あべこべ幻想郷ではセクハラが凄いらしい   作:エミリアーノ

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幼きフランの悩み



※前回よりも話重めです。苦手な方もいるかもしれません。ご注意ください。


あなたが居てくれるだけで嬉しいから

 静かな夜。曇った夜空は月明かりさえ遮り、紅魔館が暗く淀んだ宵闇に沈む日。ロウソクの心もとない火がレミリアの部屋を照らすのみであった。しかし、吸血鬼の目は闇の中でもよく見える。力が増す満月の夜も好きだが、これくらいの暗さでも丁度よかった。

 

 物思いにふけるように外を眺めるレミリア。窓の外は黒い帳が下りたように暗く咲夜には何も見えないが、主人の目には何が映っているのだろうか。

 

 レミリアが紅茶を飲み干したのを見て、咲夜はカップに注ごうとティーポットを手に取る。女王蜂が描かれ、それを囲むようにコスモスの花があしらわれた高級なものだ。咲夜が紅茶を注ぎ終わったのを見てレミリアが彼に話しかけた。

 

「そろそろ、あなたに話してもいい時期かしらね」

「……なにをでしょうか?」

「昔のフランの話。そして、私の両親の話よ」

 

 咲夜はレミリアの方に目を向けると、彼女と視線が交わった。

 それから彼女は、滔々と彼女の家族のことを話し始めた。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 弱い妖怪は死ぬ。弱い男の妖怪なぞなおさらだ。

 誇り高き吸血鬼の一族は皆が皆、男であっても強大無比で力を示し続けなければならないというある種の強迫観念に取りつかれていた。自らの存在のために人間たちの関心、特に恐怖を糧とする妖怪たちにとって、力は強ければ強いほどいい。妖怪同士の争いも絶え間なかったため、人間に対しての示威と同時に妖怪にも舐められることがないようにしなければならなかった。吸血鬼はそのなかでも、選民思想と純血意識が特に強く、従っていかなる弱さも受け容れることができなかった。

 

 フランは、そんなよくいる吸血鬼の一家に生まれた、吸血鬼の男子らしからぬ子であった。男子であっても外で女子たちと一緒に修行し、力を蓄えることを求められる一方で、フランは修練を嫌がった。他の子たちが当たり前にやっていることを嫌い、専ら部屋の中で人形遊びをするような子であった。だから、フランは一人だけ落ちこぼれるような状況であった。

 

 そんなフランを厳格で苛烈な母は許さなかった。

 姉妹の中で、そして一族を巻き込んで熾烈を極めた競争に勝ち抜き、族長の座を得た母は吸血鬼はかくあるべしという考えが強かった。フランの軟弱極まる態度や、吸血鬼としては異質な羽に尋常ならざる嫌悪を向けた。母自身も、また母を支えた一派も保守的であったから、特にフランを捨て置くことはできなかったのかもしれない。

 

 部屋に閉じこもるフランを無理やり外に連れ出し、嫌がっていうことを聞かない彼を()()()ために痣ができるまで殴ることもあった。

 

 子供とはいえ吸血鬼の身体につけられるほどの痣である。ところどころ肌が紫色に変色したフランの姿は、とてもではないがレミリアには直視できなかった。もし、レミリアが彼を庇うようなことをすれば、今度は自分が叩かれる。二度と反抗しないように、徹底的に。母への恐怖のあまり、愛おしい弟を庇うことができなかった後悔は、いまでもレミリアを苛んでいる。

 

 過酷な環境にあって、唯一父だけが安全な居場所であった。父でさえ表立って庇うことはほとんどできなかったが、フランが母に殴られて泣いているのを見ると、そっと彼を抱き寄せて慰めた。母が訓練に連れ出そうとフランを探すとき、彼は父の部屋に行って匿ってもらった。体の小さなフランはベッドに潜り込めばうまく隠れることができて、父も『ここには来てませんよ』と話しを合わせてくれた。世界で唯一味方をしてくれる父。父だけが、フランの拠り所であった。

 

 しかし、フランが年を重ねるにつれ、父が包帯をすることが多くなった。一族の者は男であっても外に出て人間や他の妖怪たちとの戦いに参加しなければならなかったので、たまにけがを負って帰ってくることもあった。しかし、父のそれは異様なほどに頻度が多かった。ベッドに横になり、痛みに顔をゆがめる父。吸血鬼の回復力をもってしてもなかなか治らないらしい怪我を労り、フランは風の魔法で自分の指を少し切って血を分け与えようとする。

 

「……フランは優しいね。うん。やっぱり優しい子だ。心配してくれてありがとう。でも大丈夫。放っておいても勝手に治るから」

 

