十六夜咲夜は悩んでいた。
時間は、咲夜がテンタクルスと死闘を繰り広げる前までさかのぼる。
彼が館で働いていると、たまに視線のようなものを感じることがあった。断続的なものではあったが、見られているような感覚がぬぐえなかった。視線を感じる先を見てみても何もない。幽霊が入り込んでいたのだろうか?しかし霊夢ほどではないが、咲夜も霊力も備える身。もし幽霊が部屋にいるならばはっきりと認識できるはずだし、追い払えるはずである。
いよいよ部屋の中にいるときでも覗かれている感覚を覚えてしまった。自分一人では解決が難しいと考え、彼は主人に相談した。
「お嬢様。折り入って相談したいことが」
レミリアは、咲夜が浮かない顔をしていることに気づいた。彼はよくできた執事である。怒りや悲しみと言った負の感情を主の前で出すことはほとんどなく、自制的であった。そんな彼が見るからに沈んでいるような様子をしているなど、よほど切羽詰まったことが起きているに違いない。彼女は真剣な面持ちになって向き合う。
「……咲夜が相談とは珍しい。何かしら」
彼は視線を逸らし、とても言いづらそうであったが、やがて意を決したように話し出した。
「その、自分の部屋にいるときに、なにか視線を感じてしまいまして」
「視線?」
咲夜の泳いでいた視線がレミリアの視線と、かちりとぶつかる。
「見られているような、覗かれているような……」
レミリアが咲夜の言ったことを飲み込むのに時間がかかったのだろうか、ちょっと間をおいて取り乱し始めた。
「…………え?……あ、何!?疑ってるの!?わ、私は断じて違うわよ!そんな陰湿なことはしないし、そもそも私は覗き見する必要ないじゃない!」
レミリアはがたっと立ち上がって必死の剣幕で否定した。
「え?あ、はい。そうですね。……いえ、お嬢様を疑っているわけではないんです」
「え?…………。……そうね、そうそう。わかってくれているようで何よりだわ」
レミリアはどっと疲れたように椅子に座りなおした。
彼女は、"今"は盗撮なぞしていない。かつては、咲夜の部屋に隠しカメラを仕込んだ植木鉢を、そうとは知らせずに与えて私生活を覗き見てむふふと楽しんでいた。しかしある日、咲夜の部屋で彼と遊んでいたフランに鉢植えごと彼の能力で粉砕されて以来もう盗撮はしなくなった。咲夜が申し訳なさそうに集めた残骸を見せてくれたが、粉みじんになって部品の欠片すら残らなかった有様を見て『今度は貴様を殺す』という気迫を感じ、死の恐怖を感じた。
嫌な記憶を思い出してぶるぶると震えていると、咲夜が不安そうな顔で口を開いた。
「ただ、私の勘違いとも思えなくて」
「……。うーん。そうねぇ」
顎に手をやり、しばし思案する。
おそらく、紅魔館の者ではないだろう。レミリアは違うから、どうやって覗いてるかバレずに済ませられるほどの人物と言ったらパチェリーくらいか。ありそうではあるが、しかし魔術的なものであれば、咲夜にくっついて回ってるフランが気づかないというのは考えにくい。彼も紅魔館の中ではパチェリーに次いで魔術的素養が高い。それはパチェリー自身も太鼓判を押していた。魔法方面にはさほど造詣が深いわけではないので、人形遣いや普通の魔法使いと比べてどうこう論じれるわけではないが、いっぱしの魔法少年であるはずだ。
だとすると外部のものである。紅魔館の者たちに隠れて館に潜り込めるというのは早々考えずらい。館内に登録された者以外の反応があれば咲夜に情報が届くようにセキュリティをパチェリーが組み上げてくれているので、たとえ認識阻害の魔法をかけていてもバレずに入り込むことはできない。重要セキュリティなのでそもそもこのシステムを外部の者が知っていることはまずないが、もしこれを誤魔化せるとすれば、一人でもいれば作動する仕様なので多人数で乗り込んで一人を囮に潜伏するくらいだろうか。
