【完結】クライン(♀)と駆け抜けるアインクラッド   作:甘口列

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色ボケ回です




報告、あるいは攻防

 僕達はその夜を宿屋で過ごした。とても帰る気分ではなかったからだ。風林火山のメンバーに合わせる顔もない。

 

「う〜〜……アイツらになんて言やぁ良いんだ……」

 

 そんなことを言うクラインは顔を真っ赤にしている。足をバタバタさせるのが子どもっぽくてかわいかった。

 そう、彼女はとってもかわいい。些細な仕草も愛おしくてたまらない。よくこれで夢中にならずにいられたな、と自分の感性に驚く。いや、元々意識自体はしていたのかもしれない。だから付き合っていると勘違いされたんだろう。今やそれは本当の話になったけど。

 

「そのままを言うしかないんじゃないかな。それで僕のことが嫌だって言うなら……やっぱりギルドを離れるよ」

 

 サラサラの髪に指を通す。バンダナで上げている時は硬く見えた髪も、実際触れてみるとこんなにも柔らかい。まだ彼女については知らないことばかりだ。もっと知りたいな、と自覚したばかりの欲望のまま距離を詰める。するとクラインが少しだけ体重を預けてきた。その表情はちょっと不満気だ。

 

「アイツらがそんぐらいでおめぇのこと嫌になるもんか。バカにしてんじゃねぇ」

「……そう、だね」

 

 許してもらえるだろうか。大きなことを秘密にしていたし、皆が大事に思ってるクラインにも手を伸ばしてしまった。それでもまだ、一緒に戦うことを良しとしてくれるなら。

 

「信じるよ、皆のこと」

 

 命の限り皆のために戦おう。それが、僕にできる唯一のことだ。それを見せるのが僕の誠意だ。覚悟を決めてベッドから降りる。服をどちらにしようか迷っていると、「昨日のにしとけ」とクラインから声が飛んできた。じゃあそうしよう。結局目立つのか目立たないのか分からないままの服に着替えると、クラインも昨日の洋装でベッドから出てくる。本当に素敵な服だ。胸元は大胆でスタイルの良さを強調しながらも、他の装備との組み合わせで一気に上品になる。やっぱりプレイヤーメイドってやつだろうか。

 

「おめぇ見過ぎだぞ」

「綺麗だなって思って」

「恥ずかしい奴!」

 

 今日からまた前線に戻って攻略とレベリングだ。その前に少しでも堪能しておこうと行きよりゆっくり道を歩く。昨日は見る余裕もなかった景色がとても綺麗に見えた。世界が輝きを増しているように感じる。その輝きの中心であるところのクラインは、ちらちらとこちらを見て何か言いたげにしていた。

 

「どうしたの?」

「おめぇに大事な話があるって言われた時な」

「うん」

「……告白されんだなって、思ってた」

「したね、告白」

「もっと普通のだよ!」

 

 どうやら僕の告白に不満があるらしい。自分でも正直むちゃくちゃだったと思う。相手の気持ちを考えず、一方的に言いたいことだけ言うなんて最低だ。それを受け入れてくれたクラインの度量の深さには感謝しかない。本当に懐の広い人だ。僕は彼女のそういうところも好きだけど、クラインは僕のどういうところを好きになってくれたんだろう。

 あ、それを聞く方法があるじゃないか!

 

「告白、やり直させてくれる?」

「……ん」

 

 そんなことを言っている間に転移門広場に着いてしまった。人目はそんなに多くない。昨日の宿ほどロマンチックじゃないけど……と思ったところで情報屋の笑みの理由を悟る。あの人、僕が告白の場所を探してると思ってたんだな!?