 父はそういうと、ベッドの横の机にあった小さい包帯を手に取り、フランの小さい指に巻き付ける。

 

「なにも心配しなくていいんだよ」

 

 父は、不安がるフランを抱き寄せ、頭をやさしく撫でた。

 

 母からの折檻は相変わらず続き、その度ごとに父の下へと駆け寄る日々。母の抑圧はとても苦しかったが、父がいたからなんとか耐えられた。

 しかし、ある日気づいた。父が外に出たわけでも戦ったわけでもないのに、怪我が増えている。もしかしたら、前から薄々気づいていても、見ないようにしていたのかもしれない。だが、額、首、耳や腕に包帯が巻かれ、布団に隠されているが上に乗ったら痛がるので腹や足も怪我をしているのだろう。そして決定的だったのが、父の綺麗だったコウモリの羽がずたずたに引き裂かれていたことだった。

 

 そんなこと、普通はあり得ない。もしそれをやったのが人間や妖怪だとすると、戦いの途中でわざわざ入念に執拗に痛めつけたということになる。そんな隙があれば他の吸血鬼が助けに入るはずだし、第一、父も抵抗するはずだ。父は、母ほどではないがとても強い。吸血鬼の集落の中で言えば上位に入るくらい強い。そんな彼を一方的にいたぶれる存在がいるとすれば、とっくの昔に吸血鬼たちは敗れ去っているはずだからだ。

 

 幼心にそのことが分かったフランは、では誰がこんなことをしたのかと考えが進んで、はたと気づく。

 

「お父様!一緒に逃げよう!こんなとこいちゃだめだよ!死んじゃう!」

 それを聞いた父は、悲し気な表情で力なく首を横に振る。

「……ごめんね、フラン。それはできないの。僕はあの方と添い遂げるって決めてたし、なにより行く当てがないよ」

「うっ、うっ……」

 

 その言葉は、フランの嫌な想像を肯定するものであった。また、フランのお願いが聞き入れられることもなく、今の状況から逃げようがないということに途方もない絶望感を感じた。泣かないように唇を噛んでも、肩を震わせて泣いてしまうフランの幼い肩を、父はやさしく抱きとめた。フランを抱える彼の手は、度重なるけがのためにうまく力が出せず、非常に弱弱しいものであった。

 

 窓から差し込む頼りなく蒼白い月明かりが雲に遮られ、代わりに闇が二人を包んだ。

 

 

 父との幸せな世界で大きくなる暗い影から目を背けるように、フランはただ父に縋りついた。フランは、この時母に歯向かう勇気があれば、そうできないならせめて母に従順になり父から離れていれば、あんなことにはならなかっただろうとずっと悔恨に苦しんでいた。

 

 将来後悔することなど考えることもなかったフランは、父に甘え続ける。

 ある日は、こっそりと屋敷を抜け出して草むらで草冠を作り、父の下へと持っていった。

 

 以前、花を摘んでいったときは大層喜んでくれた。もっと喜んでもらおうと、絵本で読んだ王子様の草冠の絵だけを頼りに、試行錯誤の末作り切ったのだ。集落にはフランの友人はいないため、他にそういうことをやる子もいない。自分より幼い子供も、親から近づくなと言われていたため、彼に話しかける者もいなかった。しかし、どれだけ寂しかろうと父が喜んでもらえるならそれでよかったのだ。

 

 はじめはとても稚拙な出来でしかなく、形にするのがやっとだったが、父はそれを丁寧に頭にかぶり、とても綺麗だよとほめてくれた。フランは母の目を盗んで、花冠や草冠を作るようになった。

 

「お父様、綺麗。絵本の王子様みたい」

 

 寝る間を惜しんで考えた言葉だ。父は驚いたようにしばしフランの顔を見つめていたが、やがてニコッと笑ってフランを抱き上げた。

 

「ならフランはお姫様?フランの金髪だって、絵本の中のお姫様みたい。きっとみんなに優しさを届ける素敵な王様になるんだね」

 父は照れ隠しのためか、フランの身体をこしょこしょとくすぐる。フランは体を捻って、きゃっきゃとはしゃいだ。

 

 ある日は、フランは父のベッドで一緒に横になって取り留めのない話をした。

 

「お父様……、もし旅できるとしたら……、どこがいい?」

 

 重くなった瞼をこすりながら父に問う。

 

「ん~、そうだねぇ。一面が雪に覆われた場所があるらしいから、そういうのも見てみたいなぁ。確か、北の方に行けばあるんだったけ。ここは、冬は寒いばかりで雪が滅多に降らないから、一度そういうのも見てみたいね」