なので、紅魔館の外から覗いているということになるだろう。遠くから建物の中にいる咲夜を見ることができるということは、透視能力やそれに類する力を持つものなのだろう。
あぁ、あと、使役する獣に魔術的なリンクをつなげて視覚共有とかもあるかもしれんな。
……ともすると、フランが咲夜を盗み見ていたりしてはいないか?フラン、結構咲夜に懐いてるし。好いてるやつが普段どうしてるかも気になる年ごろ……か、も……。
「お姉ちゃん、同性同士なんて絶対許しませんからね!」
再びレミリアはがたっと立ち上がる。
「え?お嬢様?いったい何の話ですか?」
「……はっ!」
いったん気持ちを落ち着けようとレミリアは頭を振る。身内の可能性もあるが、ひとまずは外部の者による犯行であると想定しよう。とにかく、遠隔で覗き込めるような手段をすべて封じればいい。視覚阻害のような魔法を紅魔館に掛ければ行けるだろうか?とりあえずはまず自分で調べてみよう。もしそれらの魔法が自力で使えそうだったらそのまま実行だ。
パチェリーに頼るのはやや不安だ。フランであれば協力してくれるだろうが、咲夜は彼に心配をかけさせたくないだろうから、やはり他の人に頼るのは上手くいかなかったときのセカンドプランだ。
考えがまとまったレミリアは咲夜に、大図書館から幾つかの魔導書をとってきてもらうように頼んだ。
「念写、透視、視覚共有に関する書籍とかの本をとってきてくれるかしら?多分、それを使えば見られてる感覚はなくなるんじゃないかと思うわ」
「分かりました、お嬢様。ご助力、痛み入ります」
「いいのよ。従者の頼みを聞くのも主の務めだから」
咲夜は深々と頭を下げた。
ところかわって、妖怪の山。
姫海棠はたては悩んでいた。
今まで紅魔館をパシャパシャと撮っていたはたては頭をかく。
「うーーん。さすがに気付かれたかなぁ。それにしても、こんなに的確に対策をとってくるなんてねぇ」
盗撮魔は彼女であった。この能力は離れた所の風景を写し取ることができるが、何度も同じ人物を撮っていると見られている感覚を与えてしまうらしい。里の男たちが家からでなくなった理由の一部はこれである。他の妖怪共に知られたらリンチ待ったなしだ。しかも、撮った写真は独占しているのでさらに彼らの怒らせるであろうことは想像に難くない。もしそうなったときは、はたて秘蔵のコレクションが最後の交渉カードである。
「咲夜たんの部屋以外はどうだろう」
そういって適当にパシャパシャと撮っていったはたては、白飛びしていないものを見つけた。
「なにこれ。なんか読んでるな……」
よくよく拡大してみてみる。それは、テンタクルスに襲われている、咲夜の信じられないほど淫靡な姿であった。
「ぶふぉ!」
はたてはあまりの衝撃に吐血し、意識を失った。
次に復活した彼女は、うまく文をまるめこんで取りに行かせようと考えた。
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東風谷早苗は悩んでいた。
夕暮れ時。太陽が山の峰にもたれかかり、赤らんだ光が山と西の空を染め上げている。もう少しで山の向こうに日が隠れて一気に暗くなるだろう。
守矢神社の二柱の神は、常々信仰が欲しいと口にしている。彼女らの存立の根幹にかかわることであるため蔑ろにはできないのは分かるのだが、こう耳にたこができるほど言われると面倒くさくもなってくる。
