あべこべ幻想郷ではセクハラが凄いらしい   作:エミリアーノ

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ドキドキ!フランたんのはじめてのお友達!


楽しんでいただけたようですから

「ちょっとパチェ、どういうことよ!」

 

 紅魔館の大図書館。

 そこからつながるパチュリーの部屋の扉をバンっと開け放ち、レミリアが怒気をまき散らしながら彼女の座る机までずんずんと歩いてきた。パチュリーは紅茶を飲むところだったがレミリアをちらっと見やったあと、カップをそっと置き至極冷静に応対する。

 

「……あら、レミィ。どうしたのかしら」

「どうしたもこうしたも、貴女が咲夜を泣かせたんでしょう!?それもあなたの魔法で!」

 

 レミリアは先日、泣いている咲夜をフランが支えて歩いているのを見かけた。

 後日、様子を見て咲夜に何があったかと問うたが、彼は答えたがらなかった。フランも黙りこくってしまったので、せめて他に誰が知っていそうか尋ねたところ、小悪魔やパチュリーの名前が出た。先ほど、大図書館で小悪魔から事の顛末を聞き及んだ次第である。

 

「……あの場には魔理沙もいたのだけれど、そうね。誰の魔法でと言われれば私の魔法でと答えるほかないわね」

 

 パチュリーはあの時の情景を思い出す。いいところだったが、フランに邪魔されてしまい、やや不完全燃焼感が残ってしまった。ちなみに、フランに投げられたレーヴァテインをなんとか防御魔法で凌いだ後、彼女はすぐさま転移魔法で魔理沙と共に自室に避難した。鬼のごとき膂力で投げつけられたレーヴァテインは、パチュリーたちが展開した防御魔法の上から魔女たちを焦がして大きなダメージを負わせていた。もし二発目を食らったならば、危ういどころの騒ぎではなかった。

 レミリアはバンっと机をたたき、激しい剣幕で問い詰める。

 

「どう落とし前付けてくれる気よ!」

「だから、あれは魔理沙が咄嗟に、私の制御できない魔獣を出したせいで起きた事故だって説明したし、私もちゃんと咲夜には謝ってそれで許してもらったわ」

「そんなの……そんなので納得すると思うの!?咲夜が許しても私が許さないわ!第一、統制の魔導書だって読んだことあるけど、一度服属させられれば魔獣が制御を外れることなんてないはずだわ!」

 

 パチュリーがそれを聞き、レミリアの顔をちらっと見やる。

 

「あら。あの魔導書全部読めたの?」

「うっ……」

 

 痛いところを突かれた。

 途中で挫折し、結局放り出してしまったので詳細は分からない。もしかしたら本の後半部分であの魔法の注意事項やデメリットのようなものが書かれてあったかもしれない。

 

「まぁ、貴女の指摘は正しいわ。一度支配すれば反抗することもない。ただ、魔獣を魔導書に封じるにあたって実装の都合上、結構変則的な術式になってたのよ」

「……どういうこと?」

 

 彼女はどう説明したものかと思案していたが、おもむろに机の引き出しを開けた。

 

「イメージしづらいと思うから例えで話すわね」

 

 パチュリーは机の引き出しから糸と紙人形を取り出してレミリアに見せる。

 なぜそんなものを見せられたのか分からないレミリアは怪訝そうに眉をひそめた。

 『ちょっとまってね』と言ってパチュリーが糸をそっと紙人形に押し当てると、糸が光って紙にくっついた。彼女はくっついたことを確認するように、ぴらぴらと紙人形を振る。軽く準備が終わり、パチュリーは改めてレミリアの方を見た。

 

「魔導書に封じられた魔獣は必ず、主従関係が切れた状態になる」

 

 そういってパチュリーは、読んでいた本に紙人形を差し込んでパタンと閉じた。すると、紙人形に繋がっていた糸がぴっと切れてしまった。

 

「……」

 レミリアは顎に手を当てて、パチュリーの言葉に静かに耳を傾ける。

「だからあの魔導書には、統制魔獣が召喚されるのと同時にそれを呼び出した者に改めて服属させる処理を同梱していたのよ」

 

