警備局員勤務記録   作:日本陸軍広報部支部

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勤務記録 1-01

最近は変則的な勤務でイライラする。これも全てあの連邦生徒会長のせいだ。折角2年生に上がったっていうのに、ごたごたのせいで待遇は変わらないし……精々給料が少しだけ上がったくらい。そんな文句を心の中に押しとどめようとしながら、信号に従い車を進める。真っ昼間ということもあって、車がなかなか進まない。

 

「はぁ……本当に別の学園に進学してれば……」

「……」

 

いつもなら大抵、求めてもいない返事が数コンマで帰って来るのに、今日は返ってこない。だが概ね予想は着く。こんな誰でも疲れるような肉体労働を変則的に行う───誰だって眠たくなる。私だって、正直眠い。だけど、ハンドルを握っているので眠るわけにもいかない。そして、そんなことを横のマイペースな人間が気にする訳がない。改めて、全てを察して左を見る。

 

「あぁ……苦しゅうない。むにゃ……」

 

 案の定だ。正直、鉄拳を今にでも食らわせたいところはあるが、流石にやめておく。代わりに、横においてある羊羹を手に持ち、丸々一本を思い切り口の中に押し込んだ。

 

「う゛っ……おえっ……や、やめて」

「どう、美味しい?」

 

口の中に押し込まれているものに予想が付いたのか、相勤は私の手を払い除け、羊羹を取る───その行動は素早かった。相変わらずだ。憎らしいが私の相勤はこうでないと。

 

「食べさせてくれるならさ、もうちょっと優しくしてよ〜」

「まあ、起きてたら考えるよ」

 

暫しの間、静寂が訪れる。だが、静寂と言っても防音室の中という訳でではない。車が行き交う音、生徒たちが会話する声、町中に流れている広告音声など、様々な音が耳の中に入ってくる。

どれも愛すべきで、私たちが守るべきものだ───などと言ってみる。まあ、そんな崇高な理念など、私たちみたいな下っ端には関係ない。似たような言葉はBDにも教本にも出て来るが、全く響かない。きっと書いた人間もそう思っているに違いない。

 

「次の休暇って、いつだっけ」

「■■■ちゃん、それ一昨日の夜勤のときも言ってたよ」

「ああ、そういえば確かに。それで、いつだっけ」

「会長がどっか行ってから、当分は休みなしだよ」

 

私は今、穴を掘っている。自分が永遠に休むための穴を───要するに、今私は墓穴を掘った。現実を再び明確にしてしまった。こんなことを確認しても色々とすり減っているという事実が、輪郭を得ていくだけだ。今、私の真横でぼーっと街を見ている相勤が羨ましい。明らかに何も考えていない顔だ。ただ、表面的なことを見て、感想を得ることしかしていない。

 

「そういやここら、いつぞやかのコンビニ強と───」

 

相勤の他愛のない会話を始める試みは、無線のノイズによって阻まれた。何かしら面倒事が来る。今、巡回するだけでも億劫なのに……これから更に手間のかかる事案がやって来るというのは、実に耐えがたい。いっそスケバンにでもなりたい。

 

『警察本部より各局、警察本部より各局。連邦矯正局から7名の囚人が脱走した。対応可能なPCは連邦矯正局へ至急急行せよ!! 繰り返す───』

 

司令もかなり動揺の色が見える。そりゃあそうだ……正直、これは誰にとっても想像以上だ。()()()は精々銀行強盗程度のものだと思ってた。ならず者共の暴動程度だと思ってた。だが、矯正局に収監されている囚人が脱走したとは───

 

「面白い冗談だね」

「全くだよ……」

「どうする?」

「本部に一応連絡入れといて」

「りょーかい」

 

緊急走行を知らせる赤と青の光と、けたたましいサイレンが鳴り響く───街のあちこちから。向かう先は皆同じなのだろう。一路、連邦矯正局へ。ロクでもない戦闘が待っているのだろう。私たちのような平凡な雑兵など、矯正局から脱獄するような実力者にとっては、虫けらも同然だ。

 

「私は、後ろで色々やるから、頑張ってね」

「●●●ちゃん」

「ん?」

「死ぬときは一緒だよ」

「勘弁してほしいかな……」

 

相勤はそう苦笑いしながら、アサルトライフルの手入れをしている。いつもはぼーっとしているが、火器の手入れだけはきちんとしている。だが、新品という訳にはいかない。キヴォトスという地では、数えきれないほどの戦闘行為を行っている。それに対応し、対抗し、そして職務を執行するために、引き金を引いてきた。その引いた数だけ、銃は年を取っている。

