【完結】クライン(♀)と駆け抜けるアインクラッド   作:甘口列

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攻略、あるいはボス戦

 攻略は休みなく進むが、最近少しペースが落ちてきたように感じる。別にどこのギルドが怠けているというわけではない。なんとなくモチベーションが下がっているというか……中弛みしている。

 

「原因のひとつがうっさいわ、イチャイチャイチャイチャしよってからに」

「い、イチャイチャしてねぇし! オレらペース落としてねぇよなぁ!?」

「ペースは落ちてないけどイチャイチャはしてると思いまーす」

「何言ってんだ!」

「僕はもっとイチャイチャしたい派!」

「イズモおめぇどんどんバカになってねぇか……?」

 

 そんな中の七十四層攻略だった。鉢合わせたのは通称軍と呼ばれる大規模ギルドだ。正式名称は長くて忘れてしまった。先のラフィン・コフィン討伐戦で大きく貢献した彼らは、アインクラッドの治安維持の要でもある。最近は攻略にも手を出し始めたということで、そちらの指揮を執るのがこのキバオウらしい。

 人の恋路に文句をつけるいけずな男だ。たまに会うと「元気そうで良かった」と挨拶してくれるディアベルとは大違いである。彼は元気でやっているだろうか。討伐戦の報告会以来会ってないんだよなぁ。

 ……あの戦いで亡くなった参加者はいなかった。しかし、人を殺めてしまったショックで表に出られなくなった者は何名かいるらしい。命を奪うというのは、そのぐらい重い。もしアインクラッドが解放されたとして、彼らの魂が救われるのはいつになるか分からないのだ。それに相対するギルドの人達の心労はいかなるものか。殺さずに済んだ僕達はどこまでも運が良かったに過ぎない。

 そんなことを考えながら軍も含めた二十人近くで迷宮区のマッピングを進めていく。適宜役割を交代しながら進むのでいつもよりは楽だった。やっぱり人数のいるギルドは違う。

 

「一人で暴れてる奴が何言うとんねん」

「あんま前出過ぎんなよー」

 

 いや間合いの問題があるから……。風林火山だけなら互いのリーチを完全に把握してるから良いけど、軍の人は僕の大太刀の間合いに慣れていない。普通の刀と勘違いするとうっかり攻撃が当たってしまうかもしれないわけで、それを避けるために前進気味なんだ。しかし注意されたので一旦引くことにする。軍の人達の連携を見るのも勉強になるしね。流石、『軍』と名乗るだけあって統率の取れた動きは見事なものだ。タンクの安定感、火力の保証されたアタッカー、そして二つを繋ぐ指揮官。そうそう簡単に崩れはしないだろう。

 

「あ」

「あ」

「どいつもこいつもほんま……」

 

 一旦休憩を挟むつもりで安全地帯に入ると、キリトとアスナがイチャイチャしていた。これにはキバオウも呆れを隠せていないし、兜の向こうから軍の人達のため息も聞こえてくる。え、もしかして僕達も端から見たらあんな感じだったりする?

 

「流石にあそこまでじゃねーよ。しかし迷宮区でよくやるなぁ」

 

 その言葉には完全に同意だ。僕とクラインだって流石にダンジョン内で触れ合おうとは思わない。仲間の前だし、その辺りのラインはきっちり引いている。まぁ彼らは子どもだし仕方ないよね。気持ちが先走ることだってあるだろう。

 

「あれ、どうしたんだい?」

 

 その後ろから金属鎧の音がして、ディアベル率いる小隊が合流してきた。思ったより参っていないようで何よりだ。色々割り切らないと大きなギルドのリーダーはやっていけないということか。……しかしどうなってるんだこの人口密度。皆考えていることは一緒らしい。少しでも早く、この階層を突破しようと言う気持ちがある。それは歓迎すべきことだが。

 

「久しぶり、ディアベル。どうやら僕達、デートの邪魔をしちゃったみたい」

「ああ、なるほど!」

 

 キリトとアスナには悪いことをした。二人とも真っ赤になって俯いてしまっている。僕達も若干気まずくなりながら少し離れたところに座り込んだ。おやつに用意したマフィンを仲間に渡し、無言で齧る。こんなに人が増えるならもっと持ってくれば良かったな。

 

「いやそっちも遠足気分かい!」

 

