【完結】クライン(♀)と駆け抜けるアインクラッド 作:甘口列
キリトと別れてから少し経ち。僕とクラインは残りの仲間を探してさまよっていた。集合場所は事前に決めていても無事に集まれるかどうかは別だ。あんな話を聞いてまだ混乱しているかもしれないし、そもそも全プレイヤーが集められたせいではじまりの街には人が多い。キリトのようにここを出た人は圧倒的少数派だろう。どうしたものか。クラインには何か考えがあるのかな。そんな風に意味もなくうろうろしていると、突然クラインが閃いた! という顔で手を叩いた。そして僕の顔をじっと見てくる。
「おめぇに肩車してもらえば目立っていいんじゃねぇか!?」
「名案! 僕よく目印にされるし!」
僕はよく人の待ち合わせに利用される。今超でっかい人の横にいるよなんて通話を聞くのもたびたびあった。なるほどいい考えだ。思い立ったが吉日とばかりに屈みこみ、クラインを肩に……いや、これちょっとまずいのでは。具体的に言うと太ももが思いっきり顔にあたった時のむちっとした感触が。
「どうした? やっぱやりにくいか? ハラスメントコードはこっちで解除しといたけどよ」
「いや、いや、大丈夫です」
「なんで敬語だよ」
ハラスメントコードってなに? なんて聞く余裕もない。そのままじゃあ行くよ、と声をかけ、彼女の体を持ち上げる。「ひゃあ!」と間の抜けた声が響いて僕の視界が塞がれた。クラインが全身で抱きついてきたからだ。そのせいで足も胸も頭にあたって……ちょっと何かに目覚めそうになる。これはいけない、彼女は真面目にやっているのに。冷静沈着、泰然自若。深呼吸をして心を落ち着ける。頭に抱きつかれた状態で深呼吸ってだいぶ不審者だなあ。
「ちょ、ちょっと待ってろ、すぐ周り見るから……」
「な、何やってんですかクラインさん!!」
群衆の中から一人の男が飛び出してきた。きっと待ち合わせをしていた友人の一人だろう。効果覿面だ。こんなにすぐ見つかるとは思わず内心驚いていると、頭の上でクラインが話し出す気配がした。一度降ろした方が良いだろうか。確かに注目を集めてはいるのだが、じわじわと視線が辛くなってきた。
「これなら目立っていいと思ってよ。実際トーラスもすぐ来てくれたろ?」
「それはそうですけど、とりあえずその男誰です?」
「ここ来る前にフレンドになった奴」
「イズモです、よろしく」
「嘘だろ!!??」
今度は別の方向から驚きの叫びをあげながら顎髭の男が現れた。仕方ない、ここまで有効ならこのまま耐えることにしよう。僕は無心の状態を続けながら次々駆け寄ってくる男達に「イズモです、よろしく」と挨拶を繰り返した。
無事全員揃ったことをクラインが確認したので肩車から降ろす。一時はどうなることかと思ったが意外となんとかなるものだ。本当に名案だったな。今もすごい見られていることを除けば。「……とりあえず場所変えるか」とクラインが言うので僕も含めた男衆は彼女に続いて路地裏に入っていくことにした。
「こいつはイズモ。ベータテストの経験者で、協力してくれるっていうから連れてきた」
「よろしくお願いします」
クラインの友人たちは困惑したように互いに顔を見合わせているが、少しして納得したのか挨拶を返してくれた。彼らの名前はカルー、オブトラ、トーラス、ジャンウー、アクトというようだ。一気に5人も知り合いが増えた。
こんな状況になってしまったけれど、僕はまだ友達十人計画を諦めていない。むしろこうなったからこそ信頼できる友人を得たいものだ。彼らはなってくれるだろうか。一人一人の顔と名前を自分の中に馴染ませていると、「ちょっと」と声がかけられた。
「イズモと話あるんで、連れてって良いですか」
「別にここで話せばいいだろ」
「男同士の話なんだよ、分かってくれ」
男同士の、と言われてしまうと強くは出られないらしい。クラインが了承すると同時に更に一本入り組んだ道へと引きずり込まれた。流石前からチームを組んでいたというだけあって連携はばっちりだ。
