【完結】クライン(♀)と駆け抜けるアインクラッド   作:甘口列

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色ボケ続行中です


結婚、あるいは幸福

 クラインにどうプロポーズするか悩んでいる。告白はやり直すはめになったから、プロポーズこそは一回でバッチリと決めたい。とりあえず指輪は欲しいな、と思ってステータスにボーナスがかかるレアドロップ品を根性で二個確保した。しまうのにぴったりの箱は見つからなかったのが残念だ。

 

「はぁ……」

「悩み事か? 珍しいな」

 

 風林火山の皆は今日も失礼だった。僕にだって悩むことくらいある。大体これまでだってそれなりの期間皆に秘密を打ち明けるかで悩んでたのに。そんなこと言ってもしょうがないので、正直に話すことにする。

 

「クラインにプロポーズしたくて」

「それは自分で考えろよ」

「いやリーダーの意見を聞くべきっす」

「あれでロマンチストだからサプライズされたいタイプかもしれねーぞ?」

「やるか、フラッシュモブ!」

「止めとけ」

 

 見事に無責任な言葉しか返ってこなかった。恋愛に夢見てるタイプなのは僕の方が知ってるって! 恋人なんだから! そういうところもかわいくて大好きなんだよね。だけど、うーん、やっぱりサプライズか。でも完璧に隠しきるよりはちょっと匂わせておく方が好きそうなんだよな。その間ドキドキしたい人っぽいんだよクラインは。

 そうだ、結婚したカップルの話をして意識させるのはどうだろう。残念ながらこの世界ではカップル自体が少ないが、一組心当たりがある。

 

「キリト、僕と賭けデュエルしてくれ」

「急に呼び出してなんだよ」

「簡単に言うと、僕が勝ったらアスナにプロポーズしてほしい。本当に結婚してくれるとなおいい」

 

 馬鹿がいる、という顔をされた上にデュエルでは負けた。でも隠してたらしい二刀流を引き出せたので満足だ。手を抜いて勝とうなんてまったく甘く見られたものである。新たなスキルの登場に沸き立つ観衆の中にキリトを置いて立ち去った。あのまま残っていたら勝者から変な条件を要求されかねない。

 自分がそもそも変な条件を出したことを棚に上げて僕は街を歩く。商人や情報屋に頼る、という手もあるなぁ。何か買うならちょっとくらいアドバイスをくれるかもしれない。そこからちらっとプロポーズの噂が流れればさらに良い。まずは情報屋からあたろう、と僕は知り合いに連絡を取った。

 

「プロポーズならこの辺の店だナ!」

 

 料理の評判が良い店、個室の店、景色の良い店。なるほど特別な食事とプロポーズ。王道な気がする。思い出にまた食べに来よう、なんてこともできる。問題は最近クラインの舌が肥えてきていることか。料理スキルを上げ上級食材を集めて振る舞っていたら、前まで贔屓にしていた店では満足しなくなってしまった。雰囲気と味とどっちが大事だろう。とりあえずコルを支払い、今度は商人のところに向かう。

 

「オレはあえて普通の日にプロポーズしたぞ。さり気なさがポイントだな」

 

 リアルで既婚者だという商人はいくつかの取引のあとそう教えてくれた。サプライズは恥ずかしいという恋人を思い、家でゆっくり過ごしているタイミングでプロポーズしたそうだ。家でゆっくり……ギルドホームだといるんだよな、皆が。皆の前でプロポーズは多分クラインの好みではない。かと言って個人の家も所有してないし。家を買うか。プロポーズのために。となるとしばらく金策が必要で、一体いつになるのか予想もつかない。

 

「なんか違うんだよなぁ……」

「何がだよ。最近おめぇ変だぞ?」

「クライン!?」

 

 渦中の人物が現れてしまった。驚いて何も言えずにいると、彼女は神妙な表情になって体を近付けてくる。どきまぎしている僕を横目にそっと囁いた。

 