 

「矯正局に収監されてた人らってどの位強いんだろ……」

「少なくとも、私たちの数倍は強いだろうね」

「それはそうなんだけどさー……」

 

相勤は、今日になって初めて、頭を悩ませるような表情をした。まあ、私も正直なところ矯正局に収監されている人の強さなど、知るはずがない。だが、幾人かの名前なら知っている───「狐坂ワカモ」「栗浜アケミ」「清澄アキラ」───この3人だ。逆に、これ以外は1文字たりとも知らない。だが、どれと当たっても黒焦げになることは確定している。正直私たちが現着するより先に逃げおおせていてほしい。

 

「そろそろだ」

「……居ませんように」

「同じく。祈っとく」

 

そう言いながら私は思い切りアクセルを踏み込んだ。結局、私達が市民にとって最後の砦だ。どれだけ現着を遅らせようとしたってこの最悪な状況は変わらない。

それに、例え意味がなくとも……その行動をしないと気が済まなかった。

 

「やっぱ、真面目だね」

 

相勤が、そんなことを言っていたような気がする。だが、そんなことを気に掛ける暇はなかった。

交差点を曲がり、直進し、危険と速度のバランスが取れるギリギリのところを走った。

 

「ねえ、なんかここ辺りやけにウチの車多くない?」

「……嫌な事言わないでよ」

 

応援要請をしてきた連中がいた場所に近づいてくると共に、ヴァルキューレ警察学校の車両が明らかに増えてくる。だが、ほとんどはボンネットから黒い煙を出していたり、もぬけの殻だったり、正直どれもろくでもない状態だった。多分、周辺を巡回していた一般の警備局員や生活安全局員が対応して一時的に帰らぬ人になったんだろう。

FOX小隊を動員してようやく捕まえられたヤツもいるという噂だし……私たちも含め時間稼ぎが関の山だ。いや、時間稼ぎさえ出来ないかも。

 

「もうすぐだね」

「ん、本部に連絡入れといて」

「こちらシラトリ46。間もなく現着、どうぞ」

『こちら本部、了解。現在他の対応に向かったPCとの連絡が取れていない。合流した場合は報告せよ。以上警察本部』

 

相勤がせっせと事務的な事を済ませている間、私は車を停め周辺を警戒する。

改めて街は酷い状態だ。

ビルの1、2階部分は窓ガラスが無かったかのようになっており、窃盗行為なども行われているように見える。多分野次馬として集まったホームレスやスケバンのせいだろう。

街路樹は辛うじてそこに立つことが出来ているが、痛々しいほどの弾痕や焼け跡が染み付いている。

 

「はい、終わり」

「行こっかあ……」

「乗り気じゃなさそうだね」

「当たり前だよ!! 自殺行為を誰が自分からしたいと思う?」

「いやあ? 私の■■■ちゃんならそう言うかなって」

 

()()というところがどうも癪に障るが、あまり気にしないことにする。

だが一発は小突いておく。

じゃないと平等じゃないし……さて、小突くと同時に私たちは車両から飛ぶように降り、近くのマトモな遮蔽物へと陣取った。その遮蔽物は他のものと比べて綺麗なトランスボックスだ。

だが、それは戦闘によって深緑の塗装に少し茶色が混じった、正に迷彩柄のようになっていた。

 

「こっから歩くしかないね」

「まあ車両の中、ガソリンで火葬されるよりかはマシかな」

 

そんな会話をすると、私たちは横並びで歩き始めた。

私は動きやすいキャップを、相勤は今も被っている理由がわからない官帽を身に着けて。

それにしても、銃声は確かに聞こえるが驚くほど静かだ。そんないつもの巡回と何ら変わりない少し荒れた歩道を歩いていく。

防弾チョッキと手錠などの装具が擦れ合い、安っぽい摩擦音が耳まで届いてくる。

そんな音に耳を傾けるほど静かで平和だ。目を閉じればの話ではあるけど。

 

「ねえ、なんか聞こえない?」

「確かに、なんかそっちの路地から聞こえる」

 

聞こえたのは鼻歌だった。

戦闘によって薄汚れてしまった街並みとは正反対な、透き通った鼻歌。

私が求めるような平和で安定した世界が、その先に広がっているとさえ思えてしまうほどの───私が聞き惚れていると、相勤は私に目配せをして見てくるように促した。

はぁ……現実に戻ろう。こんな状態の街で余裕綽々の人間など、どうせ気の狂った者か圧倒的な強者なんだろう。

そして今は圧倒的な強者が多数放出された記念すべき日だ。

墓は作っておくべきだったかもしれない。

 

