【完結】クライン(♀)と駆け抜けるアインクラッド 作:甘口列
今朝は僕とクラインの二人きりだった。前からこの日は休みにすると伝えていたら、気を利かせたつもりなのかギルドメンバーが別の宿に泊まりに行ったからである。そこまでしなくてもとも思ったが、そのおかげで誕生日にクラインからの「プレゼントはオレ」を受け取ることができたので感謝しかない。もしかして皆予知能力でもある?
「何作ってんだ?」
「お弁当とおやつ。楽しみにしててね」
朝ごはんも二人きりで食べた。なんかまるで新婚みたいでドキドキしてしまう。いやゲーム上では結婚してるし新婚と呼べる時期なんだけどね。あくまで『みたい』だ。これがままごとのようなものだって言うのは分かってる。クラインが好きなのは本当だし、クラインも僕が好きだって言ってくれる。でもそれはこのゲームが作り出した異常な環境が前提だ。現実に戻った時どうなるかは……まだ、考えたくない。
「ちょっと食べる?」
「食う!」
出来たてでも時間が経っても味は変わらない。それでもつまみ食いって特別だ。一口サイズで揚げた鳥をクラインに食べさせてあげる。「美味ぇな」と笑う顔だけで僕の悩みなんて吹き飛んでしまうから彼女はすごい。ゲームだからなんだ、ままことだからなんだって言うんだ。僕はクラインが好きで、こうしているのが幸せ。今はそれで良いじゃないか。だって、僕の誕生日なんだから。
「それじゃ、行くか」
「うん」
今日は街から街に行くだけで戦闘の予定はない。僕は風林火山の象徴でもある和風の装いから洋服に着替えた。クラインもチュニックにショートパンツと大胆に出した足が眩しい服に変わっている。服が変わるだけで気分も変わるのですごい。いつもギルドホームを出る時とは違う気合いが入る。これから誕生日デートなんだ。そっとクラインの手に触れると彼女から握りかえしてくれた。
「四十七層って花のすげぇとこだよな」
「別のところでデートの方が良かった?」
「い、いやそういう訳じゃねぇけどよぉ、オレには似合わねぇって言うか……」
「そんなことないよ」
あ、ちょっと照れた。クライン、『デート』とかそういう恋人らしい言葉に弱いんだよな。途端にもぞもぞ落ち着きをなくしている。たぶん慣れてないんだろう。僕だって全然慣れてないし初めてのことばかりだけど、リードできるように頑張らなくちゃ。いつも引っ張ってもらっている分のお返し……というには欲が混じりすぎているか。
手を繋いだまま転移門広場から四十七層へ。フローリア、通称フラワーガーデン。季節に関係なく色彩豊かな花々が咲き誇る場所だ。攻略の時はじっくり見て回る暇などなかったが、今日はデートだ。街を飾る花や整えられた花壇を愛でながら街を歩く。綺麗なものは好きだ。特に花は思い出がある。二回目の告白の時に渡した花――あれの説明文は『想いを伝える特別な花』だった。一番綺麗だと思った花がそれって少し運命的じゃないか? そんなことを考えながら通りにある店を冷やかしてみる。ここを訪れるただのカップルだと思われたのか、僕達が攻略組だと気付く人はいない。のんびりとして平和なものだ。街を一歩出れば厄介なモンスターもいる危険な場所でも、中にいれば安全。最初はあからさまな恋人仕草に恥ずかしそうだったクラインも徐々にいつもの調子を取り戻し、今はプレーヤーの店で掘り出し物がないか吟味していた。僕は贈り物として用意していたアイテムがクラインの買い物と被りませんように、と祈りながらそれを見守る。
「お二人さん指輪はどうだい? セットで買うなら安くするよ〜」
「悪くねぇけど指はもう埋まってるからパス。他になんかねぇの?」
「出せるもんはこんぐらいだね。買い取りもやってるけどそっちは?」
「今は特にねぇんだよな。悪ぃ、また今度な!」
女性の買い物は長いと聞くが、クラインはそうでもなさそうだった。サッパリと商人に別れを告げてまた散策の再開だ。目的地は転移門があるのとは違う広場である。いくつかのベンチと一面の花畑が広がるその場所でまずはお弁当を広げる。気分はちょっとしたピクニックだ。吹き抜ける風が運んでくる花々の甘い香りを感じながら二人でサンドイッチに齧り付く。おかずに用意した揚げ鳥や卵焼きをつまみながら過ごす時間は穏やかだ。
「気持ちいいな」
「良いところだね」
知り合いが誰もいないことに気が緩んでいるのか、クラインは食べさせ合いっこもしてくれた。あ〜ん、と差し出すように見せて自分の口に運ぶお茶目に僕もやり返したり、この街限定の花が浮かんだ綺麗なお茶を一口ずつ交換してみたり。どこに出しても恥ずかしいカップルだが僕は全く気にしていなかった。こんな世界、多少バカにならなきゃやってられない。食べ終わった後クラインの膝を借りて寝転ぶと流石に焦ったような声がしたが、僕が動かないことを悟った彼女は頭を撫でてくれた。その心地よさに眠たくなってくる。同時に、ここで寝るのはもったいないとも思う。
「恥ずかしい奴だなほんとおめぇはよ……」
「誰も見てないし、たまにはよくない?」
「……十分経ったら交代な」
「はーい」
広場にちらほらとカップルの姿はあるが、誰もが皆自分達の世界に入っている。僕もクラインのことだけに集中しよう。僕の大事な人、仲間で、友達で、恋人。彼女のためなら何だってできる。そういう力をくれる、特別な人。彼女にとっての僕もそうあれたら良いのに。目を閉じてそんなことを考えていると、クラインが何かに手を伸ばす気配がした。待って待って、胸があたる!!