 パチュリーが本を開くと紙人形がひとりでに本からぺらッと剥がれた。そして中頃で切れていた紙人形の糸が伸び始め、最初と同じ長さになった。そしてその糸をパチュリーがつまむ。これが再服従を意味するのだろう。

 

「あの魔獣を思い通りに操るためには、あれの名前を呼ぶ必要があったのだけれど。……作ったのもだいぶ前だったから、忘れてしまったわ」

 

 パチュリーはあっけらかんと答えた。

 なぜ名前なぞ必要なのだと問うレミリアに、パチュリーは『暗証番号みたいなモノね』と答えた。

 うーんと唸るレミリア。理論的には穴はないのかもしれない。あったとしても、レミリアがわかるとも限らないが。

 

「……だとしても、すぐに魔獣を殺すなり魔導書を壊すなりして退散させればよかったんじゃないの?」

「あら、それは結果論というものよ?フランの攻撃精度が信じられないほどに高かったから結果的に魔導書だけが破壊されたけど、私たちの魔法だと咲夜を巻き込んでしまっていたかもしれないわ。何もしなければ傷つけることはなかったから、ただ待っていても同じように時間が解決してくれていたでしょうね」

「……だから放置したと?」

「そうよ」

 レミリアは信じられないと眉をひそめた。

「……ッ!」

 レミリアはなおも食い下がろうとして、なにか言い返そうとするが口をパクパクとさせるだけであった。

 

 このくらいの反応が可愛いものだ。

 パチュリーは、先日咲夜とフランに同じ説明をしたときのことを思い浮かべていた。

 咲夜の隣でレヴァーテインを出し、剣呑な雰囲気を漂わせつつ同じ説明を聞いていたフラン。全てを聞き終えても突き刺さるような冷たい視線はそのままで、ただ一言『クズ』と吐き捨てた。『都合のいい記憶力だね』というような皮肉を想定してたパチュリーであったが、シンプルで容赦ない罵倒が彼女の心に深く突き刺さった。

 

 頭に血が上っているレミリアをなだめるように、パチュリーはぴっと人差し指をたてて彼女の注意をこちらにむける。

 

「まぁ、落ち着いて、レミィ。収穫が全くなかったわけではなかったわ」

「収穫……?」

 

 あの惨状から得るものがあったとでもいうのか。パチュリーが何を話そうとしているのか見当がつかず、レミリアは訝しむような視線を向けた。

 

「そう。二つあるわ」

「……」

 そう言ってパチュリーは指をもう一本立てた。

「まずひとつめ」

 

 パチュリーはおもむろにレミリアに顔を近づけ、秘め事を話すかのように真剣な面持ちになる。レミリアも思わず真顔になった。パチュリーはゆっくりと、押し殺した声を出す。

 

「……むっっっちゃ、えろかった」

「……。おい――」

 ――死にたいのか。

 

 フランではないが、レミリアも思わずグングニルを取り出した。親友とはいえあまりにふざけた態度をとるようでは看過できない。館の主として、健気な従者の主人として、ここはきっちりけじめをつけるべき――

 

「ほらレミリア、聞いて。収穫はもう一つあるのよ。……これ」

 

 そう言って机の引き出しの鍵を開け、中から一冊の本を取り出した。図書館にありふれた魔導書と外見は変わらないが、パチュリーが開いてみせたページにレミリアの視線は思わず釘付けになった。

 そう、魔法で記録された、咲夜のあられもない映像であった。

 

「これ……」

「ふふ。私はね、レミィ。大切なものはバックアップを取る主義なのよ。それも、可能ならリアルタイムで。あの場で現像したものは、リンクしたこの魔導書にも保存されていたということよ」

 

 パチュリーがあの場で使っていた魔導書は、フランの攻撃によって焼き払われていた。しかし、このバックアップのおかげで、映像記録は無事である。しかも魔理沙はこの本が惜しくもなくなってしまったと思っているので、彼奴に奪われる心配もない。皮肉にも、フランの攻撃が結果的に隠れ蓑になったのだ。

 

「……」

「どう、レミリア。貴女が来る前に写本は作り終えているからそれを渡しても良いのだけれど」

 レミリアの手にあった槍は立ち消え、彼女は恭しく頭を下げて両手を差し出した。

「よろしい。レミリア嬢、これからも仲良くしましょうね」

「ははぁ~~」

 