「ふんふ~ん♪」

 

いた。発見してしまった。

幸いまだ向こうにはバレてないらしいが、今変に物音を出したら私は見知らぬ天井を見る羽目になるに違いない。しかし、噂に聞いてはいたけどいざ見てみると恐ろしい。長い金髪や赤い服、そして鍛え上げられたその肉体。間違いなかった───栗浜アケミその人だった。

今はどうやら12.7mmの愛銃と四連装ロケットランチャーを整備中らしい。

あれを携行して難なく扱えるというのが、彼女の異常さをわかりやすく表している。

 

「さあ、そろそろ参るとしましょうか」

 

立ち上がった、そしてこっちへ顔を向けた。

……え? 

嘘だ、バレてなかったはず……だがこれは間違いなくバレている。

どうしよう、さっさと逃げようか───いや、そんなことをしてもあの武器の射程では背中を間違いなく撃たれる。意味を持つことを放棄した考えがいくつも浮かび、その度に投げ捨てる。

彼女が足を踏み出す音が聞こえた。

それの足音が近づくと共に、私の心臓は鼓動をより加速させる。

 

「あら?」

 

その時、彼女はその声と共に足を止めた。

それと共に、私の視界には見慣れた人間が写った。

彼女はあのときと同じく銃を据え付け、照準器から対象を睨んでいる。

射撃は、相勤のほうが早かった。当然と言えば当然だ。

放たれた銃弾は訓練通りの軌道を描き、目標に向かって突き進む。

そして、着弾した───

 

「うっそでしょ……流石に硬いにも程がある」

 

……あれは、本当に普通の肉体なのか? 

相勤が繰り出した弾は確かに栗浜アケミに向かって直進し、命中した。

だが、効果は無かった───弾かれてしまったのだ。まるで、装甲車に銃を撃っているかのように。目を疑ったが、偶々初弾が曳光弾だったこともあり渋々認めざるを得なかった。

ヤツは正に怪物だ。私たちでは万に一つも勝てる要素は無い。

 

「不躾なワンちゃんですわね……教育するとしましょうか」

「……勘弁願いたいかな」

 

相勤のことだから、応援はすでに呼んであるだろう。

公安局の特車も来てくれるといいんだけど……まあ、少し後の事を考えても仕方がない。

閃光弾のピンを抜く。

そよ風よりも、目くらましになる方がやる価値はあるだろう。

 

「手榴弾、行くよ!!」

「もう一人、やはりいましたか」

 

私は、ヤツの顔めがけて閃光弾を投げた───そして走った。元来た方向へ、相勤の元へ。

走り始めたとき、重苦しい金属音が聞こえた。そして間髪を入れずに閃光弾が炸裂する。

私たちにとっては、それが唯一の光だ。あまりにも一瞬で、強烈な光だった。

 

「さっさと……行こう!!」

 

私はそう言ったんだと思う。自分の発言すらあやふやだ。だが、そう考える前に私は相勤の肩を掴んで思い切り引いた。その意図に気付いたのか、●●●ちゃんはついてくる。さあ、増援が来るまでは逃げよう。その後は───病院送りかな。そんな絶望的な状況を増長させるように、風が吹いてきた。向かい風だ。だが、それに足を掬われる訳にはいかなかった。

 

「こっから離れよう、行くよ」

「りょーかい」

 

大通りに出たところで、手早く話を終わらせる。今はここから離れることが最優先事項だ。

彼女と相対するのは、公安局が到着しても遅くは無いだろう。意味もなく病院送りになるのだけは嫌だ。1両も車が通ることのない片側1車線の道路を走り抜け、店員が逃げただろう牛丼チェーン店に目星をつけた。

 

「■■■ちゃん、お腹減った?」

「そこまで食い意地張ってないよ……真ん中のカウンター、丁度よさそうじゃない?」

「まあ、隠れるのには十分そうだね」

 

私が先頭に立ち、ガラス戸を押して入店する。中はそこまで荒れている様子はない。

汚れにくいように加工されている木製の机や椅子、そして扉を押して出る必要のないよう付けられた通路と、それに付けられたカウンター。そこには食べかけであったり、空っぽの丼がいくつかある。まるで、人だけが瞬間的に消え去ったようだ。水の1つや2つは倒れていそうなもんだけど……

 

「こっからどうする?」

「増援は?」

「公安局がなんとか手を回してくれるっぽいよ」

「そっかあ……」

 