「雪?」

 

 父の腕の中でまどろみながらフランは訊ねる。

 

「あぁ、フランはまだ見たことがなかったね。もうちょっと時間がたてばみられると思うよ。あと10年後か20年後か……。たまに降るんだよね。白くて小さくて、冷たい粉が。フランみたいに綺麗なんだよ」

 

 父はフランの頭を撫でながら語りかける。

 

「……ぅん」

 

 フランの身体から力が抜け、穏やかな寝息を立てた。フランの頭の中では、月夜に照らされてさんさんと降り注ぐ白い粉の情景が広がっていた。冷たさに驚き、父と広い平原を走り回る、幸せなイメージ。

 

 腕にかかる確かな重みと、無防備で愛らしい寝顔を愛でながら、父はこの日がいつまでも続いてほしいと願った。

 

 

 

 

 その日、最悪の事件が起こった。

 夕暮れ時、いつもよりだいぶ早く目を覚ましたフランは、父の部屋に入ろうとして中から言い争う声が聞こえてきたのに気づいた。びくっと身体を震わせ、ドアノブに伸ばしかけた手を思わずひっこめた。母の怒った声を聴くと、無条件に体が委縮してしまう。

 

 母の怒気を含んだ声は廊下まで響き、尋常ならざるようであった。

 

「貴様が――あ、やかすか……い、でも――脆弱な――」

「あの子はも、じゅ――ばって…………さしい子なんで――。ゆるし――――さい」

「な、貴様もそこ――たてつ…………なった。歯向――良人(おっと)な、要らん!!」

「えっ――、あ、が……」

 

 それまで激しく言い争っていた声がぴたりとやみ、恐ろしい程の静寂が訪れた。

 ドア越しでは何が起こったのかわからない。しかし、フランは嫌な想像が頭を駆け巡り、いてもたってもいられなくなってドアを開けた。

 

「お父様!」

 

 フランが部屋に入った時、父は母に血を吸われていた。父は、母の身体を力なくつかむばかりで引きはがせない。吸血鬼が怒ると吸血衝動を感じることがある。目の前のそれも、反射的なものだったのだろう。

 

 ひととり吸い終わって落ち着いた母は、ぷはっと息を吸い、フランの方をみやった。

 

「……なんだ、貴様か。貴様はこいつに似たのだろうな。こうも反抗的になるとは。まぁ、少し血を吸われればこいつも落ち着く……」

 

 見れば、母の腕の中で父は事切れていた。高い頻度に及ぶ虐待のために著しく体力が落ち、健康な状態であれば耐えられた吸血量が致死量になっていたのだ。愚かしくもそのことに気が回らなかった母の手で、父は殺された。

 

「……しまったな。そういえば弱ってるんだった。加減を誤ったか」

 

 頭をぽりぽりと掻いた母は、どさっと父をぞんざいに投げ捨てた。『まぁ、他の男を見繕えばいいか』と呟いて。

 

 

 

 

 ――――なんだそれは。

 ――――――なんだ…………これは?

 

 

 

 

 そのときが、フランの能力が覚醒した時であった。

 目の前のこいつを破壊したい。

 大切なものを奪ったこいつを消し去りたい。

 即座に徹底的に総てを完膚なきまでに。

 内向的で母の暴力に怯えるだけだったフランが、本気で力を欲した時。激烈な怒りに身を焦がされたフランは、つんざくような叫び声をあげ、母に手を伸ばし血がにじむほどの力で握りこんだ。

 

「あああああああああああ!!!!!!」

「――ッ!?」

 

 母は回避する間も、悲鳴を上げる暇もなく、血霧になって霧散した。

 血が飛び散り、フランは放心したようにどさっと膝から崩れる。悪辣な運命に叩きのめされたフランは、すべての気力を失い、そのまま意識を手放した。

 あとには、血の海に折り重なるようにして倒れたフランと父の姿があるだけであった。

 

「――ン、フラ――、……フラン、起きて!何があったの!?」

 

 レミリアがその惨状に気づいたのは何時間も立ってのことであった。

 父が死に、母の魔力がこもった大量の血だまりを見て両親が死んだことを知ったレミリアは絶望に打ちひしがれながらも、最後に残ったフランを助けようと涙をこらえて抱き起す。肩を揺さぶられて目を覚ましたフランは――

 レミリアに酷薄な笑みを向けていた。

 その日から、500年弱フランは地下に閉じこもるようになったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……、ぃ」

 

 その話を聞いていた咲夜の目からは、一筋の涙がこぼれていた。

 