そもそも守矢神社は、外の世界の信仰心が少なくなったから幻想郷に引っ越してきたと言うが、信仰心の量について言えば正確ではない。
たしかに、近世のころと比べると近代化・工業化のせいで近代以降信仰の総量は減っている。しかし、国家神道の元信仰が強制されたことで神社は例外的に戦前が全盛期であったのだ。政教分離政策の下で神道はたんなる宗教の一つとなり、現在では多くの神社の御神体はその力を失っているが、これはすべての神社に当てはまるわけではない。例えば天皇をまつりし明治神宮。例えば天照大御神をまつりし伊勢神宮。信仰はこれらの大手に偏在している。就職人気が大手に偏るようなものだ。
――もしお二方が、神代でもその後も積極的にご活躍されて神話や歴史に大きく記されるようなことをしておられれば、外の世界にあってもまだ勢力を保ち続けることができたことでありましょうに。
結構な無理難題であることは分かっているが、暢気な二柱をみると小言の一つでも言ってやりたくなるのであった。
今日も人里で、実るかどうかも分からない布教活動をこなしてきた。だが、最近外の里の人々は、信心よりも噂話を好むようになってきたきらいがある。やれどことどこがくっつくだのあの妖怪はあの人間に懸想しているだの……。神仏への興味が薄れてきた民衆に信仰を説くのは、糠に釘を打つような感覚であった。
「はぁ……」
木の上でメモとにらめっこしていた文は、下から聞こえてきた大きなため息につられて見下ろした。みてみると、早苗が肩を落として気だるげに歩いているのが見えた。文はよっと早苗の隣に飛び降りる。
「あやや、そんな深いため息をつかれて、どうかされたのですか?」
「……文さん」
早苗は疲れた様子を隠すこともなく、文にすがるような目を向けた。
彼女は溜息を洩らしつつ、事のあらましを伝える。なかなか布教活動がうまくいかないこと、二柱が口うるさいこと。
文はふむふむと頷いて耳を傾けていたが、ふっとなにか考え込むかのように急に反応しなくなった。
「文さん?」
しばし沈黙していた文は『これいけるかも』と呟き、早苗の方に顔を向けた。
「諏訪子さんとのコミュニケーションについて私からどうこう言えることはないですが……。信仰に関して言えば、そうですね。ちょっと考えがあります」
「……なんでしょうか」
「信仰を集めるためにはまず注目を集める必要があります。もし、災害や飢饉、異変が起これば人々は不安に駆られ、救済や事態の解決を望む人々の願いは神社へと向かうことになるでしょう。ですが今のところ、幸いにしてというべきか不幸にしてというべきか、目だった異変もありません。それが、里の人間の心に余裕をもたらし、神社・神様への興味を減らしているのでしょう」
「……なるほど。確かに、時代が不安定な方が宗教は広がりやすいですもんね」
彼女は世界史や日本史で習った知識を思い出す。戦国時代の一向宗なんかもその文脈だったような記憶がある。
「一つは異変を自ら起こすこと。しかし、これはあまりお勧めされません。自分が起こしたと知られれば顰蹙を買いますし、神社への信頼も下がってしまいます。なので、平時において注目を集める方法を考えなければなりません」
「……たしかに」
早苗は、ここまで現状分析と問題設定をかろやかに済ませてしまえる文の頭の良さに感銘を受けた。
「前に話してくれませんでしたか?外の世界では『こすぷれ』なるものが流行っており、男子たちが華美な衣装を着こなすことがあると。私がこすぷれした方の写真を人里に配りましょう。認知向上信仰拡大待ったなしです」
「……!」
――なるほどそれなら皆が守矢神社に注意を向けてくれるだろう!