「一応聞いとくけど、お前クラインに惚れてる?」
建物の影に入った瞬間前置きのない直球が飛んできて言葉に詰まる。彼女は友人だ、友達十人計画に名前を連ねた人でもある。しかし、女性として全く意識していないかと聞かれればそれは否だった。肩車をした時に感じた胸の高鳴りはただの友人に覚えるものではない。
「い、いや、そういうのはまだ……今日会ったばっかりだし……」
「めちゃくちゃ意識してるじゃないですか!」
「手出し禁止だからな!」
「出さない、出しません!」
そのままなし崩し的に恋愛禁止を誓わされてしまった。本当にそういうつもりで彼女についてきたわけではないので良いのだけれども、良いのだけれども。
「も、もしかして全員……」
「いやそれはないです」
「普通に男友達と変わらん」
「全然意識する機会とかないし向こうからぶち壊してくるから」
「良いヤツだけどそこ止まりっていうか」
「見た目山賊の女ボスだしな!」
随分言いたい放題だ。クラインのことをあれやこれや言い募る彼らは楽しそうで、良いチームなんだろうと思わせる。なれるだろうか、こんな仲間に。彼らとも友達になりたい。フレンド登録を申し込もうか悩んでいると、建物の影から誰かが飛び出してきた。
「誰が山賊だって!?」
クラインだ。最後のところだけ聞こえていたらしく、完全にお怒りモードでアクトを小突いている。ほぼ当たっていないのに「あたたたた」と痛がる振りをしているのが何だか気安い友達同士って感じで羨ましい。「変なこと言われなかったか?」と聞かれたので「特には」とだけ返す。変なことではない。男集団に紅一点なら当然心配する内容だ。あぁ、もしかしてキリトもその辺り気にしていたのかもしれないな。あ、そうだ、キリトで思い出した。
「クライン、革鎧女性用に変えないと辛くない? 他の皆も足りない物があれば買いに行こう。安いお店があるんだ」
「さっきの今でどういう情緒してんすか……」
「装備、って……やっぱ、戦うのか? 死ぬかもしれないんだぞ?」
しまった、出しゃばり過ぎたか。普通に自分が盾を買いたいからついでのつもりだった。リーダーはクラインだったというし、彼女の意見を聞くのが先だろう。戦いに行くかどうかもやっぱり彼女次第。もし戦いに出るなら最大限のサポートをする、それが僕の役割と言ったところだ。
「じっとしてても助けが来るかは分かんねぇ。なら戦った方が良いだろ。……オレ達、とりあえずはここで生きてくしかねぇんだから」
思い浮かべているのはキリトのことか、それともあの演説の内容か。結局細かいところは聞きそびれたままなんだよな。ゲームで死んだら現実でも死ぬ、っていうことしか今のところ分かっていない。
(死、死か……)
自分が死んでも道場は大丈夫だ。弟は僕より余程人に教えるのが上手いし、お祖父様もお父様もそちらに継がせる気だ。友達もいないし、趣味と実益を兼ねた剣術動画の投稿だって止まったところで気にする人はいない。ああ、自分がいなくなっても誰も困らないのか。そう考えると怯える理由がなくなってしまった。それよりも茅場昌彦をぶん殴りたい気持ちの方が強い。そのためにはゲームをクリアしなくてはいけなくて、そうすると戦わなくてはいけなくて……。
(死ぬとしても戦わない理由がないな)
あっさり結論が出てしまった。でもきっと他の人はそうではない。暗く沈み込んでしまった皆を前にクラインが明るく笑って見せる。
「何も今から外に出ようって訳じゃねぇんだ、心配すんな!」
しかしその手は小さく震えていた。彼女だって怖くないはずがないのだ。それなのに皆の前だから、と堂々としている。きっとその姿は誰よりもリーダーに相応しい。夜闇に覆われ始める街の中、彼女だけが輝いて見えた。
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