公安局が来るまでは暇なので、私はスマホを開く。

これもそれなりに型落ちになったなあ……最近の端末の進化にはついていけない。

いや、知識がどうとかいう訳ではなく、金銭的な面で。

 

「ニュースってどうなってるのかな」

「ヘリの音は聞こえないし、生徒会の方々の記者会見じゃないかな」

 

どうせろくでもない質問が多く飛び交っていることだろうと思うが、相勤の興味に従ってサイトを開く。もちろん、音量は最小限に。

さて、こういうときは結局クロノスが一番手っ取り早い。確かに荒唐無稽な内容を垂れ流したり、ゴシップを大っぴらに取り上げることもあるが、記者会見を見るのには全く支障はない。

 

『現在のキヴォトスの混乱、主席行政官は何が原因だとお考えですか?』

『はい、今般の状況は連邦生徒会内部の問題の為発生しており、現在事態の収拾を図るため、現在は───』

 

案の定だ。聞くに堪えない質疑応答の波が押し寄せては引いていく。

相勤も見たいといったクセに、私のスマホには見向きもせず自分のスマホを弄り始めている。

あの光景を見ていると辟易するのは理解できるけど……

 

特車(戦車)の音だ」

「行こっか……」

 

強大な敵に追われて逃げおおせた後に救援が来る───作品が作品なら、そこから爽快な掃討作戦が始まることだろう。私もそうなることを切に祈っている。はぁ……死地に赴かないといけないらしい。相勤の背中を叩く。

 

「痛っ……なんで?」

「気合入れってやつよ、病院で会おうね」

「……そうだね」

 

店内に備え付けの電灯は灯っておらず、理論上で言えば外の方が明るいはず。だけど、私にはそうは見えない。

外は厚い雲に遮られているのか、スマホの光によって照らされている店内のほうが明るく見える。

どうしても気が進まない、出たら最後な気がする。だけどこの後公安局の連中にチクられたら面倒だしな……腹を括って扉を押し開ける。

 

「あ、連絡してきた警備局員だな?」

「うん、そうなるね」

「なんか歯切れ悪いな……」

 

公安局の特車車長がヘルメットを少し上げ、頭を掻く。

深い青に塗装された車体はその大きな鋼鉄の身体とも相まって、見る人に警察としての威厳や、近づき難い印象を与える。エンジンから排出される煙は灰色に染まっており、曇り空に溶け込んでいく。

 

「それで、件の脱獄したヤツは?」

「あっちの方だよ、先行してくれない?」

「ああ、任せろ」

 

車長は無線機を手に取り、3両からなる特車小隊の各車に指示を飛ばす。

どうやら聞いている感じでは小隊長車が1両で私たちと、別で来た公安局の連中と一緒に向かい、大通りに誘導して出てきたところを叩く寸法らしい。

策を弄することで勝てる相手だったらいいんだけど……

 

「前進!! 遅れるなよ」

 

威勢のよい前進の号令が特車より周囲に伝わった。

鋼鉄の身体は、生身の肉体を周囲に侍らせながら前進する。

まあ、私たちも特車がいないと困るし、win-winの関係ってやつ。

背中を、移動する壁に預けられるというのはかなりの安心感だ。

 

「流石にここまでいたら勝てるかな?」

「当たり前よ、公安局に任せておきな」

 

車長は無い胸を叩いて、自信有り気にそう言う。

そこまでの自信を身体全体で表現してくれると、フラグを通り越して安心感すら覚える。

だが、相勤が言った通りになるとは思えない。

戦車と装甲車が何台も集まる場を、自らの力で粉砕して潜り抜けたらしいし。

 

「ま、当たってみれば分かるでしょ」

 

そんな言葉で、私は一旦心の内にある不安を騙すことにした。いや、騙すというよりも保留の方が正しいだろう。

そうやって考えている内にも、栗浜討伐部隊は路地を進んでいく。

先に彼女がいたところも通ったが、そこには二足歩行戦車かのような踏みしめた跡しかなかった。それと12.7mmの薬莢も。

 

「居ないな……」

「あんたらを探して別の遠いところに移動したんじゃない?」

 

公安局員がそう言って少し笑っている。

まあ、それなりの時間を牛丼屋でやり過ごしたし、そうであったら願ったり叶ったりだ。そうと決まったらさっさと撤収する準備を───

 

「……前方、恐らく」

「射撃用意!!」

 