 主人としての気概も吸血鬼としての威厳も形なしであった。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

「フラン様を遊びに連れて行ってほしい?」

「はい」

 

 紅魔館の玄関を掃除していた時、珍しく美鈴の方から声をかけてきたと思ったら、彼女が話したのはフランに関することであった。

 

「フラン様は庭で遊ぶこともあるんですが、虫や花と戯れるときに話しかけることもあって。独り言が多いのはもしかしたら寂しさを紛らわせるためではないかと思いまして」

「……なるほど」

 

 咲夜は思い当たる節があるようだ。フランの部屋の前で廊下を掃除していた時、部屋の中から人形にしゃべりかける声が聞こえてきたことがままあった。おままごとのようなものだろうと思って気にしていなかったが、確かに一人でそれをするのは痛々しいほど孤独に見える。

 

「幻想郷に引っ越してくる前まではハンターどもが襲撃する危険もあったので庭の外にも遊びに行くことなんて考えられなかったんですが、幻想郷ではそういうのはほとんどありませんから、いい機会かなと思いまして。外では妖精たちがあそんでいるので、フラン様とも気が合うかもしれません」

 

 咲夜はそれを聞いて、ゆっくりと頷いた。

 

「わかったわ。お嬢様にもお伺いを立てておくわ」

 

 美鈴はぱっと笑顔になる。

 

「よかったです」

「あぁ、でも、フラン様にお供するのはあなたよ」

「……え?」

 

 美鈴はきょとんとした顔になった。

 

「フラン様にも、他の人と仲良くなってもらいたいと思って。……お嬢様やパチュリー様、小悪魔とはあまり仲がよろしくないような感じがするけど、あなたのことは嫌っていないようだし。親しい女性がいた方がいいと思って」

 

 美鈴は難しそうな顔をする。嫌というわけではないが、荷が勝ちすぎるように思えた。

 

「う~ん、大役ですね~」

「お願いね、期待しているわ」

 

 咲夜はぱちっとウィンクして館の奥に戻っていった。

 

「……ずるいなぁ~」

 

 ――そんな顔。

 彼女の照れ隠しのようなその言葉は誰の耳に届くこともなく、庭を吹き抜ける風にかき消された。

 

 

 

 

 後日。やや日が傾き始めている時間帯。フランは早くても夕方にしか起きないので、この時間に起きるのはそうあることではない。フランはごしごしと眠そうに目をこする。

 紅魔館の入り口。大門の前で咲夜がフランに出発前の確認をしていたようであった。

 

「折り畳み傘は持ちましたか?」

「うん」

「追加の日焼け止めは持ちましたか?」

「うん」

「お腹は空いてないですか?血はまだ大丈夫ですか?」

「うん」

「美鈴の傍を離れないでくださいね?はぐれて道に迷ったら空に飛んでくださいね。日も出ているので美鈴もみつけやすいはずです」

「うん……」

「泉にも近づきすぎないように――」

 

 咲夜の言葉をさえぎってフランが声を荒げる。

 

「分かったってば!」

「あ、あはは。咲夜さんも心配性ですよ。はじめての外出っていっても、なにも遠出するわけではないんですし」

「そ、そうね……。申し訳ございません、フラン様」

「……ん。行ってきます」

 

 フランはそういうと、さっさと歩き始めた。美鈴が慌てて動き、日傘からフランが出ないようにする。

「行ってきまーす」

 美鈴は上半身だけこちらに向き、大きく手を振る。フランも振り返り、控えめに手を振った。

「いってらっしゃいませ」

 咲夜は遠ざかる二人の背中に向かって、深々とお辞儀した。

 

 

 フランは紅魔館の外に知り合いがいるわけではないから、行く先が決まっているわけではない。一応、魔理沙などとは顔見知りの中ではあるが、先日の咲夜の一件以来なんとなく関係がぎこちなくなった。彼女の家に行く気にはならなかった。

 

 紅魔館を出た二人は霧の泉に沿うように、森の中を進んだ。泉にはうっすらと霧が立ち込め、青い空を霞ませている。森には木々が鬱蒼と生い茂り日中だというのに仄暗い。しばらく歩いていると、二人の幼い少女の声が泉の方から聞こえてきた。そちらに目を向けると、青髪の妖精と緑髪の妖精が飛び交っていた。

