がっこうぐらし!恋愛死に別れEND『この身命を愛に捧ぐ』攻略(たどり着けるとは言ってない) 作:ヒャル
りーねえといっしょにおうちを出て、がっこうにいく。
がっこうではともだちとおしゃべりして、おべんきょうもして、せんせーにおこられたりもして…
わたし『わかさるり』は、今日もそうしておわるんだろうとおもってた。
でも、わすれものにきづいてきょうしつにもどろうとして…ひめいがきこえておそとを見たら、だれかがたべられてた。
びっくりして、ちかくのきょうしつににげて、ろっかーにかくれて……ひめいと大きな音がずっときこえてて、すごくこわかった。
かくれてるうちにしずかになったけど、わたしもたべられちゃうかもっておもうと出られなくて……つかれて、いつのまにかろっかーの中でねちゃってた。
「……!」
でも、いきなりろうかのほうから音がして。びっくりしておきてこえを出しそうになっちゃったけど、がまんした。
こんどこそ、わたしもたべられちゃうかもしれない。そうおもうとこわくて、りーねえにあいたくて……ろっかーの中でふるえてたら、やさしいこえがした。
「…誰かいるかな?助けに来たよ」
「……とーにい?とーにいなの?」
おっかなびっくりでとびらをあけると、とーにいが…まえに車にひかれそうになったわたしをたすけてくれた、りーねえのたいせつなせんぱいさんがいた。
「よかった…!とーにい、こわかった……こわかったよぅ……!!」
おもわずだきつくと、とーにいはあたまをなでながらぎゅっとだきしめてくれた。
「……大丈夫。もう、大丈夫だから……」
とーにいはとってもあたたかくて……ずっとがまんしてたなみだが、どんどん出てきちゃった。
なみだと、はなみずでとーにいの服をぐちゃぐちゃにしちゃったけど……とーにいはいやなかおもしないで、わたしがおちつくまでずっとそばにいてくれた。
おちついたら、こんどはきゅうにおなかがなっちゃってはずかしかったけど……とーにいはわらって、めろんぱんとのみものをくれた。むちゅうでたべためろんぱんは、とってもおいしかった。
でも、わたしはたすけてもらったけど。りーねえは、だいじょうぶかな……
噴き上がる黒煙、道路に散乱する事故車…そして少ないながらも校庭を彷徨う『かれら』。昇り始めた朝日に照らされるのは、昨日と変わらない地獄のような光景。
できれば夢であって欲しかった光景を屋上から見渡し、私『佐倉慈』は小さくため息をつく。
人が人を喰らうという地獄。
映画の中にしか存在しないと思っていた非日常。
つい先ほどまで良き隣人だった人々が、“なにか”に変わってしまい次々と襲い来るという地獄絵図。
吐き気を催すような血染めの現実が、いつまでも続くと思っていた日常を押し流していってしまった。
出来ることなら、これは夢なのだから目が覚めるまで待とうと現実逃避の殻に閉じこもってしまいたい。
出来ることなら、全て投げ出して何処かの誰かが助けてくれるまで情けなく泣きわめいてしまいたい。
でも……3人の生徒の命を背負っているという事実が、教師の道を選んだ矜持が、かろうじて崩れ去ってしまいそうな私の意思を支えている。
「……他の人たちは、無事なのかしら……」
眠っている間に着信の一つも入っていないかと淡い期待を抱いていたが、開いてみた携帯電話の画面には着信を告げる通知はなかった。
……あの時、お母さんと連絡がつかなかったのは“そう”いうことなのだろう。
電話帳に並ぶ名前を見る。この中で、果たしてどれだけの人が生き残ってくれているのだろうか。
――もしかしたらとうに世界は滅んでいて、生き残りは自分たち4人だけではないかという不安が時折頭を過ぎり、教師として強くあろうとする心を絶望へ引き込もうとする。
「……ッ、あっ!?」
そんなことを考えながら携帯電話の画面を見つめていると、突然着信音が鳴り響き始める。画面に表示されるのは、気心の知れた従姉弟の名前。
『もしも「もしもし、桐吾くん!?」………』
「もしもし?もしもし!?」
『……ぁ、もしもし?うん、俺だけれども……』
「ごめんなさいね。やっと知り合いと連絡がついたものだから、興奮しちゃって……」
気圧された様子で、恐る恐る返事が返ってくる。
突然こちらが大声を出して驚かせてしまったのだろうけど、こんな状況なのだから許してほしい。
「ともかく、無事で良かったわ。今はどこにいるの?私は3人の生徒と、高校の屋上に避難しているところだけど…」