 まぁ今は他人のことを考えている場合じゃない。僕はアイテム欄から真っ赤な花を取り出し、跪いてクラインへと差し出した。

 

「僕の知ってるクラインの全部が好きです。僕と付き合ってください」

「……ありがとよ。オレはおめぇの、優しいとことか……強いのにちょっと抜けてるとことか、好きだぜ」

 

 花がクラインの手に渡る。瞬間わっと拍手が巻き起こった。その場にいたプレーヤーとNPCがこぞって拍手をしている。恥ずかしかったが、嬉しそうにはにかむクラインが見られたので良いか。立ち上がって軽く周りに頭を下げながら、僕達は手を繋いでこの階層を後にした。ホームに戻って皆に報告したら、攻略の再開だ。

 

 

「……ということで、クラインとお付き合いさせていただくことになりました」

「まぁ別にこれまで通りで良いから気にすんなよな」

「いやいやだいぶ気になるとこありましたけど!?」

「お前……この、お前……!」

「マジでやりやがった、いきなり朝帰りかよ……」

 

 ソードスキルの件とクラインへの告白をまとめて話したら前者はほぼスルーされた。信頼の証、ということで喜んで良いんだろうか。受け入れてもらえた安心感に体からどっと力が抜ける。というか告白に関してはアレだけ皆で煽ってきておいてその反応はどうなの? フラれると思ってたんだったら僕悲しいんだけど……。

 

「応援はしてたけど正直フラれるお前は見たかった」

 

 オブトラの酷すぎる言葉で人間不信になりそう。「まあまあまあまあ今度お祝いしようぜ!」と言ってくれるアクト達が救いだ。その言葉をきっかけに弄るターンは終わったのか、口々に「頑張れよー」等と言いながら攻略のための準備に戻る。僕も服を着替えてホームから最前線に向かった。

 

 

 

 永遠に続くように思われた階層攻略も半分を過ぎていくばくか経った。新顔が出たり入ったりしたが、最近はボス攻略のメンバーも見慣れた顔ぶれになりつつある。ギルド風林火山は少人数ながらも攻略での位置を確かにしていて、三十五層を超えた辺りから全員での参加が基本となっていた。それがどういうことかと言うと、

 

「とうとう告白したんだって?」

「派手にやらかしてフラれる方に賭けてたんだけどな〜」

「俺クラインのこと狙ってたのに。羨ましいぜこの野郎」

「おめでとう!」

 

 この通りである。六十層攻略のための会議に顔を出したら他のギルドの知り合いからも絡まれた。告白の話は瞬く間に広がり、薔薇を百本プレゼントしたなど尾ひれをつけて流行中だ。噂の出どころは誰だろうか。思わず辺りを見渡すと、クラインも数少ない血盟騎士団の女性陣に囲まれていて大変そうにしていた。男の方は僕が処理しておこう。

 

「ありがとう、でも変な噂はしないでほしいな。全然普通、普通だったから」

 

 ちなみにフラれる方に賭けてた男とのデュエルには勝った。人の純情を勝手に賭け事にするんじゃない。あとクラインを邪な目で見ていた方にもデュエルを挑んだが、そっちには逃げられた。残念だ。

 そんなことをしていたら何故かデュエル大会が始まってしまった。本当にどうして。会議室から主街区の広場に場所を移し、ひたすら僕を対象にしてデュエル・デュエル・デュエル。これいじめってやつじゃないか? 「悲しい嫉妬だね。受け止めてやってくれ」と言うディアベルはしれっと観戦組に回っている。

 

「いやお前がデュエル仕掛けたからそういう流れになったんだろ」

 

 適当なことを言うキリトも観戦組だ。いつかアスナとくっついた時にはデュエルを挑んでやるから覚えておいてほしい。

 

「なにやら面白そうなことをしているね」

 

 ヒースクリフは普通に参加してきた。なんで? そういうタイプの人だったっけ……というほどこの人のことはよく知らない。一つ言えるのは僕と全然違うタイプってことだけ。ゲームが好きでシステムに詳しいし、このアインクラッドにも愛着を持っているようだ。いや執念? 執着めいたものを時折感じる。それはまるでキリトにも少し似ているような。まぁとにかく僕が理解できない人ってことには変わりない。

 

「僕はあんまり面白くないですけど……」

「それにしては随分と良い顔をしている」

 

 図星を突かれて言葉に詰まる。この状況自体は不本意だが、僕は確かに楽しんでいた。思う存分刀を振るっても命の危険がないデュエル。それは剣術を極める喜びを思い出させてくれる。

 