しかし早苗は、その作戦の前提となる重要なところにはたと気づいた。
「あ。でもでも、里の人にはそういうことをやってくれそうな人はいなさそうですよ」
その切り返しを想定していたかのように文はさらっと答える。
「そうですね。ならば、里の外で探すほかありません」
早苗が里の外に住む男性という点でぱっと思い浮かんだのは、一風変わった半人半妖の蒐集家の姿であった。
「森近霖之助さんですか?」
「うーん……。あの方は何というか、お父さんって感じがしませんか?」
「あぁ……。確かに……。魔理沙さんの面倒を見てたくらいですからね」
子育て経験みたいなのまでしているのだ。貫禄がある。そこまで来ると、いくら美人でもコスプレはちょっときつい。
「ほら、いるじゃないですか。あの方ですよ、あの方。赤い館の……」
そこまで言われれば早苗にも分かった。手を叩いて答える。
「……!!咲夜さんですね!」
「その通りでございます」
「しかし、コスプレなんてやってくれるでしょうか」
早苗は不安そうな顔になる。咲夜がそれを楽しむイメージが浮かばなかった。
「それはもうあなたの交渉次第ですね」
「うーん。でも、レミリアさんが許さないような」
早苗は思案顔になる。彼女にとっては、レミリアは咲夜を猫かわいがりする主人で、したがって彼に近づく女には強い態度をとる印象しかなかった。
表情がころころと変わって面白い。文にとって早苗は話していて心地いい人であった。だからついつい小出しにするような話し方になってしまう。早苗は気にしている風ではないので、その寛容さに甘えさせてもらおう。
「むしろ、そこがチャンスなんです」
「え?」
「意外に思われるかもしれませんが、彼女は咲夜さんを結構アレな目で見ています。なので、彼女を取り込むことができれば、咲夜さんもお願いを聞いてくれるはずです」
「……!なるほど!『将を射んとする者はまず馬を射よ』ですね!」
文は笑顔でこくりと頷いた。
早苗は学園祭の時に、男子たちにコスプレ衣装を着せたことがあった。
クラスごとに教室で展示をする感じの文化祭で、彼女のクラスはコスプレ喫茶をしようという話になった。自分にシフトがない時にお客としてクラスの男子たちに相手してもらえるという下心が透けており、提案者のそういう意図を察した女子たちの圧倒的賛成の元この案が通ったが、男子たちは当初あまり乗り気ではなかった。
そもそも40人のクラスに男子は10人もいなかったし、そのなかでもこの手のものに積極的な子はあまりいなかったためだ。ただし一人、超がつくほどサブカル好きな男子がいて、彼が王子コスプレを希望したのを皮切りに、他の子たちが執事コスを希望した。学年一の人たらしで男子からの注目を女子から奪う存在であったため、クラスの女子たちは目の敵にしていたが、あの時ばかりはみな彼に心の底から感謝していた。
早苗は自分のことを、ほかの女子程欲にまみれていなかったと自負している。可愛くてカッコイイお手製の衣装を彼らに着てもらって遠目からでも愛でたかっただけである。とても眼福だったが予想外に盛況で、シフト外でも喫茶に入ることができなかったのが心残りであった。
早苗たちが幻想入りした後、天狗たちの縄張りととても近いこともあって、文とはよく話をしていた。学園生活で楽しかった思い出として早苗はこの文化祭の話をしていたのだが、文は覚えていてくれたようである。もし、咲夜にいろんな服を着せることができたなら、それはそれは皆の目を引くであろう。
二人で神社まであるき、話の詳細を詰めたいとお願いした早苗に文は頷いた。早苗は、早苗の部屋まで彼女を案内する。
文がどういう衣装があるのかと尋ねたため、早苗の部屋のタンスにしまっていた衣装を取り出したみせる。
「へぇ、なかなか奇抜に見えますね」
「まぁ、アニメとかの衣装が元ですから、結構目立ちますね。でも、可愛いでしょう?」
「えぇ」
「ここは無難に王子様コスかな。いや、ダウナー系とか地雷系のやつでも。うーん、ケモミミとかもギャップあって萌えるかも……」
早苗はぶつぶつと呟いていたが、文がそれを遮るようにして話しかける。
「咲夜さんの希望もあると思うので、とりあえずはレミリアさんに許可を取りに行きませんか?もしかしたら今日の夜にでもお話しできるかもしれませんし」
