【完結】クライン(♀)と駆け抜けるアインクラッド   作:甘口列

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決闘、あるいは謎

 キリトがアスナを賭けてヒースクリフとデュエルするらしい。しまった、先を越された。キリトもアスナに告白するなら前もって教えてほしいよな。僕だってデュエルしたかったし、盛大な大会を開きたかった。それなのに対ヒースクリフの後では何をやっても見劣りしてしまう。気の利かない友人だ。

 

「いやその気の利かせ方は無理だと思うぞ……」

「じゃあプロポーズの前に挑みに行こうかな」

「何がおめぇをそこまでさせるんだよ」

 

 僕がクラインに告白した後巻き起こったデュエル大会での恨みだ。楽しそうに屋台の飯を食べながら観戦されるのは腹立たしかったので、絶対デュエル大会を巻き起こしてやろうと決めていたのである。それにしてもまぁ、ヒースクリフとデュエルかぁ。勝敗はともかく、見応えのある一戦になることは間違いない。なので僕とクラインは出歯亀根性丸出しで観戦に来たのだった。ああ、ジュースが美味しい。

 

「こういう時の酒って格別うめぇよな」

「分かる」

 

 お喋りしながら試合開始を待っている間にも色々な情報が入ってきた。実はアスナ自体ではなく彼女の休暇を賭けているのだとか、キリトが負けたら血盟騎士団に入るとか。休暇に団長とのデュエルが必要なギルド、嫌だな。その辺り風林火山は緩くやっているのでありがたい。クラインとデートする日も取れるしね。今度の僕の誕生日にはデートスポットとして話題の四十七層に行く予定だ。

 ……しかしキリトもとうとう身を固める決心をしたか。この試合、勝っても負けてもキリトは一人ではなくなる。一回ギルドに入りはしたものの「向いてない」とそれきりになってしまった彼が、一体どういう心境の変化だろう。

 

「今回のデュエル、オレが思うにお前ら二人の結婚の影響はでかいぞ」

 

 そう言って僕とクラインを指すのは時々取引のある商人のエギルだった。彼は商人らしく情報には聡い。なるほど? と疑問符を浮かべながら聞いているとクラインがその言葉を正確に受け取った。

 

「ま、まぁ周りが結婚すると意識するよな」

 

 奇しくも僕がクラインへのプロポーズのためにやろうとしたことと同じ効果が出たという訳か。まさか逆の立場になるとは思わなかったが……多分、悪い影響ではないのだろう。僕達が式を挙げた時の二人の姿を思い返す。あの時の笑顔は、本物だった。ならきっと二人が一緒にいるのはいいことのはずだ。

 

「じゃあキリトを応援してあげようかな」

「オレもキリト応援してやっかぁ!」

「お、じゃあ二人ともキリトに賭けるってことでいいんだな?」

「いやそれはヒースクリフで」

 

 キリトともヒースクリフともデュエルはしたけど、ヒースクリフの方が遠い気がするんだよな。勝てるイメージがわかないというか……いずれは勝ちたいと思ってるけど、まだ少し先になりそう。という訳で賭けるならヒースクリフだ。ごめんキリト。

 

「それでは選手の入場です!」

 

 高らかなアナウンスが響き、キリトとヒースクリフが闘技場に姿を現した。キリトはこの場の熱気に顔を引き攣らせており、ヒースクリフは苦笑いを浮かべている。双方にとってこの盛り上がりは予想外だったらしい。今から斬りあうとは思えない表情の二人に野次を飛ばすと変な顔をされた。僕だって場に合わせて野次くらいは言うよ。

 

「楽しみだな」

「そうだね」

 

 物騒な場ではあるが貴重なイベントだ。僕はスポーツ観戦に来たくらいの気持ちでそっとクラインの手に自分の手を重ねた。彼女は一度こちらを見てから、手はそのままに肩を寄せてくれる。何気ない仕草に胸がいっぱいになりながら、僕達は勝負の行く末を見守った。

 

 

 

「いやー凄かった!」

「良い試合だったね」

 

