いつかあった日 作:Seilin
「奴らめ……年越しだからと飲み過ぎだし飲ませ過ぎだ……」
頭の痛みを白湯で誤魔化しながら身だしなみを整える。
昨晩、つまり12月31日はレイクタウンの職人街で小さな祭りがあった。不要な物を集めて燃やし、次の年になって新しい物を作る。そのついでに火を囲んで隠し持っている酒を開け、潔白な状態で年を重ねる。まだ名前も付けられていない集まりであるが、このロンドンで行われるにはあまりにも眩しい行事が新たに産まれようとしていることは、とても嬉しい事だと思う。……クリスマスも飲んでいたことを考えれば、もはや飲みたいだけなんじゃないかとも思うが。
アルカナ本部の方でキッチンが爆発したとの連絡があったが、職人連中が動けるようになるのは多分3日からだろう。それまでは適当に直せる部分だけ金槌を振っておくか。
ツナギ替わりの制服を着て、上からチュニックを羽織る。雪こそ積もっていないが、地の底から冷えるような今の季節には、制服だけでは少々物足りない。動いていれば温まるが、それまでは文明の力に頼る方が合理的。
塔のアルカナ区画に行くと、昨日の催しにも参加していた隊員が何人か丸太を囲んでいた。
「おはよう、皆。酒は残ってないか?」
「うす、隊長。この通りバッチリっす」
そう答えたのは年長の隊員。年は自分と2.3しか離れていないが、自前の斧使いと金属加工技術で一人で丸太を調達してくる事も多い、はっきり言って化け物だ。
「それは良かった。所でこの集まりは?」
「実は戦車の所の友人に木細工にハマってるから少し融通してくれって言われまして。二本持って行ったら多すぎって言われて、建築課に持って行っても年明けからダダあまりしてる素材持ってくんなって言われたんでここまで引っ張ってきたんすよ」
「自分たちはその付き添いでした。なんでこの人一人で丸太二本転がしてるんですかね」
呆れを通り越して恐れになっている隊員の様子を見るに、化け物どころでは無かったようだ。工作部隊の班員を一人減らそうか迷っていると、
「どーぞ、隊長。なんか作るんでしょ?新年一発目、俺らに見せてくださいよ」
「あぁ、ありがとう。お前の班員は別の隊に回しておく」
なんでぇ!?と良い反応をする隊員を横目に、ノミとトンカチを取り出し一考する。ムクの木。赤の芯材と、白の板目。今日と言う日を、神話のための一矢とするには。
「うん。そうだな。
カツン、と板を割る。冬の張りつめた空気に、木と金の衝突によって生まれる音の輪が広がる。叩く度に形造られ、パーツが削り落とされていく。
それは刺さる必要など無い。魔を破ればよいのだから。
それは飛ぶ必要などない。翼には願いが乗っているのだから。
白と赤で彩り、軸に纏わせた印は、矢の形を取っていた。
いつの間にか自分の周りには人だかりが出来ていた。自分を中心にしたその輪からは、独特の緊張感が放たれていた。……少し、時間をかけ過ぎたか。
「あぁっと……、できた、んですかね」
隊員が私に声をかける。
「あぁ。極東に伝わる新年の祝い物だそうだ。名を破魔矢。私達には、願っても無いものだろう?」
「なんか……3本ありますけど」
「一つは自分用、一つは
「あー、それなら丁度来てますよ」
「え?」
隊員の波に押し流されて輪の中心に飛び出してきたのは、ルイスだった。手には、何かの包みを持っている。
「あ、その、ですね、シェリダン殿。本日誕生日を迎える皆さんに、プレゼントを、と」
「そうか、ルイスは気が利くな。丁度私の方も新年最初の細工が出来た所だ。包みも無くて悪いが、持って行ってくれ」
「え、あ、はい!頂きます!」
ルイスの近くに歩み寄り、包みを受け取る。
「えっと、こ、これありがとうございました!大切にしますね!」
破魔矢を持ったまま走り去るルイス。紅茶でも入れようかと思ったのだが……何か、急ぐ用事でもあっただろうか。
「いつの間にやら人目を集めてしまっていたようだが、今年も私達はこんな感じだ。工作をして、土を掘り、陣地を作り迎え討つ。最前線で守る仕事であり、いくら下準備をしても足りないが……それでも、積み重ねる事に意義がある。今年も、よろしく頼む」
静かな頷きで空気が揺れ、各々が意識を新たにする。
プレゼントの包みは、静かに手元で揺れていた。少し不器用に削られたコースターは、心の温かさを逃がさないままに。ある男の机の定位置で、あの夜までその本分を全うしていたらしい。