『今は…鞣河小学校、だね。知り合いの子が無事か心配で……幸い、と言うべきかわからないけど、その子だけは保護できたところ』
「……あなたが責任を感じる必要はないわ。むしろ、1人でも救えたことを誇るべきよ。本来危険に飛び込む義務もないのに子供を救いにいったあなたの行動を元教師として、そして従姉弟として…誇りに思います」
他の子供たちを救えなかったからと素直に喜べないようだけど…本来その苦しみは大人が背負うべきものだ。
まだ未成年の学生に過ぎない彼には、そんな重荷を背負わせるべきではないのだから。
『…うん、ありがとう慈姉さん。……それで、この子を連れて避難するならどこがいいと思うかな?こんな状況じゃ、普通の災害時避難場所に行けばいいってわけでもないだろうし…』
「そうね…ねえ、どこに行くか決まっていないならこっちに来ない?知っての通り、高校は色々と設備が整っているし」
『それはありがたいけど…迷惑にならない?』
「心配いらないわ。むしろ、人手が欲しいくらいだもの」
『力仕事でどのくらい役に立てるかわからないけど…じゃあ、お世話になろうかな』
遠慮深い彼のことだから、もう少し渋るかと思ったけれど…守るべき存在がいる以上、迷っている場合ではないということなのだろう。
とにかく一人で抱え込んで無理をしがちな子だから、素直に頼ってくれたのはとても嬉しい。
ともあれ、頼もしい従姉弟が来てくれる…その事実に頬が緩んだところで、目が覚めたらしい若狭さんと目が合った。
「…あ、助けた小学生の子だけど…前に助けたっていう、園芸部の若狭さんの妹さんよね?」
『あ、うん。そうだけど…』
「若狭さんも一緒に屋上にいるの。ちょうど目が覚めたみたいだから、妹さんと話をさせてあげられない?」
気丈に振舞っているが、それでも心細いだろう若狭さんにも今私の心に宿った温かさを与えてあげたい。
この世の終わりのような光景の中でも、血を分けた家族が無事でいてくれるという事実は…確かに、萎えかけた心に生きようという強い意志を宿してくれるのだから。
屋上にある園芸部の菜園は、私『若狭悠里』にとっては家の次に大切な場所だ。
ひとつひとつ大切に育てた、自慢の野菜。深呼吸すると心地よく鼻腔を満たす、緑と土の香り。――そして、2年間を共に過ごした、大切な先輩との思い出。
残念なことに、園芸部には帰宅部では進学や就職に不利になるだろうから形だけでも部活動に所属しておこう、という人が多くて…純粋に植物のお世話が好きという人は希少だった。
その中でも、毎日のように屋上を訪れて菜園の手入れをしていたのは私と、一つ上の先輩だけ。
その先輩は、人の輪に入ろうとせず教室ではいつも静かに本を読むか勉強していて…整った容姿もあって、近寄りがたい雰囲気を醸し出している人だと聞いていた。
でも、毎日2人で過ごす内に…ただ人付き合いが苦手で不器用なだけの、人が良くて優しい人なのだと気づいた。
植物が好きというより、騒がしい場所が苦手だからいつも屋上に避難しているのだと言っていた少し困った、でもたくさんのことを教えてくれた先輩。
そして、私にとっては返しきれない恩のある先輩。
そんな先輩も数か月前に卒業してしまって、毎日屋上に来るのは私だけになってしまったけれど……先輩から引き継いだ菜園をしっかりお世話して。後輩たちに、私が先輩から教えられたことを伝えていって。
そして、私も後輩に菜園を託して卒業していくのだろうと…そう思っていた。
天を引き裂くような悲鳴が、地獄のはじまりを告げる号砲だった。
鳴り響く悲鳴と爆音。屋上から見える黒煙と地獄絵図。
屋上に駆け込んできためぐねえに何事か聞こうとして…更に男性を背負った見知らぬ女子生徒が現れて。そして――
「うわあああぁぁぁぁ!!」
“なにか”に変わってしまった男性の首を、女子生徒がスコップで一突きして。そのまま倒れた男性に、スコップの先端を何度も何度も振り下ろす。
「ぁ……ぁ……」
『女の子に力仕事をさせるわけにはいかないから』と、いつも先輩が使っていたスコップが血に染まっていく。
先輩との大切な思い出が、赤く汚されていく。
あまりに衝撃的な出来事の連続に、脳が処理しきれずに呆然と立ち尽くすことしかできない。
そんな時に再び耳に響いた爆音に思わず振り返って……その方角には小学校があると、ふと思い出した。
(るーちゃんは……あの子は、無事なの……!?)
