【完結】クライン(♀)と駆け抜けるアインクラッド   作:甘口列

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エピローグ、あるいは……

 ソードアート・オンラインがクリアされてから一ヶ月後。僕はようやくクラインに電話をすることができた。本当はもっと早く連絡したかったのだが、リハビリに加えたお祖父様の厳しい修行のせいで全く時間が取れなかったのだ。忘れてないか、まだ繋がるか。震える手で電話をかけた日のことを、僕は昨日のように思い出せる。

 

『イズモです。……待たせてごめん、クライン』

『いいよ、オレもやっと動けるようになったとこだし』

 

 久しぶりに聞く彼女の声はとても弱々しくて胸が詰まった。あのゲームがなければ出会えなかったけど、あれのせいで彼女が苦しんでいる。この痛みとは一生付き合っていかなければならないのだろう。

 一時的に実家に戻っているというクラインと、電話越しに色んなリアルの話をした。本名もそこで初めて知ったのだ。まだ、呼んだことはないけれど。

 その後彼女を経由して風林火山の他のメンバーとも連絡を取り、さらに数ヶ月後オフ会をすることが決まった。本当はもっと早く集まりたかったのだが、それぞれの生活だったり僕が山に放り込まれたりしたせいで遅くなってしまったのだ。

 

「それじゃあ風林火山の再会を祝して……乾杯!」

「乾杯!」

 

 皆の笑顔は、変わらなかった。一瞬自分がまだゲームの中にいて、クエストやボス戦を終えたばかりなんじゃないかと錯覚しかける。その度にクラインが現実へと引き戻してくれた。あの頃より伸びた髪、記憶にあるより細く、指輪の一つもしていない指。ここはもうゲームではなく、彼女と僕は夫婦でもない。

 

「そこ二人の世界作ってんじゃねーよ!」

「後にしろ後に」

「せっかく会えたのにひどいっす」

「べ、別に皆を無視してたわけじゃないって」

「嘘つけ、今絶対リーダーしか見てなかったぞ」

「相変わらずお熱いなぁ」

「おめぇらいい加減にしろ!」

 

 からかってくる皆のせいで酒を一滴も飲んでないのに頬が熱い。良いんだろうか、僕はまだ彼女が好きでも。また、好きだと伝えても。

 ごまかすように肉を口に詰め込む。互いの近況などを話しながらする皆との食事は、涙が出そうなくらい楽しくて美味しかった。

 

 各々の予定や帰宅を考え、二時間程度で解散する。とても話し足りなかったが、僕らにはまだ時間があるのだ。これから何度だって会える。笑顔で見送ると、僕の隣にクラインだけが残った。

 

「オレ、迎えまでまだ時間あるんだけどよ……」

 

 クラインは父親が迎えに来るらしい。確かに二年意識不明だった娘が外に出るとなれば不安だろう。僕がしっかり彼女をお父さんのところまて送らなければ。そんな決意は軽く袖を引かれただけで崩れ落ちてしまう。できればもっと、一緒にいたい。

 

「か、カフェでも入る?」

「や……そこの公園で良い」

 

 とりあえずコンビニで温かいコーヒーを買い、彼女の言う公園のベンチに腰掛けた。寒空の下なのは心配だったが、彼女は上機嫌で僕にもたれかかってきた。

 

「おめぇに会えて良かった」

「僕もだよ。クラインが元気そうで嬉しい」

 

 バクバクと心臓がうるさい。勝手な僕はクラインの仕草ひとつに期待してしまう。そっと、彼女の肩に手を回した。華奢な肩だ。とても刀を振り回していたとは思えないほどほっそりとした体だ。それが今のクライン。あの時と同じようで違うのが彼女――壺井遼という人。呼んだことのない名を口の中で転がし、空いた手をポケットに突っ込む。

 

「それで、その……こっちでは初めて会うのに、変かもしれないけど」

「…………なんだ?」

 

 小ぶりな箱を取り出した。中に入っているのはあの日彼女に渡した花と同じ色の、プリザーブドフラワー。本当は指輪にしようかとも思ったけどサイズが分からなかった。現実はゲームとは違って勝手にアイテムのサイズを合わせてはくれない。それに、デザインだって二人で選ぶ方が良いと思ったのだ。ここにはせっかくたくさんの選択肢があるんだから。

 

「壺井、遼さん。あなたのことが好きです。結婚を前提に僕とお付き合いしてください!」

「イズモ……告白、上手くなったな」

「クライン!」

 

 確かにこれまでの告白は全部上手くいかなかった。何も今持ち出さなくても、と少し膨れていると、彼女が楽しそうに笑って箱を受け取ってくれる。

 

「オレも好き。イズモ……出雲、駆。おめぇのことが、好きだ」

 

 そのまま僕達は互いの体温を移すように抱き合い、一度だけキスをした。

 

 大切な人と繋がって、僕達の人生はここからまた始まるんだ。

 





以上でこの話は完結です。見切り発車でしたが書ききることができて良かったです。最後までお付き合いくださり誠にありがとうございました。
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