「話があるなら聞くぜ? 言いにくいことなら……あの宿で」

「それだ!」

「うぉっ、なんだよ急に!」

 

 あの宿の近くは景色も良いし、思い出もある。少し恥ずかしいがきっと彼女の印象にも残っているだろう。そうだ、あの宿が良い。そこをプロポーズの場所にしよう。うんうん、と一人頷いていると、ポカンとした顔のクラインが口を開いた。

 

「解決したならいいけどよぉ、なんだったんだ?」

「プロポーズの場所を探してたんだ、でも今決まっ……」

「へぇ、プロポーズ。誰が、誰にだ?」

 

 …………やってしまった。決まった瞬間安心して全部口から出た。首から頭の先まで熱くなるのが分かる。穴があったら入りたいとはこういうことを言うんだろう。数秒前に戻れるなら全財産払ってもいいが、当然そんな奇跡は起こらず目の前には笑みを隠せていないクラインがいる。

 

「僕が、クラインに、です……」

「そいつぁ嬉しいな。で、いつになるんだ?」

「…………今でも良いですか」

「ふっ、ハハハッ、おめぇずっと敬語でいる気かよ」

 

 クラインは腹を抱えて笑っている。ああ本当に、僕ってやつはどうしようもなくダサくて格好悪い人間だ。決めるべき時に決められないし、告白もプロポーズも満足にできない。それでも、クラインがこんな僕でも良いと思ってくれるなら。僕は世界一の幸せ者だ。ほんのり赤くなった彼女の耳を見ながらアイテム欄から指輪を取り出す。同時にシステム的な結婚を申し込むのも忘れない。

 

「僕と、結婚してください」

「………………はい」

 

 彼女が指輪を受け取るとともに、それが承認された。こうして、なんとも締まらない雰囲気で僕とクラインは夫婦になったのである。とは言っても隠している財産もステータスもないので、これまでと特に変わりはない。ただ、結婚したという事実があるだけだ。それだけが、たまらなく幸せだった。

 

「好きだよクライン! 大好き!」

「急に爆発すんの止めろ!!」

 

 勢いのままに抱きついて彼女を抱え上げる。意味もなくぐるぐる回れば悲鳴を上げたクラインがしがみついてきた。ふと、初めて会った日のことを思い出して懐かしくなる。あの時は肩車だったけど……多分あの日から、僕はとっくにクラインが好きだった。なんなら男だと勘違いしていた頃から。性別なんてどうでもよく、僕は彼女のことが好きになった。もしクラインがむさ苦しい男でも同じように恋をしていたに違いない。

 

「仲が良いわね」

 

 通りがかってそんなコメントをするのはアスナだった。多分キリトの噂を聞きつけてやってきたんだろう。まだ付き合っているという話は聞かないがいずれ結婚するはず、と読んでいる。そのくらい二人の仲は特別そうに見えた。でも僕達だって負けてない。

 

「うん、結婚するぐらいね!」

「いい加減降ろせ! 嬉しいのは分かったから!」

 

 まだ抱き上げていたかったが仕方ない。クラインを下ろすと真っ赤な顔でアスナに「変なもん見せて悪ぃ」と謝っていた。アスナの方は驚いた顔をしつつも「おめでとうございます」とお祝いしてくれる。僕はお礼を言ってキリトがいそうな場所を教えた。彼のことだ、とっくに人の輪から逃げ出して静かなところに隠れているだろう。

 

「ふふ、『式には呼んでください』ね?」

 

 意味深な言葉を残して彼女は立ち去った。クラインは唸り声をあげて屈み込んでいる。振り回したのは流石にやり過ぎただろうか。つい気持ちが高ぶってしまったが、次からはちゃんと許可を取ることにしよう。

 

「アシュレイの、店に」

 

 アシュレイ、聞いたことがある。アインクラッドで一番有名なお針子だ。素材を選ぶ、客を選ぶとそこの服を手に入れるには様々な困難があるらしい。

 

「ウェディングドレスみたいな服があってよぅ。きっとアスナに似合うんだろうな、式には呼べよって、言った……」

 