大切な、私のたった一人の妹。
まだ小さなあの子が、こんな地獄の中に取り残されて…果たして無事でいられるだろうか。
あの子が交通事故に遭ったと聞いた時、衝撃のあまり気を失いそうになった。
あの子が無事だったと聞いた時、安心のあまり泣き出してしまった。
でも、あの時るーちゃんを助けてくれた先輩は……もう、いない。
恐怖と絶望と、そして何もできない無力感に侵され、足元がガラガラと崩れていくような感覚に襲われる。
――その後、皆で屋上のドアを塞ぎ、男性だったものを片付けて。めぐねえに促されるままに横になったけれど……安眠など、できるはずがなかった。
怪物たちが彷徨う中、炎に包まれる私の家。
恐怖に顔を強張らせ、泣きながら逃げ惑う私の妹。
…すべて夢だとわかっている。でも……これが現実になり得ないと確信できた平和な世界は、もう終わってしまった。
そして、屋上の菜園も荒らされ、血の海に沈められ……穏やかに私を見守ってくれていた男性の姿も、ゆっくりと『かれら』へ変わっていく。
やめて。
やめて。
これ以上、私の
冷たい手が立ち尽くす私の両肩を掴み、首筋に噛みつかれる……かと思った所で突然突き飛ばされ。
はっと、私の意識は現実へと引き戻された。
「はぁ……はぁ……」
硬いコンクリートの感触を背中に感じながら、乱れた呼吸を整えて上半身を起こす。
…めぐねえは既に起きていて、誰かと電話しているようだ。他の2人は、私の横でまだ寝息を立てている。
そして……できれば意識の外に置いておきたかったけれど。屋上の隅に置かれた、ブルーシートで包まれた“何か”が、昨日の出来事が質の悪い夢なのではなかったのだと思わせてくる。
(どうしてなの……?私たちが、いったい何をしたっていうの……!?)
やり場のない感情を抑えかねながら立ち上がろうとしたところで、ちょうど振り返っためぐねえと目が合い…めぐねえが微笑んでいることに気が付いた。
(私たちを励ます為の空元気……ではないわよね。心からの、安心したような笑み……)
外にいる誰かと連絡が取れたというのは喜ばしいけれど……こんな時に、何故笑っていられるの?めぐねえ。
「おはようございます、若狭さん。……この前卒業した、私の従姉弟の佐倉桐吾くんのことは知っていますよね?」
「あ、はい……園芸部の先輩でしたから、もちろん」
「彼、ちょうど親戚のお葬式でこっちに帰ってきていたのですけれど…鞣河小学校まで行って、若狭さんの妹さんを保護したそうです。妹さんも心細いでしょうし、声を聞かせてあげてくれませんか?」
「…っ!?はい、お借りします……!」
めぐねえが差し出してくれた携帯電話をひったくるように手に取って、耳元に当てる。
『……もしもしりーねえ?』
「…るーちゃん!?るーちゃんなのね!!」
一日ぶりに聞いた妹の声は、まるで数年ぶりに聞いたかのように懐かしくて……凍えていた胸の奥底が、ゆっくりと温められていくのを感じる。
「心配していたのよ、無事で良かった……!大丈夫?怪我とかはしてないかしら?」
『ずっとろっかーにかくれてたから…だいじょうぶ。おなかは空いてたけど、さっきとーにいにごはんをもらったから…』
「そうなの。……佐倉先輩には、感謝してもし切れないわね……」
怪我もなく、お腹を空かせてもいない。とても怖い思いはさせてしまったのだろうけど…とりあえずは安心できる状態のようだ。
『とーにいはりーねえのとこまでつれていってくれるって言ってるけど、りーねえこそだいじょうぶ?おけがとか、してない?』
「もちろん大丈夫よ。るーちゃんをお迎えする準備をしておくわね!……佐倉先輩に直接お礼を言いたいから、替わってくれるかしら?」
『うん、いーよ!』
元気いっぱいの声の後、少しの雑音を挟んで聞き慣れた声が聞こえてくる。
『……もしもし、若狭か?』
「はい。ありがとうございます先輩、またるーちゃんを助けていただいて……」
『いや……よく知っている子くらいは何とか助けたいと思っただけだ。大したことはしていないよ』
「それでも、私にとっては大したことですから」
何かと自分を下げるようなことを言いがちなのが、この先輩の悪い癖だ。
『…とにかく、2人でそちらに向かうから。若狭たちも、無理せず気をつけてな』
「はい。…るーちゃんのこと、よろしくお願いします」
『…俺にできるだけの力は尽くすさ』
……通話が終わり、電話をめぐねえに返して。
二つの声はまた聞こえなくなってしまったけれど……今の私の胸には、たしかな温かい光が宿っていた。
園芸部の古いノートを開いて、見慣れた少し癖のある筆跡を見ていると……また胸が温かくなって、大切そうにノートを抱きしめる。
……本当にありがとうございます、先輩。
もう先輩には頼れないと思っていたのに。…まさか偶然この街に戻ってきていて、るーちゃんを助け出してくれるなんて。
――ねえ、先輩?こんな壊れてしまった世界の中でも、あなたがいてくれれば……この屋上で笑い合っていた暖かい日々へ、きっと戻れますよね?
あなたまで失ってしまったら、私は――
ここから更にりーさんをずぶずぶに依存させてから死に逃げできると思っている男がいるらしいですよ(