僕が犯してしまった罪について告白しよう。それを彼女が許してくれるなら……その先を考えても、良いのかもしれない。もちろん全てはクライン次第だけど。
皆に背中を押され、ようやく決意が固まった。
ちょっとだけ、こんな馬鹿な流れで決意したくはなかったとも思った。
――――――――――――――――――
風林火山男子会が行われていた時刻、別の階層にて。アスナとクラインという珍しい組み合わせの二人が街を歩いていた。タイプの異なる女性二人組に男達の視線が集まるが、双方気にすることなく石畳の上を進んでいく。
「どうしよう、オレ普段着で来ちまった。素材は持ってるけどよぅ、ドレスコードとか、」
「大丈夫ですって」
クラインの服装は多めに衣紋を抜いたミニ丈の和服に白のパンツ、各所に鎧を合わせた女武者スタイルだ。着物をベースにしながら彼女の肉体美が分かる仕上がりになっている部分に作成者の並々ならぬ拘りが感じられる。
不安気な彼女を慰めるアスナは血盟騎士団らしく白をベースに赤のラインが入った装備だが、前線に立つ時よりも全体的に柔らかくかわいらしい仕上がりの服を着ている。今はオフだと示すような格好に、無謀な男が声をかけに行っては一言で切り捨てられていた。
男に構っている暇はない。今日、二人は服を仕立てに来たのだ。それもアインクラッドで最も有名なお針子、アシュレイに依頼をするために。
「しっかしすげぇよな。オレも裁縫スキルは取ったけどよ、中々上げるの難しくて」
「攻略組にいると趣味スキルには中々時間がさけませんよね」
しかし、攻略組だからこそ高級なレア生地素材が手に入れやすい。二人はたっぷりフル装備分の素材を持ち、アシュレイの店の門を叩いた。
「ええ。素材、確認しました。どれも文句無しの最高級! お引き受けしましょう」
アシュレイが二人分の服を製作している間、二人は店に飾られた彼女の作品を見て回る。ちょっと目を見張るようなコルがかかるが、それだけあってデザインも質も一級品だ。これを着ればどんな無骨な女も令嬢に早変わりするだろう。
「すっげぇ……」
「すっごく素敵……」
その中の一つ、まるでウェディングドレスのような服の前で二人は足を止めた。繊細な刺繍、遊び心と華やかさのあるレース、品よくまとめられた石の輝き。ベースの白い布はどこから見ても艶めいていて、最高品質のレア物なのはすぐに分かった。ロマンチックな服を前にうっとりと見惚れる。
「アスナにゃ似合うんだろうなぁ。キリトとの式には呼んでくれよ」
「もう、キリト君とはそんなんじゃないです! クラインさんこそどうなんですか、イズモさんとは」
「い、い、イズモ!? アイツはほら、弟みたいなもんで……そういうんじゃ、ねぇし」
「え? 嘘、皆二人がお付き合いしてると思ってますよ」
「えぇ、嘘だろ……?」
二人は顔を見合わせ同時に吹き出した。まったく皆単純なもので、男女の距離が近ければそれだけで恋愛に結びつけてしまう。それだけじゃない関係だって、あるはずなのに。
アスナにとってキリトは特別だったが、恋というラベルは貼っていない。クラインにとってもイズモはそういう特別だった。名前のない、ただの特別。それだけで十分だった。
「でもなんで急に服を? わたしは予定があったから良いですけど、ちょっと意外でした」
「ま、前にな。途中で服を着替えるクエストがあって、そん時イズモがすげぇ嬉しそうだったんだよ。オレが着替えたくらいでそんな喜ぶならまた見せてやりてぇなって、ここの話聞いた時に思ってよ……」
(それってもう好きなんじゃないですか?)
アスナはなんとかその一言を飲みこんだ。それは、きっと自分で気付くべきことだからだ。それまでは恋に不器用な年上の友人を見守ろうと思った。
そんな風に思われていると知らないクラインは、恥ずかしそうに頬をかいて昔のことを思い出している。見る人が見れば恋をしていると分かりそうな、幸せそうな、横顔だった。
明けましておめでとうございます!今年も頑張って書いていきますので、どうぞよろしくお願いします。