皆、自分が警戒すべき方位を警戒していたが、それが正面の1点に集められた───2つの言葉で、先程の呑気な雰囲気は消し飛んだ。

長い金色の紙、圧倒的な筋肉、胸に巻きつけられたサラシ、その巨躯に見合うロケット砲と重機関銃。間違いない。栗浜アケミだ。見つけてしまった。

再びの絶望が訪れる。

 

「探していたのですよ? ヴァルキューレの不躾なワンちゃんを」

 

その眼には、殺意が籠っているようにも思えた。その圧に、今にも逃げてしまいたいと思う。

先は逃げる正当な理由があったが、今はそうではない。今持てる全戦力がここにある。

もう後には退けない。腹を括って、銃を構える。

 

「撃て!!」

 

問答無用の号令によって、戦いの火蓋は切られた。この中で最も貫徹力があり、威力があるであろう砲弾が特車から放たれる。

それと合わせ、私たち随伴も射撃を始めた。

私はショットガンを装備しているが、圧倒的な強者相手に近づいて戦える実力も、勇気もないのでスラグ弾を込めている。

 

「■■■ちゃん、これ効いてるのかな?」

「さあ、信じるしかないね」

 

そう、信じて撃つしかない。先よりも数倍の弾丸が彼女に向かったのだ、少なくないダメージを与えていて欲しい。

そう願っていると、初手にぶち込まれていた砲弾による土埃や爆炎が晴れてくる。そこには───

 

「盛大な歓迎、ありがとうございます」

 

上品に笑いながら、そう言う鋼鉄の女の姿があった。それを見たと同時に車長の顔が険しくなる。もちろん、私も、相勤もそんな顔なのだろう。公安局員には、一部諦めたような顔をしている人もいる。そんな状況の中、作戦通りに進行させようと、我らが車長は再び音頭を取る。

 

「総員全力で後退、急げ!!」

 

特車はすぐさま後退を始める。私と相勤はそれに合わせるためにも、特車の横に付く取っ手を掴んだ。

公安局員はどうやら走って撤退するらしい。

 

「これでも食らっとけ!!」

 

走る直前、公安局員の1人が手榴弾のピンを抜き、思い切り投げた。

それは訓練通りに対象の近くに着弾し、炸裂する。

だが、彼女は倒れる素振りを見せない。少しは影響しているかもしれないが、それも気のせいと思えるレベル。

 

「さあ、お返しますわ」

 

ロケット砲の砲口がこちらを向いた、目の前の肉食獣が大きく口を開けたような感覚だ。

だがあのタイプは貫通力はさして高くないはず……特車なら、耐えられる。多分。

そんな打算を知ってか知らずか、相勤は彼女の手に照準を合わせ、撃ち続けている。

 

「頼むから外れて~……」

 

集中しているのか、思っていることは確かに口に出ているが、それは段々と小さくなってくる。

弾自体は確実に手や腕、さらには発射機自体に着弾している。

動いている特車の上ということも考慮すれば、十分すぎる精度───我ながら、誇れる相勤だ。

そんなことを考えている場合じゃない。私も撃とう、そして大通りまで逃げ切ろう。

 

「対ショック!!」

 

推進剤をまき散らしながら、弾頭がこちらへと向かってくる。

正確だ。真っ直ぐこっちへとやって来る。

それを遮るものは存在しない。特車までまっしぐら───そして、目の前で着弾した。

 

「うわっ!?」

「いたっ!!」

 

大きな衝撃が、身体に伝わる。あの弾頭だけでは、到底作り出すことのできない衝撃が。

その瞬間で察してしまった。それほどまでの爆薬、火薬はどこにあるか……

そう、今立っている物の中に。

たった今、装甲を貫徹し、弾薬を誘爆させた。

それが作り出すエネルギーは車内全体を焼き尽くし、そして有り余るエネルギーは砲塔を天高く舞い上がらせた───

 

「噓でしょ……」

 

その言葉を呟くのが精一杯だった。

私たちが呆気に取られている内に、位置エネルギーを運動エネルギーに変え終わりかけの鉄の塊が、今目の前に来ていた。

圧倒的な質量が襲い掛かってくる。そのまま、私は意識を乱暴に放り投げた。もちろん、望んでいないのは確かだけど。




今回は2人が2年に上がってからのお話、連邦生徒会長が失踪してすぐのお話でしたね。七囚人が脱獄したことに対応する羽目になったのですが、最終的に────というやつですね。
あの混乱の中、各地で頑張っていたヴァルキューレのひとかけら、とも言うべきでしょうか……
まあ、ここまでとしておきましょう。では、次回までゆっくりしていってください。
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