ははぁ、まさか自分が先に結婚するとは思わず戸惑っているのか。でも多分、そこ自体は本質ではない。彼女の頭の中は今自分達の結婚式について考えては「らしくない」と否定しているに違いない。式をやらない理由を集めて「オレらは別にいいよな」と言おうとしている。クラインはたまにそう言うところがあった。リーダーだからか僕より年上だからか、何でも自分で決めようとする感覚が。

 でも、それを分かち合うのが、夫婦じゃないか。

 

「しようよ、結婚式」

「でも、んなことしてる奴見たことねぇし」

「じゃあ僕達が第一号だ」

「それより攻略のが大事だし、」

「たまには休むのも大事でしょ。何も丸一日かけてやろうってわけじゃないしさ」

 

 何を心配しているのだろう。何を不安がっているのだろう。結婚しても特別な守りが得られるわけじゃないから死ぬ時は死ぬし、生きる時は生きる。それは努力と時の運次第で、これまでと何も変わらない。なのにクラインの表情は一度も見たことのないものだった。幸せそうなのは間違いないのに、同時に今にも泣き出しそうな。

 

「オレばっか、こんな、幸せでっ……良いのかなぁっ……!」

 

 ……僕達は死者の犠牲の上に立っている。ここに来るまでに積み上がった屍は多く、その中には友人だっていた。だから迷っているのか。自分にその資格があるのかって、考えてしまっているのか。僕は言葉なんて何も浮かばないままクラインを抱きしめる。

 

「良いんだよ。……良いんだ。僕達は幸せになって良い」

 

 理屈など何もない。たただ「良いんだ」とだけ繰り返すことしかできない。だってそうだろう? 好きな人がいて、好きな人も自分を好きでいてくれて、それ以外に何がいるっていうんだ。互いが互いを必要としている。そこに他人なんて関係ない。これは、僕達だけで完結する話だ。

 

「……ほんとか?」

「ほんとだよ。ドレス、仕立てに行こう」

「…………オメェの服も、な」

 

 

 

 ギルドメンバーに結婚したと報告をして、皆で素材集めに走る。付き合い出した時はあれこれ言ってきた彼らも結婚には文句がないようだった。集まった最高品質の素材を持って店に行き、結婚式用の服を作ってくださいと頼めばその職人は本当に嬉しそうに引き受けてくれた。

 準備が整ったら自然豊かな下層の宿を借り、身内だけを呼んだ結婚披露パーティーをした。誓いの言葉と指輪交換、あとは食事だけの簡素なものだ。教会もないし神父もいないから誓いの言葉は二人でつっかえながら読み上げたし、指輪交換はできたけど流石に人前でキスはできなかった。盛り上げようとするのは良いけどノリが飲み会の風林火山が全面的に悪いと思う。そんな、式というにはお粗末なものでも、皆たくさん拍手を送ってくれた。

 人数の割に賑やかな場で、真っ白なドレス姿のクラインの美しさをひたすら目に焼き付ける。素材集めの大変さなんて吹き飛ぶほど綺麗で、僕はお客さんのことも忘れてずっと彼女ばっかり見つめていた。

 

「……ありがとうイズモ。オレ、おめぇと結婚してよかった」

「僕もクラインと結婚できて良かった。ドレス、似合ってる。世界で一番綺麗だよ」

 

 酒が入ったので会場はどんちゃん騒ぎと化している。避難しているキリトとアスナに手を振ると向こうも笑って手を振ってくれた。彼らの式はいつになるかな。いつか買った花屋で用意したブーケは、クラインが勢いよく投げると吸い込まれるようにアスナの手に収まった。

 願わくば、彼らも幸せでありますように!

 僕は一時この世界がゲームであるということも忘れ、クラインのもたらしてくれた幸福に浸っていた。

 

 

 

 現実に戻されたのはそれから数日後――ラフィン・コフィン討伐作戦の知らせが、入ってきた時だった。

 




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