「それもそうですね。分かりました」
そこで文が何か思い出したように声をあげる。
「あ、でもすみません」
「なんですか?」
「ちょっとのっぴきならない理由で紅魔館の皆さんとは顔を合わせづらいんですよね。申し訳ないんですが早苗さんだけで交渉してもらえませんか?」
「えっ……」
文がついてきてくれるものと思い込んでいた早苗は戸惑う。記者として様々な人妖と渡り合い情報を引き出してきた文を頼りにするつもりであったのに、これではなんだか梯子を外された気分だ。しかし、本当にいかんともしがたい事情なのだろう。早苗は、申し訳なさそうに手を合わせる文に文句を言う気にはなれなかった。
「……分かりました。自信はありませんが、やってみます」
「そうですね。話が通ったら儲けもの。別に今回の計画がかなわなかったとしても、失うものは何もないんですから。力を入れすぎないでほどほどに臨んでください」
そういって文は物怖じしそうな早苗を励ます。駆け引きの時には心の余裕はあった方がいい。
「はい。ありがとうございます」
早苗はふっと力を抜いて、笑顔になる。
彼女は何着か手ごろな衣装をバッグに詰め、神社を飛び立って紅魔館へと向かった。
紅魔館についたのはちょうど日が暮れた頃であった。レミリアはすでに起きていて、早苗の来訪を告げられた彼女は珍しい客人に興味を惹かれ、その場で入館を許可した。早苗は咲夜に導かれて応接室へと通される。
その部屋は西洋芸術の粋を集めたような場所であった。掛けられた絵画はバロック調で荘厳な宮廷を描いている。部屋は赤色に輝くシャンデリアに照らされ、重く垂れさがったカーテンの隙間からは月明かりがもれていた。幾何学模様が描かれた絨毯も靴のままでいいのかとおもうほど綺麗で、ソファもふかふかで座り心地がよさそうだった。
紅魔館を訪れたのは初めてだったが、日本のごく庶民的な家庭を出た身としてはいささか場違いな感覚がしてきまりが悪かった。おずおずとソファに腰を下ろす。おもったよりも深く腰がしずみ、背もたれにもたれかかってしまった。早苗ははずかしそうに身じろぎし、背を伸ばす。
「それで、要件とは何かしら。聞かせてもらえる?」
「あ、その前に。まずレミリアさんとお二人でお話させてもらいたいのですが」
「……そう。わかったわ」
レミリアが咲夜に目配せすると、彼は一礼して部屋を退出した。
「二人だけで話したいことって何かしら?」
「はい。……レミリアさん、咲夜さんの晴れ姿を見てみたくはないですか?」
しばしフリーズしていたレミリアであったが、彼女の言葉を文字通り受け取ると、驚いたように声を荒げた。
「……はぁ!?あんたなんかに咲夜はやらないわよ!?」
「あ、いえ。ちがくて」
「何が違うのよ!」
早苗としては、『コスプレ』といってもレミリアに伝わらないだろうと考えて似た言葉で表現しようとしたつもりであった。しかしレミリアにとってみれば、咲夜を退出させてまで話したことである。彼の身の上に関わることで晴れ着を着せるようなこと、つまり婿入り衣装のことを指しているのだろうと想像するのは無理からぬことであった。
「えっと。晴れ着って言ったのは言葉の綾でして……。私が言いたかったのは、外の世界でも人気があるんですが、こういう、普段は着ることがない衣装を咲夜さんに着せてみたくはありませんか、っていうことです」
早苗はごそごそとバックをあさり、コスプレ衣装を取り出した。白を基調としてきっちりした印象を与える、王子様系の衣装である。
「……」
「どうです?クール系の咲夜さんにはとっても似合うと思うんですが」
「……」
「あれ?おーーい。レミリアさーん?」
「……」
レミリアの身体は完全に硬直していたが彼女の頭はかつてない程のスピードで思考が回転していた。王子然とした美しい咲夜と連れ添う自分の妄想がむくむくと膨れ上がっていく。
――普段は女勝りで美しくカッコイイ彼……。私よりも背が高く、やさしくリードしてくれる彼。とてもしっかり者なのに私に吸血されると、とろんとした顔になる彼。ベッドの上では私に甘えてきて、激しく乱れる彼。私の手で導かれ、しびれるような声で……
パチン!