「まぁ、剣は好きなので。それじゃあ良いですか?」

「ああ、始めよう」

 

 デュエルの文字が閃く。カタナスキルの居合技はまず防がれると思って良いだろう。この人相手にスキル後の硬直は見せたくない。リーチは僕の大太刀が勝っているのだから、通常攻撃一択だ。

 というのは当然向こうも読んでいる。僕の一撃は盾で弾かれ、向こうの一撃は大太刀で受け止める。神聖剣か……僕が作った動きに二刀流はあったけど、剣と盾両方を使った攻撃はない。つまり僕にとって神聖剣は完全に未知の領域なのだ。一方アインクラッドのあらゆる情報に精通していると噂のヒースクリフはカタナスキルなど当然頭に入っているだろう。情報戦で不利なのはこちらだ。ならば僕の取る戦法は一つ。

 相手の予想できない技を使う、だ。

 本来ならば片手剣用のヴォーパル・ストライク。カタナスキルにない刺突は通常攻撃扱いだが、盾を避けて伸びた刃がヒースクリフに距離を取らせた。HPバーはミリも削れていない。次に向こうから来るのは突撃技だ。速い、が避けられないほどじゃなかった。盾のリーチがよく分からないから剣側に飛び込むようにしてかわす。運よく後ろを取れたので今度は両手槍用のスキルをなぞって連撃。足元を薙ぎ払い、突き立て、押し込むような斬撃までは通った。しかし四撃目は盾で返され、空いた胴にソードスキルの一撃を食らう。うわ結構ガッツリ持ってかれたな。やっぱりスキルを使わないと厳しいか。

 

「ボス攻略の時とは随分違う」

「AI相手じゃないですからね」

 

 それに今は一人だ。皆と協力しながら戦っているわけじゃない。再び通常攻撃で足を狙うと盾が刀を押さえた。同じ技は通用しない、か。

 

「頑張れ、イズモ!」

 

 クラインの応援が耳に届く。ああもう、格好悪いところは見せられないな。届かなくても、一矢報いたい。剣と盾による連続攻撃を勘だけで弾き、最後の一撃は切らせるつもりで懐に潜り込む。ここで一撃食らってもデュエルは終わらない、ギリギリのポイントだ。吹き飛ばされそうになるのを耐え、下から一気に斬り上げる……というのはフェイント。僕の動きにつられてヒースクリフが一歩下がった。相手が気付いて立て直す前に刀を構える。ああ、やっぱりこっちもソードスキルになっていたか。これは伝統ある技ではなく、お祖父様の作り出した技だ。大太刀の長さと重量を利用した勢いある連撃。僕が唯一お祖父様に褒められた太刀筋。学んできた全てをヒースクリフに叩き込んだ。無事にスキルとして発動した技は彼のHPを大きく削り取る。

 が、そこまで。半分には届くことなく、スキル発動後の硬直時間にヒースクリフの剣が僕を貫きゲームセット。敗北の衝撃に目を回していると、ヒースクリフが手を差し伸べてくれた。

 

「ありがとうございます」

「君は……この世界を、楽しんでいるかな」

 

 唐突に、内緒話でもするような音量でそんなことを聞かれた。楽しんでいるか、か。僕は思ったことを素直に答える。

 

「楽しむも何も。大事な人がいなきゃ最悪ですよ、こんなところ。茅場晶彦はクソ野郎だ」

 

 吐き捨てるように言うと彼は呆気に取られたような顔をして……それから少し、困ったように笑った。ヒースクリフのそんな表情など見た覚えがないのに、何故だか僕はそれを知っている気がした。

 

「お疲れさん、かっこよかったぜ」

「でも負けちゃった。悔しい……」

「次は勝とうな」

「うん」

 

 奇妙なデジャヴもクラインを前にしたらかき消える。ぎゅっと抱き着けばあちこちからブーイングが飛んできた。うるさいな、僕の恋人だぞ。文句があっても知るものか。呆れた風林火山の面々に引きずられて帰るまで、僕はクラインを抱きしめていた。

 胸元で真っ赤になっているクラインの愛らしさは、僕だけが知っていれば良いことだ。

 




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