 肌を伝う涙の感覚ではじめて自分が泣いていたことに気づいた咲夜は、姿がブレたかと思うと泣きはらしたかのような赤い目でレミリアに向き直っていた。レミリアは力みを抜くように、ふーっと長い溜息を吐いた。

 

「……ちょっと、重い話をしちゃったわね」

「いえ。教えてくださりありがとうございました」

 

 咲夜が深く頭を下げた。

 レミリアが家族のことを話したのは、先日さとりのところにいったことがきっかけである。こいしがサードアイを閉じてしまったことの顛末を聞き、ひどく同情した。そのとき、咲夜にはフランの過去を話していなかったことを思い出したのだ。フランも昔よりもだいぶ明るくなってきて、立ち直ってきたのだろうからいい機会だと咲夜に語り聞かせた。

 

「前、どうしてフランがあなたになついているかか聞いたことがあるでしょう」

「はい」

「多分、あなたのことをお父様と重ねているのかもね。全てを受け容れてくれたお父様。でも、突然目の前で死んでしまったお父様。あの子にとってはそれが一番トラウマで、だからこそ閉じこもってしまっていたのだと思うけれど」

 

 咲夜は思い出す。

 泣いていたフランをはじめて寝かしつけた日。確かに、あの時は父を呼んでいた気がする。添い寝をして背中をやさしく叩いたらそのまま眠ってしまったが、あれは父に寝かしつけられた時を思い出して安心したのだろうか。

 

「だから、咲夜。フランの隣にいてあげて。多分、あの子にとってはあなたが居てくれるだけで嬉しいから」

「……分かりました」

「ありがとう」

 

 レミリアの顔は、弟を思う慈愛に満ちた姉の顔であった。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

「たったらたーん!全猿抹消血判状ぉ~~!」

 こいしは、署名と拇印がされた紙をフランの前に見せびらかせた。

「……なにそれ」

「この世の猿共をすべて消すことを誓った紙だよ~」

 

 長い期間、日本を彷徨ってきたこいしは何度かこのような連判状を目にしたことがあった。それを知った時は、自分の手を少し切ったからと言って何になるのかとバカにしていたが、これは確かに連帯感を高められるらしい。裏切りの防止にはならないかもしれないが、一つのチームであるという感覚が強く持てるようになるのだ。

 

「んな物騒な。だれが名前書いてるの?」

「ボクとフラン」

「はぁ!?」

 

 フランがこいしの持つ紙を取り上げてみてみれば、確かに自分の名前が自分の筆跡で書かれてあり、かつ丁寧に拇印(ぼいん)までされていた。

 

「い、いつのまに……!」

「にっしし~~」

 

 こいしはにやにやと笑いつつ、一枚の紙と血がついたナイフを取り出した。フランはそれに目を向けると、紙は真ん中が長方形にくり抜かれその横に『お名前』と書かれてあった。

 

 つまり、こいしはフランの無意識下で、名前を書くよう求められた枠に惰性的に名前を書かせ、且つフランがぼうっとしている間にナイフでフランの指を少し切って拇印までさせたのである。回復能力が高いために、その程度の傷であれば気付かぬうちにすぐに完治する。あとはフランの指の血を拭きとってやれば、もうこいしがやったことに気づくこともないという寸法である。

 

「この!」

「あぁ!せっかく用意したのに、破んないでよぉ~~!!」

 

 フランは血判状を粉々に破き捨てる。こいしがおもちゃを壊されたような顔になるが、そんなもの無視である。

 

「いつになったらボクの計画に賛同してくれるんだろう……」

「いつになったらそんなことに手を貸さないと分かるんだ……」

 

 ほとほと困ったような顔をするこいしに、フランは苦々しそうな視線を向ける。

 むつかしい顔をしていたこいしであったが、ぽつりと疑問の声をあげた。

 

「ん~~。でも、本当に分かんないんだよねぇ」

「なにも?僕はこいしほど頭がイカレてないことは疑問の余地もない」

 

 フランは食い気味に否定するが、こいしは苦笑いしつつ『ちがうちがう』と制した。

 

「フランは、僕みたいにひどい体験をしたような雰囲気がする。似てるからわかるんだぁ。だから、壊したいって思うこともあると思うんだけど……。()()()、フランはそういう能力を持ってるんじゃないの?」

 

 妖怪にとって、それがもつ能力は自らの生きざまを決めるほどの影響力を持つ。だが、大抵の妖怪にとって自分の能力は所与のものであり、偶然発現したものであると考えているが、こいしにとってはそうではない。種族の生きざまから逸脱した時、彼の能力はまさに彼が望むような形に変質した。彼にとって能力は、『生きざまを決めるもの』ではなく、『生きざまから生まれるもの』である。