 

「ふっふーん、あたいってば最強ね!カラスでもカエルでも、何でも凍らせちゃんだから!」

「やめなよチルノちゃん。蛙の神様とか山の天狗さんたちに怒られるよ」

「カミサマ?そんなの気にしなくていいよ大ちゃん!あたいに歯向かうやつは全部凍らせればいいんだから!」

「もう……」

 

 青髪が氷の妖精、チルノであり、緑髪が大妖精である。

 フランは、泉の上を飛び回る二人の妖精をぼうっと眺めていたが、森の草むらからがさごそとこちらに向かってくる音が聞こえた。

 

 フランは音が鳴る方に身体を向けた。美鈴が半歩前に出る。

 こんなところにいるのはおそらくイノシシか何か、出たとしても下級妖怪程度だろう。しかし、美鈴は咲夜からフランの身の安全を任されている以上、何かあってはいけないとフランをかばう態勢に出た。

 

 糸をぴんと伸ばしたように張り詰める空気。美鈴は草むらに油断なく注意を向ける。フランだけは、興味なさげにぼんやりと眺めていた。ふわぁと欠伸をした。

 それに反応したかのように、がさがさっと草むらがひときわ大きく揺れると、ぴょこっと触角が葉っぱの隙間から顔をのぞかせた。

 

「……?」

 

 こんなに触角が大きい虫なんていたっけとフランは首をひねる。美鈴は門番をしていた時、この特徴的な触角を備えた妖怪が他の妖精たちと遊んでいるのを遠めから見たことがあったため、ふっと力を抜いて警戒を解いた。

 

 顔を出したのは蛍の妖怪、リグル・ナイトバグ。彼女は珍しいものを見たような声をあげた。

 

「あれ、君はあの館の……。こんなところにいるなんて珍しい」

 

 彼女はバサッと立ち上がると、いそいそと服をはたき、ばさばさとマントをゆらして体についた葉を落とした。

 

「……誰?どこかで会った?」

 

 フランにとっては馴染みない人物である。そんな彼女が、なぜ一目見ただけで自分が誰であるかを識別できたのか怪しむ。

 

「あ、いや!あの館の庭で遊んでいたところを遠くから見かけたことがあっただけだよ。私はリグル・ナイトバグ。リグルって呼んでいいよ!」

 

 実のところ、ただ見かけただけではない。庭で虫を眺めるフランを揶揄おうと、虫を操って驚かせたことが度々あったので、彼女にとってはひそかないたずら相手であったのだ。葉の上にいたバッタをしげしげと眺めるフランの顔に、そのバッタをとびかからせたのが最初のいたずらであった。『わわ』と驚く姿が非常におかしくて、以来館の庭でフランの姿を見かけた時は虫をけしかけるようになった。

 

「ふぅん……。僕はフラン。フランドール・スカーレット」

 

 フランは一応納得してくれたようである。リグルはほっと安堵した。

 リグルは気持ちを切り替えて挨拶の言葉を交わす。

 

「よろしく、フランドール!」

「……フランでいいよ」

「そう?なら改めて。よろしく、フラン!」

 

 今までちゃんと友達を作ったことのないフランは、やや気恥ずかしそうにぼそっと呟いた。

 

「……よろしく」

 

 リグルはニコッと気持ちのいい笑みを浮かべた。

 彼女は続けて、フランの隣に佇む美鈴の方をみやって彼に問いかける。

 

「ところでそちらのお連れさんは?」

「……」

 

 フランは少し後ろにいた美鈴をちらっとみやる。

 彼女は半歩前に出て、傘を持っていない方の手を胸に添えつつ自己紹介した。

 

「紅魔館の門番をやっております、紅美鈴と申します」

「よろしく、美鈴!」

「よろしくお願いいたします」

 美鈴はニコッと笑みを浮かべた。

「ところでこんなところでフランたちは何をしてたの?」

「……別に何も。ただ歩いてただけ」

「ただ歩いてただけ?……それ楽しいの?」

 リグルが素直な疑問を述べる。

「……別に」

 

