【完結】クライン(♀)と駆け抜けるアインクラッド 作:甘口列
とんでもなく良いやつだよな、と思った。俺らのリーダーのことである。誰とでも分け隔てなく接し、話を拾い、上手く盛り上げる。やってるゲームの自機と同じくバンダナをトレードマークにするセンスはどうかと思うが、見慣れるとそれも彼女らしさだと思う。タッパも乳もでかいしこんなん好きになっちゃうだろ、と思ったが俺らの中に恋だのなんだのを匂わせる奴は現れなかった。
そもそも、新規実装のエモートで馬鹿な動きと馬鹿な話をして一緒にはしゃいでた奴を今さら女として見る方が無理な話だ。心ない奴はサークルの姫なんて揶揄してきたが、誰にも――リーダーも含め、そんなつもりはまるでない。女のきょうだいがいたらこんな感じかなとも思うし、やっぱり男友達とおんなじだなとも思う。俺達はそういう、どこにでもいるありふれた友人グループだった。
それが変わったのはソードアート・オンラインと言う名のデスゲームに巻き込まれてからだ。こんな時でもクラインは変わらずリーダーとして俺達を引っ張ってくれた。一歩後ろに、見慣れない巨人を連れて。
その巨人の名はイズモと言った。イカツイ身長と体格の男であるが、話してみると子どもっぽくてその行動は危なっかしい奴だった。きっと彼女がいたことなんてないに違いない。俺達だって大層なことは言えないが、イズモが女に慣れてないことは明らかだ。そんな奴にうちのリーダーは劇薬だったろう。ものの数時間で見事に惚れたらしい。惚れてはいないと否定していたが、女として意識しているのは一目瞭然だった。俺達にはない視点で逆に感心してしまう。そっかそっか、リーダーを女として見れるのか。好奇心が湧く。同時にちょっと面白くない気持ちもある。俺達の大事な友人をぽっと出の奴に取られるんじゃないか、という危惧。もちろん、杞憂だったんだが。
だって、あのクラインが友達を蔑ろにする訳ないからな。
イズモは変な奴だったが、意外とすぐ俺達に馴染んだ。まぁ俺らだって命懸けで助けてくれる奴のことを嫌いになんてなれない。それが好きな子の前でかっこつけたいからだとしても、死ぬかもしれないのはガチだからだ。リーダーがイズモを特別扱いしなかったのもデカい。当たり前のように指示を出し、言ったことを無視したら怒り、助けてもらったら礼を言う。俺達とゲームする時と同じように、彼女はリーダーであり続けた。そして、イズモもそれに応えた。だから俺達は上手く仲間をやってこれたんだと思う。イズモがクラインに惚れてたって、それ以上先に進もうとはしなかったから俺達もほどほどにからかっておしまいだ。束になっても敵わないくらい強い奴を色恋沙汰で弄れるのは正直気分も良かった。イズモは、そう、俺らのでっかい弟分みたいなもんだったんだ。
一番緊張感があったのは、二度目のクリスマスの頃だったと思う。あの時のクラインは明らかに弱っていたのに、俺達がアイツのためにできることもかけられる言葉もなかった。それはイズモだって同じ……のはずだった。だけどイズモはリーダーの側にいることを選んだ。俺達に踏み出せない一歩を踏み込んで、二人で冷たい夜を乗り越えた。
だからこれはある意味当然の展開だったのかもしれない。俺らがあんまり想像してなかっただけで。
「どうしよう、オレ、イズモのこと好きになっちまったかも……」
そう言ったリーダーは、赤くなった顔を隠そうとして全く隠せていなかった。酒盛りをしている俺達を置いて先に寝たイズモがこの話を知ることはない、そんなタイミングでの告白。マジか、と思った。イケメンを見るとすぐメロメロになるくせに、そういう時の顔とは全然違ったから。本気で好きなんだな。俺達は互いに目配せだけで語り合った。
「アイツ、優しいんだよな」
知ってる。人が弱ってる時に不器用ながらも寄り添えるのは紛れもなくイズモの優しさだろう。できたばかりの友人のために命を懸けられるのは……また別の部分が由来な気もするけど。
「強くて頼りになるし」
確かに。戦闘面では俺達の中でも頭一つ抜けた実力を持っている。リーダーが立てる作戦もその辺りを加味したものになっているのは、紛れもなくイズモを頼りにしているからだ。
「ちょこちょこ抜けてるけど、そういうとこがかわいくてさぁ」
重症だ。かっこいいはともかく、かわいいが出てくると終わりだって誰かが言っていた。あばたもえくぼ、恋は盲目。抜けてるのは確かでも、それをかわいいと思う感覚は俺らにはなかった。クラインは何を思い出しているのか一人でにまにましている。
(どうする?)
(背中を押してやってもいいけど……)
(これ放っといてもそのうちくっつくだろ)
(面白そうだし見守ろうぜ)
(賛成)
そういうことになった。こんな閉鎖空間の中じゃ話題が多いにこしたことはない。これからはクラインのこともからかってやろ、なんて思いながら酒を呷る。
「こういうのハラスメントとかになんのかなぁ」
「気にするとこそこか?」
「だってよぅ、オレリーダーだし……」
「少なくともイズモ相手なら大丈夫っすよ」
酔いが回ってグズグズしだしたクラインを適当に慰めてやる。ちょっとうっとうしいが、まぁ大事なダチで、俺らのリーダーだ。そのぐらい大した手間にはならない。今後は話を聞いてやることを約束してその夜は解散した。
当時の俺達は知らなかったのだ、グループ内の恋愛沙汰に巻き込まれると死ぬほどめんどくさいことになるなんて! あれからくっつくまでに俺らが相当気を揉んだのも色々と手を回す羽目になったことも、二人はちっとも気付いちゃいないだろう。
「おめぇら何してんだ? 早く行くぞ」
「昨日飲みすぎたりした?」
それでも、揃いの指輪をしたクラインとイズモが幸せそうだからいいか。そんなことを思う気持ちは皆一緒だった。
まったく、俺らってとんでもなく良い友達だよな!
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