 

 そういう前提に立っているため、フランが悲惨な体験をして『すべてを壊す』能力を発現させたとしても不思議ではなく、だからこそそういう生きざまをしていてもおかしくはないのである。いや、もしかしたら何かが違えば本当にそうなっていた(破壊の限りを尽くしていた)かもしれない。だが、今の彼は、破壊と混乱とは縁遠い存在のような感じがする。弾幕ごっこで凶暴な一面が垣間見える程度だが、本来ならその程度で済むはずがないのだ。

 

「なのに壊したがっているようには見えない。何がそうさせているの?」

 

 改めて問われたフランは、すぐに咲夜の顔を連想した。いまやフランにとって咲夜は単なる従者の立ち位置にいない。

 

「そういえば前、悲しむ人がいるって言ってたよね。その人ってもしかして咲夜さん?フラン、咲夜さんのことが好きなの?」

 

 フランはそう問われ、やや赤くなった顔でこくっと頷く。

 こいしは『え~~!?』っと目を見開き、何を思ったのか『へぇ~~』と満面の笑みになる。

 フランは恥ずかしそうにつぶやいた。

 

「お兄ちゃん……。いや、おとうさん…………みたいな、感じがして……」

「あぁ、そういう……」

 

 こいしのテンションが一気に下がった。

 『キマシタワー は立たなかったか』などとぶつぶつ呟いている。なにかの建築物を建てる魔法だろうか?建築魔法の魔導書も読み込んだことがあるフランでもそのなんとかタワーは知らなかった。よもやここで発動する気だったのだろうか。規模は分からないが、そんな魔法の発動条件が満たされなかったようでなによりである。

 

 何事か呟いていたのを言い終え、なるほどと頷くこいし。

 

「まぁ。そういう人がいるからそんなに落ち着いてるんだね」

 

 こいしが顔をあげ、わざとらしく見せつけるように肩をすくめた。

 

「いいなぁ~~、いいなぁ~~。フランにはそういう人がいて。ボクにはそんな、よしよしなでなでしてくれるおとこの人なんていなかったもんなぁ~~。そのせいでひねくれちゃったのかなぁ~~。あぁ~~あ~~~。不幸だなぁ~~」

 

 フランは『はぁ!?』と素っ頓狂な声をあげる。こいしはフランの方をちらちらと物欲しそうに目配せしていた。こいしは期待に満ちた顔をしている。

 なんとなくやってほしいことを察したフランは、恥ずかしさのために目を瞑り、おもむろに両手を広げる。

 

「…………ほら」

「な~に?どうしたの、フランたん」

「フランた……ッ!?んんっ!……な、撫でてあげるから、おいで……」

「わーーい!フランたん大好きーー!!」

 

 こいしはがばっとフランに抱き着く。

 フランは羞恥に顔をゆがませながら、こいしの頭をゆっくりとなでやった。

 こいしはすりすりとフランの頬に自分の頭を撫でつけた。

 

「……はぁ。今頃弟かぁ」

 フランはぼそっと呟く。

「なんか言った?」

「なにも」

 

 その日以降こいしは異様にフランにべたべたくっつくようになってしまった。鬱陶しいことこの上ない。しかし、代わりに『猿共殲滅』の話はしなくなったので、この苦労もちょっとは報われているのかもしれないとフランは思うようにした。

 

 

 

 

 

 異様に距離感が近い二人をみたレミリアが、『ほ、本当に……、フランおとこのこが好きに……!?!?』と早合点し、弟の恋路を応援するためになんとか心の整理を付けようと苦闘したのはまた別の話である。

 

 




この話では、18世紀プロイセン王国にてヴィルヘルム一世がフリードリヒ二世に行った苛烈な「教育」を念頭に置いていました。フリードリヒ二世は母の影響で芸術を好んでいたのですが、その軟弱な態度を気に入らなかった父に虐待されていたようです。逃亡を図ったフリードリヒ二世は父に親友を殺され、以来従順になりました。
フランたちの母はより過激ですが、そこは弱肉強食を旨とするものたちの価値観からだと思います。

これまでのお話の中で一番重かったかと思いますが、読んでくださりありがとうございました。



とりあえずは、このお話で区切らせていただきます。
一度ものを書くのは諦めていたので、予想以上に高評価を頂いてまさに望外の喜びでした。


東方Project様や、素敵な東方二次創作やあべこべものを作ってくださった先達の方々にもこの場を借りて感謝を。
ありがとうございました。

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