 歩きながらやることといえば、空を眺めたり水面を進む水鳥を眺めたりである。これといって楽しいこともない。咲夜が散策してみてはと勧めてきたから外出したが大して楽しくもないし、外を出歩くのはこれっきりだろう。

 

「えぇ……。絶対遊んだほうが楽しいよ」

 咲夜が人形遊びに付き合ってくれる他には人と遊んだことがほとんどないフランは、みんなでやる遊びが思いつかず一拍おいて問い直した。

「……。遊ぶって、何を?」

「そうだねぇ」

 そうやって考える風にリグルが視線をあげると、その先に妖精二人が湖を飛び回っているのを見つけた。

 

「お。チルノたちもいるじゃん」

 リグルがおーいと向こうの二人に呼びかけた。

 泉の上で追いかけっこをしていたチルノは急停止する。彼女を追いかけていた大妖精は追突し、『ぐぇ』と潰れたような声を出した。

 大妖精にぶつかられても堪えた様子はなく、チルノは耳をそばだてていた。

 

「……誰かがあたいを呼んでる!きっと助けを求めてるんだ!」

 大妖精がおでこをさすりながら答える。

「リグルの声じゃない?助けてほしそうな感じはしないけど」

 チルノが辺りを見回すと、リグルの姿をみとめた。そして、リグルの前には、こちらの方を向く何者かの姿があった。日傘の影で妖しく光る赤い目、宝石を吊るしたような特徴的な羽、病的なまでの白い肌――

 

「あぁ!リグルが吸血鬼に襲われてる!」

 

 彼女の頭の中には、ある天狗がおどろおどろしく語り聞かせた赤い館の吸血鬼の話があった。詳しい話はすべて飛んでしまっていたが、とにかく吸血鬼は悪い奴という印象だけが頭の隅に残っていた。チルノはその独特な思考(おばか)によってリグルが襲われているのだという結論に達したようだ。

 

「……あれ襲われてるの?」

「うん!助けに行こう!」

 冷静な大妖精が疑問を差し挟むが、それを聞かずチルノは勢いよく飛び出していった。

「え?あ、まって、チルノちゃん!」

 

 慌てて大妖精が追いかける。

 チルノはリグルの方へとぐんぐん近づいていった。幾ばくもしないうちに彼女のもとに辿り着き、チルノがリグルを庇うような位置に降り立つ。

 次いで、追いかけてきた大妖精が隣に立った。

 

「や、二人とも。紹介するね、この子は赤い館のき――」

 リグルの言葉をさえぎってチルノが啖呵を切った。

「やいやい吸血鬼!リグルを襲おうとしてたな!あたいが許さないぞ!」

「……え?」

 

 きょとんとしたその声は、誰が発したものだろうか。腕を組んで胸を反り大仰な態度をとっているチルノに、リグルや美鈴が唖然と口を開いている。その一方で、鳩が豆鉄砲でも喰ったかのような顔をしていたフランは、何を思ったかにやっと口の端をゆがめた。

 

「……バレてしまっては仕方がない。こっそり食ってやろうと思っていたが、他にもうまそうなやつが釣れたのはよかった。この際だ。まとめてくってやる」

 リグルと美鈴が急なフランの発言に驚きの声をあげる。

「えぇ!?」

「フラン様!?」

 

 フランはこれまでおくびにも出さなかった妖力をあふれださせ、西洋の怪物『吸血鬼』としての圧倒的な存在感を発揮する。木々が慄いて葉を揺らし、泉にさざめきが立ち、リグルを慕って足元に集まっていた虫たちも散り散りに逃げていく。

 

 急にフランが態度を豹変させたことに、周りは戸惑うばかりである。チルノを例外として。

 

「あぁーー!やっぱり!あたいがぶっ飛ばしてかいしんさせてやるんだからな!」

「危ないよ、逃げようチルノちゃん……」

 

 圧倒的な妖力、格の違いを前にしてもチルノは怯えることなく、堂々としていた。自分が最強であるという湧き出る自信は、ちょっとやそっとの逆境ではくじけない。それとは対照的に、大妖精は委縮しきっており、身体が震えていた。

 

 チルノが氷塊を展開させ、怯える大妖精を安心させるように力強い目を向けた。自分が負けるとはこれっぽっちも思っていない顔で断言する。

 