 キバオウの言葉で空気が解れた。誰からともなく笑い声が起き、朗らかな雰囲気で情報交換が進んでいく。いつの間にかボス部屋の近くまで来ていたらしい。キリトとアスナが言うにはかなり危険そうな相手だったとのことである。

 

「皆はどうする? オレはこの人数なら挑戦してみても良いんじゃないかと思う」

 

 ディアベルの意見にも一理あった。そもそも僕達は攻略を早めたくてここに来ているのだ。消耗も少ないし、タンクもアタッカーも十分揃っている今攻めるのも選択肢としてはありだ。

 

「オレぁ賛成だな。血盟騎士団こそいねぇが、ここにいんのは全員やれる奴だ」

 

 クラインが賛成を示した。僕に異論はない。アイテムが十分揃っていることをチェックし、ボス戦用に気持ちを切り替える。

 

「わたしがいるんですけど……でも、賛成です。少しでも情報は欲しいですし」

 

 血盟騎士団として数えられなかったアスナにクラインがすまんすまんと謝っている。でも仕方ないと思う。だってここにいたのは血盟騎士団副団長『閃光』のアスナと言うより、好きな人との逢瀬を楽しむ一人の女の子だったから。

 軍はそこまでのつもりではなかったらしく迷っていたが、キバオウの「やったるわ!」の一言で戦意を高めていた。ここまで来るとキリトに逃げの選択肢はない。降参とでも言いたげに両手を上げて「俺も行くよ」と言った。

 というわけで突発的なボス攻略である。ディアベルが代表して全体の指揮を取り、各ギルドリーダーが細かな指示を出す。コンビできている二人は誰かの指揮下に入るか聞いたら自由が良いと言うのでフリーだ。要所要所、崩れそうなところのカバーに入ってもらうつもりで作戦を立てていく。途中偵察に行った人達から結晶無効化空間であるという情報が入った時は緊張が走った。今まで一部の部屋にしかなった特殊効果が、とうとうボス部屋にも。

 

「これまでより慎重な対処が求められるな……。皆、常に撤退を視野に入れておいてくれ!」

 

 撤退時の編成も追加し作戦を組み直す。ギルドリーダー三人が話を詰め、それぞれのメンバーに伝達。僕はクラインから「無闇に飛び出すな、周りを見ろ」との言葉をいただいて準備完了だ。

 

「よし……行こう!」

 

 ディアベルの言葉でボス部屋への扉が開け放たれた。

 

 ザ・グリームアイズ。青白い炎を吹き上げる悪魔。どんなに恐ろしい見た目でも、HPバーがあるなら倒せるということだ。

 

「お前割と脳筋だよな」

「キリトが難しく考えすぎなんだよ」

 

 両手用大剣の動きは素直じゃないが、対人戦特訓を経てフェイントや()()()を叩き込んだ僕達なら十分対処できる。ディアベルの隊と軍はタンクが支えとなってアタッカーの走るタイミングを作っていた。正統派とも言える動きは、だからこそ安定して強い。キリトは二刀を構え攻撃を弾いては反撃している。二刀流、単純に便利なんだよな。僕も使ってみたいものだ。アスナは閃光の名を持つだけあって流石に速い。防御に不安があるがそういう時はディアベルの隊や軍を頼って上手くやっているようだ。頼られた面々のデレデレとした表情は見なかったことにする。余裕か?

 

「このまま攻め切るぞ!」

「おう!」

「しゃあ!」

 

 攻撃パターンが変化するタイプの敵ではないのが幸いだった。ほぼ通常のボスレイドに匹敵する人数で押し切れば、グリームアイズのHPも残りわずかになる。小盾持ちが相手の攻撃を崩してくれた隙を見てアタッカーが突撃した。ここから先は恨みっこなしである。キリトも二刀流のソードスキルで詰めに来ていた。相変わらずの欲しがり屋だ。

 

「よっっしゃぁあ!」

 

 ラストアタックボーナスを獲得したらしい軍のアタッカーの雄叫びでグリームアイズ戦は終了した。犠牲者のない、突発にしてはベストなボス戦だった。流石に削れたHPをポーションで回復しながら転移門がアクティベートされるのを見守る。七十五層は、きっとこう上手くは行かないだろう。今回と同じ結晶無効空間で、今回よりも厳しい戦いを強いられる。

 それでも、足を止めるという選択肢はない。ゲームクリアの瞬間を夢見て、僕達は七十五層へ繋がる門へと踏み出した。

 




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