「ごめんクライン、邪魔だった?」
「いやそうじゃなくてよ、花が……」
慌てて転がり体を離す。僕の動揺など知らない彼女はいくつか花を摘み、手元の花と組み合わせ始めた。
「これ、裁縫スキルなんだな。こんなの初めて作った」
出来上がったのは花冠。シロツメクサに似た白い花をベースにちらほらと黄色の花がアクセントになったものだ。防御力は期待できそうにないが、とてもかわいらしい。
「裁縫スキルかぁ……綺麗だけど、僕じゃ無理だね。残念」
渡された花冠をしげしげと眺める。複雑に編まれた茎とバランスよく咲く花々はかなり手が込んでいる。要求されるレベルは結構高いんじゃないかな。はい、と返す代わりにクラインの頭に乗せてみた。
「かわいいね」
「バカ、オレにゃ似合わねぇよ」
白い花で飾られた髪は可愛かったのに、すぐ放り出されてしまった。もったいない。まぁバンダナもあってゴチャゴチャするから嫌かもなぁ、とクラインのオシャレ感覚に思いを馳せてみる。あ、そうだ、オシャレと言えばあれを渡しておこう。思いつきで行動しがちな僕は、今回もやっぱり思いつきのままクラインの後ろに回った。
「そんなことないと思うけど。こっちはどうかな」
彼女に渡したくて用立てたネックレスを首にかける。ペンダントトップは光を受けて輝く石の嵌ったシンプルなもの。この石のおかげで敏捷に補正がかかるからクラインには良いだろう。見た目もクラインのスタイルを邪魔しない、と思う。思うけど……好みじゃなかったらどうしよう。いや、今さら言っても仕方ないか。
「バンダナ、ありがとう。これはそのお礼」
「え? あ、マジか……んなの別に良いのに」
「僕があげたかったんだ。すごく嬉しかったから」
留め具が小さくて難儀したがなんとかつけることができた。途中僕の不器用さに笑ってたクラインも、無事首に下がったネックレスを見て優しい目をしてくれる。
「こういうの、リアルじゃ付けたことなかったな」
「そうなの?」
「なんつーか、柄じゃねぇだろ」
「じゃあこれが第一号なんだ」
「……なんだよニヤニヤしやがって」
「いつか、向こうでもプレゼントしたいな。ネックレスも……指輪も」
どれだけ先になるか分からないけど、僕は夢を見る。いつか現実で再会した彼女にネックレスを贈る夢を、揃いの指輪をつける夢を。
「ならオレもバンダナ用意しねぇとな」
僕の願望にクラインはそう返して笑った。同じ夢を見てくれることが嬉しくて、彼女を強く抱きしめる。
「オレぁ、思うよ。おめぇとならきっと大丈夫だって。いつかゲームをクリアして、帰れるって。イズモといると、そうやって信じられんだ」
その言葉と回してくれる腕に少し涙が出そうだった。僕もだよ、とか絶対帰ろう、とか言いながら、二人でリアルの話をする。僕らの現実のことと、未来のことを。
いつか離れたってまた会える。そう信じるには十分な、誕生日だった。
「お、いた。クライン、イズモ。ちょっと手伝ってほしいことがあって……」
「流石に恨むよ、キリト」
間の悪いキリトに邪魔をされた鬱憤は、同行を頼まれたクエストでモンスターを膾斬りにすることによって晴らした。そういう誕生日もまぁ、僕達らしいのかもしれない。
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今のところはもう一本おまけの投稿を予定しています。