「大丈夫、あたい最強だから」

 

(なにもだいじょばないよチルノちゃん)

 

 大妖精は胡乱げな視線を向けた。

 

「うぉーー!せいばいぃーー!!」

 

 チルノが氷塊と共に突貫していく。魔王然とした覇気を放つフランは、狂気的な笑みでそれを迎え撃った。

 

 

 

 

「ひぃーーん!!」

 

 チルノが目を回しながら墜落する。草むらの中に落ちて、ばさっと大きな音がなった。

 

「チルノちゃーん!」

 

 慌てて大妖精が駆け寄っていった。

 頭の後ろで腕を組み、遠目から眺めていたリグルもゆっくりと二人の方に歩いて行く。

 日光を嫌ったフランは森の中でチルノと戦った。

 

 河童印の日焼け止めを塗っているが完全に日光をさえぎることはできないらしく、直射日光をまともに受けると不快感を感じる。肌が焼かれることはないが、折角の戦いが不愉快な感覚で汚されてはたまったものではない。フランはチルノをいなしつつ森へ移動したが、そこからは反撃に転じた。

 

 密度の高い弾幕を張り、ひときわ大きな弾幕は木々の枝を折りつつチルノに突進した。

 躱された光弾は地面や木の幹にあたると、それを焦がしつつ霧散した。チルノも負けじと全力で弾幕を張ったが、火力不足感が否めなかった。展開される弾幕の密度は低く、光弾がまともにかち合えば競り負けたのである。

 

 チルノの弾幕はひとつもフランに到達できなかったが、その一方でフランの弾幕には何度も被弾し、ついに耐えきれなくなったチルノは体力が尽きて撃墜された。

 

「それで?お前はどうする?」

 

 フランはリグルを見下ろしながら問う。日陰で暗く光る目に射止められたリグルはしかし、気圧されることもなく肩をすくめて答えた。

 

「冗談」

 『それに……』と、彼女は言葉をつづけた。

「多少は満足できたんじゃないの、フラン」

「……ふん」

 

 フランは鼻をならし、すっと地面に降り立った。

 彼の背後から、タッタと美鈴が駆けてきた。

 

「お怪我はないですか、フラン様」

 

 フランは美鈴をちらっとみやったあと、事も無げに言った。

 

「……あの程度。心配されるまでもないよ」

「流石です、フラン様」

「……」

 

 美鈴は、彼女に褒められたフランが僅かばかり顔がほころばせたのに気づいた。美鈴にもそっけない態度をとることが多いフランでも、誉め言葉には弱いらしい。

 大妖精に介抱されて、やおら上体を起こしたチルノはまったく懲りずに声を張り上げた。

 

「い、いまはちょっと調子が悪かっただけだぞ!冬だったもっとあたいは強かったんだからな!」

「へぇ……。なら、冬になったらまた戦ってくれる?」

「勿論!」

 

 チルノはばっと立ち上がってニカっと笑う。氷の妖精ながら、太陽のように底抜けに明るかい笑顔であった。

 

「それにしても、お前は子供のくせに強いな!あたいを負かすなんてそーとーだぞ!」

「……こどもじゃないし」

 

 フランはぼそっと否定する。少年趣味*1で、まだまだ幼さがあることを自覚しているフランは、つよく否定できない。

 

「……?でも背が小さいし胸もないぞ!」

 チルノは素直に思ったことを口に出した。

「ちょっと、チルノちゃん」

 大妖精がチルノを咎めるような声をあげる。フランはそれを気にするそぶりもなく、胸に手を当てて答えた。

「……まぁ、確かに背は高くはないけど。でも、大きくなっても胸はないよ」

「?」

「ん?」

 

 チルノは首を傾げ、リグルも怪訝そうな顔をする。

 リグルは、身体が成長した後の胸のことをなぜそんなにも確信をもって言えるのだろうかと疑問に思った。自虐か何かだろうか?