「……ッハ!!」
早苗がレミリアの前で手を叩き、大きな音を出したことでようやく現実に引き戻されたようである。
レミリアは自分が何を想像していたかを自覚すると、ぼっと火が出るように顔が赤くなった。
「……すごい効果ですね」
文の言う通りであったが、いささか効き目が強すぎたようにも思える。すさまじい交渉カードだ。もう一押しで堕ちてくれるかもしれない。
レミリアは恥ずかしさのあまり顔を抑えて悶えていたが、早苗は気にするそぶりもなく二着目、渾身の衣装を取り出した。
「まだありますよ、レミリアさん」
「え?」
早苗が取り出しるはバニーコス。学園祭の時にはついぞ誰も来てくれなかったが、今度こそは日の目を浴びるかもしれないと思ってとってきたものだ。ちょっとばかり刺激が強いかもしれないが、これを着せられると考えればレミリアは咲夜にコスプレさせるのを許してくれるだろう。もし咲夜が嫌がっても、レミリアも説得する側に回ってくれるかもしれない。
「ほら」
バサッとレミリアの前に服を掲げる。
「ぶふぉ!?」
――レミリアに妖しく微笑みかける彼。息を切らして煽情的に舞う彼。レミリアを惑わせ翻弄する彼……。
妄想がすさまじい速度で膨張し、脳の許容量を超えて爆発した。
レミリアは吐血し、『うー☆』と奇声を放ったのを最後に事切れた。
「レ、レミリアさーーん!!」
後には、焦った様子で蘇生を試みる早苗と、血相を変えて飛び込んできた咲夜の姿だけがあったという。
「なぜあなたがここに居るんですか、文さん」
「そう怖い顔しないでくださいよぉ~、咲夜さん。ただ記者として取材しているだけですって。広報も兼ねて守矢神社から正式に御呼ばれしているので、私的な理由では離れられないんですよねぇ~」
そういって文は守矢神社を背景に、だらしなく口をゆがませながらパシャパシャと咲夜の写真を撮る。咲夜がしているのは猫コスで、甚だ露出面積が多い。どうにか体を隠そうと身を捩り、自分の体を抱いて守ろうとしている様は、体をくねらせているようでかえって煽情的になっていた。
「まさか、これを計画したのも……!?」
「計画だなんて、そんな大それたことではないですよ。早苗さんと認知向上のための苦肉の策を、ない頭を捻ってどうにか絞り出しただけですから」
「……ッ!」
咲夜にはその言葉がとても白々しく聞こえた。きっ、と文を睨む。
「ほら、咲夜さん。そんな眉間にしわを寄せないで。せっかく綺麗なお顔が台無しですよ」
咲夜は『シャー!!』っと猫のような威嚇の声を出し、文から距離をとる。しかし、それもまた良いと文に写真を撮られ続けた。
あの後死から蘇ったレミリアは、それはそれはいい笑顔で早苗に咲夜コスプレの許可を出した。そのとき彼女は、困惑し恥ずかしがる咲夜に『命令』という形でコスプレを強制した。レミリアが咲夜に命令するというのは存外に少ない。だいたいは頼みごとをするような口調であり、咲夜はレミリアの態度如何に関わらず卒なくこなしてきた。レミリアが命令口調になるのは、とても真剣な場面――例えば、紅霧異変の時に侵入者を止めて来いと命じた時――と、今回のように何らかの理由で咲夜が嫌がるときであった。
ちなみに、
その結果が現在の文による独占写真撮影会である。しかも文は、新聞には載せられない際どい写真を幾つか撮って自分のコレクションにするつもりでいる。
「くっ殺せ……!」
「いやだなぁ、咲夜さん。なんであなたを殺さないといけないんですか?それにあなたに手を出したりしたら、あの姉弟にこっちが殺されますって」
二人のその様を、早苗とレミリアが遠巻きに眺めている。早苗はニコニコと温かく見守っており、レミリアは幼気な獣人咲夜と戯れる妄想にトリップしていた。
「これで信仰が増えてほしいですねぇ」
早苗はのほほんと呟いた。
これを特集した文の新聞を見た里の女どもは、鬱屈した欲をハッサンさせてくれる神として守矢を崇めるようになったことは、また別の話である。
興味本位で聞きます。あべこべものにおいては……
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男の娘を愛でるのも良き
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BL要素だけはあってはならん
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設定凝ってるのもいいんだぁ
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貞操は逆転させても体格とかは逆転さすな
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知らん。とにかくハーレムを出せ