 凄まじいデュエルだった。勝者はヒースクリフだが、終わった後の表情を見ればキリトが良いところまで追い詰めたのは分かる。ラストはなんかヒースクリフすごいことになってたし。トップクラスのプレーヤーのデュエルだけあって勉強になるものがあった。でもやっぱりユニークスキルって良くないんじゃないか? MMORPGは大勢でやるものなのに、その中でたった一人しか手に入れられないスキルを導入するのはセンスがないと思う。そんなことを言うとクラインは「おめぇもやっとゲームってもんが分かってきたな」と笑った。しかしすぐ神妙な顔になり、呟くように言葉を発する。

 

「……もしかすると、茅場の野郎がやりたかったのはMMORPGじゃねぇのかもな」

「そうなの?」

「いやただの勘だけどよ。ゲームだけどゲームじゃねぇ、でも完全にリアルでもねぇ……ガワがMMORPGなだけで、本当は……」

 

 その続きを聞くより先に、僕達の前に影が差した。顔を上げると先ほど激戦を終えたばかりのヒースクリフが立っている。ボス攻略に関する時くらいしか顔を合わせない男が、一体僕達に何か用だろうか。無意識の警戒が僕をクラインの半歩前に踏み出させた。以前僕にデュエルを挑んできた時とも違う雰囲気だ、何かがおかしい。

 

「興味深い話をしていると思ってね」

 

 驚かせてすまないと謝ってくるが、重要なのはそこじゃない。さっきから頭の中で警報がガンガン鳴っている。警戒しろ、慎重に言葉を選べ。ここにいるのはボス戦で最も信頼できるプレーヤーとしてのヒースクリフではない。静かに、ゆっくりと息を吐く。

 

「茅場晶彦の話ですか」

「別にそんな大した話をしてたわけじゃねえけど」

 

 そばにいるクラインからも緊張感が伝わってくる。嫌な汗が背中を伝う。この違和感の正体はなんだ、どうやってここから離れれば良い。背を向けて逃げ出せばバッサリと切られそうな空気すら漂っている。

 

「茅場の野郎はなんでMMORPGとしてこれを作ったのかっていう……そんだけだ、アンタが気にすることじゃねぇよ」

「MMORPGの形を取った理由か……より現実に近しくするためでは?」

「ならおかしいと思ったんです。この世でたった一人にしかできない剣術なんてないから。二刀流でも神聖剣でも……どんなすごい技術も、先駆者がいれば辿り着く人は必ず現れる。剣術っていうのは、そういうものです。そうやって、受け継がれるものだから」

 

 なるほど、とヒースクリフは頷いた。瞬間辺りを押し潰すようだった圧が緩み、普通に息ができるようになる。横でクラインが細く息を吐く音がした。一体何なんだ、この男は! アインクラッド内で友達になりたくない男トップテンにたった今ランクインした。まだ違和感も抜け切らないし、なんだか酷く気持ちが悪い。

 

「面白い考え方だったよ。それでは」

 

 本当にそれだけ言って、ヒースクリフは僕達の前から立ち去った。すぐさまクラインと体を寄せて手を繋ぐ。さっきまで自覚していなかったが、握った互いの手は小さく震えていた。

 

「な、何だったんだ、今の……」

「分からない、けど……気を付けた方が良さそうだ」

 

 暗に茅場晶彦を批判されて腹を立てた信奉者、とか。このデスゲームに閉じ込められてなお、茅場晶彦の技術を賞賛する者はいる。それが行き過ぎれば批判を潰そうとする危険思想の人間にだってなるだろう。ヒースクリフがその類の人物とは思えなかったが、この世界に何かしらの強い想いはあるようだった。今後彼の前で茅場晶彦の話をするのは止めておこう。いや、今だって聞かれるつもりで話していたわけではない。それなのに唐突に向こうからやって来たのだ。

 

「……この話、止めとくか」

「だね」

 

 彼の襲来を忘れるように僕達の話は血盟騎士団入りとなったキリトのことに移る。あのまっくろくろすけが白と赤の衣装になるのが早く見てみたい、とかどっちにしろ二人で任務なら一緒にいられてよかったね、とか。そんなくだらないことを喋りながら、僕とクラインは手を繋いでホームへ戻った。

 




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