 

 いや、身近な人たちがみな平らであれば、自分の将来の姿もそう想像できるかもしれない。だとすれば吸血鬼はみな貧乳なのだろうか。体が成長しても、女の強さと豊かさを象徴する胸が大きくならない種族がいるなど、なんとも悲しいものである。

 

 一方でチルノは、フランが何を言いたかったのかわかってはいない風である。ただただこてんと首をかしげるのみであった。

 

「気づいてなかったの?あの子男の子だよ」

「えぇーー!!」

「なにぃーー!!」

 

 チルノとリグルとも目を見開き、驚嘆の声をあげた。

 チルノは特にショックを受けたようで、頭を抱えている。

 リグルはチルノほどあからさまに取り乱してはいないが、青い顔になっていた。自分がいたずらを仕掛けていたのが男の子だと知って『まじか』と呟いている。虫をけしかけたのが自分であるとバレたなら嫌われるかもしれない。せっかくできた男の子の友達に嫌われたら立ち直れる気がしない。

 

 顔色が悪いリグルを訝しんだフランが、彼女に話しかけようとしたところでチルノが『わーー!』っと声をあげた。

 

「おとこに手を出したなんて、ないとしっかくだーー!!」

「チルノちゃん、騎士さんでもなんでもないでしょ」

 

 大妖精が冷静に突っ込む。とはいえ、チルノの中にあった信条に反することではあったようで、わりと深刻に衝撃を受けたようであった。

 しかし、フランは余計な世話だとでもいうようにつっけんどんに言い放つ。

 

「……別に。おまえに傷つけられるほど弱くないから」

「――ッ!!」

 

 フランは、これが煽りになるとも思っていなかった様子だ。彼としては事実を言っただけだが、その言葉はチルノの神経を逆なでした。

 チルノは激高し、だんだんを地面を足でたたく。

 

「あぁーー!やっぱりあたいが負けたのはきっと、なんとなくお前がおとこに見えて本気を出せなかったからだ!いいんだな!もうおとこでも手加減しないぞ!」

 

 チルノはびしっと指をさし、最後通告をする。フランはにやっと笑みを浮かべ、光弾をまわりに浮かべながら鷹揚に答えた。

 

「ふん。自分の身のほうを心配するといい」

「てぃやーー!!」

 

 フランにとびかかるチルノ。強大なりし吸血鬼に立ち向かう小さな勇者の、第二ランドだ。

 

 

 

 

 日付が変わるくらいの時間帯。

 月明かりが窓から差し込み、レミリアの部屋を淡く照らす。光が差し込まない場所は、吸い込まれるような陰になっていた。

 

「フランはどうしてる?」

「もうお休みになられているようです」

「そう……。起きるのも早かったものね」

「はい」

 

 咲夜がいつもの紅茶をカップに注ぎ足した。

 レミリアはパタンと本を閉じ、しばし沈黙していたが、やがて言いづらそうに口を開いた。

 

「……ねぇ。あの子、女があんまり得意ではないみたいじゃない」

「そうかもしれません」

「でも、外の連中……今日遊んだのは妖精とかだったかしら?でもみんな女でしょう?もしかしたら嫌な思いさせちゃったかなって、今になって思ってるのよ」

「……」

 

 咲夜は押し黙る。レミリアはそのまま言葉をつづけた。

 

「だから、もしあの子が遊びたいって言ったら、咲夜が相手してくれるかしら?私のことも後回しにしていいから」

 

 咲夜はそこで、レミリアの目をしっかりと見て彼女の提案を退けた。

 

「いえ……、その必要はないと思います」

「……どうして?」

 

 咲夜は目を瞑って思い出す。

 遊び疲れて眠ったフランが美鈴に背負われて帰ってきたことを。美鈴が笑顔で彼の華麗な弾幕ごっこの話をしたことを。

 

「……楽しんでいただけたようですから」

 そういう咲夜の顔も、慈しむかのような穏やかな笑みを浮かべていた。

「……そう。なら、よかったわ」

*1
少年趣味:ここでは、幼いおとこのこのような遊び・服装をすることをいう。フランは特に、人形遊びなど行動や遊びの面で幼さが見受けられる

興味本位で聞きます。あべこべものにおいては……

  • 男の娘を愛でるのも良き
  • BL要素だけはあってはならん
  • 設定凝ってるのもいいんだぁ
  • 貞操は逆転させても体格とかは逆転さすな
  • 知らん。とにかくハーレムを出せ
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